ものいう亀。

年越しの日に奇跡が起こる、そんな一連のお話を「大歳の客」といいます。

関敬吾さんは、これを十二の話型に分類していて、
  ◇猿長者
  ◇宝手ぬぐい
  ◇弘法機
  ◇大歳の客A・B
  ◇疫病神
  ◇貧乏神A・B
  ◇大歳の火ーひょっとこの話。
  ◇笠地蔵
  ◇大歳の亀
  ◇ものいう動物
  と、なっています。

昔話はハレの日、話されるめでたいお話で、代表的な日が大晦日とお正月でした。

今回は「大歳の亀」タイプ、このお話は大晦日の夜、話されるものの一つです。


「ものいう亀。」

昔、ある所に夫に先立たれたお婆さんがいました。

お婆さんには二人の男の子がいました。

兄は家を出て、大金持ちになりましたが、欲の深い情け知らずの人間で、母親のことなど、まったくかまいませんでした。

反対に弟の惣吉は、貧乏ではありましたが、母親をいたわる孝行者でした。

歳の暮れの事でした。

母と子の暮らしは貧乏で、正月前と言うのに何も食べるものがありませんでした。

弟の惣吉は、年の瀬でもあるし、魚でも釣って母親に食べさせてやりたいと、日の落ちる前、釣りに行きました。

いくらたっても魚がつれませんでした。

あきらめて帰ろうとすると、波打ち際に小さな亀の子がこちらの方を見ていました。

「歳の夜に、物を食べねば、ひもじい、ひもじい。」

亀の子がしゃべっていました。

惣吉は驚いて、矛を持って突こうとしました。

「突きもするな、殺しもするな。 まず自分を引きあげて見よ。」

亀が話しました。

不思議な事もあるものだ。

惣吉は、突くのをやめ、子亀を引き上げました。

子亀は顔を振って、目をくりっと回しました。

惣吉は子亀を家に連れ帰り、母親に見せました。
「歳の夜に、物を食べねば、ひもじい、ひもじい。」
「おお、ほんとじゃ、子亀がしゃべっとる。」
母親は、目をクリクリさせる子亀を持って大喜びしました。
「兄貴にも見せてやろう。」
惣吉は兄の家に走りました。

