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十月ー亥の子突きと動物のお話。


 十月ー亥の子突きと動物のお話。 おくんち。 亥の子祭り。 亥の子突き。 
十日夜(とおかんや)と案山子上げ。 お十夜。
 狼の眉毛。 聞耳頭巾。 雀、雀。
 ネズミの浄土へころころりん。 猫とネズミの草紙。
 山の神の靱(うつぼ)。 猿正宗。
 しっぺい太郎の猿神退治。 日本の猿神伝説。 中国の猿神伝説。

 
  狼の眉毛。
    動物の昔話の中に、動物からもらった宝物で、動物や自然の声を聞いたり、見たりする、というお話があります。そのうち、「狼の眉毛。」はその眉毛をかざしてみれば、人の本性が見える、というお話です。
  「狼の眉毛。」 
 
  四方を山に囲まれた里に亮助じいさんとおカネ婆さんが暮らしていました。亮助じいさんは毎日一所懸命働いて、お金を稼いで来ました。しかしお婆さんは、お爺さんのお金を使って、お茶を飲んだり遊びに行ったり、働きもせずに、勝手気ままに暮らしていました。

  亮助じいさんは、いくら働いてもいっこうに楽にならず、お婆さんに大事にされる事もなく、ただ年を取っていくだけでした。
「こんな事なら狼にでも喰われて死んだ方がええ。」
亮助じいさんはそう言うと東の山へとトボトボ歩いて行こうとしました。すると犬のハナがワンワンと亮助じいさんについて行こうとしました。
「お前まで狼に喰われるこたぁない。」
亮助じいさんはハナを縄でくくると一人歩いて行きました。

  亮助じいさんは東の山に登ると狼を呼びました。
「東山の狼どん、どぉか、おらを喰ってくだせぇ。」
お爺さんの足下にからりと石が転がり落ちました。見上げると、丘の上から大きな狼がこっちを見ていました。
「狼どん、どぉか、おらを喰ってくだせぇ。」
亮助じいさんは手を合わせました。
「・・・お前は働きものだ。 とって喰うわけにいかん。」
狼はそう言うと丘の向こうへ消えてしまいました。亮助じいさんは仕方なく西の山へとぼとぼ歩いて行きました。
    
  西の山は竹の茂みがたくさんありました。
「西山の狼どん、どぉか、おらを喰ってくだせぇ。」
亮助じいさんは狼を呼びました。竹薮の中から大きな狼がゆっくり出てくると、お爺さんをじっと見つめました。
「狼どん、どぉか、おらを喰ってくだせぇ。」
亮助じいさんは手を合わせました。
「お前は正直者だ。 とって喰うわけにいかん。」
狼はそう言うと竹薮の向こうへ消えてしまいました。亮助じいさんは仕方なく南の山へとぼとぼ歩いて行きました。

  南の山は葦が一面に生い茂っていました。
「西山の狼どん、どぉか、おらを喰ってくだせぇ。」
亮助じいさんは狼を呼びました。風がビューっと吹いて、葦がゆらゆら揺れました。そして葦の中から大きな狼がゆっくり出てくると、お爺さんをじっと見つめました。
「狼どん、どぉか、おらを喰ってくだせぇ。」
亮助じいさんは手を合わせました。
「お前は悪い事をした事がない。 とって喰うわけにいかん。」
狼はそう言うと葦の中へ消えてしまいました。亮助じいさんは仕方なく北の山へとぼとぼ歩いて行きました。

  北の山は、ごつごつした岩があちこちにのぞく大きな山でした。
「北山の狼どん、どぉか、おらを喰ってくだせぇ。」
亮助じいさんは大声で狼を呼びました。しばらくすると岩の上に白い眉毛の狼が現れ、お爺さんをじっと見つめました。後には、東の山、西の山、南の山にいた狼達もいました。
「狼どん、どうしても、おらを喰ってくださらねぇのか?」
亮助じいさんは泣きそうな顔で聞きました。
「お前は働き者で、正直者で、悪い事をした事がない。まっとうな人間をとって喰うわけにいかん。」
白い眉毛の狼は一本の眉毛を抜くとおじいさんに渡しました。
「その眉毛をかざして村の者を見てみろ。」
狼はそう言うと他の狼とともに岩の向こうへ消えて行きました。


  亮助じいさんは白い眉毛を持って、村へとぼとぼ歩いて帰りました。村に着くともう日が暮れそうでした。家の前にはお婆さんがいて、キリキリ怒っていました。
「おまえさん、いったいこんな時間までどこをほっつき歩いていたんだい?」
亮助じいさんは疲れた顔で、狼にもらった白い眉毛をお婆さんにかざして見ました。すると、お婆さんの顔はにわとりの顔になって見えました。
「これは何とした事じゃ・・・。」
不思議な事にお婆さんの声は人の声ではなく、にわとりのように、「コケッ! コケコケッ!」と聞こえてきました。おじいさんが驚いてあたりを見まわすと村の人の顔が次々に動物の顔に変わりました。イノシシの顔、たぬきの顔、狐の顔、カエルにへび、ムカデの顔までいました。すると今までの人の声が「ぶひっぶひっ。」「こんこん。」「ガーガー。」と、動物の声となってしまったのです。

  おじいさんは驚いて逃げようとしました。すると、「おじいさん、おじいさん。 やっとその人たちの本性がわかったんですね。」と犬のハナが話しかけてきました。おじいさんは驚いて狼の眉毛をかざしてハナを見ました。するとハナは、娘のように着物をきて、おじいさんを見ていました。ハナだけが本当の人間だったのです。

  「ハナ、すまん事をした。」
  亮助じいさんはハナの首にかけた縄をほどくと、ハナをつれて山奥へ走り去りました。それから、亮助じいさんは村に戻る事なく、山の中で人間らしく暮らしたそうです。

           「狼の眉毛。」
   
    「狼の眉毛。」もとのお話には、ハナのエピソードはなく、村の人の本性が動物だった事に失望したおじいさんは、山にはいって一人で生活する、というラストになっています。
  そのお話だと、死のうと思ったおじいさんに、もう一度失望させてしまい、人の本性は動物かも知れません、信じてはいけませんよ、と言う事になりかねないので、もうすこし違う受け取り方が出来るよう変更してあります。
  狼を神聖視する考えは古くからあったようです。山から里に降りて来て作物を荒らすイノシシなどは古くからいたようで、狼はそのイノシシ等を追い払う、ありがたい生き物だったのです。
 
  人を襲う事もあった狼ですが、今、生きていたらどう扱われているでしょうか。
  ◆補記
  眉毛?まつげ?
 辞典の方では眉毛で出ていますが、まつげとしている話も採集されています。