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十一月の行事ー神様と縁結びのお話。
 
  謎婿。
    三月前です。
  雛祭り前になにか女の子向けのお話を・・・、だめだ、思いつかない。先月までは女神がどうのこうのと調べてたんだけど、最近仏教書読んでるから。佛は、遍が人、旁が弗、弗は否定の意味で、佛と言う漢字は「人間ではない。」という意味だそうです。
  あああ〜〜〜、こんな話でわぁ、女の子に嫌われてしまうぅ〜!
    雛祭り向けに恋愛物でいきます。
  「謎婿。」
    摂津の有馬温泉にある長者の一人娘が湯治をしていました。そこに若者が一人、やはり湯治にやって来て、二人は同じ宿屋の隣の部屋に泊まりあわせました。

  娘は美しい娘でしたが、若者もまた心持ちのやさしい若者でありましたから、朝に昼に、顔を合わせてるうちに、二人は仲よくなり、お互い思いあう、恋しい仲になってしまいました。

  娘はまもなく家に帰る事になりました。まだお互いに名前も所も明かしていませんでした。「もしも、この人が本当に真心があるなら、きっと私を尋ねて来てくれる。」娘は若者に置き手紙を残し、ふぃっと消えてしまいました。

  若者は娘がいなくなった事を知り、探し回りました。そして、置き手紙を見つけたのです。

  恋しくばたずねて来て見よ、十七の里。
  腐らぬ橋のたもとにて、
  夏鳴く虫の、牡丹餅(ぼたもち)の花。

  男は荷物をまとめて宿を飛び出しました。しかし、東に走ったものか、西に走ったものかわかりません。ええい、ままよと、西に走りましたが、その日ついに娘に会う事は出来ませんでした。
  途方にくれた男は、なんども娘の残した文を読みました。しかし、いくら考えても、なんの事かわかりません。日の暮れの町外れで、男が考えていると、目の前を按摩の座頭が歩いていきました。按摩さんは知恵者と言うから、もしかしたら文の謎かけがわかるかも知れない、若者は按摩さんに娘の謎かけを聞いてみました。
  按摩さんは若者の側にすわり、しばらく、ああでもないこうでもないと考えている様子でしたが、ハッと手を打ちました。「十七の里とは、若いから若狭の里。腐らぬ橋とは石橋。夏鳴く虫は蝉。牡丹餅はお萩だから娘さんの名前はお萩さん。若狭の里、石橋のたもとの蝉屋、お萩さんと尋ねていけば、きっとわかるに違いない。」
それを聞いた若者は按摩さんに何度も礼を言うと、そのまま若狭へかけて行きました。

  若狭へ辿り着いた若者は、石橋のたもとの蝉屋へ行ってみました。蝉屋は門構えも大きく、沢山の蔵に囲まれ、白壁の塀が長々と続いていました。こんなたいした家に、見ず知らずの者が、飛び込んでも追い出されるだけだと考えた若者は、その晩、宿に泊まり、どうしたものかと考えました。

  そして翌朝、若者は日の明け切らぬうちに蝉屋の門前に行き、誰にも知られぬよう、店の前を掃いてきれいにしておきました。

  夜が明け、て門番が外に出てみると、今朝は門の前がきれいに掃除してあります。「頼みもしないのにいったい誰が掃除したのだろう?」門番はわけがわかりませんでした。ところが、あくる朝も、その次の朝も、きれいに門の前が掃いてありました。「これは、なにか分けがあるに違いない。誰がやったのか知れないが、見つけて問いたださねばならぬ。」門番は夜が明けるより早くに起きて外に隠れていました。

  そうと知らない若者はほうきをもってやって来ました。すると門番が飛んできて若者を捕まえ、問いただしました。
「お前、毎朝人の家の前をはいて、どういうつもりじゃ?」
「このお店は、大勢の人を雇っておるで、出来たら雇ってもらいたいんじゃ。じゃが、見も知らぬ者が頼んでも追い返されるじゃろう?」
「そういう事じゃったのか、なら旦那さんに頼んでみてやろう。」

門番の男は早速主人に頼んでくれて、若者を雇ってくれました。若者は蝉屋の下働きとして、水を汲んだり、風呂を沸かしたり、薪を運んだり、毎日真っ黒になって、いろんな仕事をしました。
  しかし、同じお屋敷で働くようになっても、あの娘とは出会う事がありませんでした。あの娘は待っていてくれるのだろうか?もう忘れてしまっていないだろうか?時々不安がよぎる事がありました。それでも若者はいつか娘と会える日が来ると、あきらめずに一生懸命働きました。