「兄貴! 今晩漁に行って、不思議な亀を捕まえた。ものを言うんじゃ。 兄貴も見に来い。」

兄は弟がおかしな事をいって、何か無心をしにやって来たのだと勘違いして、カンカンに怒りました。

惣吉は「嘘ではない、兄貴。 本当にものを言うのじゃ。」

「そうまで嘘をつくなら、賭けをしよう。 もし、亀の子がものを言うたら、わしの全財産をやる! もし、ものを言わなかったら、お前を煮ても焼いても好きにするぞ!」

兄の剣幕に惣吉はおどろきました。

「そうまで言うなら、賭けをしてもよい。 もし俺が嘘をついていたら、煮るなり焼くなり好きにしたらええ。」

二人は母の待つ家へ向かいました。

母は兄の顔を見ると子亀を見せました。

「おお、来たか。 これを見てみぃ。 不思議なものじゃ。」

「カカさんまで俺をからかうのか? 亀が話す訳ないじゃろうが。」

母親は惣吉の顔を見ました。

「兄貴は俺が嘘つきじゃ言うとる。 嘘じゃったら俺を煮るなと焼くなと好きにする。 本当じゃったら全財産やる、言うとる。」

母親はびっくりしました。

「なんで、わしらがお前に嘘をつくのじゃ?」

「ああ、わかったわかった。 この亀がしゃべったら、俺の全財産やるきに。」兄はうるさそうに言いました。

すると、母親が持っていた子亀が、「歳の夜に、物を食べねば、ひもじい、ひもじい。」と、顔を突き上げてしゃべったのでした。

兄は驚きました。

子亀は、顔をブンブン振って、「歳の夜に、物を食べねば、ひもじい、ひもじい。」と、言い続けました。

兄は賭けに負けて、家屋敷、全財産を弟に譲り、自分は弟達のいた家に移りました。/

翌年の終りが近づきました。

あの後から、兄にはつきがまったく無くなり、ついに一文無しになってしまいました。

兄は考えました。

「亀が話すとは誰も思うまい。 今度はわしが賭けをして勝てばよいのじゃ。」

兄は弟に子亀を借りると、隣の村へ行きました。

そこには、蔵が七つ、家の中に川が流れる大金持ちの家がありました。 兄はその家に入ると主人に賭けを申し込みました。

「もし、この亀が話したら、あんたの家屋敷財産すべてをもらう、はなさなかったら俺の命をやろう。」

「わ〜はっはっはっは! バカをこくでねぇ。 帰れ。」

大金持ちは相手にしませんでした。

しかし兄は食い下がり、「負けるのが怖いのか? 意気地がないのか?」と好き放題言いました。

大金持ちは、困った男じゃと、賭けを承知しました。

兄は内心大喜びでした。

これで、この家屋敷は俺のものじゃ。

兄は大金持ちの前に子亀をさし出しました。

しかし、子亀はぷいっと顔をそむけると何も話しませんでした。

「おい、どうした? 話せ、話してくれ!」

子亀はやっぱり話しませんでした。

大金持ちは、仕方なく兄を打ちすえました。

命までは取ろうとしませんでしたが、また、つまらぬ賭けをどこかでしないように、仕置きしたのです。

兄はその後、屋敷から放り出され、這うように、家まで帰りました。

そして、子亀を打ち殺し、外に放り出したのでした。

弟の惣吉は兄の家に子亀を迎えに来て、外に捨てられている子亀を見つけました。

兄が子亀を使って、隣村の金持ちを騙そうとした事を知りました。

惣吉は家に帰ると、母親に子亀の事を話しました。

そして、兄に家を返して元の家に住むことにしました。

惣吉と母親は元の小さな家に帰りました。

そして庭先に子亀を埋め、母と一緒に弔いました。

子亀を兄に貸したりしなければ。 惣吉は布団の中で後悔しました。

翌朝の事です。

子亀の埋めた所に竹が生えてきました。

それは珍しい竹で、瓶のように太く大きな竹でした。

惣吉と母が不思議そうに見ていると、子亀が首を振るように、竹が揺れました。

「お前はあの子亀か?」

竹がうなづきました。

「そうか、お前はあの子亀か!」

竹がブンブンうなずきました。

惣吉は嬉しくて、竹の子亀に話しかけました。

すると竹はどんどん大きくなりました。

あんまり大きくなったものですから、ボキッと一本折れました。

「・・・惣吉、みてみぃ。」

折れた竹の中から金の粒がこぼれ落ちていました。

不思議に思った惣吉が竹を割っていくと、次の節からは、上白米が、その次の節からは、絹の反物が、沢山出てきました。

こうして、弟は大金持ちになったのでした。

それを知った兄は、泣いて悔しがりました。

痛む体を起こし、夜中に弟の家に行くと、竹の根元を掘り返しました。

そして甲羅を竹の根が絡んでいる、子亀の甲羅を、なんとかもぎ取り、自分の家の庭に埋めました。

翌朝、朝の陽が差すと、兄は外に出ました。

庭には竹が生えていました。

「お前はあの子亀か?」

竹はぶるんぶるん枝を振りました。

「そうか、お前があの子亀なのか!」

竹はぶるんぶるん、ぶるんぶるん枝を振りました。

すると竹はグングン伸びていきました。

「もっと伸びろ!もっと伸びろ!」

すると竹はブルブル震えながら大きくなり、ついにドサンと折れてました。

「おお!何が入っとるのかの?」

兄が中をのぞくと、そこにはマムシやムカデがとぐろをまいでいました。

そして倒れた竹を破って次々とヘビやムカデが飛び出して来ました。

「ひっ! 何をするんじゃ!」

兄は竹を殴りました。

すると竹は次から次へとぐんぐん伸びて、兄に側にドスン、ドスンと落ち、ヘビやムカデが飛び出して来ました。

「たすけてくれぇぇぇ〜。」

兄は竹の中からやっと抜け出しました。

そして、アッと驚きました。

大きな家の壁や屋根を突き破り、あちこちから竹が伸びて、穴を開け、ぼろぼろにしていたのです。

兄は、家の中に入りました。

外の風があちこちから入ってきて、蝋燭一つ、つけられませんでした。 暗く冷たい、家の中でした。

そこに一人、ただ歳がくれていくのでした。


         「ものいう亀。」


このお話は「蛤の草紙」をベースに、「唄う骸骨」「花咲か爺さん」「腰折れ雀」の要素が入ったものに見えるのですが、皆さんにはどう見えますか?

 
 
Google
Web pleasuremind.jp