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端午の節句と山姥。
  女房(あば)の首。
   鬼(山姥)のお話です。
 五月節句のヨモギと菖蒲の由来譚となっています。 首が追いかけてくるくだりが、なかなか「三枚のお札」してて、 強烈です。
  「女房(あば)の首。」
 


  むかし、てで(夫)とあば(妻)の夫婦ものがありました。 

  ある時、てでが帰って来たところ、 家の中に鬼がどっかと座っておりました。 そして、あばはどこにもいなかったのです。 鬼は帰って来たてでを見ると、てでを突き飛ばし、外に飛び出して行きました。

  着物の切れはしがほんの少し残っていました。 他には指一本残っていませんでした。 あばは、鬼に喰われてしまったのです。

  てでは一人っきりで暮らす事になりました。 あばと暮らした楽しい時はわずかばかりで、あじけない、寂しい時がまっていました。

  何を食べてもおいしくない。
  祭りも、何も楽しくない。  
  たたただ、悲しいだけの毎日でした。

  そんな時、墓参りの途中で、てでは美しい女の人に出会いました。

  その女の人は、すぐに消えてしまいましたが、 それからちょくちょく、見る事があったのです。

   畑仕事の合間に、木陰で休んでいる姿を見かけました。
  田んぼのあぜで、歌声を聴きました。
  どことはなしに、亡くなったあばに似ていました。

  「あばにしてけれ。」
  ある日、その美しい女の人は、てでに言いました。 てでは、もう一度、昔のように暮らせるのか?と思いました。
  「ああ、おらのあばになってくれ。」と答えました。

  てでの暮らしはもとのように戻りました。 朝早くに出かけて、田んぼと畑仕事をし、時には手間仕事に出かけ、
  暗くなって帰って来ました。 家には灯りがつき、あばが待っていてくれました。 何もかも、もとのような日々が過ぎて行きました。

   しかし、おかしな事があるのです。 米櫃の米があっという間に無くなってしまったのです。 二人しかいないのに、あばはいったいどうしているのか?と、 ある日、てでは、働きに出るフリをして、梁の上に隠れていました。

  十時頃の事です。
  あばは、米を釜一杯に入れるとボウボウ焚き、 いろりで鍋いっぱいのみそ汁をゴトゴト似ました。 そして、炊きあがった米を、シャモジですくうとパクリパクリ、 みそ汁を鍋ごと、ゴクリゴクリと飲みました。 いつの間にかあばの顔は、あの夜の鬼の顔となっていました。

  てでは、カッとなりました。
  俺のあばを殺した鬼か!

  てでは梁から飛び降り、 持っていた鎌で、鬼の頭を叩きました。

  鬼の頭は床に落ちて、ごろんごろんと転がると、 突然、パッと飛び上がり、てでの肩に噛みつきました。
  てでは鎌で叩こうとしましたが、自分の肩を傷つけるわけにもいかず、 押しても引いても、離れませんでした。

  てでは肩に喰らいついたままの鬼の頭に、困ってしまいました。 肩の鬼はいつの間にか、元の女の顔となって、自分を見つめていました。
  「どうじゃ?このままでは、外も歩けんぞ。イヒヒヒヒ。」
  鬼の言う通りでした。 女の顔を肩にのせていては、どうもこうもありませんでした。 てでは、しかたなく、肩を風呂敷でおおって、旅に出る事にしました。

  歩き続けているうちに、日が暮れて、 てでは宿を探さなければなりませんでした。
「どうか今晩、一晩、泊めてくれねでしょか?」
「何人だか?」
「一人でさぁ。」
てでがそう答えると、肩に喰らいついた鬼は、
「俺を加えて、二人でさぁ〜。」と、風呂敷の下から言いました。
宿のものは、どこから声が聞こえて来たのかわからず、 てでを、おかしく思ったのか、
「一人ならかまわんが、二人なら泊められねぇ。」と、 追い払いました。

