ああ、ああ。

前回「ああ」という鬼のお話を紹介しましたが、今回は「ああ、ああ」という鬼のお話です。

別にふざけてるわけでは、ありませんからね。「いい」とか、「うう」とかの鬼がいたとか言いそうになりますけど(笑)。


「ああ、ああ。」

ある所に木挽きが山奥で木を切っておりました。

年をとって、山仕事をするのが辛くなり、ノコの手を止めるとポソリ、独り言を言いました。

「誰か、銭コをくれたら、三人娘のうち、一人をくれてもよいのだがなあ、ああ、ああ。」すると、突然目の前に若者が現れました。


「聞いたぞ、爺様。今言うた事は本当か?」

「ああ、本当だ。だが、お前さんは誰だい?」

「俺は、ああ、ああと言うものだ。では、どっさりと銭コをやろう。娘を一人もらうぞ。」

「ああ、ホントに銭コをくれたら、娘をやろう。」

木挽きの爺がそう言うと、若者はどこにもっていたのか、大判小判のたくさん入った袋を差し出しました。

木挽きの爺は家に飛んで帰り、大判小判を娘達に見せました。

そして一番目の娘に「嫁に行かぬか?」と聞くと「変わった名前の方ですが、そのようなお金持ちなら喜んで行く。」と答えました。

一番目の娘が、山を登って行くと、ああ、ああが待っていました。

娘は、ああ、ああに連れられて、山奥の家へ向かいました。

その家は、壊れかけたあばら屋で、娘はがっかりしました。

「うむ、山奥の暮らしは、不安だろうの。そうだ、今、良いものを取ってきてご馳走してやろう。待っておれよ。」

そう言って、ああ、ああは娘を置いて駆け出しました。

家はあばら屋でしたが、娘は、自分を大事にしようとする、ああ、ああが気に入ったのか、家の中を片づけ、掃除をし、野の花を摘んでいけ、ああ、ああの帰りを待ちました。

しばらくして、ああ、ああは何かを持って、帰ってきました。

「良いものを取ってきてやったぞ、さぁ、食え。」

娘は目を見張り、思わず声を上げそうになりました。

ああ、ああが差し出したものは、血がべっとりついた人の腕だったのです。

「え、ええ、わかりました。料理して食べる事にいたします。」

娘はやっとの事で、答えました。

「そうか、では、俺はまた出かけて来る。待っておれよ。」

ああ、ああはまた出かけて行き、娘はひとり、残されました。


娘は目の前に置かれた腕を前に、どうしたものかわかりませんでした。

どう見ても、人の腕です。

食べるわけにもいきません。

娘は庭の隅をほり、そこに埋めて隠し、急いで汁を作って、椀に入れると、ゴクンゴクンと飲み干しました。

娘は、なんとか形がつけ、やっと、胸をなでおりしました。

すると、戸口に、ああ、ああが立って、こちらを見ていました。

 「ちゃんと、食べたか?」

ああ、ああは娘に聞きました。

 「え、ええ。ちゃんと食べました。」

 「ほんとに食べたのか?」

 「ほんとに食べました。」

ああ、ああの目には、何か異様なものが光りました。

 「・・・それなら、呼んでみようか。」

 「腕や!腕やぁ!」

庭の方で、ベコリと音がしました。そして何かが、ずりずりとこちらの方へ動いて来て、戸口の所から中へ入ってきました。

それは、娘の埋めた腕でした。

 「おまえ、嘘をついたな。」

ああ、ああは娘の髪をつかむと、そのまま岩穴まで引きずって行き、手足を縛って中に押し込んでしまいました。


木挽きの爺は、ああ、ああにもらったお金で、飲んだり食ったりしていましたが、たちまちお金をすべて使い切ってしまいました。

こまった爺は山へ行って、「誰か、銭コをくれたら、娘をもう一人、くれてもよいのだがなあ、ああ、ああ。」と、言いました。


すると、また、ああ、ああが現れ、「聞いたぞ、爺様。前の娘は亡くなってしもうた。

