お話歳時記 お話を見て書いて創るサイト お話歳時記
お話歳時記創作情報デジタルコンテンツメルマガwww.pleasuremind.jp TOP
九月ー重陽の節句とお月見。
 
  やまなしとり。
    「やまなしとり。」は全国的に分布しているお話で、「やまなしもぎ」「なら梨採り」などのいくつかの名前で呼ばれ、「なら梨とり」として木下順二先生が昭和三十三年に再話されています。
  三人の兄弟、兄弟を助けるお婆、兄達を食べてしまう沼の主など、キャラクター、ストーリーとも昔話の基本のようなお話です。
  「やまなしとり。」
 

  あるところに、お母さんと三人の兄弟が暮らしていました。
  夏の疲れか、お母さんは寝込んでしまい、次第に悪くなっていきました。三人の兄弟はどうしていいのかわかりませんでした。
「山梨が食べたい。」
お母さんはそうつぶやきました。
山梨を食べれば疲れが取れる。母さんの体も良くなるかも知れない。
「それじゃ、俺が採りに行ってくる。」

一番上の太郎はそう言って山へと向かいました。
太郎がずんずん山へ山奥へとすすんでいくと、大きな岩がありました。 その上には婆さまがちょこんと座っていました。
「お前さ、どこ行く?」
「やまなしを採りに行きます。」
太郎は婆さまを見上げていいました。
「この先にのぼっていくと、三本の枝道になっている所に笹葉が三本生えておる。 その笹葉が、いけがちゃガサガサ、いけがちゃガサガサ、と言う方へ入っていけ。」
婆さまはそう教えてくれました。 太郎が山を登っていくと、婆さまの言う通り三本の枝道がありました。
道の前にはそれぞれ笹葉が生えていて、左の道の笹葉は「いけがちゃガサガサ、いけがちゃガサガサ。」と葉を揺らしました。 そして真ん中と右の笹葉は「いぐなっちゃ、ガサガサ、いぐなっちゃガサガサ。」「いぐなっちゃ、ガサガサ、いぐなっちゃガサガサ。」と、葉を揺らしました。
しかし太郎は何を思ったのか、行くなと言う真ん中の道を進んで行きました。
しばらく進むと、巣の中の鳥が、「いぐなっちゃ、ピーチチチ、いぐなっちゃ、ピーチチチ。」と、鳴きました。 それでも太郎はかまわず進んでいきました。
今度は木の枝にふくべ(ひょうたん)が沢山ぶらさがっていました。 「いぐなっちゃ、ガラガラガラ、いぐなっちゃガラガラガラ。」 
ふくべは狂ったように実を鳴らしました。 それでも太郎は進んでいきました。

  しばらくすると沼のほとりにヤマナシの木を見つけました。 その大きな木にはヤマナシの実がザランザランとなっていました。 太郎は喜んでその木に登り、ヤマナシをとろうと手をのばすと、何かがすーっと動きました。
  なんだろう?
  太郎が見ると、池に自分の姿が映っていました。 そしてその下から何か大きなものが浮かび上がり、水面の影を散らすと、そのままゲロリと太郎を呑み込んでしまいました。
  沼の主でした。

  家ではいくら待っても太郎が帰ってこないので、今度は次郎がヤマナシを採りに山へいきました。 岩の上では婆さまが待っていて、太郎に言ったと同じように言いましたが、次郎もやはり言う事を聞かず、沼の主にゲロッと飲まれてしまいました。

  二人の兄はいくら待っても帰ってきませんでした。
  三郎は寝ている母も、兄達も心配でした。 三郎は母にお粥を作ると、提灯を持って、夜の山へと駆け出しました。 山へどんどん入っていくと、誰かが呼び止めました。 岩の上に人がいました。
月に照らされ、婆さまがぽぅっと浮かび上がりました。
三郎は、「婆さま、兄達がヤマナシ採りに山に入ったが帰ってこない、知らねぇか?」と、たずねました。
「わしの言う事聞かねぇから、帰れなくなっただ。 お前もよくよく心して、わしの言う事を聞け。」そう言うと婆さまは兄達に言った通りに三郎にも話しました。そして、一振りの刀を三郎に渡しました。三郎は婆さまに頭を下げると、山へと走りました。