こんな調子で、てでは、何件頼んでも断られ、どこにも泊まれませんでした。

五月の節供の日となりました。
「今日は五月の節供だ。どの家でも餅つくっとるぞ、 黙っておれば、餅が食えるぞ。食いてぇか?」
てでがそういうと、鬼は腹がすいたのか、てでの顔を見て考え込みました。
「喰いてぇ。」
「おたのもうします。なんとか、一晩泊めてもらえねえですか?」
「何人だかな? 一人ならいいが、二人は無理だがな。」
鬼の首は黙っていました。
「はい、おら一人で。」

てでは、やっと泊めてもらえました。
そこでいっぱい餅をごちそうになりました。
しかし鬼の首は、ばれたら大変と、声も出せません。
一つの餅にもありつけないまま、夜となりました。

「てで、てで、おら、餅がくいてぇ〜。」
鬼はてでにぼそぼそと言いました。
「そなら、ここに黙って寝ておれ。鍋に餅さ入れて、持って来て食わせてやるべ。」
てでがそう言うと、鬼はやっと肩から離れて、首の上にごろんと転がりました。
「では餅を取って来てやるからの。」
てではそう言うと、そっと台所の方へ行きました。 そして勝手口を開けると、一目散に逃げ出しました。

これで、あの首から逃げられるぞ!

てでは、走って走って走りました。 すると後ろから声が聞こえて来ます。
「どこまで行っても一口だぁ!」
てでが振り返ると、遠くの方で丸い鬼の首がゴロゴロと追いかけて来ていました。
「どこまで行っても一口だぁ!」
「どこまで行っても一口だぁ!」
声はズンズン てでは、驚いて走り続けました。

そして船に乗って、川をこえました。
「俺の後ろさ、でっけぇ川で、道きれたぁ!」
叫ぶと、鬼の首は、川の水をごくごくと飲み干すと、
「どこまで行っても一口だぁ!」
と叫び、またゴロゴロと追いかけて来ました。
てでは走って走って、山の峠へ駆け登りました。
「俺の後ろさ、でっけぇ山で、道きれたぁ!」
で叫びました。

鬼の首は坂を上れませんでした。 勢いつけて、駆け上がろうとしても、ごろごろころがり落ちたのです。 てでは、やっと逃げられると思いました。

しかし鬼の首は、口をがばっと開けると、 山をガラガラゴクンと食べ始めたのです。 てでは恐ろしくなって山を駆け下りました。 そして走って走って、大きな池に行き着いたのです。

道はそこで行き止まりになっていました。てでは、あたりを見回しました。
「どこまで行っても一口だぁ!」  
鬼の首は、山を喰いつくし、ゴロゴロゴロゴロと、てでに向かって来ました。 てでは慌てて菖蒲と蓬の茂みに隠れました。

「どこまで行っても一口だぁ!」
鬼の首は、大きな口を開けて、その茂みに飛びかかりました。 てでは、目をつむりました。 しかし、それっきり、声も音もしなくなったのです。

てでは恐る恐るあたりを見回しました。 すると、菖蒲の葉に串刺しになった鬼の首が、 葉の間にゆらゆら揺れていました。 そして、口にくわえたヨモギのあたりから、 しゅるしゅると煙が出て、 しばらくすると鬼の首は骨だけとなり、 バシャンと池の中に落ちました。

生きているのが、不思議な感じがしました。 ぼーっとそこにへたり込んでいると、 てでのそばに、櫛が流れてきました。 それは、稼ぎがなかった頃、あばにつくった、手作りの櫛でした。

その櫛を見ていると、あばの喜んでいる顔が浮かんできました。 何か、まだ何か、出来そうな気がしました。

てでは、立ち上がると、自分の村へ、歩き出しました。

       女房(あば)の首。

   
    昔の節供には菖蒲と蓬の葉をあわせ、窓の所にさしたそうです。
  節分の日に、鬼やらいと言って、 やいたイワシの頭を柊の葉にさして、家の門口に刺すのですが、 どうも似たようなものみたいです。