もう一人娘をくれるなら銭コをやろう。」と、大判小判のたくさん入った袋を差し出しました。

 「よし、娘をやろう。待っておってくれ。」

木挽きの爺はそう言って、銭コをたくさん持って、家に帰りました。

そして二番目の娘に銭コの袋を見せ、姉が亡くなったで、変わりに山へ行ってくれと言いました。


二番目の娘は、山にのぼり、ああ、ああに連れられて、山奥のあばら屋へ着きました。

 「姉のお墓はありますか?」

 「うむ、参ってやってくれ。」

ああ、ああは娘を岩屋の側の石の前に連れて行きました。

ああ、ああは手を合わせる娘に、「腹がすいたろう、何か取って来るから、待っていろ。」と言って、山に入って行きました。

 なんて優しい人だろう。


娘が家を片づけていると、しばらくして、ああ、ああが帰ってきました。

 「おかえりなさい。」

 「ただいま。良いものを取ってきてやったぞ、さぁ、食え。」

ああ、ああは、何か肉の塊を差し出しました。

それは、人のももから下の足でした。

娘は一瞬自分の目を疑いました。なにか知らない獣の肉ではないか?

しかしそれはやはり人の足だったのです。

 「え、ええ、わかりました。料理して食べる事にいたします。」

娘が、やっと声をしぼりだして言うと、ああ、ああは「そうか、では、俺はまた出かけて来る。待っておれよ。」と、また出て行ってしまいました。

娘は、大急ぎで、その足を囲炉裏の灰の中に隠し、汁を作って、飲み干しました。

戸口に、ああ、ああが立っていました。

 「ちゃんと、食べたか?」

ああ、ああが聞きました。

 「え、ええ。ちゃんと食べました。」

 「ほんとに食べたのか?」

 「ほんとに食べました。」

 「・・・それなら、呼んでみようか。」

ああ、ああの目に、何か異様なものが光りました。

 「腿(もも)や!腿(もも)やぁ!」

灰の中から、腿が立ち上がりました。それは、娘の埋めた人の足でした。

 「おまえ、嘘をついたな。」

ああ、ああは娘の髪をつかむと、そのまま岩穴まで引きずって行くと、手足を縛って中に押し込んでしまいました。


木挽きの爺は、また毎日、飲んだり食ったり、遊び暮らしていましたが、また、お金を使い切ってしまいました。

こまった爺は山へ行って、「誰か、銭コをくれたら、残った娘を、くれてもよいのだがなあ、ああ、ああ。」と、言いました。<

すると、また、ああ、ああが現れ、「聞いたぞ、爺様。もう一人の娘も亡くなってしもうた。最後の娘をくれるなら銭コをやろう。」

 「最後の娘だ、どっさりと銭コをくれ。」

 「ああ、どっさりとやろう。」

ああ、ああは大判小判のどっさり入った袋を差し出しました。

 「よし、最後の娘をやろう。待っておってくれ。」

木挽きの爺はそう言って、銭コをたくさん持って、家に帰りました。

爺は最後の娘に、二番目の姉も亡くなったで、変わりに山へ行ってくれと言いました。


最後の娘も、山にのぼりました。そして、ああ、ああに連れられて、山奥のあばら屋へ着きました。

 「姉達のお墓はどこですか?」

 「岩屋の前にある。」

ああ、ああは娘を岩屋の側の石の前に連れて行きました。

 「姉達の最後は、どうだったのですか?」

娘は手を合わせながらたずねましたが、ああ、ああは何も答えず、「・・・腹がすいたろう、何か取って来るから、待っていろ。」と言って、そのまま、また山に入って行きました。


最後の娘が不思議に思っていると、どこからか声が聞こえて来ました。

 「あれは鬼だよ。何を持って帰っても驚かずにるのですよ。」

娘は不思議に思いました。


今の声は、どこから聞こえて来たのでしょう?

鬼ってどういう事でしょう?


