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妖怪のお話。
 
  虎と斑(ぶち)。
   今回のお話は、飼い猫が飼い主を守るお話です。この猫、怪物と言えば怪物なんですが、相手も怪物みたいなもの。兄弟で戦う猫が、いじらしい。
  「虎と斑(ぶち)。」
   ある庄屋に一人娘がいました。

 たいそう優しい娘で、迷い込んできた一匹の小猫を、かわいがっていました。その小猫は、いつしか普通の猫より大きくなり、犬ほどの虎猫となると、近所の畑をあらすイタチを追いかけたり、時には猪に噛みつきました。

 ところが、ある時を境に、虎は娘のそばに、ぴったり付き添うようになりました。娘の側に眠り、娘が起きるまで側で待ち、どこにでもついて回り、御飯を食べる時も、風呂に入る時も、厠へ行く時さえも、片時も離れようとしませんでした。

 その様子に、世間では、大猫が娘に懸想しておる、取り殺されねばよいがの、と噂しました。噂を耳にした庄屋は、夜眠っている娘の部屋に行き、虎を呼びました。虎は主人の声を聞くと、縁側に出ました。
「虎よ、私も娘も、お前が子供の頃から、面倒を見てきたというのに、最近では、お前が娘に懸想しておる等と噂を立てられておる。今日を限りにひまを出す。朝になる前に出て行け。」
庄屋はそう言うと、自分の部屋に帰り、床につきました。

 そこに虎はうなだれてやって来ると、涙をぽろぽろこぼしました。
「旦那さん、子供の頃から可愛がっていただいた御恩は忘れておりません。なんで、お嬢さんに懸想などしましょうか。旦那さん、お屋敷の一番蔵の下に、大きな鼠が隠れております。その鼠が天上の上やら、床の下やら、いつもお嬢さんを喰い殺そうと狙うておるのです。」
庄屋は驚いて虎に尋ねました。
「虎、なぜその鼠を捕まえぬ?お前ならひと噛みではないか?」
虎は困ったように言いました。
「その大鼠は猪の倍はあるようなやつで、俺も危うくやられる所でした。」
「それではその鼠、どう退治すればよい?娘が狙われておるのじゃぞ。」
虎は何かを決心したように話しました。
「俺には兄弟が一つある。俺一匹ではかなわぬ相手でも、二匹でかかれば退治出来る。旦那さん、大工に言って頑丈な箱をこしらえてもろうてください。俺は兄弟を探しに行きますから、俺のいない間、お嬢さんをその箱に入れて守ってください。」

  次の日、庄屋は早速大工を呼んで、娘が何日入っていても不自由しないよう、部屋の中一杯に鉄を打ち付けた頑丈な箱をこしらえました。そして娘がその箱に入るのを見届けた虎は、どこへともなく姿を消しました。

  一週間後、虎は斑(ぶち)の大きな猫を連れて帰りました。どこを走ってきたのか、二匹とも泥にまみれ痩せ細っていました。庄屋さんは虎と斑に、鹿の肉、猪の肉、魚の肉、ひと抱えもあるお皿に、ご馳走を山のように盛って、毎日毎日食べさせました。

二匹の猫は見る間に猛々しい獣のようになり、揃って庄屋さんとお嬢さんの前に、すわってかしこまりました。
「旦那さん、今夜、俺は弟のブチと、大鼠を退治に行く。ええですか?旦那さんも家の人も、お嬢さんと箱の中へ入ってくだせぇ。けして、外にでちゃあいけませんよ。」
旦那さんは急いで家の者を集めて、娘の箱の中に入ると、虎とブチは頭を下げ、そのまま外へと飛び出して行きました。

すぐに、大きな音と恐ろしい唸り声が聞こえてきました。庄屋さんは娘を抱きよせ、外の音に耳を澄ませました。虎とブチの叫び声と共に、地響きが起こり、何か大きなものが、家の壁や、柱に当たる音がドンドンと、ひっきりなしに響きました。ぐらぐらと家が揺れ、虎やブチ、得体のしれないものの狂ったような声が重なりあい、時折、肉を引き裂くような鈍い音がして、血の匂いがあたりに漂いました。
「心配せんでええ。虎とブチが必ず大鼠を倒してくれる。」
庄屋さんは、ガタガタ震える娘に言いました。

朝が明けてきました。

いつの間にか、音がやみ、静かになりました。庄屋さんはしばらく、箱の中でじっとしていましたが、恐る恐る外に出ました。あたりには、血があちこちに飛び散り、地面には、ぼたぼたと血がしたたり落ちた跡が続いていました。

庄屋さんは、鎌を握りしめ、跡をつけると、蔵の後に、大きな黒い物が血の中に転がっていました。

それは牛のような大きな鼠でした。

首の後にブチがくらいつき、咽には虎が喰いついたまま、三匹とも息絶えていました。庄屋さんと娘は、虎とブチを手厚く葬りました。

  しばらくして、庄屋さんの家に、二匹の小猫が迷い込みました。虎とブチの小猫でした。娘は二匹の小猫を可愛がり、そして猫達は、娘を慕うように、そばで遊ぶのでした。
 
         「虎と斑(ブチ)。」
   
    このお話は「猫寺」の変型で、元は古寺の大鼠を退治するお話だそうです。養蚕と共に、猫の需要が高まり、猫が手に入らない地方では、猫の掛け軸が売れたそうです。そのため猫絵師なるものがいて、このような話が全国に広まったそうです。