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端午の節句と山姥。
  三枚のお札。
    「三枚のお札」は、山中で出会った山姥から逃げる「呪的逃走譚」と言われるもので、山に入った小僧さんが、山姥に出会い、和尚さんにもらったお札を使って逃げる、というお話です。
  「三枚のお札。」
 


  山のふもとのお寺に和尚さんと小僧さんが暮らしていました。
  春になって、村の子供たちが蕨やらゼンマイやら奥山から採ってくるのを見ると、小僧さんは自分も山に行きたくて行きたくて、うずうずしました。

「和尚さん、和尚さん。 おらも山に入ってゼンマイ採って来てもええか?」
「駿珍や。山には坊主をつかまえて喰おうとする山姥がおる。行かぬ方がえぇ。」
「んでも、行きたいんだよぉ、和尚さん。」

  お寺で修業していると言っても、小僧さんはまだ子供です。村の子供と同じように、ゼンマイやら蕨やら山で採って来たい気持ちは同じです。
「そんなにいきたいか?駿珍や。 なら、尊いお札を三枚、お前にあげるから、気をつけて行っておいで。」
和尚さんが小僧さんにお札を渡すと、小僧さんはお札を胸にしまって、喜んで奥山へ走って行きました。

  小僧さんは奥山でゼンマイやら蕨やらタラの芽やら、あっちこっちで見つけては、たくさん採りました。楽しくて楽しくて、あまりに楽しかったので、日が沈むのに気がつきませんでした。

  気がつくと、あたりはすっかり暗くなっていて、風がヒューッと吹いていました。小僧さんは採った山菜を前掛けでくるむと腰に縛り、山を駆け降りました。しかし、どこをどう間違えたのか、いつの間にか知らない山奥に入り込んでいたのです。
「しもうた。 和尚さんの言うことを聞いて、来なければ良かった。」
小僧さんが困っていると、黒くなった木立の中にポツンと灯が見えました。
「よかったぁ。誰か住んでおる。」

小僧さんは、その灯の方へ、かけて行きました。家の中ではお婆さんが一人、糸車を回して、糸を紡いでいました。
「こんばんは、山菜取りに来て道に迷うてしまいました。どうか、一晩泊めてもらえませんか?」
「ああ、泊まってけ。寒かったべ、さ、火にあたれ。」
お婆さんは、小僧さんの顔を見ると嬉しそうにそう言いました。囲炉裏端で火にあたっていると、小僧さんは眠くなってきました。
「そこに、横になったらええ。」
お婆さんは小僧さんに綿の入ったはんてんを掛けてくれました。小僧さんはいつの間にか眠ってしまいました。

  夜半のことです。
雨が降り出して、ポツリ、ポツリ、雨漏りの音が聞こえてきました。

  ぼとぼと だらだら ぼっとっと。
  婆殿、顔見れ、口を見れ。

小僧さんは雨音にお婆さんの顔を見ました。
「久しぶりに、うまそうな小僧が飛び込んできた。」
お婆さんの顔は山姥の顔となっていました。そして口から牙を出してニッと笑うと、糸をカラコロと紡ぎました。

小僧さんは生きた心地もしませんでした。早く逃げ出さなければ喰われてしまう。
「お婆さん、お婆さん。 おらぁ便所行きたくなった。どこにあるだか?」
「おお、そこのすみでするとえぇ。」
「和尚さんに叱られるから、便所に行かせてくれろ。」
「ふむ、そんな迷子にならんようこの綱をつけてやろう。婆が呼んだら返事するんじゃぞ。」
そう言うと婆さは小僧さんの腰に太い綱をくくりつけて、外の便所にやりました。

小僧さんは便所に入ると腰の綱をほどいて、柱にくくりつけ、和尚さんからもらったお札を一枚、その柱にペタンと張りました。
「あの婆がおらを呼んだら、代わりに答えておくれ。」
小僧さんはそう言うと、そっと便所を抜け出し、暗い山道を駆け降りて行きました。
「小僧、まだかぁ〜?」
婆が叫ぶと便所のお札が答えました。
「ん〜まだでぇ〜す。」
「小僧、まだおわらんかぁ〜?」
「まだ、おわらんでぇ〜す。」

婆は次第にイライラし始めました。歯を剥き出し、顔がしわくちゃになって来て、角が出ると、とうとう山姥になってしまいました。
「小僧!いつまで便所に入っとる!」
山姥は握っていた綱をぐいっと引っ張ると便所がガラガラと壊れ、綱の先には柱が一本、ズルズルとひきずられて来ました。
「小僧っこ!にげたなぁぁぁ!」
山姥はそのままはだしで走り出しました。そして地面に顔を近づけると小僧さんの匂いを嗅ぎわけ、暗闇の中を狼のように追いかけたのです。

