福の神。

貧乏神のお話は、貧乏神と貧乏神の住み着いた家の者とのやりとりで、福をつかむというお話です。

その福をつかむ時、家の者も大きく運命が変わりますが、貧乏神の運命も変わってしまいます。

このお話の貧乏神も、ちょい変わってます。


「福の神。」

むかし、ある所に、働き者の夫婦がいました。

夜の明けきらぬ、星の残っているうちに、畑に出て働き、陽が落ちても、まだまだ働きました。

雨が降れば、家でワラを打ち、草履を作り、雪が降れば、竹細工を作りました。


一日も、半日も、休む事なく、夫婦は働きました。

しかし、いっこうに暮らしは楽にならず、貧乏なままでした。

種を蒔けば、鳥がつつく。芽が出れば、野うさぎがやってきて、かじってしまう。

葉が茂れば、虫がつく。

芋が出来れば、モグラに喰われる。粟穂が出来れば、イノシシに踏み散らされる。


やっと採れた、わずかばかりの収穫も、家に持ち帰ればネズミに食べられてしまいました。

まともに実が成った事も、穫れた事もありませんでした。

そして、今年も暮れになりました。

「今年も、毎日働けたの。」

「ええ、ものはあまり獲れませんでしたけれども、二人達者でなによりの事です。」

そう言って、夫婦は煤払いを始めました。


亭主が神棚を払おうと台に乗ると、何か奥の方でもぞもぞ動くものが、ありました。

びっくりした亭主がたたき落とすと、それは小さなネズミの干物のようなもので、顔をくしゃくしゃにして腰をさすっていました。

「おめえ、なんだあ?」亭主とかみさんが恐る恐る聞くと、

「ああ、われわぁ貧乏神というものじゃ。」と、答えました。

亭主とかみさんは、めずらしそうに、貧乏神をじっと見つめました。

「貧乏神様だと。」

「貧乏神様か?」

「話には聞いた事は、あるども、見るのは初めてだ。あまり、姿見たとは、聞かねけども、なして、こげなトコにいなさる?」

貧乏神は情けなさそうな顔をして言いました。

「うんむぅ、ながらくここに世話になっておったが、年の暮れにあたって、屋移りでもしよとおもうての、のそのそしておったら、見つけられてしもうたのよ。」

「屋移りとは何か困った事でもあったので?」

「うむ、われは、亭主殿のとっつぁまの代からこの家におるのだが、住みにくくなってのう。」

「なんぞ、わたしらが失礼でもしましたか?」

かみさんがたずねると貧乏神は懐かしそうに言いました。

「亭主殿のとっつぁまは、怠け者で背病みで無精者で、飲んべぇで。ほかのものが十分稼いできた、昼過ぎた頃起きてきて、あっちが痛い、こっちが痒い、仕事もしないで文句は語る。少々工面が出来れば、くさし仲間を集めて、朝から飲み始め、家のものがちょっとでも嫌な顔をすれば、怒鳴る蹴る殴る、だ〜れもこの家にいつかねぇ。」

亭主は頭をかいて聞いていました。


「作男も奉公人も逃げ出して、家の中は掃除をするものもなくクモの巣だらけ、荒れ放題。鍬もカマも、柄は抜けてサビ放題。なんもかんも、朽ちて使い物にならね。なんてぇ住み心地のえぇ、めったにこんな所はねぇと喜こんどった。」

「・・・はぁ、そりゃあ、よろしいこって。」

何といっていいのか、亭主もかみさんもわかりませんでした。


「ところが、とっつぁま、飲み過ぎてそのままコロリといっちまって、代がかわっちまった。どうせ、あのとっつぁまの息子だ。売れ残った日陰の田んぼと山畑、売っちまったら、そのまま、貧乏のどん底だと喜こんどったのじゃが、山向こうから嫁が来た。」

かみさんは、何か、いたらなかったのか?と身が縮まりました。


「これがまたひどい嫁で、朝は日の明けぬうちから起きて、火を起こす、飯を作る、掃除はするし、ぼろはつぐ、壊れたものは直してしまう、鍋も釜もみがく、包丁も、鍬もスキも研ぐ、すり切れて、使い物にならなくなったわらじは、いつのまにか積み肥にしてしまう、な〜んも無駄にしねぇ。」

かみさんは亭主の顔を見ました。亭主もかみさんの顔を見ました。


「しかたがねぇから、おまえさんたち、二人の仕事をさきまわりして、山から鳥を呼んで、種ほじくらせ、虫をわかせて芽や葉を食べさせ、土にもぐってモグラをせんどうする、イノシシ追って、イモほじくらせる、とんと休む暇がね。見てくれ、こんなに体がちっこくなって、このままでは命がもたね。そこでの、屋移りして、もっと怠け者の家にいこうとしとるわけだ。」


