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十一月の行事ー神様と縁結びのお話。
 
   怪力の系譜、その一。
    日本の神話や昔話には「怪力」を持つ女性、もたらす女性の話があります。この女性は、水辺の巫女で特別な呪力を持ったもの、とされていますが、難しい話より、お話そのものの方が面白いかも知れません。
  まず、ちょっと違う?ように感じるかも知れませんが、狐妻のお話から一つ。
  「狐を妻(め)として子を生ましむる縁(ことのもと)。」 
 
  欽明天皇の御世に、美乃国(美濃国)大乃郡(大野郡)の人が、善い人を妻としようと探しに出かけ、広い野原の中で美しい人と出会いました。
  その人は男の方を見つめ、なついたように微笑みました。男もその女が気になり、「どこへ行くのですか?」と尋ねると、
「誰か良い相手がいないか、良縁を探しているのです。」と答えました。
「私の妻になってくれませんか?」
男の求婚にその人は「はい。」答えました。

  男はその人を家に連れ帰って二人で暮らしはじめました。しばらくして、その女は懐妊し、男の子を一人生みました。同じ頃、その家の犬も子を生みました。しかしその犬はいつもその女に敵意を剥き出して吠えるので、女は脅え恐れて、夫に「あの犬を殺してください。」と頼みました。男は困った事だと思いましたが犬を殺すことなく日が過ぎて行きました。

  二月、三月の頃、年米舂き(ねんまいつき)の時、妻が稲をつく女達に食事を持っていった所、突然犬の子が吠えかかりました。妻は驚き恐れて野狐の姿に戻り、籬のうえに登って身を縮めました。夫はその姿を見て、妻に、
「二人の間には子供も生まれたのだ、お前を忘れないから、毎日来て側で寝て欲しい。」と言いました。
狐は夫の言葉に従い、そばに来ては夫の側で眠りました。妻は赤い裳裾をしなやかに引きながら逝ってしまい、残された夫は歌を詠みました。

  恋は皆 我が上に落ちぬ たまかぎる はろかに見えて 去にし子ゆゑに

  この時から狐を「来たりねき」、岐都禰(きつね)と呼ぶようになりました。生まれた子は岐都禰と名づけられ、その姓(かばね)を狐(きつね)の直(あたい)としました。

  その人は、強い力持ちで、走ると疾くて鳥の飛ぶようでした。
  此の方が三野国(みののくに)の狐の直等の始祖です。

         「日本霊異記 上巻 第二。」

    次は、このお話の子供の子孫が悪役となって登場するお話です。
  「力女(ちからおみな)埆力(ちからくらべ)を試(こころ)みる縁(ことのもと)。」
 
  聖武天皇の時代、三野国(みののくに)片県郡(かたかたのこおり)小川市(をがわのいち)に、体が大きく力の強い女がいました。名を三野狐(みのきつね)と言い、昔、狐を母として生まれた岐都禰の、曾孫の子にあたりました。 力が強く、百人力を持ち、小川市の内に住んで、道行く商人達をおどしては、品物を奪い取っていました。

  その頃、尾張国愛智郡(あゆちのこおり)片輪里(かたわのさと)にも、力の強い女がいました。体は人より小さな女でした。元興寺に在りし道場法師の孫にあたりました。

  女は三野狐の無法な行いを聞き、自分の力を試してみようと、舟に蛤五十石と熊葛(くまつづら)の練鞭(ねりむち)を二十本入れて、市に泊めて待っていました。

しばらくすると三野狐がやって来て蛤を奪いました。
「お前はどこから来た女か?」
三野狐の問いに女は答えませんでした。
「お前はどこから来た?」
女はやはり答えませんでした。
「どこから来た?」
「言え! どこから来た!?」
三野狐が声を荒げて怒鳴ると、女はやっと答えました。
「どこから来たのかわからない。」

三野狐は礼儀知らずな女だと手を振り上げて女に近づきました。しかし女は三野狐を両手で取り押さえ、鞭を十本とり出すと、三野狐に打ちつけました。その鞭には、三野狐の肉がとれてくっついていました。女が鞭をふるうたび、三野狐の肉が削がれて飛び散りました。
「助けてくれ、何でも言う事を聞く!」
三野狐は叫びました。
「今よりここを出て行け、二度とこの市に住むな。もしまだここにいるようなら、今度こそ打ち殺す。」女は三野狐に命じました。

三野狐は逃げ出し盗みをやめ、もうその市には二度と姿を現しませんでした。
市の人は、品物を奪われなくなり、安穏になった事を喜んだそうです。

         「日本霊異記 中巻 第四。」

    力を持たらしたものが、三野狐の場合は異類。道場法師の孫の女が雷、または前世からの因縁、と対比がされています。 このあたりがポイントでしょうか。
  ◆補記
  ◇美濃国大野郡=岐阜県揖斐郡大野町
◇年米舂き(ねんまいつき)
 この時期、公出挙(くすいこ)の米をついて京に送りました。納期は四月三十日(延喜式)だったそうです。
◇熊葛(くまつづら)の練鞭(ねりむち)
 クマツヅラと言う蔓性植物でつくった弾力性のあるムチ、だそうです。
◇元興寺の道場法師。
 ある農夫が雷を助けた代わりに授かった子で数々の説話を残しています。この女性は雷神の子の性質を持っていて、いわゆる金太郎と同じ筋だと思えば、納得いくんじゃないでしょうか?
「山から下りてきた雷神、金太郎。」