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妖怪のお話。
 
  牛鬼、その二。
    牛鬼のお話は石見国以外に東海道、東山道、四国でもあるそうです。

  以下は美濃国の伝説です。

  江戸時代中期、美濃国のある山の中の川で、大雨で川が溢れた後、水の中に牛のようなものが土砂に半分埋もれて、背中が出ていたそうです。四、五日そのままでしたが、最初に見つけた者が大木が埋まっているものと斧を打ち込んだ所、むくむく動き出し、たくさんの血で川を真っ赤に染めてしまいました。村人は驚いて逃げましたが、再び見に行った時には、その牛のようなものは数町も上流にのぼっていた、と伝えられています。

  では、石見国でのもう一つのお話です。
  「濡れ女。」
 

  石見国那賀郡に浅利村に江戸よりずっと以前から伝わっている伝説です。

  村の神職の男が、ある夜一人で磯場へと夜釣りに行った所、どうしたことか、魚が次から次へと釣れたのでした。男はいぶかりながら釣りをしていると、どこからか赤子を抱いた女がどこからか現れ、男の方へと近づいて来たのです。
  男は濡れ女かと恐れたのですが、その女は子供を抱いてくれとは言いませんでした。しかし、かわりに、「もし、そのビクの中の魚を一匹、この子にくださいな。」と言ったのでした。
  女がそういうと、どうしたことか男はイヤとは言えず、ビクの中から魚を一匹差し出しました。女はその魚を手に取ると、赤ん坊に与えました。するとその赤ん坊は、魚を頭からバリバリと噛み砕き、ゴクンと尻尾まで呑み込んでしまいました。
  女は「もう一匹、魚をくださいな。」と、言いました。男はことわる事も出来ず、魚をまた一匹、差し出しました。赤ん坊はバリバリ、バリバリと魚を次々にたいらげ、ついには最期の一匹も呑み込んでしまいました。
  濡れ女に求められると、断る事が出来ないようです。女は、「そのお腰のものをくださいな。」と男の腰に差してあった脇差を求めました。男は断る事が出来ず、脇差を渡しました。すると赤ん坊はその脇差をバキバキッと噛み砕き、食べてしまったのです。
  そして、女は男を見てニッと笑い、「この子をしばらく抱いていてくださいな。」と言うと、赤ん坊を男に渡し、笑いながら、海の中へ消えていきました。

  「うぎゃぁー!うぎゃぁー!」
  赤ん坊は火がついたように泣き出しました。
  そして次第に重くなり、男の手に張りついたまま泣き声をあげ続けました。男は恐ろしくなって、そこから逃げ出しました。波を割って、大きなものが現れました。
  牛鬼でした。
  男は赤ん坊を投げ捨てようとしましたが、赤ん坊は手に張り付いたまま、捨てる事が出来ませんでした。男はあわてて赤ん坊を抱いたまま走り出しました。
  牛鬼は口を大きく開け、叫び声を上げながら男を追って来ました。赤ん坊はその声にこたえるように、大きく泣き声をあげました。男はどんどん重くなる赤ん坊を抱えながら走りました。しかし、牛鬼はすぐ後に迫り、男に喰いつこうとしたのです。
  もうダメだ!
  牛鬼がガバッと大きな口を開け、男に喰いつこうとした時、空の上から、きらりと光るものが飛んできて、牛鬼の頭にぐさりとささりました。牛鬼は、そのまま動きをやめ、不思議な事に、男の手の中の赤ん坊が、ふぅっと消えたのです。

  男はわけがわからず、そのまま神社の中の家に走って帰ると、家の門の前には、なぜか提灯を持った、妻が立っていたのです。
  妻が言うには、男が釣りに出かけた後、針仕事をしていたら、居間の刀架けにあった愛刀が突然シャンシャンと音をたて、しきりに鳴った。奇怪な事に何が起こっているのだろう?もしや、夫の身に何かあったのだろうか?と戸を開けて外に出た所、愛刀が勝手に鞘を抜け出て、鳥のように外に飛び出して行った。それで門のそばで様子を見ていた、との事でした。

  翌朝、男は村の者と鎌や鍬を持って、昨夜の所に行ってみました。そこには血だまりがあり、血の後が磯場へと、てんてんと続いていて、あの黒い大きな牛鬼も、愛刀もどこにも見つかりませんでした。

  多分、牛鬼は愛刀を頭に刺したまま、海中に没し去ったのだろうと、一同、思ったのでした。

       「濡れ女。」

 
    「枕草子」には「名おそろしき物、牛鬼(ぎゅうき)」と書かれてあるそうで、すでにこの時代には牛鬼は知られている妖怪だったようです。
  四国、愛媛県や香川県にも牛鬼伝説はあり、こちらは山の妖怪となっています。
  「根香寺の牛鬼。」
    天正年間(1573-92)の事です。山に住んでいた牛鬼が突然里に現れ、人や牛、馬、また船をも襲うようになりました。困った村人達は、現在の香川県塩江町の弓の名手、山田蔵人高清(やまだくらんどたかきよ)に頼んで退治してもらう事となりました。

  高清は山に入り、山中を隈なく探したが見つかりませんでした。困った高清は根香寺に詣で、千手観音様に、二十一日間の願をかけました。 満願の日、山に入った高清は、崖下にピカッと光るものを見つけました。

  高清は崖の下に光る牛鬼の目をみつけ、矢を射ました。しかし矢の刺さった牛鬼はいかり狂い、高清に襲いかかってきました。高清は次から次へと矢を射て、三の矢が牛鬼の口の中を射ぬきました。牛鬼は大きな叫び声を上げてどこかへ消え去りました。

  その後、高清は血の後を追って探してみると、牛鬼が定が渕というところで死んでいるのを見つけました。高清は、牛鬼の角を切り取ると、人々からお礼にもらった米十五俵と共に、根香寺に奉納し、菩提をとむらいました。

       「根香寺の牛鬼。」
 
    山田蔵人高清のお墓は、香川県塩江町に現存するそうです。根香寺に奉納された角は、今でも残っています。また、いつの頃からか牛鬼の絵姿は、魔よけの効能があると言われるようになったそうです。 現在は管理などの都合で一般公開はされていませんが、その姿を銅像とした物が仁王門脇にあります。
  ◆補記
  香川県、四国霊場第八十二番根香寺(ねごろじ)
http://www1.plala.or.jp/negoro/index.html
根香寺、牛鬼(うしおに)伝説。
http://www1.plala.or.jp/negoro/usioni.html
根香寺、仁王門脇の牛鬼の銅像。
http://www1.plala.or.jp/negoro/keidai.htm