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四月ー旅立ちの時。
 
  虎と鬼の妹。
    鬼の話です。
  鬼の話、というより、鬼に仮託した少年の成長物語です。世界的な昔話の形態を残したもの、で、心理学的要素を残したものだと言えます。
  「 虎と鬼の妹。」
    昔、ある島に、ぼっかぁとあせっかぁという兄妹が、父と母と暮らしていました。二人はいつも一つの蒲団に寝ていました。

  ある夜の事です。
  妹のあせっかぁが蒲団から出て行ったのです。そして夜明け頃に、冷たい体になって帰って来て、ぼっかぉの寝ている布団に潜り込んだのでした。妹は毎晩、毎晩、外に出て行くと、明け方に帰って来ました。

  妹はどこに行くんだろう?
  不思議に思ったぼっかぁは、眠ったマネをして待っていました。夜遅くになると、あせっかぁはむくりと起き上がりました。ぼっかぁの顔に顔を近づけ、寝息をうかがうと、いつものように兄が眠っていると思ったのか、外へ出て行きました。
  ぼっかぁは夜の道を妹の後をついて行きました。妹ははだしでゆらゆらと村外れの牧場に歩いていくと、そこにいる牛に、ぱぁっと飛びつきました。
  「ああっ!」
  ぼっかぁは口を押さえました。妹は牛に、がぶりと歯を当てて、血を吸いはじめたのです。ぼっかぁはブルブル震えながら家に走りました。
  妹が鬼になってる! 鬼があせっかぁを食い殺して、妹にすりかわったんだ!

  翌朝、ぼっかぁは妹が水を汲みに出かけると、両親の所に行きました。
「今のあせっかぁは鬼になった。はやく追い出さないと、父さんも母さんも、みんな喰われてしまう!」
ぼっかぁがそう言うと、両親はたいそう怒りました。
「あんなやさしい妹をそんなふうに言うとは、お前がどうかしているんだ!お前の方に鬼が取りついて、あせっかぁをどうかしようとしてるのか?!」

  ぼっかぁは驚きました。父も母も自分の言う事を信じてくれません。ついにはお前が出て行けと、追い出されてしまいました。家から追い出されたぼっかぁは行く所もありません。島にいれば、鬼の妹に殺されてしまう。ぼっかぁは島から出て行くしかありませんでした。

  船から見る島はどんどん小さくなって行きました。泣き疲れて眠った後、いつの間にか船はどこかの村へとついていました。ぼっかぁは船を降り、歩き出しました。
  どこに行けばいいのか、辺りを見まわすと声が聞こえてきました。子供たちが竹の筒を振って騒いでいました。中には蚊が入れてあって、いじめていたのです。
「そんな事をしちゃ行けないよ、どうだい? その蚊を一銭でゆずってくれないか?」
子供たちはぼっかぁの言葉を聞くと笑って答えました。
「こんなものにお金を出す人なんているもんか。」
子供たちはお金を受け取ると走って行きました。ぼっかぁは筒を開けると蚊をはなしてやりました。
「もう、つかまってはいけないよ。逃がしてやるから、ボクが困ったら助けておくれ。」
蚊は筒からでると、ぼっかぁのまわりを二、三回飛ぶと、どこかへ飛んで行きました。ぼっかぁは、蚊を見送ると、次の村へと歩いて行きました。

  村を出て、しばらく行くとぼっかぁは森の中に入りました。その森の中で、何かが自分を呼んでいるような気がしました。
「誰?」
ぼっかぁは、茂みの中を見ると、そこには虎がいました。それは大きな虎で、ぼっかぁを見つめていました。ぼっかぁは逃げようかと思いましたが、虎はじっとして動きません。そして、ぼっかぁの瞳をじっとのぞき込むと、頭を下げたのです。

何か頼みでもあるんだろうか?
ぼっかぁが虎のそばに近寄ってみると、虎の足に大きな釘が一本、刺さっていました。
「そうか、お前はこれを抜いて欲しいんだな。」
ぼっかぁは恐る恐る虎に近づきました。ぼっかぁが釘を抜こうとしているのをわかっているのか、虎はじっとしていたのです。ぼっかぁが何とか釘を抜くと、虎は傷口をなめ回しました。そして、ぼっかぁの顔をぺろっとなめました。

  ぼっかぁが歩くと虎もついてきました。森を出ても虎はぼっかぁの側にぴったりついて、一緒に歩いて行ったのです。
「虎よ、お前が初めて出来たボクの友達だよ。」
ぼっかぁと虎は、一緒に歩きだしました。

  ぼっかぁと虎は次の村にいきました。ぼっかぁは村人が怖がらないように、虎を隠し村に入りました。村にはあちこち貼り紙がしてあり、そこには、「殿さまの蔵に、何俵の米があるか、言い当てたものを、姫の婿候補とする。」と、書いてありました。