「まてぇ〜! 小僧まてぇぇぇ〜〜〜!」  
暗い闇の中から小僧さんを追いかけてくる声がどんどん近づいてきました。小僧さんは走って走って走りましたが、山姥はすぐ後まで迫って来ていました。

小僧さんは二枚目のお札を出すと山姥へ投げました。
「大きな砂山、出ろ!」
お札は砂山となって山姥の前に立ちふさがりました。山姥が登ろうとすると砂山は崩れ、砂からはい出ると、また砂が崩れてきました。小僧さんはその間に逃げました。見慣れた山が見えて来ました。この山の向こうにお寺がありました。
「まてぇ〜! 小僧まてぇぇぇ〜〜〜!」
小僧さんを追いかけてくる声が、またどんどん近づいてきました。山姥が砂山を越えて、すぐ後まで迫って来ていたのです。

小僧さんは三枚目のお札をとり出すと、山姥の方へ投げました。
「大きな川、出ろ!」
お札は大きな川となって、山姥の前に現れました。山姥は川に飛び込み越えようとしましたが、泳いでは流され、泳いでは流され、山姥はなかなか川を越えられませんでした。

小僧さんはやっとお寺に辿り着きました。
「和尚さん、和尚さん。山姥に追いかけられてきた。今に匂いを嗅ぎつけてここにやって来るよ。」
「そらそら、だから山など行かぬ方がよい。」
「和尚さん、和尚さん。でも山姥がやって来るよ。助けてください。」
「うむ、しかしの、今回逃れられても、 楽しい事ばかりに心が奪われるなら、また別の山姥が追いかけて来るぞ。」
「・・・和尚さん、もっと修業する。」
「・・・うむ。ではこの中に入れ。」
和尚さんはそう言うと小僧さんを唐櫃の中に入れ、本堂の仏様の前に置きました。

そこにがらりと山姥が入ってきました。

「和尚、ここに小僧が一人逃げ込んで来なかったか?」
山姥はそう言うと鼻をクンクンならして、あたりを嗅ぎました。そして、仏様の前の唐櫃を見つけると、近づこうとしました。鍵穴から外をのぞいていた小僧さんは声を上げそうになりました。「おおっ?」なぜか山姥は唐櫃に近づけませんでした。
仏様の側に山姥は近づけなかったのです。
小僧さんはホッとしました。

鍵穴から外を見ると、山姥がこっちをにらんでいました。
「和尚、あの箱を俺にくれ。」
「ああ、わしの驚くような術を見せてくれたら、あの唐櫃をしんぜよう。」
和尚さんは山姥に約束しました。

どうなってしまうんだろう?和尚さんは自分を山姥に渡すつもりなのかな?小僧さんは怖くなってしまいました。
「よ〜し、わかった。 どんな術がよい?」
「そうじゃの、ではどれだけ大きくなれるか、見せてくれぬか?」

「はははは、そんなことか、見ておれ。」
山姥は「高ずく、高ずく!」と叫びました。すると、どんどん大きくなって、お堂の天上まで大きくなりました。
「どうじゃ?」
山姥は窮屈そうに腰をかがめて笑いました。小僧さんはびっくりしました。
「おお、すごいのぉ、では山姥殿は、どこまでちいさくなれるのかの?」
和尚さんは驚いたように言いました。

「わははは、では、見ておれ、低ずく、低ずく!」
山姥はずんずん小さくなりました。山姥は豆のように小さくなると胸を張って、蚊のような小さな声で、
「和尚、どうじゃ?」と、胸をはりました。
「おお、すごいのう。」
和尚さんはそう言うと、山姥をヒョイとつまんで、ゴクンと呑み込んでしまいました。
そして、唐櫃を見て、お腹をポンと叩くと、「ほほほほほう、腹いっぱいじゃ。」と笑いました。


  翌朝、お寺の前を子供たちが喚声を上げながら走っていきました。タケノコを掘りに山へいく所でした。庭を掃きながら和尚さんは小僧さんに聞きました。
「駿珍や。行きたくはないのかい?」
「ん、でも、お勤めが先だよ、和尚さん。」
そう言うと小僧さんは、和尚さんとお堂の中でお経を読み始めました。
  
         「三枚のお札。」

   
    山姥から逃げ帰った小僧さんのくだりのあとは、和尚さんと山姥の術くらべです。
  作中にはありませんが、和尚さんが山姥を呑み込んだ後、山姥は便所から沢山のハエとなって逃げていく、というくだりがあるお話もあります。
  これは、子供の守り神が厠の神様である、と言う所から来ている、関連性があるのでは?と指摘されています。
  「虫下し」ということでしょうか?