お話歳時記 お話を見て書いて創るサイト お話歳時記
お話歳時記創作情報デジタルコンテンツメルマガwww.pleasuremind.jp TOP
三月ー花と少女の物語。
 
  節供のお酒。
 

  昔話の「食わず女房。」と「蛇の婿殿。」は節供の由来譚ともなっています。
  節供は五節供の式日を指し、年中行事を行う日の中で、特に重要とされた日、節日で、一月七日の人日、三月三日の上巳(じょうし)、五月五日の端午、七月七日の七夕(しちせき)、九月九日の重陽(ちょうよう)の五つを言います。
  このうち上巳の節供は三月三日とされていますが、上巳は旧暦三月上旬の巳の日をさします。元巳(げんし)ともいい、中国魏の時代より三月三日を上巳と定めました。古来中国ではこの日に川で身を清め不浄を祓う習慣があり、日本では平安時代に取り入れられ、宮中で曲水の宴を行い、祓(はらえ)をするようになりました。
  曲水の宴自体はすたれましたが、貴族の間で上巳は、巳の日の祓「上巳の祓え」として定着しました。「上巳の祓え」は形代(かたしろ)として人形をつくり、それに穢れを移して川や海に流して不浄を祓いました。これが各地に残り流し雛となったのです。
  「上巳の祓え」は江戸時代以降、雛祭りとして庶民の間に広まり、三月三日は雛節供を指すようになりました。

  「蛇の婿殿。」 
 
  昔、丹波の国の山里に静と言う美しい娘がいました。
娘も年頃となり、母もどこかに良いお相手がいないかと考えていました。その内、静の顔が明るくなり、なんだか華やいだ顔になって来ました。母が気をつけていると、毎晩木戸をくぐり娘の部屋へやって来る男がいたのでした。
  その男は、年の頃は二十二、三、立派な着物を着た色の白い涼しげな男でした。男はもう何日も通って来ていたらしく、母が自分に気がついたと知ると、手土産にウサギやらキジやら、猟でもするのか、なにかしら立派な獲物をもってやって来るようになりました。
  母親も、男が雨の夜も風の夜もなにもいとわず、毎晩通ってくる事に、娘はこんなに愛情深く思われているのかと思っていました。

  ある夜の事です。
  その日はあいにく朝から雲行きが怪しく、お昼を過ぎる頃には雨と風が吹き荒れるあいにくの天気となりました。夕方には雷が激しく鳴り、あたり一面真っ暗な恐ろしい夜となりました。こんな日には如何にあの若者でも通ってくる事はあるまいと 母は門を閉めに外に走りました。しかし、門の外には鹿の足の肉を肩にして、稲光の中を平然と歩いてくる若者がいたのです。
「母様、これは今日のお土産です。」
男の渡したその肉はまだ生暖かく、さっきまで生きていた鹿の足をもいできたかのようでした。男はそのまま娘の部屋へと歩いて行ったのですが、母はなんだかその男が恐ろしくなってしまいました。

  母は娘に男の様子を聞きました。静が言うには男の様子は何も変わりないと言う事でした。ただ、明け方帰る時、男の寝ていた布団が濡れたように湿っていると言う事でした。母は静に男がどこに住んでいるのか、どんな名前なのか聞くように言いました。
  静も自分の事を何も話さない男に不安を感じていました。 静は男がやってくると、どこから来たのか?名前は何と言うのか?それとはなしに聞いてみましたが男はなにも言ってくれません。静は母に男が何も話してくれないと言って泣きました。
  母は困り果ててしまいました。 男がどこに住んでいるのか、わかりさえすれば。 母ははっと思い立ち、静に糸のついた針を男にわからないように男の髪の毛に刺しておくように、と渡しました。

  男はその夜も静の元にやってきました。 男はいつものように静と食事を取り、お酒を飲み、夜更けまでひとしきり話しました。そしてその男が疲れて眠ると、静は隠してあった針を男の髪にそっと刺しました。
「痛い!」
男は飛び上がると頭を押さえ、外へ飛び出しました。
「待って!」
静は男を止めましたが、男は暗い闇の中へ、ガサガサガサッと草の音をたてながら、消えて行きました。 そして糸だけがひゅるひゅると地面を走って行ったのでした。 静は何が起こったのかわからず、だた糸がひゅるひゅると走って行くだけでした。

  翌朝、静と母は糸の後をたどっていきました。 その糸は家の前の草原を通り山に続いていました。 そして山を這うように越えて行くと大きな淵へと続いていました。
静と母がのぞき込むと中からうなり声が聞こえてきました。
「いたい、いたい。 いたい、いたい。」
それはあの男の声でした。
「お前は頭に黒鉄を刺されてしもうた。もう生きてはおられんじゃろう。 かわいそうじゃが、何か言い残す事はないかの?」
淵の中では、母親の蛇が息子の蛇に話しかけていました。
「俺が死んでも、あの娘に俺の子をはらましておる。 かたきはとってくれるじゃろう。」
「そうじゃのう、たぶんあの娘は、上巳の節供の桃酒も、端午の節句の菖蒲酒も、重陽の節句の菊酒も知るまい。」
「ああ、知るまい。 俺の子は無事に生まれる。」
母は静のお腹を見ました。 静は顔が真っ青になりました。 二人は急いで帰ると家の廻りに黒鉄の針金を巻き付けました。
  そして母は静に三月三日に桃のお酒を飲ませました。 するとお腹の中から黒くて糸のようなものが沢山流れ落ちました。 しかし、静の顔はすこしづつ青くなって行きました。
  五月の節供には菖蒲酒を飲ませました。 今度は茶色のドジョウのようなものがいくつも出てきました。 それでも静の体は次第に弱りついに床につくようになったのです。

  九月になりました。 母は菊酒を用意しました。 そして九日になると静に飲ませました。 静はしばらくすると白い縄のようなものを一つ流し出しました。 それから静の体は何事も無かったように元気になって行きました。

  年があらたまる頃には元のように元気になりました。
  春、静の元に一人の若者が通うようになりました。 日の光がにあう色の黒い男でした。 手には自分で作った野菜がありました。
  静はその若者が笑うたびになんだかほっとするのでした。

              「蛇の婿殿。」
   
    「蛇の婿殿。」はお話としては三輪山型の蛇婿入り苧環タイプのお話ですが、節供のお酒の由来譚にもなっています。
  このお話にあるように上巳の節供の他に、端午の節供、重陽の節供も邪気を祓う日とされています。
  ◆補記
  ◇形代(かたしろ)
 祓のときに用いる紙の人形、人形(ひとがた)。