お話歳時記

クロノスの時代。

クロノスの時代。

  アフロディテの誕生で、ウラノスの時代の物語は終わり、クロノスの時代の物語が始まります。 クロノスは、キュクロープスとヘカトンケイルをそのまま地の底に残し、自分の兄弟たちと共に新王朝をつくりました。

  実はウラノスは死んでおらず、陰部を切り取られたため不能となり、神々を生み出す力を失ってしまったのです。 そのため、創造の事業はクロノスの支配のもとに続きました。

  神統記には、以後、誰々が誰々を生んだ、その誰々はこのような神々である、というような人物辞典のように、様々なものを神格として書いてあります。

  夜の女神「ニュクス」は、忌まわしい「定業(モロス)」と「死の運命(ゲール)」と「死(タナトス)」を、また「眠り(ヒュプノス)」と「夢(オネイロス)」と、「避難(モモス)」と「苦悩(オイジュス)」を生みました。

  また黄金の林檎を守る、「黄昏の娘たち(ヘスペリス)」を、誕生の時、善運と悪運を授け、人間と神々の僭越の罪を追求し容赦なく復讐を遂げる、「運命(モイラ)」と「命運(ゲール)」の三人の女神、クロト、ラキシス、アトロポスを生みました。

  最後に、人間にとっての禍い、「復讐(ネメシス)」「欺瞞(アパテ)」「愛欲=不節制(ピロテス)」「老齢(ゲラス)」「争い(エリス)」を生みました。

  ニュクスの生んだ、争いの女神エリスは、「労苦(ボノス)」「忘却(レテ)」「飢餓(リモス)」「悲歎(アルゴス)」たち、

  「戦闘(ヒュスミネ)」「戦争(マケ)」「殺害(ボノス)」「殺人(アンドロクタシア)」たち、「紛争(ネイコス)」「虚言(プセウドス)」「空言(ロゴス)」「口争い(アンピロギア)」たち、「不法(デユスノミア)」「破滅(アテ)」を生みました。

  そして最後に「誓い(ホルコス)」を生みましたが、この神は、人間がわざと偽りの誓いをたてると、他の恐ろしい争いの神々と同様に激しく痛めつけたのでした。

  海洋ポントスは、大地ガイアと交わり、または一人で、誠実なネレウス、怪物タウマース、剛勇なボルキュス、愛らしい頬をしたケト、銅の心臓を持つエウリュピアを生みました。

  ネレウスと大洋オケアノスの娘ドーリスからは、五十人の娘たちネーレイスたちが生まれました。(神統記には、五十人の名前と説明が書かれてます。)

  タウマースとエレクトラの間には、虹のイリスと、美しい巻き毛のハルピュイア、アエロとオキュペテが生まれました。

  ケートーはボルキュスを夫とし、生まれた時から白髪の三人娘グライアイと、大洋の彼方へスペリス属の国にすんだゴルゴーたち、ステンノ、エウリュアレ、メデューサを生みました。

  ティターン神族は、姉妹たち、またはニンフたちの間に子供をもうけました。 オケアノスとテティスは、三千の息子たち=「河川」と、三千の娘たち=「水の妖精」を生みました。

  そして、メーティス「知恵」、テュケー「幸運」、ステュクス=地獄の門」を生みました。

  ヒュペリオーンとテイアーの間には、ヘリオス=「太陽」と、セレーネー=「月」、エーオース=「曙」を生みました。

  コイオスとポイペーは、レートーとアステリアを生みました。 クレイオスとエウリュピアーは、アストライオス、パラース、ペルセースを生みました。

  イーアペントスは、オケアノスの娘クリュメネーを、一説にはアシアーを妻として、アトラス、メノティオス、エピメーテウス、プロメテウスをもうけました。

  最後にクロノスは妹のレアーと結婚し、
  三人の娘、ヘスティアー、デメテル、ヘーラーと、
  三人の息子、ハデス、ポセイドン、ゼウスを生みました。

  神統記には、生まれたそれぞれの神々から、また生まれた神々が記述されています。

  天=ウラノスは、自分を傷つけたもの、子供たちに、手を伸ばす=テイタイノという意味のティターンズと言うあだ名をつけました。 そして、その所業に報復(テイシス)がやってこようと言い残し、倒れたのでした。

神統記には、上記の内容が書かれた後、新しい神々が生まれた記述があり、その後クロノスがレアーと子供をもうけ、その子供を次々に飲み込んだ記述の後、もう一度、その理由が書かれてあります。

  天=ウラノスから、「己の息子から、いつの日か、打ち倒される定めになっている」と。 また、自分以外のものが、神々の王となる事がないように、と。 他の理由として、兄たちティターンズに、子供を残さないという約束をしてあった、ともされています。


神統記によるクロノスとゼウスのお話です。

  レアーはクロノスの愛を受けて、栄えある子供たちを産みました。 ヘスティア、デメテル、ヘラの三人の娘たち、ハデス、ポセイドン、ゼウスの息子たちです。

  ところがクロノスは、子供たちがレアーから生まれると、その膝にのせる前に飲み込んでしまいました。 クロノスは、ウラノスから、自分の子から打ち倒されると聞いていたため、レアーが子を産み落とすのを目を凝らして見張っていたのでした。

