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  あねさま人形。
   「あねさま人形」は、人形との恋愛物語です。
 人形との恋物語は、ギリシャ神話、ピュグマリオンのお話。
 キプロス島の王ピュグマリオンは現実の女性に失望し、自ら理想の女性「ガラテア」を彫刻、人間となる事を願い、それをアフロディテが、叶えて、ピュグマリオンはガラテアを妻に迎えるというお話。
 そして日本では、「日本霊異記」、中巻第十三、「愛欲を生じ吉祥天女の像に恋ひ、感応して奇しき表を示す縁」。
 聖武天皇の時代、和泉の国に住む僧が、吉祥天女の像に恋をするお話があります。人形との恋は、どちらかと言うと否定的なニュアンスがあるのですが、このお話は少しニュアンスが違います。
  「あねさま人形。」
 

  むかし、あるところに、孝吉という貧乏な若者がいました。
  もうずっと一人暮らしで、朝早く手間仕事に出かけて、夜遅くに帰ってきました。
ある時、孝吉は長者様のお屋敷に雇われ、何が気に入ったのか、長者様は孝吉をそのまま屋敷に雇ったのです。
   
  孝吉の仕事は、屋敷内の庭仕事でした。
  長者様のお屋敷には離れがあって、その前は広い庭には、季節の花や、木々がたくさん植えてありました。孝吉は、その世話を頼まれ、また珍しい花や木々を見つけたら届けておくれと、十両、孝吉の才覚に任せていただいたのです。

  それからというもの、孝吉は毎日、庭の世話をし、時間があれば市や山に出かけ、広い庭を色とりどりの花や木で、飾りました。

  ただ、不思議な事に、長者様はこの庭に誰も連れてこられなかったのです。かといって、長者様が花を見ると言うわけでもありませんでした。ただ、花を咲かせるだけ。
  それでも孝吉は時々、フッと誰かがこちらを見ているような気がして、振り返るのですが、あたりには誰もいるはずがありません。
  しかし時折、花が数本、摘み取られている事があるようになったのです。

  その日、孝吉は隣の町まで、花や木を買いに出かけ、夕方遅く、長者様の家に帰って来ました。花をもって、離れの庭へ入ると、誰か人の気配がしたのです。孝吉はあたりを見回しましたが、誰もいません。しかし地面に花が落ちていて、それは離れの座敷へと続いていました。そして、いつもは閉まっている離れの障子がほんの少し開いていたのです。
 
  孝吉は、離れに誰かいるのだろうか?とそっと障子の向こうを見ました。
  そこには、長い髪の十七、八の娘が一人、今摘んだばかりの花を持って、座っていました。孝吉は驚いて頭を下げました。しかし、娘は驚いた様子も無く、ただ座っているだけでした。不思議に思った孝吉は娘を見つめました。その娘は、孝吉を見てもピクリとも動きませんでした。

  孝吉は「あっ。」と驚きました。

  娘は、人の大きさの、あねさま人形だったのです。孝吉はその人形が一目で好きになりました。畳に落ちている花を拾って、手に持たせると、外に出ました。

  それから、孝吉は、人のいない時をみはからって、離れの障子をあけ、あねさま人形に花を見せました。今まで、世話をしても誰にも見てもらえない庭でしたが、今は見せる人が出来ました。
  孝吉は毎日楽しくて仕方ありませんでした。春には、花が満開となり、夏には葉が勢い良くのび、秋には紅葉が庭を彩り、冬には雪で、いろんなものをつくって、あねさまに見せました。

  そして、春、孝吉は長者様に呼ばれたのです。

「孝吉、母屋の娘に毎日花を見せてくれているようじゃの。」
孝吉はびっくりして、頭を畳につけました。
「孝吉、よいのじゃよ。わしは娘に花を見せようと、おまえに庭の世話を頼んだのじゃ。わしは忙しくて、なかなか離れの障子を開けてもやれぬ。ありがとうの。」
孝吉は、顔をあげました。
「・・・長者様、あのあねさま人形は長者様のお嬢様でしょうか?」
長者様は、少しうつむくと、
「わしには娘がおっての、十七の年に亡くなってしもうた。あれは、佳乃の姿をうつしてつくらせたのもじゃ。」
「佳乃お嬢様・・・。」
「うむ、佳乃じゃ、佳乃という名前じゃ。」
二人は離れの方を見ました。
「孝吉、ひとつ頼みがあるのじゃが、聞いてくれぬか?」
「はい、長者様。」
「・・・あの子に花嫁衣装を着せて、嫁に出してやりとうての。孝吉、もろうてくれぬか?」
孝吉は驚きました。長者様の気持ちもわかりましたが、しかし、こんな事は聞いた事がありませんでした。
「あの、長者様、もらうといっても、家はあばら屋で、とてもお嬢様をお迎えできるような所ではありません。」
孝吉は頭を下げました。
「孝吉、あの子が嫌いかの?」
「いいえ!」
孝吉は思わず大声を出してしまいました。
「なら、決まったの。」
長者様は、離れを見て静かに言いました。

