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十一月の行事ー神様と縁結びのお話。
 
   怪力の系譜、その二。
    三野狐を倒した道場法師の孫娘、でしたが、まだまだ大活躍、です。
  「力女(ちからおんな)強き力を示(あらわ)す縁(ことのもと)。」 
 
  尾張国中嶋郡の大領(だいりょう)は、尾張宿禰久玖利(おわりのすくねくくり)でした。 久玖利の妻は同じ国の愛知郡(あゆちのこほり)片輪里(かたわのさと)の女でした。 元興寺の道場法師の孫娘で、夫にしたがい柔和で、細い麻糸で布を織り、夫に着せていました。 その手織りの布は美しく、でき上がった着物は絹に勝っていました。

  その頃の国主は稚桜部任(わかさくらべのたふ)でした。 国主は久玖利の着ている着物を見ると、「汝に著(き)すべき衣にあらず。」と言って奪い取りました。 夫が着物を着て帰らなかったので、妻はどうしたの?と尋ねました。
 「国主に奪われたのだ。」
  妻は夫に尋ねました。
 「あの衣を、あなたは惜しいと思いますか?」
  夫はうなづくと「惜しくてたまらない。」と答えました。

  妻はそのまま国主の所へ行くと、国主に「衣を返してください。」と乞いました。 国主は「何と言う女か?引っ立てていけ。」と叫びました。 しかし、部下の者が押しても引いても、女はビクともせず、うろたえる者たちをしり目に、二本の指で国主の座っている床板の端をひょいとつまむと、国主を乗せたまま、国府の門の外まで持って出ました。 そして、国主の衣の裾をずたずたに引き裂くと、もう一度、「衣を返してください。」と頼みました。 国主は恐れて奪い取った衣を女に返しました。

  妻はその衣を持って帰ると洗い清めて干しました。 そして着物が乾くと、干してある竹ごと、糸を折るようにたたんでしまいました。
  夫の父母はその様子を見て恐れ、「これでは国主に恨まれて、いつ罰せられるかわからない。私たちはどうしたらいいのか? もう暮らしていけない。」と、息子に言いました。

  そして妻は里へと帰されたのです。

  片輪の里に戻った女は草津川のほとりで洗濯をする毎日でした。 ある時、その川を通る大きな商船の上から、商人達が女をからかいました。 あまりにからかいあざけるので、女は黙れと言いました。 「人をあざければ、その頬を強く打たれますよ。」

  船長は女の言葉に怒り、船を止めると女の元へ行き、その顔を殴りつけました。 しかし女は平気な顔で川へ入り、船をつかむと荷物を載せたまま引っ張り、船を半分ほど岸へあげてしまいました。

  船長は驚いて土地の者を集め、船から荷物を下ろし、
やっとの事で川に浮かべると、また荷物を載せました。
  女は、「無礼な事を言い、乱暴を働いたから船を引きあげたのです。 あなた達はなぜ、こんな賎しい女を踏みつけにするのですか?」と言うと、荷を載せたまま今度は船を一町ほど引きあげてしまいました。
  船に乗っていた人たちは恐れて、「すまない事をした、許してくれ。」とひざまづいて謝りました。 女はそれを聞くと許し、洗濯物をもって立ち去りました。

  船は五百人の力を合わせても動きませんでした。 女の力は五百人力を越えていたのでした。

  経の説く所によると、「餅をつくって三宝を供養する人は金剛那羅延(こんごうならえん)の力を得る。」と言います。 女は前世において大きな餅を作り三宝と衆(もろもろ)の僧(ほうし)とを供養し、この力を得たのでした。

         「日本霊異記 中巻 第二十七。」
   
    道場法師の孫娘の力は、「中巻第四」では血筋を言ったのですが、このお話では餅を納め三宝を供養したから、となっています。 孫娘にはこのお話の中でも水辺の巫女の性格付けがなされています。機を織り、夫のために美しい着物をつくり、河辺で洗濯をしています。 形を変えた機織姫、強い呪力を持った巫女でしょうか。
  気は優しくて力持ち、普段は柔和、オシャレで裁縫が得意、人を苦しめる者を倒し、曲がった事が許せない、今ならスーパーヒロインってところなんですが。
  ◆補記
  ◇この説話と前回の「中巻第四」説話の主人公は同一人物とされていますが、ホントの所はわかっていないそうです。