お話歳時記 お話を見て書いて創るサイト お話歳時記
お話歳時記創作情報デジタルコンテンツメルマガwww.pleasuremind.jp TOP
七月-羽衣伝説と異類結婚譚。
 
  笛吹藤平。
    「笛吹藤平」は、天人女房型のお話の一つで、権力者か難題をふっかけられ、女房を奪われそうになるというお話です。
  「笛吹藤平。」
     ぴーひゃら、ひゃらひゃら、ぴーひゃらら。
  ある所に笛吹藤平という、笛のうまい男がありました。起きては吹き、寝ても吹き、日がな一日笛ばかり吹いていました。
  ある時、素晴らしい笛の噂を聞いた藤平は、自分の家屋敷とその笛を交換してしまいました。そして、その笛一本を頼りに諸国を巡り、西へ東へ旅を続けました。
  笛を吹けば、まわりに人があつまって、いくばくかのお金が集まりました。夕方、家の前で笛を吹けば、一夜、宿を貸してくれました。山に笛を吹き、海に笛を吹き、天に笛を奏でました。春に、夏に、秋に、冬に、笛を吹き、いつしか、何年も旅空の中にいたのでした。

  藤平はふと何年も両親の墓参りをしていない事を思い出し、故郷へと向かいました。

  草茫々のお墓を掃除し、何年ぶりか、笛を納めました。そして、近くの空き家に、一人暮らす事としたのです。藤平はいつものように笛を吹きました。空に山に、風に乗って笛の音が運ばれて行きました。いつの間にか夜となり、破れた天井から月がのぞいていました。そして夜が更けていったのです。

  トントン、トントン。「ごめんください。」明け方に、戸を叩く声がありました。どこからか美しい女が藤平のもとを訪ねて来たのでした。
「お前さん、こんな所になんの用かい?」
「ここは藤平さんのお宅ですか?」
「ああ、そうだが?」
「あなたの笛の音に魅かれてやって来ました。どうかここに置いて、あなた様の女房にしてください。」
藤平は不思議に思いました。
「お前さんは誰だかわからないが、俺は見ての通り、何も持たない貧乏者。 あるのはこの笛一本なのだよ。お前を食わせる事も出来ないのに、無理を言わないでくれないか?」
「あなたに断られたら、恥ずかしくて国にも帰れません。どうか、ここに置いてください。」
娘があまりに真剣に言うので、困った藤平は、娘をしばらく置く事としました。

  娘は七織(ななお)と言う名でした。家に入ると、さっそく掃除をはじめました。家の中を整え、家のまわりを片づけました。
  七織は懐から小袋を出すと、銀の小粒を藤平にわたし、市場で糸と米を買ってくるよう言いました。藤平は市場へ出かけ、言われたように絹の糸を一抱え、そしてお米を一袋買って帰りました。

  藤平が家に帰ると、あの崩れかけた小屋は見違えるようになっていました。内も外もきれいに片づき、古いはずの家は、相変わらず天井には穴が開いていましたが、不思議とどこかあたらしさがあったのです。
  七織は藤平の買ってきた米で雑炊を作りました。どこから摘んできたのか、野草が並べてあり、七織はそれをトントントンと刻むと鍋に入れて七草粥を作りました。それは、藤平が初めて食べるようなおいしい粥でした。体の芯から力が溢れるような気がしました。普段食べるものも食べずにいた藤平は、なんだか心地よくなり、笛をとり出すと七織に吹いて聞かせました。七織は、ただその音をいつまでも聞いていたのでした。

  朝、藤平はパタンパタンと機を織る音に目が覚めました。いつの間にか台所の向こうに機織り小屋があり、そこで七織が機を織っているのでした。七織は三日三晩、機を織り続けました。そして、布を織り上げると藤平に渡しました。
「これは三十三観音の曼陀羅、市に行って三百両でお売りください。」
藤平は言われるままに、市に曼荼羅を持って行き、「三十三観音の曼陀羅、売りたも〜う。」と、ふれまわりました。
集まった町の人は、口々に藤平の持ってきた布を見せろと言いました。藤平が布を広げると皆驚きました。それは見た事もないような仏の舞う絹織りの曼陀羅だったのです。それを見た町一番の大きなお店の主人は、千両払うと言いましたが、藤平は七織に言われた通り、三百両だけ受け取って、家に帰ったのです。

