鬼の片足。

こぶとり爺さんのもとのお話は、鬼にコブを取られた、という話がもとになったとされていますが、鬼からの授かり物、という反対の話もあります。

鬼のする事ですから、さて、どんな授かり物でしょうか?


「鬼の片足。」

むかし、鋳掛け屋の職人がありました。

その職人は片足で、どこに行くにも倍の時がかかりました。

ある時、仕事が遅くなってしまい、帰る途中で日がくれて、夜中となってしまいました。

仕方ない、どこかで休む事とするか。

職人は野宿しようと、辺りを見回すと、ちょうど近くにお寺があり、宿を貸してもらおうと入って行きました。

そこは土間と板間の小さな庵で、線香の匂いが立ちこめていました。

「こんばんは、申し訳ねけねぇが、一晩宿を貸してくだせぇ。」

しかし、誰も答えません。職人は板間に上がると、隅の方へ横になりました。


目をつむってしばらくすると、なにか異様な気配とともに、大きな男がお堂の中に入ってきました。

その男は、あたりをじっと見回したあと、板間にどっかとすわりました。

職人はおそるおそるその顔を見ました。

すると、その男の頭には角が二本。男は赤い顔の鬼だったのです。

職人は凍ったようになり、鬼から目を話す事も出来ませんでした。

どれくらい時間がたったのか、目をつむった赤鬼は、そのまま眠ったようでした。

職人は赤鬼に気がつかれないように、そっと庵の天井へ登り、隠れました。

職人は、ほっとしましたが、突然外から物音が聞こえてきました。

ずるっずるっ、ずるずるっ、と、何かを引きずる音がちかずいて来たのです。

赤鬼が目を開けました。職人は梁の上から、入り口を見ました。

すると、青い鬼が、白いかたびらを着た死人を引きずりながら入って来たのでした。

赤鬼は青鬼に突っかかりました。

「おい、それは俺のものじゃ、置いて行け。」

「何を言う?これはわしのものじゃ。」

「わしは、その死人が運ばれてくるのを待っておったのじゃ。」

「わしは、この死人を迎えにいっておったのじゃ。」

二匹の鬼は言い合い、怒鳴りあいました。職人は恐ろしくて仕方ありませんでした。

鬼の声は腹の底から響き、庵をゆるがしました。

職人は梁にしがみつき、目をつむりました。

赤鬼がいいました。

「そんなに言うなら、これが誰のものか上におるものに聞いてみよう。」

職人はハッと息を呑みました。

自分がここにいる事は知らないものと思っていたのです。

「そこにおるお前、聞きたい事がある、降りてこい。」

鬼が二匹、自分をにらんでいました。

職人は恐ろしくて、思わず梁から落ちそうになり、やっと板間に降りました。

 「お前、さっきから、天井で見ていたろう?」

「この死人がどちらのものか、お前はどう思う?」

二人の鬼は、顔を突き出し職人に聞きました。

職人はへたな事を言ったら殺される、どうしたらええのじゃろうと困り果てました。

鬼が、じっと見つけていました。体には冷たい汗がたらたらと流れました。

「・・・あっ、赤鬼さんは死体を待っておったし、青鬼さんは死体を連れてこられた。どちらも自分のものとも言えるんじゃなかろうか?」

鬼はどちらも顔を見あわせました。

「どっちのものでもあると言うのじゃの?じゃが、死人は一人しかおらん、どうしたらええ?」

職人は困りました。

どちらか一方のものと言えば、自分がもう一匹の鬼に連れていかれるかもしれません。

それでも、いい考えは浮かびませんでした。

仲間がケンカした時、いつも言っていたように、言うしかありませんでした。

「こ、こんな時は、仲よう二人で一つの仕事をしたらええ。」

鬼はハタと目をぱちくりしました。

「考えてみんかったの。」

「ああ、考えてみんかった。」

「お前、なかなか良い事を言う男じゃ。」

「そうじゃのう。」

二匹の鬼は大きな声で笑いました。

 「見れば足が一本しかない、礼にこれをつけてやろう。」

そう言うと青鬼は、死体から一本足を引きはがすと、職人にくっつけました。

そして二匹の鬼達は闇夜に消えて行ったのです。

しばらくして正気になった職人は、自分の足を見てみました。

不思議に血が通って、ヒザもかかとも、指も動きました。

立ってみると、足のあった頃のように自由に動く事が出来ました。

しかし、何かが変です。

「ひぃぃ!」

職人は腰を抜かしてしまいました。それは女の足だったのです。

職人は女の足を向こうへ捨てようとしましたが、くっついた足はもう取る事は出来ませんでした。

そして、日がのぼるとすぐ、その庵から転びながら逃げ出したと言うことです。


       鬼の片足。


鬼と出会った時、コブを取ってもらうのはいいのですが、コブをつけてもらったり、片足をつけてもらったりするのは、ん〜、やっぱ考え直した方が言いかもしれません。


 
 
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