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十一月の行事ー神様と縁結びのお話。
 
   怪力の系譜、その三。
    今回は昔話の中の「大力」のお話です。
  「紀州の茗荷。」
    紀州毛原(けはら)に茗荷(みょうが)と言う男がありました。

ある時、村の観音淵の側を通りかかった所、突然美しい気高い女の人が現れました。
「私は竜宮の乙姫と言うものです。どうかこの淵の水底に光っているものをどけてください。あれがために私は竜宮へ帰る事が出来ないのです。」
茗荷は姫の願いを快く受け、観音淵へ飛び込みました。淵の底にはなるほど姫の言う通り光るものがありました。茗荷はそれを拾うと淵から上がりました。それは一寸八分の観音像でした。

竜宮の姫はたいそう喜びました。
「これでやっと竜宮へ戻る事が出来ます。ありがとう。お礼は何でも叶えましょう。遠慮せず言うてください。」
「それなら千人力を授けてくだせぇ。」
茗荷は力仕事をしていたので、躊躇せず千人力を頼みました。
「わかりました。千人力を授けましょう。」
こうして茗荷は千人力となりました。

茗荷は嬉しくてたまりませんでした。千人力ならなんぼでも仕事が出来る、そう思ったのです。ところが千人力は途方もない力だったのです。

茗荷は乙姫様にお礼を言い、振り向いて帰ろうと観音淵の丸木橋に軽く足をのせました。するとボコンと丸太を踏みつぶしてしまったのです。いけねぇと土手をつかんだら、豆腐をつぶすように地面をえぐってしまいました。

「・・・乙姫様、千人力はわしには向かんようじゃ。」
「そのようですね、千人力は私にも向かないようです。それなら相手一倍十人力と言う事ではどうですか?相手が百人力なら百人力と十人力、合わせて百十人力、百貫目の物なら百貫目と十人力、合わせて百貫目十人力、これならどんな重いものでも、どんなに強いものにでも負ける事はありません。」
「はい、そうお願いします。」
茗荷はこうして相手一倍十人力となりました。

  それから茗荷は紀州一の力持ちとなりました。どんな重い荷物も運び、大勢の人の力がないと動かせないような大きな岩も一人で動かしてしまいました。

  ある時の事です。高野山の興山寺というお寺で屋根の葺き替えがありました。しかしその屋根に大きな箱棟を上げる事が難しくて、何百人もの人が騒いでいました。茗荷はその様子を見て、「やにこい奴らじゃ。」とポツリつぶやいてしまいました。
それを聞きつけた人足達が、「ならお前この箱棟を上げてみろ。」と口々に言いました。
茗荷は、「よし、ならわしが上げてやろう。」と 箱棟をひょいと肩に抱えるとすたすたと屋根にのぼって、すとんと乗せてしまいました。
一同はポカンと口を開けて見ていましたが、悔し紛れに、屋根から降りてきた茗荷に、「おい、茗荷。 あれは裏返しになってるぜ。」と言ってしまいました。茗荷はそれを真に受け「おお、そうか。」と、もう一度屋根にのぼると、ぐるりと回して乗せてしまいました。
回りの者は驚いて、今のは嘘じゃ、もう一度もと通りにしてくれと言いましたが、茗荷は怒ってそのままにして帰ってしまいました。それで、いまでも興山寺の箱棟は裏と表が逆さまになったままなのだそうです。


  しかしこの茗荷の力も長くは続きませんでした。本当はこの力は茗荷の血筋に代々受け継がれるものでしたが、乙姫様に言われていた事があったのです。
「茗荷さん、これから先、決して女の人に物を手渡ししてはいけませんよ。もしそんな事をしたら女の人の方へ力が行ってしまいますよ。」
茗荷も乙姫様の言う通り、女の人を見ると物を手渡ししないように、心がけていたのですが、高野山からの帰り、いただいた味噌をついうっかり、女房に渡してしまったのです。
それからと言うもの、相手一倍十人力の力は、茗荷の家の娘達に受け継がれて行ったのです。


  茗荷の家の娘は、たいそうな力持ちとなりました。
ある時、佐伯氏長と言う力士が京へ出かけようとした時の事です。若いキレイな娘が水桶を頭にのせて歩いてきたのです。氏長はからかってやろうと娘の後から近寄って、桶を押さえている腕の脇をくすぐろうとしました。するとその娘は、手を持ち替え、氏長の腕をぴたっと挟んだまま、家まで引きずって行ってしまいました。

娘は家まで来るとやっと氏長の腕を放しました。
「あなたは何をする人なのですか?」
娘の問いに氏長は自分は力士で、京で朝廷の相撲に招かれていく所だった、すまない事をしたと頭を下げました。
娘は氏長の顔を見ると、「相撲の期日にはまだ充分日があります。ここで修業してから行った方がよいでしょう。」と、氏長を家に泊めて修業させる事にしました。それから氏家は娘を相手に突きやら押しやら、修業に励みました。なにせ娘は相手一倍十人力、いくら氏長が力をつけてもそれ以上の力を出します。氏長はそれからみっちり三週間、修業したのです。


  こんな事があったそうです。
この娘が嫁いでいった先での話です。夫が外で風呂桶に入っていると突然夕立が降ってきたそうです。娘はあわてて走ってくると、夫を風呂桶に入れたまま家の中にタタタと運び込んでしまったのです。
  夫は普通の男でしたが、娘をたいそう大事にしたそうです。

         「紀州の茗荷。」
   
    昔話の世界でも大力は水の女神から授けられ、女へと伝わっていくようです。

  これとは少々違うのですが、「産女」という妖怪も力を授けます。「産女」はお産の時亡くなった女の怪物とされ、夜、道行く人に赤子を抱いてくれと頼みます。抱いた赤ん坊は次第に重くなり、託された人が重みに耐えきったら、力を、または黄金を授けると言います。また赤ん坊が重くなるのは、近くでお産があって、そのお産が重くなった時だとも言われています。赤子を抱いてもらう事で、重いお産をすこし軽くしてもらっているのかも知れません。

  産女にしても「女が力を授ける。」と言う点では共通項のようです。