  曼陀羅を買った主人は、さっそく店に飾りました。すると、店には大勢の人が集まり、たいそうなにぎわいとなりました。それはすぐにお城のお殿様の耳へと届きました。興味を持ったお殿様はお忍びでお店に訪れ曼陀羅を見物しました。
「ふむ、このような優れた織物をおる女がおるのか。」
お殿様はご家来に命じ藤平の家を探させました。そして、どのような女か、見に行ったのです。

  わびしい里の壊れかけたあばら家の中に、見た事も無いような美しい娘が、男の吹く笛の音を聞いていました。その光景に、お殿様は、曼陀羅よりも強く魅かれ、じっと見つめていたのでした。

次の日、藤平のあばら家にお役人が大勢訪ねて来て、お殿様の命を伝えました。
「笛吹藤平、灰の縄千把、明日までにお城に差し出せ。さもなくば、女房を差し出せ。」
藤平は驚きました。なぜお殿様が、そのような無理難題を言うのかわからなかったのです。
「藤平さん、心配ありませんよ。さぁ、市場に行って、縄を千把、塩を一貫目、買ってきてください。」
七織は藤平を送り出しました。藤平は何がなんだかわからず、市場に行って縄を千把と塩を一貫目、買ってきました。七織は縄を箱に入れて塩を振りかけ、火をつけました。すると、縄はそのまま灰縄となったのです。藤平はその荒縄をお城にさし出しました。

すると、二、三日して、またお役人が大勢やって来て、お殿様の命を伝えました。
「笛吹藤平、打たぬのに鳴る太鼓、明日までにお城に差し出せ。さもなくば、女房を差し出せ。」
藤平は七織の顔を見ました。
「あなた、なんという情けない顔をしておられるのですか。さぁ、市場に行って、太鼓となめし皮を買ってきてください。それから、山に行って赤蜂の巣を取って来てください。」
藤平は市場で太鼓となめし皮を買い、山から赤蜂の巣を取って来ました。七織は太鼓の中に蜂の巣を入れて、皮を張りなおし、お城に差し出したのです。

殿さま達はその太鼓を不思議そうに見つめました。

ポンポコポンポン ポンポコポン。

確かに勝手に音が鳴っています。殿さまも家来も不思議でたまりませんでした。
「どうなっておるのだろうの?」
「わかりませぬ。」
殿さまも家来もわかりませんでした。太鼓の中がどうなっているのか?殿さま達は皮をめくってしまいました。すると中からたくさんの蜂が飛び出して、殿さまも家来も追いかけて何度も何度も刺したのでした。


  五日後、藤平はお城に呼び出されました。お城では、蜂に刺されて顔が腫れ上がったお殿様と家来が待っていました。
「藤平、お前はよく不思議なものを作る。あっぱれである。」
藤平は頭を下げました。
「お前の事だから、わしの最期の望みもかなえてくれるだろう。 天の雷神を九頭、お城に差し出せ。さもなくば、お前の女房を差し出せ。」
藤平は驚いて顔をあげました。やっとわかったのです。殿さまは七織が目当てだったのです。今までは七織の知恵で切り抜けられましたが、雷神など、どうにもなるものではありません。

藤平が帰ると、七織が待っていました。わけを話すと七織は笑って答えました。
「雷神九頭ですね、ではあなた、笛を持って、お城に参りましょう。」
藤平と七織はそのままお城へ向かいました。お城の門の前に来ると、七織は持っている扇をひろげ、空に向かって何かを招くしぐさをしました。

ドガラガラガッシャーン!

雷と共に雷神が一頭、降りてきました。雷神は体のまわりに雲をたなびかせ、太鼓と水袋・火袋・風袋、そして火打ち石を持っていました。七織はくるりと扇をまわし、雷神をまた一頭、また一頭と、次々に空から招きました。そのたびに大きな雷が、ドカ〜ン、ドカンと落ちたのです。

「何事か?」
お殿様は驚きました。
「藤平と女房がやってきて、雷神を招いております!」
「むむっ?」
お殿様は藤平が雷神を連れてきたとは、思いませんでした。知恵のある者ゆえ、何か仕掛けがあるに違いない。みんなの前で、あばいてやろう。お殿様は藤平と七織、それから雷神を大広間に連れてくるよう命じました。

