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九月ー重陽の節句とお月見。
 
  かちかち山。
    狸の話と言えば、かちかち山です。
  このお話、とても残酷な描写があるため、子供に読ませるのはどうよ、みたいな論議があり、今では一般的ではありません。確かにお婆さんを煮て、お爺さんに食べさせてしまったり、狸をだまし討ちで殴り殺すという結末など、昔話にしては、リアル。
  しかし、それにはそれなりの理由があったようです。
  「かちかち山。」
    ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。
  お爺さんが山の畑に行って畑を耕していると、大きな狸が出てきて、いつもお爺さんが座って休んでいる石に腰かけました。

   爺の右鍬っこわぁ、でんぐりぼ。
   爺の左鍬っこわぁ、でんぐりぼ。

と、お爺さんをからかいました。「この性悪狸が!」お爺さんは鍬を振り上げて追いかけました。すると狸は、尻を叩きながら、「ほれほれ、爺がよろよろ、尻餅ついてひっくり返る。」と言うと、お爺さんをからかいながら山の中へと逃げていきました。

  大狸は次の日もまた次の日も、出てきてお爺さんをからかっては山に逃げていきました。そんな事が何日か続いた後、お爺さんは狸がすわる大きな石に、トリモチを塗っておきました。

  次の日、大狸はやはりお爺さんをからかおうと山から出てくると、石の上に座って、大きな声でからかいました。

   爺の右鍬っこわぁ、でんぐりぼ。
   爺の左鍬っこわぁ、でんぐりぼ。

  お爺さんは、狸の好きなようにさせておきました。大狸はもっと大きな声でお爺さんをからかいました。「怒ってまた追いかけて来い、俺は捕まらんぞ。」大狸は何度も何度もお爺さんをからかいました。「この狸は、いつもいつも悪いことばかりしよる。」お爺さんは、そう言うと、狸の方へと近づいていきました。大狸はいつものように山へ逃げようとしましたが、トリモチがべっとりお尻について、逃げる事が出来ません。
 
 「ああっ。」

  お爺さんは狸を一発殴りつけると、藤蔓で縛り上げて家に連れ帰りました。

   狸の尻ぺた、根が生えた。
   晩げは、汁で腹いっぺ〜。

  「婆さま、婆さま。悪狸を捕まえたぞ。晩げは狸汁にしてくれろ。」
  「はいな、今日の晩げは狸汁しましょうの。」

  お爺さんが畑に帰っていくと、お婆さんは粉をつきはじめました。軒先に吊るされた大狸は、お婆さんに言いました。
  「お婆さん、お婆さん、粉をどれくらい引くのかい?」
  「三臼、三桶、三重(かさね)じゃ。」
  「そりゃあ、難儀なことじゃ。おらが手伝うから、縄をほどいてくだされ。」
  「縄などほどいたら、お爺さんにおこられちまう。」
  「なぁに、粉を突き終わった羅、元のように吊るせば、お爺さんにはわからぬ。」
  気の良いお婆さんは狸の言うまま、縄をといてやりました。
  「お婆さん、わしが粉を突くから、お婆さんは手合わせしてくれ。」

  そういうと狸は粉つき棒でお婆さんの頭をゴツンと叩き、殺してしまいました。そして、お婆さんの皮をはぎ、その皮をかぶってお婆さんに化けたのでした。夕方、お爺さんは帰ってくると、鍋がぐつぐつ煮えていました。