  孝吉は、精いっぱい家の中をきれいにし、あねさま人形の座る所をつくりました。そして、そばに花を飾る、花瓶を一つ用意しました。それからしばらくして、孝吉の家に花嫁がカゴに乗せられてやって来ました。長者様と奥様と、孝吉とあねさま人形だけの、祝言のまね事でした。


  朝起きると、おはようと挨拶をし、言ってきますと出かけました。
  家に帰るとただいまと言って、庭から摘んできた花を生けました。
  そして、寝る前にはおやすみと言いました。
  そんなふうな暮らしがしばらく続きました。

  ある日、孝吉は、お店に飾る花の鉢の支度で、夜遅くに帰って来ました。すると、家の中は掃除がしてあり、おみそ汁と煮付け、そしてご飯がで炊き上がっていました。

  いったい誰がつくってくれたのだろう?

  孝吉はあねさま人形を見ました。もし、この人形がホントは生きていたら、どんなにいいだろう。孝吉はそう思いながら、ゆっくり食べました。

  それから、不思議な事に、孝吉が帰ってくると、いつも食事の用意がしてありました。毎日、毎日、つくってあるのです。掃除も、つくろい物も、そしていつの間にか新しい着物が縫い上がっていたのです。孝吉は次第にあねさま人形が本当に生きているのではないか?と考えるようになりました。
  
  孝吉は決心しました。
  どうしても、知りたかったのです。
  話が出きるなら、してみたい。
  そう思ったのです。
  孝吉は、出かけるふりをして、台所のスミに隠れました。

  お日さまが西に傾きかけた頃、キィィと小さな音がしました。
  座敷の方から、何かが起き上がり、台所の方へ降りてきました。

  幸吉はやっぱりそうだったのか、
  お嬢様の人形が、今まで食事を作ってくれていたのか、と思いました。
  そして幸吉は、もっと驚きました。
  それは人形ではなく、生きている娘でした。

  あねさま人形と同じように長い髪で、人形と同じ、桜色の着物を着ていました。
  その娘は孝吉の前で、火を起こすと料理をつくりはじめました。

  「佳乃お嬢様。」

  孝吉は思わず立ち上がってしまいました。
  娘は驚いて振り返りました。
  そして孝吉をじっと見つめると、微笑んだのです。

  その時です。
  かまどの火が着物に燃え移ると瞬く間に大きくなり、ぱぁっと佳乃の体を包みました。
  「お嬢様!」
  孝吉は佳乃に駆け寄りました。しかし佳乃は孝吉を突き飛ばすと、そのまま崩れるように倒れてしまいました。

  「お嬢様!」
  炎の中で佳乃は孝吉を見て微笑むと、そのまま静かに目を閉じたのでした。

  それから、
  孝吉は離れの庭で、また、たくさんの花を咲かせました。
  一度は荒れた庭でしたが、前よりももっとたくさんの花を咲かせました。
  そして孝吉は、毎日、離れの佳乃の座っていた場所に、花を飾るのでした。
  
       「あねさま人形。」

   
   「あねさま人形」の元の話は、
 唐代「原化記」の「呉堪(ごかん)」の話が、原形となっているように思います。
 基本構成は、誰だか知らない人がいつの間にか、食事などの世話をしてくれる、誰であろう?と隠れて見ていると、それが、タニシであったり、魚であったり、絵の中の美女が抜け出してきたり、このお話のように人形であったりします。
 日本のものは、だいたい別れで終わる話が多いようです。(お相手が神仙なため、うまく行くと、行方不明になってしまう。)
   
  若くして亡くなって、一度だけ恋がしてみたかった、
  誰かと、結婚のまね事、夫婦のまね事がしてみたかった。
  さて、男としてはどう答えるべきでしょうか?

  出展は「青森県の昔話」川合勇太郎・津軽書房です。