大工と鬼六。

今回のお話は「大工と鬼六。」です。

このお話、有名なわりに採取例はわずか七話、地域では六つしかありません。

岩手県胆沢郡、山形県最上郡、上山市の三話、最近になって岩手県紫波町の出身者から一つ、福島県信夫郡水俣町出身者から二つ、岡山県阿哲郡からの採取報告があり、計七話となったそうです。

すご〜く珍しいお話なんですよ。


「大工と鬼六。」

岩手の丹沢と言う所に流れの早い川が流れていました。

山からどっと水が流れ込み、少しの雨でも強い流れとなりました。

その流れは、橋を押し流し押し流し、何度橋をかけなおしても流してしまいました。

橋が無ければ市にも行けぬ。村の者も町の者も橋が流されるたびに、ずっと川の下に下って、浅瀬を歩いて渡りました。

渡って一日、帰るに一日、それは二日がかりの仕事でした。

弱った村の者は相談して、大工に頼んで流されない橋をつくってもらう事にしました。

話を聞いた大工の鴈治郎は村人の頼みを喜んで承知しました。

しかし承知したものの、不安になりました。

橋を流す川とはどんな流れなのか?鴈治郎は雨が降りはじめると橋の架かっていた淵に、川へ流れを見に行きました。

河の流れは初めは穏やかでしたが、あっという間に渦を巻きはじめると、ドウドウと音をたてて岸の岩にぶつかり、あちこちに身を当てながら川を押し下って行きました。

「こんな流れでは橋げたなぞ、いっぺんに流されてしまう。」

鴈治郎は雨の中ポツリとつぶやきました。<

次の日から鴈治郎はどうにかして水に流されない橋を建てられないかと、毎日壊れた橋のある淵に行き川の流れを見ては考え込んでいました。

すると川の淵のそこから泡がブクブクわき上がると中から大きな鬼が出てきました。

鬼は鴈治郎を見下ろすと、「何を困っておる?」と聞いてきました。

鴈治郎は鬼をにらみ返し、「ここに橋を架けねばならん。」と答えました。

「ブワッハッハッハッ!」

鬼は大きな声で笑うと、「わしが架けてやろう、ただしお前の目ん玉をもらうぞ。」と言って、また川の淵へと沈んでいきました。

鴈治郎は「鬼のヤツ、勝手な事を言いおって。」と、気に入らない様子で帰っていきました、

次の日、鴈治郎がでかけてみると淵の側には大勢の人が集まっていました。

なんと、そこには半分橋が架かっていたのです。

その橋は橋げたが無く、木をたくみに組んだ虹のような橋でした。

村人は鴈治郎を見ると、

「さすがに腕のいい大工じゃ、こんな不思議な橋は見た事が無い。」と口々にほめました。

鴈治郎は自分ではないとも言えず弱ってしまいました。

村の人が帰り、鴈治郎が一人になると、淵の底から泡がブクブクわき上がり、昨日と同じように大きな鬼が現れ、鴈治郎を見下ろしました。

そして「目ん玉はもらうぞ。」と言うとニッと笑って淵の底に消えました。

鴈治郎は驚きました。鬼は本気で自分の目玉を奪うかも知れない。

鴈治郎は恐ろしくなり、鬼がどうするつもりなのか見てみようと、その夜、淵へこっそり出かけてみました。

するとあの大きな鬼が、半分架かった橋のそばにたっていました。

鬼はどこからか引き抜いて来た木に爪を当てると、カンナのようにシャーッと削りました。

そして出来た材木をノコのような歯で切り、自分の髭を一本抜くとノミのように使い、木にほぞを作りました。

それは大工の鴈治郎の目から見ても出来の良い仕上がりでした。

鬼はふと手を止めると、隠れている鴈治郎の方を見ました。

「お前の目玉はもらうぞ。ただの、俺の名前がわかったら勘弁してやろう。」

鬼はそう言うと楽しそうにまた橋をつくりはじめました。

鴈治郎は家に飛んで帰ると、わずかな荷物をまとめ山奥に逃げました。

山を三つ越えると日が昇って来ました。

鴈治郎は後を鬼が追って来ないかと振り返り振り返り山道を走りました。

ちょうど、山道を駆け降りた時です。

葦原の中で声が聞こえました。

鴈治郎は慌てて身を隠し、耳を澄ませて、その声の主を探しました。

それは小さな女の子の声でした。女の子は鞠を突きながら唄を歌っていました。


    はぁやく鬼六 まなく玉。

    もってぇこぅばぁ えぇいなぁ。


鴈治郎はその女の子の顔を良く見ると頭の上に一本、小さな角がありました。はたと鬼の言う事が鴈治郎の胸に落ちました。

鴈治郎はそっとそこを離れるとあの淵へと向かいました。


淵には橋が架かっていました。

その橋は見事な出来栄えで、川の両岸を結んでいました。

鴈治郎が橋のたもとにつくと、淵のそこから泡がブクブクわき立ち、大きな鬼が現れました。

「わしの名前がわかったか?わからぬならお前の目玉をもらうぞ。」

鬼は鴈治郎を見下ろして笑いました。

「なんの、お前の名前なぞ。」と、鴈治郎は鬼を見上げて笑いました。

「ならば見事答えてみよ。」鬼は合わせるように言いました。

「橋を架けたは何処の誰。」

鴈治郎は唄うように言うと、鬼も答えました。

「みごとみごとに答えて見よ。」

鴈治郎は一息おくと答えました。

「答えられねば、まなく玉。子供にもって帰られる。」

 鬼はうっ!とうめくように身を引きました。

「橋を架けたは、鬼六!」

鴈治郎が大声で叫ぶと、大きな鬼は真っ黒なかたまりのようになって、淵の底へ消えていきました。


鬼が消えると鴈治郎はそこに座り込みました。

しばらくすると村の人が集まりでき上がった橋を見て大喜びしました。

鴈治郎はその橋を見て、「鬼のヤツ、良い仕事をする。」とポツリとつぶやきました。

         「大工と鬼六。」


このお話の特徴は、鬼が水の中から出現するという水神の性格を持つ点、化け物と問答をする、「化け物問答」の形式を取っていて、名前を言い当てると化け物を退治する事が出来る、という言霊の信仰・概念を持っている点、子供の歌う唄に謎をとく鍵がある、という点です。

さてこの「大工と鬼六。」、採取例がわずか七話と言う割に再話を試みる方の非常に多いお話です。

1962年の松居直さん、木下順二さん、坪田譲治さん、松谷みよ子さんと、そうそうたるメンバーが、リライトされています。

リライトした後になって、こんな資料を見つけるなんて、ちょっと早まったかも知れません。

なんか最悪。

◆補記

◇出典。
  関敬吾・日本の昔ばなし 岩波文庫版三 岩手県胆沢郡のもの。



           
 

だいくとおにろく 松居 直
赤羽末吉さん絵のこれ以上ないような絵本。

 

だいくとおにろく (単行本) 三田村 信行
小学生低学年向け民話集

 

 
 
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