お話歳時記 お話を見て書いて創るサイト お話歳時記
お話歳時記創作情報デジタルコンテンツメルマガwww.pleasuremind.jp TOP
妖怪のお話。
 
  猫と釜蓋。
    すこし変わったお話です。
猫のお話は家猫がとしをとり劫をへて超能力?をもったお話が多いのですが、これはほぼ最初から怪物化している猫の怪異譚です。
  「猫と釜蓋。」
    ある山奥の一軒家に狩人の甚八が母親と暮らしていました。甚八は腕のいい猟師で、猟師仲間で一番とされている男でした。

  ある時猟師仲間で寄り合いがあり、そこで、山の中で怪しい業をするヤマネコの話が出ました。山の中に、いつの間にかヤマネコが集まっておって、いろんな業をやってのけ、村人が怖がっているという話でした。甚八は、よし、それなら俺が退治してやろうと、鉄砲の弾をこしらえに家に帰ったのでした。

家に帰ると、小猫が一匹いました。
「かかさん、この猫はどうした?」
「ああ、かわいかろう?さっきそこで見つけたのじゃ。こんな山奥にどこから来たのかのう?」
甚八の母親は、雑炊を作りながら、そう答えました。
小さなかわいらしい猫で、甚八にもすり寄ってきて甘えました。頭をなでるとにゃあと鳴いて側にすわりました。甚八が囲炉裏端で鉛を溶かし、鉄砲弾をこしらえていると、その様子をじっと見ているようでした。
「そうか、弾が出来るのがめずらしいか?」
カラン、カラン、カラン。
甚八は出来た弾を一つ一つ数えて、ちょうど十二作りました。小猫はその様子をじっと見つめていました。

甚八は妙な胸騒ぎがしました。猫が弾の数を数えているように思えたのです。甚八はそのまま知らんふりをして、十二の弾を皮袋に入れると、「かかさん、山に変なものがおるらしい。 二、三日帰れんかも知れんきに。」と言って、そのまま山へ出かけていきました。
  胸にはお守り袋が入っていました。
  その中には金の弾が一つ、入っていました。それはしゃち弾といって、
  いよいよと言う時が来たら使う最後の弾でした。
  甚八は胸のお守り袋の金の弾を確認すると、山へ登って行きました。

  聞いた話をたよりに、ヤマネコが集まる所を探してみました。なるほど、沢山の猫の足跡と、喰い散らかされた鳥の羽が、あちこちに引っ掛かっていました。甚八は山の中でヤマネコのいそうな所を探しましたが、見つかるのは喰われた動物の跡だけで、肝心のヤマネコはどこにも見つかりませんでした。そのうち日が暮れてしまい、甚八は狩りの時、いつも寝泊まりする小屋で、休む事にしました。

  夜中過ぎた頃、小屋に何かが近づいてきました。甚八は鉄砲を寄せると、そっと外をのぞくと、暗い闇の中に二つ、赤い目がゆらゆら見えました。それはゆっくりゆっくり甚八の方へ近づいて来たのです。

こいつが例のヤツか?!

甚八は、鉄砲に弾をこめると、目と目の間に狙いをさだめ、ゆっくり引き金を引きました。
ズドーン!
弾はヤマネコに向かって飛びました。
ちゃりん!
「!」
甚八は耳を疑いました。弾は何か鉄のようなものに当たったような音をさせて、そこに落ちたようでした。赤い二つの目が、まだ、ゆらゆらゆれていました。

甚八は二発目の弾を込めると、もう一度撃ちました。するとまたチャリンと音がして、弾が落ちたのです。甚八は次々と弾を込めて撃ちました。しかしいくら撃ってもチャリンチャリンと音がして、いっこうになんの手ごたえもありませんでした。甚八は最後の弾を込め、慎重に引き金を引きました。最後の弾は、やはりチャリンと音をさせ、地面に落ちました。

赤い目がこちらを見つめてしました。そして今度は、ゆっくり、甚八の方へ近づいて来たのです。

甚八は胸のお守り袋から最後のシャチ弾をとり出しました。そして赤い目が充分近づいてくるのを待ちました。

最後の弾です。
充分、引きつけて撃とうと思ったのです。

戸板の向こうに大きなものの気配がしました。目の前に化け物が立っていたのです。甚八は銃口をその化け物の体に当てると、引き金を引きました。
ズドン!
「うぎゃぁ〜〜〜!!」

化け物は大きな声を上げると山の方へ逃げていきました。甚八は夜が明けるのを待って、小屋の外に出て、あたりを探しました。戸口の側には、茶釜の蓋が落ちていました。あたりには十二の鉛弾が散らばり、血がたくさん流れていました。

甚八は点々と続く血の跡をつけていきました。すると、一匹の大きなヤマネコが、腹を打ち抜かれて、竹林の中に息絶えていました。

甚八は急いで家に帰りました。家にいた小猫が気になったのです。家に帰ると母親が何かを探していました。
「甚八、茶釜の蓋を知らないかい? 見当たらないんだよ、どこいったのかねぇ。」
甚八は、あっと思いました。
 あの蓋か。
「かかさん、昨日の小猫はどうした?」
「それがねぇ、いないんだよ。 小猫も。 どうしたことかねぇ。」
甚八はやっと合点がいきました。

あの大きなヤマネコは、小猫に化けてここで俺の弾の数を数えていたんだ。おまけに茶釜の蓋を持っていきやがった。

甚八は、油断ならねぇものだなぁと、ふところのお守り袋を握りました。

         「猫と釜蓋。」
   
    日本の猫は中国、朝鮮半島からの輸入で、野生のものは対馬のツシマヤマネコと西表島のイリオモテヤマネコの二種類しかいません。
  日本でヤマネコと表記されているものは、家猫の野生化したもの。
  ようするにノラ猫なんですね(笑)。