  ぼっかぁは虎を連れてご城下へ向かいました。そして、また虎を隠すと、お城の前に出ました。お城の前には大勢の人があつまって、お城の米俵の数を言い当てようとしていました。
「お米は何俵あるんだろう?」
ぼっかぁは、お城を見上げました。すると、どこからがブ〜ンと蚊が沢山飛んできて、ぼっかぁの前に、兵隊が勢ぞろいするように、止まったのです。ぼっかぁはそれを見て、しばらく考えました。
「そうか! お前達の数だけ、米俵があるんだな!」
蚊達は、ぼっかぁが数を数え終わるまで、じっとしていました。蚊の数は七百九十七いました。ぼっかぁはお城に行って俵の数を言いました。すると、ぼっかぁはお城の中に引き入れられました。

  お城の中には、ぼっかぁの他に何人かの男達がいました。ぼっかぁはその男たちと待っているように、と言われました。しばらくすると大勢の家来と共に、お殿様と奥方様、そしてお姫様があらわれました。

  お殿様は、ぼっかぁたちに次の難問を持ち出しました。
「お前達は、よく俵の数を言い当てた。 次はお前達の力を試してみよう。ここに、我が国で一番強いとされる十人の男がいる。この男達を倒したものが、我が姫の婿じゃ!」
  ぼっかぁたちは驚きました。

  目の前にいる男達はどの人も自分より大きな体の強そうな男でした。お殿様も奥方様も姫を誰とも結婚させたくありませんでした。それで、こんな難題を持ち出したのです。
「そこにいる者たちは、素手のようだから、お前達も素手で相手をせよ。」
「はぁー!」
家来達はぼっかぁたちの前に進みました。まわりの人たちはみんな逃げ出してしまいました。ぼっかぁはどうしていいのかわかりませんでした。

「どうした? お前は逃げぬのか?」
お殿様はぼっかぁに尋ねました。ぼっかぁはもう逃げるのが嫌でした。 殺される方が良いと思いました。ぼっかぁは、「逃げません!」と叫びました。

  家来達はざわめきました。お殿様も立ち上がりました。ぼっかぁは何が起こったのかと、あたりを見回しました。いつのまにか虎が、ぼっかぁの側に立っていました。ぼっかぁは虎といっしょに前に歩き出しました。

家来達は刀やヤリの武器を持ちました。
姫君が叫びました。
「虎も素手です! 素手でおやりなさい!」
お殿様も家来も驚きました。虎に素手で勝てる者などどこにもいませんでした。しかし目の前に虎といる若者がいたのです。姫君はぼっかぁと虎にゆっくり近づきました。
「おとなしい虎です。 怖がらないでください。」
ぼっかぁがそう言うと虎は姫君をみつめました。姫君は虎の頭に手を近づけました。すると虎は、おとなしくなり、姫が頭を撫でると気持ちよさそうに咽を鳴らしたのです。

  こうしてぼっかぁは姫君の婿となりました。虎はぼっかぁと姫君以外にはなつきませんでした。他の者には恐ろしい虎だったのです。ぼっかぁは虎が他の者を傷つけたりしないように、檻を作り、自分のいない間は虎を檻にいれました。

  ぼっかぁは、姫といろんな事を学びました。習い事が終わると虎と一緒に遊び走りました。ぼっかぁは見る間にたくましい青年に変わっていきました。虎と眠るぼっかぁは、誰にも負けない強い男になっていたのでした。

  お城に来て一年が過ぎていました。お父さんとお母さんはどうしてるんだろうか?ぼっかぁは島に残してきた、父と母の事が心配で、たまりませんでした。そして、ついに島に帰る決心をしました。

  島には鬼がいる。

  あせっかぁに気づかれずに島に入るには船が必要でした。ぼっかぁは船を造り、剣と馬と、そして父母への土産を包みました。島へは姫もついていくといいました。そこで、ぼっかぁは姫と虎と、十人の家来を船に乗せ、島の反対側へ船をつけました。
「もし、虎が暴れたら、放してくれ。」
ぼっかぁは姫にそう言うと、馬に乗って家に向かいました。

