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端午の節句と山姥。
  喰わず女房
 

  「喰わず女房。」は山姥や鬼、蜘蛛等が変身した女を「飯を食わない」という理由で妻に迎え、災難に遭う、その災厄から逃れる話で、東日本と西日本では話型が違うようです。

  一般的には東日本のタイプが有名で、
  ある男が、飯を食わない女を嫁にもらいます。
  その女は働きものでしたが、米がぐんぐん減って行きます。
  男が不思議に思って隠れて見ていると、女は髪の後にもう一つの口があり、
  そこから次から次へと食べて行きました。
  男が別れを切り出すと、女は桶に男を入れて山へ連れ去ります。
  桶から逃げた男は山姥・鬼の正体を現した女に追われ、
  蓬(よもぎ)と菖蒲の生えている池、または河原に逃げ込みます。
  蓬と菖蒲の葉は女の目を突き、または体を傷つけ、腐らせ退治します。
  それから五月の節供に蓬の餅を食べ、菖蒲の湯に入るようになりました。

  という五月節供の由来譚となっています。

 

  喰わず女房。
 

  むかしむかし、勘助と言う男がいました。 桶屋をしていましたがケチでケチで、お酒を飲むのは人のおごり。嫁をもらえと言われても、「飯を食わぬ嫁さんならもらうぞ。」と、オウムのように言っていました。

暮れも押し詰まった、ある夜の事です。桶屋の戸を叩くものがありました。
「こんばんわ、こんばんわ。 ここに飯を食わぬ女を探している方がおりますか?」
「ああ、俺がそうだが?」
勘助は誰じゃ、からかうように言うものは?と戸を開けて見ると、そこにはびっくりするような美人の女が立っていました。女は勘助ににっこり微笑むと、「私は飯を食わぬ女です。どうぞあなた様の嫁にもらってくださいまし。」と、言いました 勘助は驚きました。こんなきれいな女が俺の嫁に来たいなど、何をからかっておるのか?勘助は断りました。しかし女はいつまでたっても帰らず、嫁様にしてくれと言うばかりでした。勘助は仕方なしに家に置く事にしました。

  女の名前はさつきと言いました。さつきは器量よしで働き者で気の利く女でした。何も食べないと言う通り、いっさい物を口にしませんでした。勘助が食べる間、白湯をすこしすするだけでした。
「本当に食べなくて大丈夫なのか?」
「はい。」
さつきはそう答えてにっこり笑いました。さつきは近所でも評判になりました。
「美人で良く働く。 勘助は良い嫁をもろうた。」
そう言われて勘助はうれしくてたまりませんでした。
「そのうえ飯も食わぬ。」
勘助には願ったりかなったりの嫁でした。けれどもどうした事か米びつの米がぐんぐん減るのです。味噌も知らぬ間に減っています。
「わけがわからぬ。」
勘助は仕事に行くふりをして、そっと天井裏にのぼり隠れてのぞいていました。しばらくするとさつきが水を汲んできました。かまどに大きな釜をかけ、そこにどっさり洗った米を注ぎ込むと、ぐらぐら焚きはじめました。そして味噌瓶から味噌をすくうと、囲炉裏の大鍋でみそ汁を作りはじめたのです。
「あんなに飯を炊いてどうするつもりじゃ?」
炊き上がったお米はとうてい一人で食べきれるものではありませんでした。さつきはそのお米でおにぎりを大きな皿に三十三作り、その前に後ろ向きにすわると、束ねてあった髪をばさりとほどきました。その髪は生きているように波打ちはじめると、しゅるしゅると蛇のように伸び、おにぎりを掴み頭に運びました。すると、さつきの頭の後に口がひとつ大きく開き、おにぎりをむしゃむしゃ食べはじめました。そして鍋をつかんでみそ汁をごくごく飲み、次から次へとおにぎりをたいらげて行きました。
頭の後の口が食べ終わると、さつきは髪を再びしばり、何事も無かったように片づけはじめました。勘助は天井裏でガタガタ奮えていました。
「この女は化け物じゃ、早く出て行ってもらわねば。」

