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  木魂婿入。
   「木魂婿入」は木の精が人と結ばれるお話です。
原話は「三十三間堂棟木の伝説」で、もとは三十三間堂の建立にまつわる伝説が、脚色されて、柳の精「お柳」との悲恋として書かれたものです。昔話では、柳の精が男に変わっている点と、物語が単純化されています。
  「木魂婿入。」
 

 むかし、ある村に大きな柳の木がありました。
何百年、そこにあるのか、いつからそこにあるのか、誰も知りませんでした。

 その村には、一人のお婆さんと娘が一人、暮らしていました。
 お婆さんはとても信仰心の厚い人で、小さな頃から娘を連れて、毎日お寺にお参りしました。そして、その帰りには、柳の木の下にすわって休み、「この木はねぇ、私が小さい頃にはもうこんなに大きくて、 毎日、毎日おばぁちゃんと一緒に、お寺の帰りに休んだものさ。そう私のおばぁちゃんが言っていたんだよ。」と、お婆さんは小さな娘に話しました。

 いつの間にか日々が過ぎ、娘は年頃となりました。今はお婆さんの手を引き、お寺に参って、帰り道に、柳の木の下にすわって休みました。
「おまえにも良い婿がおらんかねぇ。どこぞにおまえを大事にしてくれる良い婿はおらんかねぇ。」
「おばぁちゃん。おばぁちゃんのおばぁちゃんもそう言ってたの?」 
「ああ、言ってたよ。そうしたらね、すぐにおじぃちゃんが見つかったんだよ。」
 娘は、そう言って笑いました。

 次の日の事です。
 お寺の帰り、いつも休む柳の木の下に、一人の男の人が立っていました。それはまるで、大きな木のような男で、静かに静かに立っていました。娘とお婆さんはいつものように、柳の木の下で休みました。その男の人は、とても静かに、静かに、二人のそばに立っていました。

 その男の人は、それから毎日、柳の木の下に立っていました。いつの間にか、娘も、お婆さんも、話をするようになりました。そして男手のない、娘の家を手伝うようになり、いつの間にか、娘の婿となって、家に迎えられたのです。

 三人は毎日、お寺に参り、帰り道は柳の木の下で休みました。男は、お婆さんを小さな子供のようにいたわり、娘の事をもっと小さな赤ん坊のようにいたわりました。

 とても知恵のある男で、村人のいろんな相談に乗りました。困った事は手伝いました。男といると、誰もが安心しました。まるで木陰で休んでいるように、気持ち良く、心地よくなりました。

 三人は毎日、毎日、お参りをしました。
 いつの間にか、小さな赤ん坊と四人になりました。お婆さんと、男と娘と赤ん坊、四人は、毎日、毎日、お参りしました。小さな赤ん坊は、いつの間にか歩くようになり、大きな柳の木の下で、遊ぶようになりました。四人のお参りは続きました。また一人、赤ん坊が生まれ、五人になりました。お婆さんと、男と娘と、子供二人、毎日、毎日、お参りしました。

  
 ある年、お寺の普請が行われる事になり、いつも休んでいる柳の木がお寺の棟木に使われる事となりました。村の人は、惜しい事ではあるけれど、新しいお寺の棟木になるなら、お役になるのではないかと、話しました。

男は、娘とお婆さんの前に座ると、手をついて頭を下げました。
「俺は今度、お寺の棟木になる事になった。悲しい事だけれど、暇をくだされ。」
娘とお婆さんはポカンとしました。
「おまえ様、何を言っておるのです?」
男はしばらく黙っていましたが、娘を見ると、話はじめました。
「俺は、柳の木だ。おまえ様たちは毎日、毎日、寺に行っては俺のところで休んでくれる。ずぅーっと、見ているうちに、ずぅーっとまってるうちに、俺には精が入って、人になる事が出来たのだ。」
娘は信じられませんでした。男はどう見ても普通の男で、普通の婿だったのです。

男もそれ以上何も言いませんでした。そして何事も無かったように暮らし、毎日、毎日、お寺に行っては、柳の大木の下で休み、明日、柳の木を切る日、男は消えてしまったのです。

 娘は男を探しましたが、どこにもいません。お婆さんも子供たちも探しましたが、どこにもいません。不意に心配になった娘達は柳の木へと走りました。ちょうど、柳の木には縄がかけられ、これから斧が入れられる所でした。


 カァーン!

 柳の木に斧が入れられました。すると切り口から、血がザクッ!ザクッ!っと吹き出しました。娘は「ああっ!」と声を上げると、駆け寄って切らないでくださいと叫びました。村の者たちは、何が何だかわかりませんでした。

 その時、柳の木から声がしました。
「もう、よいのだよ、おまえ様。私は、ずっと見ておるから、村の人たちと仲良く暮らせよ。」
 あの、男の声でした。
 そして、柳の木はブルブルッと大きく身震いすると、自分から、地面へと倒れたのでした。

 村人は、やっとやさしい男が柳の木だった事に気がつきました。
 娘も、子供も、お婆さんも柳の木に駆け寄りました。
 村中のものは総出で、柳の木をお寺へと連れていきました。

 一年の後、お寺は立派に建て替えられ、あの大きな柳の木は、棟木となって、お寺をささえました。

 娘と、子供と、お婆さんは、毎日、毎日、お寺へ参り、そして、今は切り株となった柳の木のそばで休みました。柳の切り株からは新しい芽が出て、新しい枝が伸び始めていました。

 毎日、毎日、新しい枝は伸びていきました。子供たちはどんどん成長しました。そして、一人はお坊さんに、一人は良い婿を見つけ子供が出来ました。

 ずいぶん長い時がたちました。柳の木はまた、大きな木となりました。今はもうお婆さんとなった子供が、孫の手を引いて、毎日、毎日、お寺へ参りました。

 そして、昔と同じように、柳の木の下でゆっくり休むのでした。

        「木魂婿入。」

   
 

 柳の精の伝説はもう一つ「遊行柳」があります。
 老人として現れた柳の精が、上人の念仏によって成仏し、夜になって、再び現れ、故事を語って、報恩の舞いをまい消えていく、という物語です。

 三十三間堂棟木の伝説は「三十三間堂棟由来」という歌舞伎になっています。物語として完成していますので、機会があれば御覧ください。

  ◆補記
  ◆三十三間堂棟木の伝説。
 http://www.mikumano.net/setsuwa/yanagi.html
 楊枝薬師堂(ようじやくしどう)。
 http://www.mikumano.net/meguri/yoji.html
 三十三間堂棟由来。
 http://www5e.biglobe.ne.jp/~freddy/watching42.htm
◆謡曲 遊行柳。
 http://www.bashouan.com/pbYugyouyanagi.htm
 http://www.syuneikai.net/yugyoyanagi.htm