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妖怪のお話。
 
  猫の山。
    猫は年を取ると劫をへて化け物になる、また怪をなすと考えられていますが、どこかへ行ってしまうというパターンもあるようです。猫の国?それはそうですが、半端な国ではありません。
  「猫の山。」
    昔、ある所に奥様と下働きの娘と一匹の猫がいました。その家の奥様は猫をいじめて面白がって遊び、娘は「ミケ、ミケ。」と呼んで、可愛がって暮らしておりました。

  ところがある日、その猫が急にいなくなってしまいました。娘は、ただ一人の友達を無くしたようにあちこちを探し回り、泣き暮らしました。 ある日、旅の六部が、猫を探す娘の前に現れました。
「その猫は九州のいなばの山の猫山と言う所にいるから会いに行け。」
六部はただそう告げるとどこともなく消えてしまいました。

  それを聞くと、娘は、やもたてもたまらなくなり、奥様にひまをもらって九州のいなばの山へ向かいました。しかし、その山まで来ても猫山と言う所がどこなのかわかりませんでした。そのうち日も暮れてきて、山の中に一人、娘は大変困ってしまいました。そこにどこから現れたのか、男が一人通りかかりました。娘が猫山はどこかと聞くと、「それはこの道をもう少し行った所だ。」と、言ってまた消えてしまいました。

  こんな所にミケがいるのかしら?

  娘は恐る恐る教えられた通りに行くとそこには大きな家がありました。真っ暗な山の中に他に家は見当たりませんでした。娘はここで泊めてもらおうと戸を叩きました。すると中から美しい女が出て来ました。
「私は可愛がっていた猫を探しに猫山へ尋ねて来たのですが、道に迷って困っています。一晩宿をお貸し願えませんか?」
娘がたずねると、女はニタリと笑いました。
「こんな所に来て、お前さん喰い殺されたいのかい?」
突然、猫が鳴きました。どこからか、それに答えるように、また猫が大きくなりました。女は、その声を聞くと声をやわらげ、
「山の夜道で狼に狙われたらどうされます?早くお入りなさい。」と、娘を屋敷に招き入れました。

  家の中に入ると、年老いた老婆が出てきて、娘の手を取り部屋に案内しました。「今夜はこの部屋に泊まるがよい。」娘は言われるまま、床に床につきました。

  夜が更け夜半を過ぎた頃、隣の部屋から話し声が聞こえてきました。それは、何かが鳴くような、うねるような声でした。娘は、唐紙をそっと開けて隣の部屋をのぞきました。そこには先ほどの老婆を真ん中に、美しい娘が二人、眠っていました。唐紙を閉め、床につくと、また声が聞こえてきました。「今日の娘は可愛がっていた猫をたずねてきたのだそうよ。だから、噛みついてはいけないとおばあさまのお言いつけだわ。」娘は恐ろしくなり、蒲団の中で震えました。

  「大丈夫よ、何もさせないわ。」
  蒲団のそばにミケがいました。ミケは娘の顔を見るとペロリとなめ、すぅっと美しい女に変わりました。娘が驚いていると、美しい女になったミケは、娘の手を取りました。
「よく訪ねて来てくれました。私は年をとって、ここへ来る事となりました。ここに来る事は猫にとって出世なのです。あの家では私に優しくしてくれたばかりか、友達のように思ってくださってありがとう。」
娘はミケの顔を見ました。
「あなた、ほんとはこんな顔をしていたのね。」
ミケはにっこり笑いました。
「ここは、日本中の劫をへた猫が来る所、人の来る所ではありません。夜が明けたらこれを持って帰りなさい。」
ミケは娘に白い紙包みを渡しました。
「帰り道、猫を見たらこれを見せてふりなさい。必ず通してくれます。」
そう言うとミケは、さがりながらすぅっと元の猫に戻りました。そして昔のように、娘の手にほおずりをして、部屋から出ていきました。

  夜が明けて娘は屋敷を出ました。外にはそこかしこに猫が集まって、娘を見ていました。それは、獲物を狙うような目をしていたのです。娘はミケにもらった白い紙包みを取り出し、猫達に見せてふりました。すると猫達は驚いたように跡すざりをして道を開けたのです。娘は、なんの危害にもあわず家に帰り着いたのでした。

  家に帰った娘は、奥様に猫山での出来事を話すと、奥様はミケにもらった紙包みを開けて見るように言いました。娘が紙包みを開けて見ると、中には犬の絵が描いてあり、その犬は本物の小判を十両くわえていました。奥様はその小判をたいそう羨ましがり、自分も欲しくなりました。
「下働きの娘が十両手をするのは容易ではない。それだけの金子があれば一生食べていける。私は猫の主人だから、その山に行けばもっとたくさんのお金をくれるだろう。」

  奥様はそのまま猫山へと向かいました。

  聞いた通り進んで屋敷を見つけました。あたりで猫の鳴き声がギャアギャアとうるさく聞こえました。奥さんは戸をダンダン叩くと、「泊めておくれ、中に入れておくれ!」と叫びました。家の中から出てきた、女は取りあおうとしませんでしたが、奥様はしつこく食い下がりました。すると老婆が出てきて、仕方がないから泊めてやろうと中へ入れました。

  夜が更けて来ました。しかし、猫の鳴き声があちこちから聞こえてうるさくて眠れません。唐紙の向こうからも、何か騒がしい声が聞こえてきました。奥様がそーっと、のぞいて見ると、そこには着物を着て顔が猫の、人とも猫ともつかぬものがふたつ、ありました。
  奥様は驚いて、危うく声を上げそうになりました。すると今度は、後の方で、猫がギャアギャア声を立てています。後の唐紙を開けてみると、老婆と同じ着物の年老いた猫が一つ、こちらを睨んでいました。奥様は恐ろしくて、蒲団をかぶって震えていました。

  しばらくすると、あれほど騒がしかった猫の声がぴたりとやみました。そして、唐紙がすーっと開いて、何かが近づいてきました。奥様は蒲団の中から見ると、それはミケでした。
「ああ、ミケかい?おまえ、よくこんな恐ろしい所に来たもんだね。さぁ、帰ろう。
ここにいると何が起こるかわからぬ。」
奥様は蒲団から出るとミケを抱こうとしました。
サッと爪が走りました。
奥様は慌てて手を引っ込めました。ミケの目の奥には何か得体の知れない恐ろしいものがありました。気がつくと、奥様のまわりには猫がたくさんいたのでした。

  猫山から帰った娘は、いつまでたっても帰ってこない奥様の家から出て、十両のお金を元手に小間物の店を開きました。店はいつしか大きくなり、昔の自分と同じような娘が何人働いていました。忙しくクルクル働く娘達見るのが幸せでした。

  そして、なにより、その中で働く事が娘にとって一番の幸せだったのです。
  
       「猫の山。」
   
    劫をへた猫は、尻尾が二つに別れるのが特徴だそうです。

  「猫股(ねこまた)」ですね。

  猫股の記述は「明月記」「古今著聞集」「徒然草」等に見られ、年老いた猫が人を喰う、老婆の姿となる、としているようです。美女に化ける、はもともと猫は中国の輸入で、限られた身分の高い人しか飼えませんでした。また、九尾の狐の化けたものが、玉藻の前という王朝美人であった事等から、猫の化るものは十二単の王朝美人→美人となったようです。

  ではオスの猫股はどうなるのか?
・・・ごめんなさい。オスの猫股は発見出来ませんでした。猫目小僧のお父さんが確か猫股だったと思うんですが、文学上は見当たりませんでした。
  やはり、猫は女性との結びつきが強いようです。