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十月ー亥の子突きと動物のお話。


 十月ー亥の子突きと動物のお話。 おくんち。 亥の子祭り。 亥の子突き。 
十日夜(とおかんや)と案山子上げ。 お十夜。
 狼の眉毛。 聞耳頭巾。 雀、雀。
 ネズミの浄土へころころりん。 猫とネズミの草紙。
 山の神の靱(うつぼ)。 猿正宗。
 しっぺい太郎の猿神退治。 日本の猿神伝説。 中国の猿神伝説。

 
   猿正宗。
    「猿正宗」は「阿州奇事雑話」にのる、いわゆる報恩譚に属するお話です。 昭和五年、村田安司により八分のアニメーションとして制作されています。
  「猿正宗。」
 
  九州のある大名家から江戸のお殿様へ、飛脚が大切な手紙を届けに飛び出しました。 堺までは船で、そしてその後は大事な御状箱をかついで、タッタと走りました。 東海道を東へ走り、興津の宿で宿を取った後、朝早くに江戸を目指して走り出しました。

  富士の山を目の前に海岸を走り、薩た峠を前にした時です。 浜のそばの岩に何か動くものがありました。 大きな章魚(たこ)が、小さな子供にからみつき、海に引き入れようとしていたのです。 子供はキィキィ鳴き声をあげて、岩にしがみついていました。
  これはいかん。 飛脚は助けに走りました。
  子供と見えたのは猿でした。 猿は飛脚の顔を見ると、顔をくしゃくしゃにして、鳴きました。 飛脚は御状箱を脇に置くと、棹(さお)で章魚を叩きました。 章魚は叩かれるたびに猿を締めつけ、真っ赤になって海へ引き込もうとしました。 飛脚は脇差しを抜いて、章魚を突きました。 すると章魚は猿を放すと身を縮めて海へ逃げていきました。

  猿は岩場から砂浜に飛び退くと、飛脚の側で章魚が海に消えるのを見ていました。 そして、章魚がいなくなると、じっと飛脚の顔を見つめました。
  「よかったの、危うく海に引き込まれるところだったぞ。」
飛脚がそう言って脇差しをおさめると、猿はどうした事か、置いてあった御状箱を持つと、薩た峠を山へと駆け上がっていったのです。

  飛脚は驚いて後を追いました。
峠の道は急で、飛脚の足でも駆け上がるには大変でした。 猿は道から山の中に入っていきました。 飛脚は草の中に飛び込み、かやを押し分け、木の上の猿を追いましたが、しばらくすると猿は見えなくなってしまいました。
  御状箱を無くしてしまった・・・。 飛脚は辺りを見まわしました。 あの猿が、御状箱をどこかに捨てていないか探し回りましたが、見つかりませんでした。

  飛脚が困り果てて座っていると、猿の鳴き声がしました。 声のする方を見ると、何匹もの猿がこちらの方へ集まってきます。 その中に、御状箱と、なにかコモで包んだ長いものをもった、あの猿がいたのです。
  なんじゃ?
飛脚が立ち上がって待っていると、猿は飛脚の側によってきて、御状箱とそのコモ包みを置いていきました。 飛脚は御状箱を手に取るとホッとしました。 そしてこの包みを解いてみると中から白木の鞘に納まった刀が出てきました。

  猿はそれを見るとペコンと頭を下げると、仲間と一緒に山の中へ帰っていったのです。 飛脚は御状箱と白木の刀を持って江戸のお屋敷に走り、お殿様に差し出しました。

  お殿様も不思議に思い、その刀を抜いてみました。 見ると刀身の見事で、どこにあったかもわからぬのに、錆さえ浮いていない、なんとも言えないものでした。 研ぎ立ててみれば、なんの瑕もなく、五郎正宗の銘が入った名刀だったのです。 お殿様は飛脚に、この刀は、これこれこうであったと話し、猿正宗と名づけて、飛脚に返しました。

  ちょうどその頃、お殿様は刀を探していると聞いていた飛脚は、改めて、猿正宗をお殿様に献上しました。 お殿様はたいそう喜び、飛脚はたいそうな褒美をいただいたと言う事です。

         「猿正宗。」
   
    山の神様のお使いとして、鹿とか猪とかに導かれて、山の中のお屋敷などにつく、と言うのは昔話では良くあるパターンですが、この場合、授けられるものが「五郎正宗の刀」という、実際にあるもの、江戸期のお話としてありえそうな作りになっています。
  興津の宿、薩た峠も当時は有名な観光名所、伝説と言えば伝説、観光地の逸話と言えば逸話、でも徳島の古文書で、九州の大名、江戸屋敷。
  う〜ん、位置づけの難しいお話かも。

          2006.12.15
  ◆補記
  ◇阿州奇事雑話
 編著・横井希純、寛政年間=1789~1801年のものだそうです。
 徳島県の古文書ですから、飛脚は船に乗って九州から江戸に向かったのかも知れません。
◇興津の宿
 http://tokdo53.arrd.net/yj-01/hiza-02/18okitu.html
◇薩た峠
 http://tokdo53.arrd.net/yj-01/hiza-02/17yui.html
 http://www2s.biglobe.ne.jp/~ja1klb/tabi/kaidou/satta2.html
 http://www.ne.jp/asahi/kh/satuki/sattatouge.htm
◇猿正宗
 8分/1930 (昭和5)年/横浜シネマ商会  監修:青池忠三 作画:村田安司
 http://www.alpha-net.ne.jp/users2/planet1/link/katugeki3.html
 http://toshokan.city.fukuoka.jp/docs/eizo/sc_a_j.html
◇幻の活動大写真
 http://www.alpha-net.ne.jp/users2/planet1/link/video_list.html