島の気色はどこか変わっていました。
人がいません。
牛もいません。
犬の声も、鶏の鳴き声もしませんでした。ぼっかぁは家へと馬を走らせました。
「とうさん?かあさん?」
家の中には誰もいませんでした。ぼっかぁの蒲団がひとつだけ、敷いてありました。
「ぼっかぁ!」
ぼっかぁが振り向くと妹が戸口に立っていました。
「あせっかぁ・・・!」
「ぼっかぁ、どこに行ってたんだ?」
「・・・島を出て、いろんな所を見に行っていたんだよ。あせっかぁ、村はどうなったんだ?父さんは? 母さんは?」
「ぼっかぁがいなくなった後、島で流行り病があって、父さんも母さんも村の人もみんな死んでしまったんだ。」
そう言うと、あせっかぁはわぁわぁ泣きました。
「ぼっかぁ、今、米を研いでくるから、お前は太鼓を叩いて、父さん達の冥福を祈っててくれ。」
あせっかぁはぼっかぁに太鼓を持たせて、外へ出ました。お父さんとお母さんはどうなったんだろう?ぼっかぁは太鼓を叩きながら考えていると、黒いねずみと白いねずみがやって来ました。
「ぼっかぁ、ぼっかぁ。 俺達はお前の親だよ。」
ぼっかぁはびっくりしました。
「太鼓を叩くんだよ、ぼっかぁ。」
白いねずみが言いました。ぼっかぁは太鼓を叩き続けました。
「あせっかぁはお前の言う通り、鬼だった。お前がいなくなってから、あっせかぁは村の人を次から次へと喰ってしまった。そして、何も食べるものが無くなると俺達を襲ったんだ。」
「あせっかぁは今、牙を研ぎに行っているんだよ。太鼓は私たちが叩いているから、お前はすぐに逃げるんだよ。」
二匹のねずみは尻尾で太鼓を叩きはじめました。ぼっかぁは馬に乗って船へと走り出しました。しばらくして、あせっかぁは戻ってくると、ぼっかぁがいない事に気がつきました。
「お前達が逃がしたんだね!」
あせっかぁはねずみを追い払うと、クンクンあたりを嗅ぎはじめました。
「馬か!」
あせっかぁは一声叫ぶと外へ飛び出し、ぼっかぁを追いました。その姿はもう人間ではなく、頭に角が生えて、蜘蛛のように走っていました。ぼっかぁは鬼の姿で追ってくるあせっかぁに気がつきました。馬に鞭をあて、船へと急ぎましたが、あっという間に追いつかれてしまいました。

鬼はバッと馬に飛びつき、足を一本喰いちぎりました。ぼっかぁは三本足になった馬で逃げました。鬼は馬の足を喰い終わると再び追いかけて来ました。そして、また馬に食いついたのです。

足を喰いちぎられ馬はもう走れませんでした。鬼は倒れ込んだ馬に飛びかかるとぐしゃぐしゃと馬をむさぼり喰っていました。ぼっかぁは馬を捨てて走り出しました。  

ちょうどその頃、船では虎がうなり、暴れはじめました。姫は胸騒ぎがしました。
「虎よ、あの人の所へ行きなさい。」
姫が虎を放すと、虎は地面を蹴って、ぼっかぁの所へ駈け出しました。ぼっかぁは船へと走っていました。そこに馬を喰い終わった鬼が襲ってきたのです。ぼっかぁは剣を抜きました。鬼は牙をむいて、ぼっかぁに飛びかかりました。ぼっかぁは剣を振ってかわしました。鬼は首をぎょろぎょろさせて、ぼっかぁに飛びかかりました。ぼっかぁは押し倒され、鬼はぼっかぁに喰いつこうとしたのです。その時、虎が鬼にどしんとぶつかり、はね飛ばしました。
「虎よ、来てくれたのか!」
虎はぼっかぁの側に立ちました。
「虎よ、あの鬼が父さんも母さんもみんな食べてしまった!」
それを聞くと虎は一声吠えると、鬼に飛びかかり、喰いつきました。鬼は虎に喰いつき返しました。虎と鬼は喰いつきあって転がりました。ぼっかぁは、鬼に向かって走り出しました。
「虎よ〜!」
ぼっかぁは、剣を鬼に突き立てました。鬼はぎょろりと見ると、ぼっかぁに噛みつこうと、口を大きく開け襲いかかりました。ぼっかぁは剣を振り、そして鬼の首をはねたのです。

鬼は死にました。

ぼっかぁは虎を連れて、姫とお城へ帰りました。そして、いつも虎を側におき、末長く姫と暮らしたということです。 

        「鬼の妹。」より。
   
    このお話は危機にさいして行動出来ない少年の成長物語、という見方と、妹は男の子のするがしこい部分、悪い部分の象徴なので、「蒲団から抜け出す=意識の分離」その部分との統合を物語として語っているもの、という見方、ある少年の中の二つの部分、悪い女性性と、傷ついた獣性が回復される物語、とも言えます。

  いい年して妹と同じ蒲団で寝る男、動けない虎、檻の中の獣性を解き放つ妻(良い女性性との出会い)、男性にとっての姉が、なりたい自分・人格を象徴している事、と考えれば、理解しやすいかも知れません。

  つまり「萌え!とか言うな!」ってお話です。

  最後のくだり、馬が喰われていく部分を、呪的逃走・髪飾りなど三つの物を投げるが不完全な形になっていると判断するか、鬼に囚われて次第に動けなくなっていく主人公、とするか、そのあたりで、ちょいニュアンスが変わるかもしれません。(荷物を投げて三つでもいいんだけど。)

  単純に物語として、虎と一緒に鬼退治、というのが楽しいのだと思います。え〜、鹿児島県大島郡、沖永良部諸島のお話です。・・・なぜ、虎がいる?  
  東南アジア、台湾、中国からの流入と思われます。
  ◆補記
  ◇実はあせっかぁが姉の場合もあるんです・・・。
 この場合の姉は山姥的と考えた方がいいかも。
 どちらにしても男の子は妹とか姉とかと、一つ蒲団で寝てはいけません。