  「おお、煮えとるのう。婆さま、もう狸汁は出来とるかの?」
  「はいはい、できとります。」

  そう言って、お婆さんの皮を被った大狸は、お爺さんに汁をついで差し出しました。お爺さんはそのお汁を一口すすると首をかしげました。

  「少しすっぱいのう。」
  「あの狸は大狸でしたからの、すこし肉が酸いのかも。」
  「そうじゃのう。」

  お爺さんはそれでもおかわりをして、三椀食べました。お爺さんが食べ終わると、お婆さんの皮をかぶった狸は立ち上がると、口をカタカタ音をさせました。

   婆の奥歯さ、ひっついた。
   婆汁喰って、おかしや、おかし。

  そう言うと、大狸はお婆さんの皮をバッと脱ぎ、夜の山へと消えていきました。

  お爺さんは、お婆さんの皮を見て驚きました。
  「ああ、狸のヤツに婆さまを殺されてしもうた。おまけに喰わされてしもうた。」
  お爺さんはオイオイ泣きました。

  「お爺さん、どうした?」
  兎がのそのそとやって来てお爺さんに尋ねました。お爺さんは、山の大狸にお婆さんを殺されて、喰わされた事を話しました。
  「なんと非道な事を。お爺さん、きっと仇は討ってやるからな。」
  兎はそういうと、お爺さんを慰め、お婆さんを弔いました。




  何日かして兎は背負子を背負って山道を歩きました。

   薪がいっぱい、蜜柑がみっつ。
   とっかえ、こっかえ、とっかかえ。

  兎が歌いながら歩いていると、あの大狸が出てきて言いました。

  「兎さん、兎さん、面白い歌だの。」
  「ああ、おらぁ、嬉しくて嬉しくて。」
  「なぁにがそんなに嬉しいだ?」
  「薪を拾って、持っていくと、あ〜まい蜜柑を三つと、とっかえてくれるんだ。」
  「蜜柑を三つか?」
  「ああ、三つだ。」
  「オラが持っていっても、とっかえてくれるか?」
  「ああ、かえてくれる。」

  蜜柑の好きな大狸は、さっそく兎と薪を拾いました。二匹は薪を拾って山を降りはじめましたが、兎は「ああ、薪拾いはしんどい、しんどい。」と言って、歩くのをやめてしまいました。

  「兎さん、はやく薪を蜜柑にかえてもらおう。」
  「狸さん、薪を少し、薪を持ってくれないか?俺は蜜柑は少しでいいから。」
  「よし、半分持ってやる。」

  そう言うと狸は兎の薪を半分、自分の背負子に移して歩きはじめました。兎は狸の後を、だるそうについて行くと、また歩くのをやめてしまいました。

  「狸さん、狸さん、俺はもう蜜柑はいいよ、残りの薪も持っていってくれ。」
  「ああ、わかった。それなら歩けるかい?」
  「ああ、歩けるよ。」

  狸は薪を全部、背負子に背負うと、歩きはじめました。しかし、いくらも行かないうちに、兎はまた座り込んだのです。

  「兎さん、どうしたんだ?」
  「もう、歩けねぇ。」

  狸は困ってしまいました。兎がいないと何処で蜜柑をもらえるのかわからなかったのです。
  「しかたねぇ、おいらがおぶってやるよ。」
  狸は兎を背負って歩き出しました。

  カチカチカチ。

  兎は火打ち石を切りました。
  「兎さん、兎さん、カチカチ音がするが、何の音だい?」
  「狸さん、狸さん。この音はカチカチ山のカチカチ鳥の声だよ。」

  兎は狸の頭の火をボウボウと吹きました。
  「兎さん、兎さん、ぼうぼう音がするが、何の音だい?」
  「狸さん、この音はボウボウ山のボウボウ鳥の声だよ。」

  兎はそう言うと、そっと狸にわからないよう、頭の上の木にぶら下がりました。狸は背中の薪に火が燃えうつり、気がついた時には大きな火を背負っていたのです。

  「熱い!」

  狸はやっと気がつき、地面を転がって火を消しましたが、大ヤケドをしてしまいました。


  狸はうんうん唸りながら山を降りて行くと、兎は藤のツルを伐っていました。

  「兎さん、兎さん、ひどいじゃないか。どうして薪に火をつけたんだ?」
  「薪山の兎は薪山の兎、藤山の兎は藤山の兎、俺が何をしたと言うのだ?」

  狸は、それもそうか、と思いました。

  「では、藤山の兎さん、何をしてるんだい?」
  「今日は天気もいいから、ひなたで遊ぶのに藤ツルを伐っているのさ。」
  「それは、面白そうだ。俺も仲間に入れてくれないか?」
  「ああ、いいとも。」