  娘は待っていました。あんな手紙を書いてしまって後悔していました。謎かけがわからないのか、あの若者はまだ尋ねて来てくれませんでした。
  娘には幼い頃、許婚(いいなづけ)が決められていました。娘はその男が少しも好きではありませんでしたが、親の決めた相手に嫌だと言い出せませんでした。そのうち、だんだん月日がたち、いよいよ許婚の男と祝言をしなければいけなくなりました。娘はあの若者を思うと、せつなくてたまりませんでしたが、祝言の日取りが決まってしまったのです。

  若者は娘の祝言が決まった事に大変驚きました。こんなに近くにいるのに一度も会う事も出来ないままでした。お屋敷は広く、娘のいる所には近づけませんでした。いくつかの塀の向こうに、娘の部屋があることだろう事だけしかわからなかったのです。
  若者は、門番に呼ばれ、娘の祝言の日、カゴを担ぐように言われました。そんな事をしなければならないのか。若者は思いました。しかし、ただ一目だけでも娘に会いたいと思ったのです。

  祝言の日、若者は身ぎれいにしてカゴを前に立ち、娘の来るのを待ちました。しばらくして白むくを着た娘が出てきて、カゴに乗り込もうとしました。そして、カゴの担ぎ手を見て驚きました。
  若者に気がついたのです。
  若者は娘が顔色を変えた事に気がついていました。それでも何も言えないまま、娘をかごに乗せて、祝言の席へと向かったのでした。
  娘は、カゴの中でどうしていいのかわからなくなりました。すぐ側から、若者の「えいさっ、ほいさっ。」と掛け声が聞こえてきました。娘は涙がどんどんこぼれてきました。そして、激しくせき込んだかと思うと、胸が急に苦しくなり、倒れてしまいました。驚いた両親はそのままカゴを蝉屋に引き返させ、娘を寝かしつけました。

  式は延期となりました。
  夜、屋敷のどこからか、娘の泣き声が聞こえました。
  若者はその声を聞くと胸がしめつけられるのでした。
 
 蝉屋の主人は、わけがわかりませんでした。祝言を取りやめて、帰ってきたら、娘はそのまま大病をわずらったようになりました。あちこちから医者を呼び寄せ、薬を取り寄せ、あらゆる手を使いましたが、いっこうによくならず、夜になるとしくしく泣くのです。

  娘には誰か好きな人でもいるのではないか?
  それとはなしに聞いてみても、娘は恥ずかしがって何も言いませんでした。主人は何を思い立ったか、易者の名人を呼びました。その易者の見たては、確かに娘には好きな者があり、それも屋敷の中にいると出ました。
「ご主人、その者の書いた物を娘御に見せれば、わかりますぞ。」

  主人は易者の言う通りに、店にいる男達に何か書いてみよと命じました。お嬢さんの好きな者は自分かもしれない。店の者たちはこぞって、なにやらいろんなものを書いて、主人の所に持っていきました。主人は、それを娘に見せるのですが、娘は何も答えませんでした。   
「おかしいのう、易者の先生の言う通りにしたのに、他に誰もいないのか?」門番は風呂焚きの若者の事を思い出しました。若者は主人の前に呼び出されました。「何か娘に、書いてもらえまいか?」主人は筆と硯と紙を渡しました。若者はしばらく考えた後、さらさらと歌をしたためました。

  恋しくばたずねて来て見よ、十七の里。
  腐らぬ橋のたもとにて、
  夏鳴く虫の、牡丹餅(ぼたもち)の花。

主人は、若者の書いたものが、なにがなんだかわからず、おかしな事を書く男だ、易者の先生にもう一度見てもらわねばの、とぶつぶつ言いながら、娘の所に持っていったのです。
  娘はそれを見るとぱっと起き上がり、やっと笑顔が戻りました。主人がどうした事か?とたずねると、娘は有馬温泉からの事を話したのでした。主人は娘に身繕いをさせると、若者を呼びました。

若者は娘の部屋の前の庭に出てきました。
「私の名前は光太郎。 お萩さん、牡丹の花が咲いているよ。」
「はい、光太郎さん。」
お萩は、そう答えました。

  庭には、牡丹の花が咲いていました。
  春の宵の事でした。

         「謎婿。」
   
    説明不要の恋愛物です。
  みなさん、良い恋をしましょう(笑)。