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三月ー花と少女の物語。
 
  山姥の宝蓑。
    「姥皮」の昔話版です。「鉢かつぎ」同様、日本のシンデレラストーリーとされています。
  作中に登場する"宝蓑"は主人公の存在を一時的に隠す働きを持っていて、鉢かつぎ姫の鉢に相当するものとなります。
  「山姥の宝蓑。」
    むかし、むかし、ある山国に奈歩という一人の娘がありました。
  ある春の日、村の人達と山へ遊びに行った時、道を間違えて、一人だけ遠くの方へ行ってしまいました。そのうち山の中に迷ってしまい、帰る事も出来ず、日が暮れてしまったのです。

  どちらに行けばいいのかわからなくなった時、山の中に一つ、あかりが見えました。奈歩は大喜びでその家に行き、戸をたたきました。
「夜分、すみません。 道に迷って難渋しております。どうか一晩お泊めください。」
誰か気がついたのか、家の中から出てくる音がしました。しかし、中から出てきたのは、山姥だったのです。
「ここは人を喰うものの住まいだから、お前様のような人を泊める事は出来ぬ。並みの人間の家を探すがよい。」
奈歩はぞっとしました。こんな山の中に、どこに家があるのでしょうか?しかし、夜の森は怖くて、もっと恐ろしいものでした。
「もう、食べられてもかまいません。こんな夜に山に一晩いれば、熊や狼に食べられるに決まっています。それより、ここにいて食べられた方がまだよいのです。」
それを聞くと山姥も哀れに思い、皮で出来た蓑を一枚持って来ました。
「これは宝蓑という大事なものだけど、お前にあげよう。これをかぶって三回、如法を唱えれば老人でも子供でも動物にでも何にでもなれる。それに袖を振れば何でも出てくるから。」
娘はその蓑を手に取って、如法を教えてもらいました。すると、どこからか大勢の男の声が聞こえてきました。
「いけない、早く蓑をかぶって私と同じ山姥におなり。」
奈歩は蓑をかぶって三回如法を唱えました。

「なんじゃ、婆様の知り合いか?」
「おお、西の向こうの山に棲んでおる妹よ。」
「そうか、そりゃ難儀じゃったじゃろう。鹿でも喰ってゆっくりしていきなされ。」
入ってきた人喰い鬼達は、奈歩が山姥の妹に見えているようでした。そして、大きな鍋で鹿を煮ると、奈緒に勧めました。奈歩は勧められるまま鹿肉を食べ、山姥と一晩一緒に寝ました。

  翌朝、鬼達が出て行くと鬼婆は奈緒に握り飯を持たせて送り出してくれました。山を歩いていくと、山賊が集まって待ち伏せしていました。奈歩は如法を唱えて熊に変わり、笹竹の中を進みました。
  しばらく行くと遠くから狼の匂いがしてきました。奈歩はもう一度、如法を唱えると、鷲に変わると、空に飛び上がりました。空に飛び上がった奈歩は、辺りを見まわしました。近くには何も見えませんでした。ずいぶんと飛んだ後、奈歩は里を見つけ、その中の長者の家に舞い降りました。

  奈歩は婆の姿となって、その長者の門を叩きました。
「私は行くあても無い者です。 どこのすみでもよいから、置いてください。」
その長者は情け深い長者で年老いた姿の奈歩を長屋の開いている所に住まわせてくれました。奈歩は昼間、婆の姿で糸紡ぎや働き、夜は長屋に帰って皮の蓑を脱ぎました。誰も知らぬ夜の間だけ、娘の姿に戻り、蓑の袖をふって道具を出し、手習いをしたり、縫い物をしたりしていました。あまりに遠く、どことも知れない所に来てしまって、奈歩は帰ろうにも帰る事が出来ずにいました。宝の皮蓑だけを頼りに生きるしかありませんでした。

  ある晩、長者の息子が夜遅くに外に出てみると、長屋に一軒、明かりのついている所がありました。息子は不思議に思い、そこをのぞいてみると、美しい娘が一人、あかりに映し出されて手習いをしていました。
  一目ぼれでした。

  息子はどうにかして、この娘を嫁にしたいと、次の日に屋敷中を探しましたが見つかりません。家のものに聞いて、この長屋にすんでいる者を聞くと、糸紡ぎをしているあの姥だと言いました。息子はそんな事があるわけが無いと、その夜、もう一度長屋に行って見ました。するとやはりあの美しい娘が蝋燭の明かりの中で手習いをしていたのです。息子は翌日、もう一度、屋敷中を探しました。しかしやはりあの娘を見つける事が出来ませんでした。

  息子は、今度はあの姥の後をつける事にしました。姥は仕事を終えると、娘のいる長屋に、あの部屋へ帰っていったのです。息子は姥の入った後、そっと中をのぞきました。真っ暗な中、火打ち石のカチカチという音がしました。そして蝋燭に灯がともるとそこにはあの娘がいたのです。息子には何が何だかわかりませんでした。
  あの姥はどこにいったんだろう?
  娘はどこにいたのだろう?
息子は一晩長屋の部屋を見張りました。そして朝になって姥が出ていった後、家の中に入り娘を探したのです。しかし、娘はどこにも見つからず、手習いの紙が見つかっただけでした。

  息子は屋敷に帰ると姥を呼びました。そして手習いの紙を出して、娘の事を問いただしました。姥は今までのいきさつと山姥の宝蓑の話をして、その蓑を脱ぎ娘の姿に戻りました。奈歩は恥ずかしくて仕方ありませんでした。
  そして、ふぅっと、生き返ったように息をしました。

  息子は娘の話が本当であった事に驚きましたが、家に帰れなくなった娘を家に帰してやろうと、人を使って方々を探し回り、やっと娘がいなくなったと言う家を探し当てました。
  その家ではもう娘が死んでしまったものと思って弔いをすませていましたが、死んだと思っていた娘が生きていた事を喜びました。

  息子は娘を家まで送り届け、改めて嫁にもらいたいと娘の両親に申し出ました。奈歩は長者の息子に嫁ぎました。そして、糸を紡ぎ、屋敷の仕事をたばね、一家仲良く、末長く暮らしたと言う事です。
         「山姥の宝蓑。」
   
    今回の主人公は、自分の家に帰る事が出来ない娘として位置づけられ、鬼の里を出ても自分の家に辿り着けません。

  このお話では、
    みんなと違う道を行ってしまうー行方不明・迷う、
    本来の自分と違う姿になる、
    元の姿、娘の姿を見つける青年と出会う、
    人に戻る、という過程を踏んでいます。

  この娘の位置づけは「家庭の中で自分を位置づけられない少女」で、山姥の宝蓑で変身した生活をおくり、自分自身を発見してくれる青年との出会いで、自分の家庭へと帰って行く物語、とも考える事が出来、自分探しとか、やりたい事がわからない、自分がわからない、という今日的なテーマを含んでるように思います。

  成長って、いろんな姿をへながら、自分自身を見つけてくれる誰かに巡り合う旅、なのかも知れません。

  主人公に、自分自身に帰れない娘という位置付けがされている点が、シンデレラと違うところでしょうか。