勘助はさつきが見えなくなると屋根裏から抜け出し、頃合いをみはからって家に帰って来ました。勘助はさつきに、
「おまえはなるほど飯は食わないけれど、わしの嫁には向かない。なんでもやるから、出て行ってくれ。」と言いました。さつきはじっと勘助の顔を見ていましたが、しばらくすると答えました。
「わかりました、私は出て行きますからどうか大きな桶を一つ、私に作ってください。」
勘助はそれならお安いご用と、人の入れるような大きな桶を作りました。
「ああ、ちょうど良い大きさの桶だわ。」
さつきは満足そうに桶をもらうと、ひょいと勘助の首根っこをつかみ、桶の中にほうり込みました。
「ああっ!」勘助は驚きました。
さつきはいつの間にか山姥の姿となり、「山で子供たちが腹をすかせて待ってるんだよ。」と言うと、バタンと桶の蓋を閉め、桶をひょいと担ぐと山の方へ逃げて行きました。

  桶の中で勘助はどさどさ揺られ、生きた心地もしませんでした。手の中には桶を作るタガがありました。勘助は揺れる桶の中でタガを手で叩き蓋をこじ開けました。勘助が開いた所から恐る恐る頭を出すと、山姥の足はいつの間にか蜘蛛のようになり、山道をガサガサガサと走りのぼって行きました。 勘助はこじ開けた蓋から身を乗り出し道の上の木からぶら下がっている枝に飛びつきました。
大蜘蛛の姿になった女はそんな事には気がつかず、空になった桶を担いだまま山の奥に走って行きました。

  勘助はそのスキに山を駆け降り、家に飛び込むと戸を閉め、かんぬきをしました。山の向こうから声が聞こえて来ました。
「かんすけ〜、かんすけ〜、大歳の夜、きっと迎えにいくからな〜〜〜。」
勘助は土間にへたり込んでしまいました。
  

  大歳の夜になりました。
勘助は前の日から戸板を打ち付け、外からは中に入れないようにしました。そして手にカマを持って囲炉裏の前にすわりました。
小さな火が鍋のみそ汁を暖めていました。腹がすくと握り飯をほお張り、みそ汁を飲みました。
突然、ガサコゾと音が聞こえてきました。勘助はカマを握りました。
突然、戸をダンダン叩く音が聞こえてきました。
戸板を打ち付けた釘がギシギシ悲鳴をあげました。
大グモでした。
大グモは戸板を散々たたいた後、家の壁をあちこちたたき、柱を押して、家をきしませました。天井からホコリや土がバラバラと落ちてきました。
しばらくすると音が止みました。勘助は辺りの様子をうかがいました。家の廻りには物音一つしなくなりました。
ほっとして目を落とした時、湯飲みの中に水面に何か赤いものが移りました。蜘蛛の目が映っていたのです。
勘助は知らぬフリを囲炉裏に炭を投げ入れました。
ぼっと炎が上がり、大きな火柱が上がりました。
その時自在鉤の上にいた大グモは火に焼かれ囲炉裏の中に落ちました。
「キェー!」
大蜘蛛は手足をばたつかせましたがすぐに動きをやめ、そのまま囲炉裏の火にぶすぶすと焼かれたのです。勘助はやっと大蜘蛛から逃れる事が出来ました。

「もう飯食わぬ女房などいらぬ。 普通にまま食うかかがええ。」
火に焼かれる大蜘蛛を見ながら勘助はそう思いました。

           「喰わず女房。」

 
   
 
  今回書いた西日本のタイプは、「蜘蛛女房。」とも言われ、

  女房が蜘蛛で夜な夜な蜘蛛となって自在鉤を下りてきて飯を喰らう。
  男がそれに気がつき囲炉裏の火で焼き殺す。

  蜘蛛の正体がばれ、山にいる子供のために夫を連れ去るが逃げられ、
  大晦日の夜または節分の夜に襲いに来て、男に囲炉裏の火で焼き殺される。

  の、だいたい二つの話型があるようです。

  こちらの方は「夜出てくる蜘蛛は殺せ。」と言う言い伝えの由来か、大歳の夜の囲炉裏の火が神聖なものである、という考えがもとになっていると考えられています。