  狸は兎と同じように藤ツルを取りました。
  「これで、何して遊ぶんだ?」
  狸が聞くと、兎が答えました。
  「手足をくくって、山の上から滑り降りると、面白いよ。」
  「面白いのかい?」
  「ああ、最初にやらせてあげるよ。」
  そう言うと、兎は狸の手足を縛りました。

  「さぁ、面白いぞ、転がってみな。」
  狸は嬉しそうに転がりはじめました。すると、狸はゴロゴロドカン、あっちの木にぶつかり、こっちの木にぶつかり、薮の中につっこみ、岩にぶつかって、谷底に落ちました。狸がやっと起き上がると、もう兎はどこかへ消えていました。


  狸はうんうん唸りながら山を越えて行くと、兎は唐芥子味噌をつくっていました。
  「兎さん、兎さん、ひどいじゃないか。あちこちにぶつかって、こんなに傷だらけになったじゃないか、どうしてだましたんだい?」
  「薪山の兎は薪山の兎、藤山の兎は藤山の兎、味噌山の兎は味噌山の兎、俺が何をしたと言うのだ?」
  狸は、それもそうか、と思いました。

  「狸さん、この味噌はね、火傷や傷口に塗るとすぐ治る妙薬なんだよ。これから町に売りに行くところさ。」
  狸はその薬が欲しくて欲しくてたまりませんでした。
  「兎さん、俺はこの通り傷だらけ、薬をわけてもらえないか?」
  「ああ、いいとも、俺は背中を塗ってやる。」
  そう言うと兎は狸の背中にまわり、二匹で味噌をつけはじめました。しばらくすると、味噌の塩気と唐芥子が傷口にしみてきて、ガマンができないほど、痛くなりました。

  「兎さん、これはホントに薬かい?」

  狸が振り返ると、兎はもういませんでした。狸は泣き泣き川に降りると体から唐芥子味噌を洗い落としました。狸はうんうん唸りながら川からあがると、兎が川の側で杉の木で船を作っていました。

  「兎さん、兎さん、ひどいじゃないか。おかげで、こんなに体が腫れ上がった。どうしてだましたんだい?」
  「薪山の兎は薪山の兎、藤山の兎は藤山の兎、味噌山の兎は味噌山の兎、杉山の狸は杉山の狸だ。俺が何をしたと言うのだ?」
  狸は、それもそうか、と思いました。

  「兎さん、兎さん、その船で何をするんだい?」
  「川に乗り出して、魚を取るんだよ。」
  「面白そうだな、俺も仲間に入れてくれ。」
  「ああ、それなら、そっちの土舟を使えよ。」

  二人は船に乗って川に乗り出しました。狸の船は土でつくってあるものだから、次第に崩れていきました。兎は木の船を、狸の土の船にわざとぶつけて、壊してしまい、とうとう、船が沈んで、狸さんは溺れてしまいました。

  「兎さん、兎さん、船が沈む、助けてくれ。」
  「よし、狸さん、これに捕まれ。」

  兎は狸に船の櫂(かい)を差し出しました。そして、狸がその櫂に捕まろうとした時、兎は思いっきり狸の頭を叩いたのです。狸はそのまま川の底に沈んで、浮かび上がってきませんでした。

  それから、お爺さんの家には、時々山から兎がやって来て、仕事を手伝ったり、遊んだりしているそうです。

           「かちかち山。」

   
    さて「カチカチ山」、どうしてこんな話になっているのか?と言うと、戦国時代の関係=狸とお爺さん=自己利益と欲望の行動=喰うか喰われるかの関係と、江戸時代の関係=お爺さんと兎=忠義の行動=主従・忠義の関係なのだそうです。
  このお話の狸は戦国時代の、狡猾な「悪党」をあらわしていて、兎は主従の関係のあるお爺さんに忠義をもって行動している、のだそうです。兎自体の行動も、だまし討ちみたいな所があるのですが、これはあだ討ち、主人に対する忠義立てと考えると、正当化されるようです。

  ただ、お話として?こんな説明がないとわからないなら、最初から狸を悪党の野武士、兎をお爺さん達の郎党として、書いておく方が、ましな感じがします。
  もしかすると、この話は、口から口に語られていたもので、お話の合間に、補足説明のように、背景のように、伝えられていたのかも知れません。