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十一月の行事ー神様と縁結びのお話。
 
  鬼女房
    鬼が人の嫁になるお話はだいたい「喰わず女房」のように人を喰うお話なのですが、このお話はすこし違います。
  少し悲しい物語です。
  「鬼女房。」
 

  むかし、むかし。
  金沢山のほとりに、キノコ取りのあにさんがいました。毎日毎日、山に入ってキノコを採り、盆が来ても正月が来ても、遊び事もなく、ただ、毎日毎日稼ぎにせいを出していました。

  ある時、いつものようにキノコを採りに山に入った時、木の枝から枝へ、キラキラ光るものがありました。それは絹のような、とてもキレイなものでした。あにさんは、その長く光るものを家にもって帰り、軒にくくりつけました。それは、かぜにひらひら、キラキラ、キラキラ、光を散らしていましたが、いつの間にか、なくなっていました。

  田の刈り上げも終わり、豆も芋も取り上げて、鳥海山に雪が降りた頃の夜更けの事です。

「こんばんは、こんばんは。」
暗い風の音の中に、声がします。
「まんず、たまげた。 こんな自分に、何ようだべ?」

  あにさんが戸をあけると、すっと女ご一人、立っていました。行き倒れでもないだろうし、もう夜中だと言うのに、女ご一人、立っていました。
「どうか一晩とめてくだっせ。 道さ、迷って難儀しております。お願いします。 どうか一晩とめてくだっせ。」
  頭を下げて、必死に頼むので、あにさんは、女ごを中に入れるとお湯を飲ませ、綿の入った半纏を着せて、火の近くで眠らせました。とても美しい女ごでした。しかし、次の日になっても、女ごは、どこか帰る様子が見えませんでした。あにさは追い出す事もできず、いたいだけおればよいと、しました。女ごは、あにさが家におれば、家の仕事を、あにさが山に行けば、山の仕事を、一緒にしました。
  子供の頃からキノコを採るあにさは、山のことならスミからスミへと知っているはずでしたが、女ごは、あにさが気がつかなかった、岩のすみ、川のほとり、森の向こうへと、あにさを連れて入っていきました。そこには、めずらしいキノコや、不思議な薬草がたくさんあったのです。

  こうして二人で暮らすうち、生活も楽になり、若い男と女ごですから、いつの間にか夫婦となり、女ごは、あにさの妻となったのです。
  そして次の年、山があかね色に染まるころ、元気な女の子が生まれました。めんこい子で、あにさと女ごは、たいそうかわいがり、家では、どちらかが抱き、山でもどちらかが抱き、色とりどりの木々の中に、元気な笑い声が聞こえました。

  そんな日々の中、次第に女ごの元気がなくなってきました。声をかけても考え事をしている、赤ん坊をじっとみて、ひとつも笑わない。そして、ついには赤ん坊を抱こうとしなくなりました。

「おめぇ、どうしただや?なぜ、赤んぼを見て笑わねぇ? なして、抱こうとしねぇ?こげな暮らしが嫌になったか?何か困った事があったか?」
あにさが聞くと、女ごはボロボロ泣き始めました。
「うちは、人になって、あにさとずっと暮らして生きたかっただども、どうしても、どうしても、この子のそばにいられね。」
「・・・何言ってるだ?」
あにさは聞き返しました。

「・・・あにさが山からもって帰った糸のようなものは、おらの髪の毛だ。山から取り返しに来たけれども、あにさがやさしくて、やさしくて、人になってずっと一緒にいたかったんだよ。」
女ごは、はぁと大きく息をはくと、ボロボロ涙をこぼしました。
あにさは、わけがわかりませんでした。
  
「うちはこの子が大好きなのに、昔の自分が戻ってきてしまう。この子を抱くと、はあっと息を吹きかけて、喰いたくなってきてしまう。 元の鬼の心が戻って来て、とても人の親でいられない。」
女ごは両手をついて、肩をふるわせました。
「あにさ、どうか、この子をたのみやす。」
そう言うと、女ごは、バザラッと髪を金色に変えて、フォンと飛んでいってしまいました。あにさは、外に飛び出して、女ごを呼びましたが、ついに帰っては来ませんでした。

 それから、あにさは子供を一人で育てました。子供を背負って、山に入り、昔のように、二人で暮らしていた時のように、キノコや薬草を取りました。あにさが山に入ると、たくさんキノコが採れて、大金持ちになりました。

 月の明るい夜、女ごは金沢山から飛んできて、高窓に座り、自分の産んだ子の寝顔をいつまでもいつまでも見ていたと言います。
  月の光が、キラキラ、キラキラ、光る夜の事でした。

       「鬼女房。」

   
    このお話、「喰わず女房」というより、「信太妻」の狐のお話に近いかも知れません。

  鬼とはいえ母。
  悲しいお母さんのお話でした。