  しばらく走ると婆さまの言った通り、三つに分れた道がありました。 「いけがちゃガサガサ、いけがちゃガサガサ。」「いぐなっちゃ、ガサガサ、いぐなっちゃガサガサ。」「いぐなっちゃ、ガサガサ、いぐなっちゃガサガサ。」と、道の前の笹葉が葉を揺らしました。 三郎は、「いけがちゃガサガサ。」と笹葉が鳴る左の道へ進みました。
  しばらく進むと、巣の中の鳥が、「いけちゃ、ピーチチチ、いけちゃ、ピーチチチ。」と、鳴きました。 三郎はどんどこ、進んでいきました。
  今度は木の枝にふくべ(ひょうたん)が沢山ぶらさがっていました。「いけちゃ、ガラガラガラ、いけちゃガラガラガラ。」 ふくべは踊るように実を鳴らしました。
  三郎はどんどこ、どんどこ、踊るように進んでいきました。 しばらくすると川がありました。 見ると縁の欠けた赤い茶碗が流れてきました。 三郎はそれを拾うと、また進んで行きました。

  しばらくすると沼にでました。
  沼のほとりには大きなヤマナシの木がたっていました。 そして風が吹くとザランザランと実が揺れました。 ここで兄さん達に何かがあったんだ。 三郎はふっと提灯の灯を消しました。
  また風が吹きました。
「東の側はおっがねぞぉ、西の側はあぶねぇぞぉ、北の側は影がぁうつる、南の側からのぼらんさい。」 ヤマナシの実が、ザランザランと唄いました。 「ヤマナシの木よ。 こりゃぁ、南からのぼれと言う事だぁな?」 三郎が問うと、ヤマナシはザランザランと実をゆすりました。
 
  三郎はヤマナシの木に南から登り、実をもぎました。 そして懐にいっぱい入れると、木から降りようとしました。「あっ。」 三郎は身を返した途端、横の枝に足を移してしまいました。 そしてその下の水面には、三郎が映っていました。

池の底から何か黒いものが浮かび上がって来ました。 兄達を飲み込んだ沼の主でした。 こいつだ! 三郎は婆さまからもらった刀を抜きました。 沼の主は三郎めがけて沼から飛びかかりました。 三郎は思いっきり刀を沼の主の頭に突き刺しました。 池の主は頭に刀を刺したまま、そのまま仰向けに倒れ込んでしまいました。

  それは大きな黒いイモリでした。 イモリは刀のささった所からブスブス腐りはじめていました。 そして仰向けになったイモリの大きな腹が動きました。 三郎は刀を抜き取ると腹を割きました。 すると、兄が二人、青くなってゲロリと出てきました。 三郎はさっき拾った赤い茶碗で二人に水を飲ませました。 すると兄達の顔には赤みがさし、元の通り元気になりました。 そして三人でヤマナシを採り、家に帰りました。

  ヤマナシを食べたお母さんは、病気がピョコンと治りました。 それから、みんなで楽しく暮らしたそうです。

         「やまなしとり。」

   
      このお話は・・・う〜ん。
  婆さまはいわゆる森の声、深層心理の声で、その声を無視した場合は、何度か呼びかけがあり、それでも無視すると、闇、暗黒に囚われますよ、その声に従い行動した場合は、危険を回避し、物事を為せますよ、という、スターウォーズだと思ってください。 切れ刃は危険を切り抜ける武器、または意志の力、赤い欠け椀は、赤が血、生命力、椀は生命、生命を注ぐ、という意味でしょうか。(こんな説明でいいのか?)
  ほとんど世界共通の神話構造を維持してる「やまなしとり」ですが、お話としての面白さも原型の形をとどめています。 超自然的なものに導かれるストーリー構造、岩の上の婆さまが、いろんな形を取って、兄弟達を導こうとする、その時の擬音や音、また沼の主の擬音等も、多くの読者の心をとらえているようです。
  お話の中の「やまなし」は日本の野生種で二種程度あるようです。 その実は今の梨より小振りで、春に桜のような花が咲き、 初秋、八月の終り頃実るそうです。 北海道以外の全国に生えていて、昔は身近な果物だったみたいですね。
  ◆補記
  ◇ヤマナシ。
 http://www.first-priority.jp/~plantz/tree_nashi.html

 http://plantdb.ipc.miyakyo-u.ac.jp/php/view.php?plant_id=8822
 
           
  やまなしもぎ
平野 直 作 絵本。
  わらしべ長者 日本民話選 木下 順二 民話集。
「なら梨とり」他、「かにむかし」「こぶとり」「彦市ばなし」をはじめ、味わいぶかい「天人女房」「あとかくしの雪」などなじみ深い22編を収録しています。「木竜うるし」も入ってます。