年越しに福来る、その二。

貧乏神が貧乏神たる由縁は、福や福の神があっての事。

実際の貧乏神のお話は、福を語っているものがほとんどです。

さて、このお話ではどんな風に福が語られているでしょうか?


「歳の夜としゃぐまの老人。」

むかし、ある所に若い夫婦ものがいました。

しかし嫁は無精者で、お茶を飲んだら茶殻を、ご飯を食べたら食べ残しを、くどの前に捨てるのでした。

それを貧乏神につけ込まれ、家の中に入られてしまい、分限者だった家は次第にかたむき、貧乏も極まって、どうにもこうにもならなくなってしまいました。


正月が近づいた歳の夜の事でした。

餅もつけず、薪もなし。

仕方がなく床板をはがして囲炉裏にくべるしかありませんでした。

男が震えながら火にあたっていると、奥の方で物音がしました。

見ると、ごそごそと音をさせながら、ぼろを着たしゃぐまの老人が出てきました。

お前は何者じゃ?」

男が聞くと、

「わしか?わしは貧乏神じゃ。わしにも火に当たらせよ。」

と、答えて、囲炉裏ばたにすわり、火に当たりはじめました。

貧乏神だと?

こいつのおかげで、わしはこんな目におうておるのか?


男は、その老人を殴ろうと、燃えていた板をつかみました。

老人は、フフフと笑い、男の方をみて言いました。

「殴る相手が、ちがうのぉ。」

「・・・誰を殴れと言うのじゃ?」


男は老人をにらみつけました。

老人は火にあたりながら静かに話しはじめました。

「わしはの、ここが大好きじゃ。お前の嫁は、くどの前にお茶の出しガラや食べ残しをポイッとほうる。せっかく来た幸せを、手ぇ合わせるわけで無し、土に戻してやるでなし。次第に、次第に、な〜んも消えてのうなっていく。」


老人は囲炉裏の白い灰をかき混ぜました。


「誰を殴ればいいのかわかったじゃろう?お前が分限者になりたくば、嫁にひまをだすのじゃな。」


男はいろりの火をしばらく見つめていましたが、板を下ろすと、そのまま嫁の所に行き、暇を出しました。

嫁も、この貧乏には嫌気がさしていたのか、そのまま、着の身着のままで、出て行きました。


男はいろり端に座ると,火をじっと見つめました。

そして、おいおいと泣きました。

夜がふけていきました。

男が泣き止むと、火に当たっていた老人は、懐からじゃらじゃらと銅銭を出しました。

「これで酒を買ってこい。」

男は首を振りました。

「・・・家にはもう徳利がないのじゃ。」

「ならの、唐津屋でいちばん大きな徳利を買って、酒をいっぱい買ってくればよいのじゃ。」

そういって老人は男を外に送り出しました。

男は酒を大きな徳利いっぱいに買ってくると、老人と火に当たりながら酒を飲み交わしました。


いつの間にか冷えてきて、雪がはらはら落ちてきました。

「・・・お前、分限者になりたいか?」

「なりたい。」

「なりたいのじゃの?」

「ああ、なりたい。」

男はおおきくうなづきました。

老人は目をつむると言いました。

「今夜は年の晩じゃ。お殿様を乗せた行列がお通りになる。お前、殿様のカゴめがけて、殴り込め。」

男は驚きました。

いくら何でも言う事が無茶苦茶でした。

「そんな、恐ろしい事、俺にはできねぇ。」

「・・・そうか、それならしかたない。お前が分限者になるには、それしか道がないのじゃ。分限者になりたくないなら、しかたない。」

男は、聞き返しました。

「・・・どうしても、それしか方法がねぇのか?」

「ああ、それしかない。」

老人はきっぱりと答えました。

男は考えました。

貧乏神と言えども神様。言う事に間違いはねぇ。もし、ウソだとしても、のたれて死ぬか、殴られて死ぬか。何の違いがあるのか?

男は、ぶるぶる震えながら天秤棒を持ち外に出ました。外では雪がこんもりつもり、大きな雪が降っていました。男はぶるぶる震えながら、お殿様の行列を待ちました。

「ほら。」

いつの間にかそばに立っていた老人は、茶わんに酒をついで、男に渡すと、自分もぐびぐび、飲みました。

雪が、男の頭と肩に積もりました。

男は寒くて寒くて、がたがた、がたがた、震えました。

意識が薄れて、ぼうっとして来ました。

すると、遠くに提灯の明かりがゆらゆらと近づいて来たのです。

「来たぞ。」

老人が言いました。

明かりはお殿様の行列でした。

提灯を持ったやっこや侍に続いて、カゴがやって来ました。

「あれじゃ、あのカゴに殴りかかるのじゃ。」

男は、恐ろしくて恐ろしくて、寒くて寒くて、がたがた、ぶるぶる、がたがた、ぶるぶる、がたがた、ぶるぶる、がたがた、ぶるぶる、震えて震えて仕方ありませんでした。

「さぁ、行け!」

老人の声に、男は天秤棒を振り上げて、お殿様の籠をめがけて殴りかかりました。

しかし、足がもつれて、そばにいたやっこを殴ってしまいました。

そのやっこは、男と一緒に、どうっと倒れると、そのまま死んでしまいました。

男は、しもうた、これで殺されると、行列を見ましたが、行列は、なぜか何も無かったように、そのまま雪の中へと提灯を揺らして、消えていってしまいました。


男が、不思議に思っていると、自分が殴り殺した男の姿が見えません。

そのかわり、銀貨が一枚、雪の上にころがっていたのでした。

「どうして、殿様の籠を殴らなかったのかのぉ。」

老人は大きなため息をつきました。

「しかたない、年が明けたら、もう一度この道を行列が通る。今度はしくじるなよ。」

老人はそう言うと、また、ぐびぐびお酒を飲み始めました。


年が明けて、元旦の夜となりました。男は天秤棒を担いで、行列を待ちました。

老人はそばでグビグビお酒を飲んでいました。その夜は、風がヒューヒュー拭いていました。

しばらくすると提灯の灯りが、ゆらゆらと見えてきました。

「殿様の籠じゃぞ。」

老人は念を押しました。

「ああ。」

男は、懐の銀貨を握りました。


行列が二人の前にさしかかりました。

男は天秤棒を振り上げて、殿様の籠に体当たりしました。

何かが、じゃらじゃらと崩れる音がして、行列はふっと消えました。

「ようやったの。」

老人はそう言うと、酒を持ったまま消えてしまいました。

男の周りには、大判や小判、金貨、銀貨が一面に散らばっていました。

男は、そのお金を拾い集めて、もとのような分限者にもどりました。


       「歳の夜としゃぐまの老人。」


このお話に登場する貧乏神、酒を買うのに、お金を出すわ、分限者になる方法を教えるわ、なんだか、お金持ちになるコーチをしています。

しかし、殿様の行列に殴り込みをしろ、というのは、かなり無茶かも。

人生を豊かにするなら、それだけの腹をくくれ、と言う事でしょうか?


◆補記

◆しゃぐま。

毛の事をさすようです。

熊や動物のけでつくったかぶり物をさす場合や、歌舞伎のかぶり物でざんばら髪のものも「しゃぐま」と呼ばれます。

毛のついた槍もしゃぐまと呼ばれ、やすらい花も「しゃごま」と呼ばれていて、魔よけのように使われているようです。

また、赤しゃぐまは四国の妖怪。ザシキワラシとも考えられています。

日本的な精霊、その象徴といったところでしょうか。


 
 
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