  お殿様は大広間の一段高い所に座り、家来が大勢、広間のまわりに座っていました。藤平達はその中に連れてこられました。七織は藤平のそばに、そして雷神達は二人をくるりと囲むように座りました。
「藤平、それが雷神か?」
「はい、雷神にございます。」
「ふむ、だが見ただけではわからぬ。そのモノたちが雷神と言う証拠を見せてみよ。」
藤平は七織の顔を見ました。七織は首を振りました。
「証拠は見せられませぬ。」
「ならば、本当かどうかわからぬではないか、お前はわしにウソをつこうとしておるのか?」
「いいえ、めっそうもございません。」
「ならば、お前の女房を差し出す事になるが、よいのか?」
「いいえ、それはご勘弁を。」
「ならば証拠を見せてみよ。」
殿さまは面白そうに言いました。

七織は藤平の手を取りました。
「仕方ありません。あなた、しばらくの間ガマンしてくださいね。」
七織はそう言うと扇を殿様の方へ、くるりと差し出しました。その途端、九頭の雷神達は踊り出し、いっせいに雷を落としはじめたのです。

ドガガガガーン!

「うわぁ!」
殿さまは息を飲みました。九頭の雷神が踊るたびに雷が落ち、突風が吹き荒れ、お城のあちこちが燃え上がったのです。家来達は逃げるまもなく、吹き飛ばされ、崩れた屋敷の下敷きになってしまいました。そして、なおその上に、ドカンドカンと雷が落ちて来るのです。
「藤平、藤平、わかった、わかった。その者達は雷神じゃ。」
「いいえ、雷を落としたり、風を起こすものが必ず雷神とは限りませぬゆえ。」
七織は、くるりと扇をまわしました。すると雷神達は殿さまのまわりを囲んで、くるりくるりと踊りはじめました。雷神たちの体に稲光がバチバチと走り、激しくぶつかりはじめました。
「助けてくれ!わしが悪かった! この郷も、何もかもやる! どうか、雷神達を鎮めてくれ!」
七織は、扇を降ろしましたが、雷神はなおも踊り続けました。

「あなた、笛を吹いてください。」と、言いました。藤平はよくわかりませんでしたが、笛を取り出し、吹きはじめました。すると、雷神達は踊るのをやめて、藤平のそばにやって来て、藤平の笛の音をニコニコと聞きはじめたのです。そして、しばらくすると、すうっと雲が起こったかと思うと、空へと昇って行きました。

  すでにお城は壊れかけていました。お殿様達はどこかへ逃げ去り、後は藤平と七織が国を治めることとなりました。こうして、藤平夫婦はお城跡に家を建て暮らしていました。
 
  二人には雷神様がついているとされ、誰も手出ししようとは思いませんでした。そして、雨が降って欲しい時に雨が降り、雨が降りすぎる時は、風が雲を追い払い、豊かな実りとなったのです。
 
  日がな一日、藤平は笛を吹き、風に乗ってどこまでも笛の音は届きました。畑仕事の合間に、いつもいつも藤平の笛の音が聞こえました。その音を聞くと、今年も豊かな実りがあると、安心出来ました。

  そして月のきれいな夜には、いつまでもいつまでも笛の音が聞こえたのでした。

       「笛吹藤平。」

   
    「笛吹婿」「笛吹藤平」と言われる天人女房・絵姿女房型のお話です。
  中国の唐代「原化記」「呉堪(ごかん)」のお話の翻案と思われますが、なぜか男は笛吹となっています。笛は貴族の男性のたしなみとされ、藤平は貴種流浪譚の意味付けがされているのだと思われます。
  ちなみに笛吹婿での天人は「てるての姫」、また三つの難題のうち、二番目が十五里の魚を取ってくる事、三番目が打たないのに鳴る太鼓となっています。
  灰縄って日本ではポピュラーなのかな?
  ◆補記
  ◆一貫目。
 約3.75キロ。または銭一千文。
横笛の歴史を尋ねる。
http://www.asahi-net.or.jp/~dl1s-ymgc/rekishi.htm
義経の遺品ー蝉折れの笛
http://www.hot-ishikawa.jp/page/yoshitsune/ihin/index.html