亭主もかみさんも、困ってしまいました。

ただ、まっとうに働いているだけで、悪い事はしてないのですから。

すると、貧乏神はよっこいしょと、背中をまるめ、片足を引きずりながら、出て行こうとしました。

「待ってくだされ、貧乏神様、わしらほんに気の毒な事をして、もうしわけね。」

「あん?」

貧乏神は、亭主の言葉に振り向きました。

「神様といえば、荒神様も疫病神様も、年に一度はお祭りがあって、赤飯差し上げたり、餅ついたり、大事に祀ってもらっております。わしらは気がつかなかったといえ、今までなんもお祀りしておりません。どうか、このままいてくだされ。大事にお祀りさせてくだされ。」

「ああ?」

「とっつぁまの代からおられる神様で、なんとはなく、背病みのとっつぁまを見ておるようで。人からは良く言われる事はなかったけんど、おらにはとっつぁまで。」

亭主がそう言うと、かみさんも頭を下げました。

「たいしたものは供えられねかもしれねけど、大事にさせてくだせ。」

貧乏神は何が何だかわかりませんでした。

そのまま亭主は貧乏神を神棚にうつすと、かみさんはできる限りの正月祭りをしました。


こうして、貧乏神はこの家にとどまる事となったのです。


それから、夫婦はせっかく貧乏神様に、とどまってもらっているのだからと、毎朝、炊き立ての粟飯を供える、昼にはイモのネッポ汁、夜には団子、自分たちの食べるものさえ事欠くというのに、毎日、毎日、供えました。

そうして、朝暗いうちから畑に出て、夜遅く月や星の影を見て帰り、二人で働いておりました。

そのうち、どうもおかしな事になってきました。

畑に種をまけば、そろって立派な芽が出る。

葉が伸び、虫もつかず、実がたくさんなるのです。

粟の穂などは、よその畑では三寸ほどの実がなりますが、うちでは一寸ほどもの、穂が大きくたれます。

見事に畑一面実り、イモも大根も山ほど獲れました。

それで、困ってしまいました。

獲れたものを入れる場所がありません。

腐らせるのも、もったいなくて、肩にかついで、わけて回りました。

すると、三月、半年たたないうちに、どっさり、お返しがありました。

「この前もろうたイモや大根子供にくわしたら、かぜもひかねぇ、顔のガサガサも消える、ばあさまは足がいてぇ腰がいてぇと言っておったが、達者になって、草を取る、水をやる、今年はおかげさんで獲れ過ぎた。おかげさんじゃった。」

そんなこんなで、配ったものが三倍にもなってしまいました。

仕方がない、倉でも建てるかとなりました。

すると、倉だけ建ててもしかたない、家も建てるさと、世話になったと村のものが総出で、手を貸してくれました。そして、あれよあれよと言う間に、長者屋敷に白塗の土蔵がずらりとでき上がったのです。


屋移りの日となりました。

亭主とかみさんは、神棚の前に立ち、貧乏神を呼びました。

「貧乏神様、貧乏神様、どうしたわけだか、このたび、家を建てる事となりました。そこで、貧乏神様にも、うつってもらわねばならね。いちばん先にお運びしますんで、出てきてくだせ。」

すると、神棚から何か、ぽんと囲炉裏端に飛び降りました。

ああ、ちっこい神様じゃからの、と見ると、立派な衣装を着て福うちわをもった福の神でした。

亭主と、かみさんはびっくりしました。

「お前さんは福の神様だ、うちの神様は、ちっこい貧乏神様だ、わしんとこの神様はどこに、おらっしゃる?」

すると福の神は頭をかきました。

「わしじゃ、わしじゃ、わしが貧乏神じゃ。」

福の神は自分が貧乏神だと言いました。


「われわぁは、あの後、毎日お膳あげしてもろうて力がついた。しかしの、お前達の畑仕事の邪魔をしても、面白うのうてのう。バカバカしくてしかたない。気がつけば、いつの間にやらお前達の仕事を手伝うようになっておった。そのうち手伝うのが面白うなっての。芋がなっても、大根が出来ても、穂がたれても、楽しい楽しい。それを食うたもんが、元気になるのも、

楽しゅう仕事するのも、うれしい、うれしい。するとの、いつの間にか、わしは福の神になっておったのじゃ。

「・・・そりゃあ、おめでたいこって。」

「うむ、長者屋敷もできて、めでたいめでたい。これからも世話になるぞ。」そういって、古屋の大戸をくぐりぬけ、庭に立つと、振り返って二人を見て笑いました。

そして、新しい長者屋敷の門前へ、とっとっとっと走り、そのままフッと姿を消しました。

福の神は、それっきり二度と姿を見せませんでしたが、今が今まで、ずうっとその長者屋敷は続いているそうです。

       「福の神。」


家の者が怠け者で、働き者になったり、頑張ったりして、貧乏神を追い出したり、福をつかむのですが、このお話では、貧乏神が、働き者の試練で?ついに福の神になるという、変わったお話です。

働き者の人間に鍛えられる貧乏神。

神様も人によって、善くも悪くもなると言う事でしょうか?


 
 
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