娘は岩屋の中をのぞいてみました。

そこには見慣れた着物が二つ、ありました。

 「お姉さん!」

近寄ってみると、岩屋の中には大きな鉄の柱があり、そこには二人の姉が骨となって、うち捨てられていました。

 「鬼が帰ってきますよ。 早く家を片づけて待ちなさい。」

 「お姉さんたちをこのままに出来ません。」

 「行きなさい、早く家を片付けなさい。」

娘は声の言う通りに、鬼のあばら家を片づけました。

洞窟の中には二人の姉が横たわったままでした。

木々の葉音が震えると、心がちぎれるように震えました。

葉音がやみました。


ああ、ああが帰ってきました。

何か持っていました。

娘は驚かないように、心の震えを止めました。

 「良いものを取ってきてやったぞ、さぁ、食え。」

鬼が差し出したものは、人のすねでした。

 「・・・ええ、わかりました。料理して食べる事にいたします。」

娘は、静かに答えました。

すると、ああ、ああは、

 「そうか、では、俺はまた出かけて来る。待っておれよ。」

と、また出て行ってしまいました。

娘は、すねをどうしていいかわからず、沢の下に捨てようとしました。

するとまた声が聞こえました。

 「捨てないで、黒焼にして腹に巻きなさい。」

娘は、その言葉通りにしました。

とても気味の悪い事でしたが、着物を脱いで腹に巻き付けました。

そして着物を着て帯を締めました。

臭いにおいが、体にまとわりつきました。

吐きそうになりました。

それでも、それがとても良いように思えたのです。


ああ、ああが帰ってくると、娘を見据えて尋ねました。

 「・・・ちゃんと、食べたか?」

ああ、ああが聞きました。

 「ちゃんと食べました。」

 「ほんとに食べたのか?」

 「食べました。」

娘は何が起こるのか恐ろしくてたまりませんでした。

なぜ、すねを黒焼にして腹に巻いたのか、わからなかったのです。

ああ、ああの目には、何か異様なものが光りました。

 「・・・それなら、呼んでみようか。」

 「すねや!どこにおる?!」

 「・・・はらにいて、出られねえ。」

ぷぅーんとイヤなにおいが立ちこめました。

その声は腹に巻いたすねの黒焼から出ていました。

ああ、ああは急に優しい目になりました。

「おめぇは正直者なのだな、なら俺の秘密を教えてやろう。」

ああ、ああは囲炉裏の自在鉤の上の柱に隠してあった小箱を取り出し、開けて見せました。

中には金と銀の針、そして小さな小槌がありました。

 「よいか、この金の針は刺すと病気を治し、死人を生き返らす針、銀の針は生き物を殺してしまう針じゃ。そしてこの小槌は願えば金銀小判財宝、何でも出してくれる打出の小槌じゃ。」

ああ、ああは小箱を閉め、梁の上に置きました。

 「これさえあれば、何不自由なく暮らして行ける。もう、何も心配せずとも良いぞ。」

そう言うと、娘を抱き寄せ、そのまま小さな子供のように、クゥクゥと寝てしまいました。

娘は梁の上の小箱を見上げました。

金の針があれば、姉達が生き返るかもしれない。

娘は寝ているああ、ああの側を離れ、そっと梁の上に手を伸ばしました。

しかし、梁の上には手が届きません。娘は壁伝いに鴨居にのぼり、梁へと伝って行きました。

 「何をしておる?!」

ああ、ああが目を覚まして叫びました。

娘は手を伸ばして小箱をつかみましたが、ああ、ああに足をつかまれ、そのまま、引っ張られました。


 「ああっ!」

娘は小箱と一緒に落ちてしまいました。

カターンと音がしました。

小箱の中の小槌が転がって行きました。

その後を小判が散らばりました。

娘が目を開けると、ああ、ああが、足をつかんだまま、息絶えていました。

眉間に銀の針が刺さっていました。

金の針を探すと、それは小箱の中にありました。

娘は金の針を持って、岩屋の中へ行きました。

そして、黒くなって横たわっている姉達を刺しました。

すると二人とも血の気が通い始め、しばらくすると元通りの姉となりました。

三人は泣いて喜びあい、山を降りました。


それから後、三人の娘は、何不自由する事なく、病気になる事も無く、暮らしたと言う事です。

     ああ、ああ。


お話の中では、鬼を殺すのには、熊柳の五葉で耳を刺すとなっています。

また、死んだ後、化け物はあまのじゃくだったとしてあります。

 本来は熊柳の五葉が、もとで、金の針が後からついたものなのか?

 金と銀の針があって、熊柳の五葉が後からついたものなのか?

 それとも、もともとあったものなのか?

重複したもの、死に針と熊柳の五葉の理由が今一つわかりません。

さて、もう一つ、お爺さんはどうなるんでしょう?

ある意味、こっちの方が鬼なような気がするんですが、みなさん、どう思いますか?


 
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