  レアーは、クロノスが次々と飲み込んでしまったため、果てし無い悲しみに捕えられていました。 そして、ゼウスを産み落とす時がせまった時、レアーは、愛しい両親、大地ガイアと天ウラノスに、どうしたら愛しい子供を産めるのか?知恵を授けてくれるよう懇願しました。

  彼女自身と、父ウラノスと、そしてクロノスに飲み込まれた子供たちの怨みを、どうしたら晴らす事が出来るのか? 尋ねたのです。<


  ガイアとウラノスは、愛しい娘の願いを快く聞き承知しました。 両親はこれから起るであろう定められた事柄を、レアーに話して聞かせたのです。

  ガイアとウラノスは出産間近のレアーを、クレタの豊穣の地、リュクトスに送りました。 そして、そこで、レアーがゼウスを産み落とした時、ガイアは我が身に受け取り、夜の間に素早く樹木の生い茂るアイガイオンの山の中の聖なる大地の奥所にある、峻険な洞窟に匿まったのです。

  そしてガイアは大石に産着を着けると、クロノスに渡しました。 彼はそれを手でつかみ取ると、腹の中につめ込み、それが石だとは少しも気がつかなかったのでした。

  神統記では、この後すぐウラノスがゼウスに倒されるお話になるのですが、他のものには幼少期の部分が記されています。 ガイアはゼウスをイーデー山(一説にはデクテー山)に連れていき、二人のニンフ、アドラスティアとクレタ王メリッセウスの娘イーデーとに預けました。

  彼女たちはこの赤子の神を、黄金の揺りかごに入れ、アドレスティアは金の輪で編んだ毬を贈り、赤ん坊をあやしました。そしてこの幼い神に付き添い、よく気をつけて世話をしました。

  そして、クーレースたちは、赤ん坊の泣き声をクロノスが聞きつけないよう、剣で青銅の楯を打ち鳴らし揺りかごのまわり(洞窟の外)で戦の舞いを踊ったそうです。 クーレースたちはゲーゲネース(ガイアの子供たち)とか、オムブロゲネース(雨の子供たち)という添名で呼んでいたそうで、大地の精霊とも考えられるそうです。

  ヘロドトスによると、彼らはフェニキア人でカドモスの従者とされ、また別の説ではプリギュアから渡って来たともされています。 クーレースたちは、女神レアーの祭祀に使えた神官で、半ば戦士、半ば聖職者という独特の性格を持っていました。

  その中の位の高いものは神の扱いを受け、聖なるクーレース、ゼウスの保護神となったそうです。

  こうして幼いゼウスはイーデー山の中で育ちました。 乳母の代わりに山羊のアマルテイアがつきそいました。

  アマルテイアは神々でも怖れる不思議な姿をした動物で、のちにゼウスは感謝の気持ちから空にあげ星座にし、アマルテイアの皮がいかなる矢も通さなかったので、その皮で恐るべき楯をつくりました。

  ニンフ達には彼女の角を一本与え、そしてその角に、どんな欲しい食べ物も飯物も、絶えずひとりでに一杯になるという、驚くべき力を授け「豊穣の角(コルヌー・コビアイ)」としたのでした。 クレタ王メリッセウス=「メリッセウス」と言う言葉の語源はギリシア語の「melissa=蜜蜂」が語源とされ、娘のイーデーは蜜蜂を意味し、ゼウスに蜂蜜を与えたとも考えられています。

  一説にはアマルテイアはメリッセウスの妻で、幼いゼウスに自分の乳を飲ませたのだと言います。 またアマルテイアは、単に子供の世話をしていただけで、鳩や鷲の運んで来た神饌と神酒で育ったとするものもいます。

  成人したゼウスは、すぐ父クロノスを罰する案を立てました。 神統記によれば、ゼウスは「束の間」の間に成長し、ひととせののち、クロノスに立ち向かった事になっています。

  一世紀のアポロドートスによれば、ゼウスはオケアノスの娘「メーティス=知恵」を召し出しました。 そして彼女は、クロノスにある薬を飲ませたのです。

  すると、クロノスは飲み込んだエアーの子たち、ゼウスの兄弟姉妹を次々と吐き出し、最後にゼウスの身代わりの石まで吐き出しました。 そしてゼウスはクロノスを威力をもって打ち負かし、天界から追放して宇宙の底に投げ込み、大地と不毛の海の境に鎖でつなぎました。

  他の説ではクロノスは大地のすみに追いやられ、その地でとても幸せに暮らした、とも、遥か遠いトウーレー(ヨーロッパの極北の地)で不可思議な眠りについた、ともされています。

  ゼウスは勝利の証拠として、クロノスが吐き出した自分の身代わりの石を、パルナッソス山の麓の聖地ピュートー(デルポイの古名)に「いつの日か、こうした奇蹟の記念碑として、人々の目にとまるべく」すえつけたのだそうです。

  こうして、ここにオリンポスの神々の時代が始まったのでした。


ギリシャ神話。