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  歌う骸骨、その二
    「歌う骸骨。」は枯骨報恩譚のお話として世界的に分布しています。
  中国では「捜神記」侯光侯周説話、グリムでは「唄を歌う骨」KHM28が、同種のものとされています。

  歌う骸骨。」
    昔、緑豊かな国がありました。
  その国の北に深い森があり、その森から野猪(いのしし)が暴れ出て来ました。野猪は人の三倍もあり、鼻から肩まで黒いトゲのような毛で覆われ、鋭い牙が一本、口の左に生えていました。その野猪は夜昼と無く森から現れては、畑を掘り返し、鶏や羊を殺し、人を見るとその一本生えた大きな牙で腹を引き裂き、暴れ回ったのです。
  人々は野猪を恐れ、畑に出る事も出来ず、家の中に鍵をかけて閉じこもりました。次第に荒れていく国に王様は野猪に兵を送り退治しようとしましたが、森の中の野猪は悪魔のように神出鬼没で、ついに兵を一人残らず倒してしまったのです。王様は国中にお触れを出し、この悪魔のような野猪を倒した者に、たくさんの褒美をやると約束しました。
  しかし、王様の兵をことごとく倒した野猪に誰も立ち向かうものはいませんでした。困りはてた王様は、ついに一人っきりの姫君エリゼを、野猪を倒した者につかわすとお触れを出しました。

  その国の南にピエールとヨハンと言う二人の兄弟がありました。兄のピエールは、お姫様を迎える事が出来ればこの国が手に入ると思いました。弟のヨハンは、誰かがこの野猪を倒さなければこの国が滅びると思いました。二人はそろって王様の前に名乗り出ました。
  兄弟の前に王様とエリゼ姫が現れました。王様は二人に剣と鎧を与え、森の東側と西側から入り、野猪を追いつめるのがよかろうとおっしゃいました。
  二人は王様の言いつけ通り別々に森に向かいました。兄弟は慣れない鎧を着て重い剣を持ち、フゥフゥ言いながら森に向かいました。
兄のピエールは道端に座り込み、
「ヨハン、俺は少し休むから、お前は先に森の向こう側へ行ってくれ。」と、言いました。
弟のヨハンは、
「うん、僕はもう少し先に行くから、兄さんは少しやすんでいなよ。」と言って、またフゥフゥ言いながら歩いていきました。
兄のピエールは弟が見えなくなると、「あいつはやっぱりお人よしだな、遠回りしたら疲れて野猪を倒せないじゃないか。」と、にんまり笑いました。
  ヨハンはフゥフゥ言いながら森の向こう側へ歩いて行きました。そして、やっと辿り着いた時、ガチャンと音を立てて倒れてしまいました。しばらくしてヨハンは目を覚ますと、目の前に槍をもった小人が立っていました。
「お前、倒れていたぞ、どうしたんだ?」ヨハンは小人に話しました。
「これから森にいる野猪を倒しに行くんだけど、僕にはこの鎧も剣も重たいんだ。」
小人は「わはははは。」と笑いました。
「なんだ、そんなことか。じゃあこの槍とお前の重たい鎧と剣を交換しよう。この槍は森の中のどんなものでも一刺しに出来る。狼も野猪も簡単に倒す事ができるぞ。」
そう言って小人は槍を差し出しました。
「それにな、これを持っているともう一つ良い事があるぞ。」
「良い事?」
「ああ、ないしょだけどな。」
ヨハンは着ていた鎧を脱いで剣といっしょに小人に渡しました。
そして小人に槍をもらうと手を振りながら森に入って行きました。森の中は大きな木が延び、草がうっそうと茂っていました。倒れた木の上に、また木が倒れ、その上にコケやキノコが生え、草が覆っていました。ヨハンは、その中を歌を歌いながらズンズン進んでいきました。

  森の中をしばらく進むと、バキンと枝を踏み折る音がしました。
ヨハンが音のする方を見ると、肩まで黒い毛に覆われた大きな野猪がいました。野猪は口からよだれを垂らし、一本の大きな牙をフ〜フ〜言わせ、ヨハンを睨んでいました。
そして一声「ブォー!」と叫ぶと、倒れた木をはねのけながらヨハンの方に突進して来ました。
ヨハンは槍をかまえました。すると、野猪はその槍にぶつかるように走ってきて、自分からズブリと串刺しになり、ゴロンとました。
  ヨハンは動かなくなった野猪をかつぐと森から出て行きました。

  兄のピエールは、まだ森の外で休んでいました。すると森の中からヨハンが黒い野猪をかついで、森から出てきたのです。それを見たピエールは、自分が倒すはずだった野猪を弟に倒され、腹が立って腹が立って仕方ありませんでした。
ピエールはヨハンの先回りをして隠れると、歩いてきた弟に大きな石で殴りかかり、殺してしまいました。そしてピエールは弟を橋の下に投げ捨て、埋めてしまいました。
ピエールはにんまり笑いました。目の前には黒い野猪がありました。ピエールは黒い猪をかつぐと、お城に上がり、王様の前に差し出しました。
  王様は黒い野猪を倒した兄のピエールを喜んで迎え入れました。そしてエリゼ姫の婿に迎えようとしましたが、エリゼ姫は結婚式に、大変作るのに時間のかかるベールを父の王様に頼みました。
  エリゼ姫は黒い野猪の頭の傷が剣で出来た傷ではないと見抜いていました。黒い野猪の体には剣の傷が無かったのです。
「あなたの弟のヨハンは今どこにいるのですか?」
エリゼはピエールに聞きました。
「さぁ、この野猪が怖くなって逃げたんじゃないかなぁ。」
ピエールはそうシラを聞きました。
エリゼはピエールが何か嘘をついていると思ったのです。

  兄のピエールは早速、姫のベールを注文しました。そのベールは一年の後、お城に届けられる事になりました。ピエールはお城に住みつくと、まるで王様になったように振る舞いはじめました。みんな黒い野猪を倒した男が怖かったのです。今度は人間の顔をした野猪が現れたのでした。

  それから半年後の事です。
黒い野猪が退治されて国の人々はもとのように畑に出て働いていました。子供の羊飼いが羊を追って橋の下に降りた時です。砂の下に真っ白な光る小さな骨を見つけました。
  この骨なら、羊を追う時吹く角笛の口に合いそうだったので、子供の羊飼いは小刀で細工をして角笛につけて吹いてみました。すると骨は自分から歌を歌い出しました。

  黒いイノシシ大暴れ、国のみんなは大弱り。
  お城の兵もかなわない、そこで王様お触れ出す。
  倒した者に姫をやる。
  二人の兄弟名乗り出て、鎧と剣で森へ行く。
  弟、小人に槍もらい、黒いイノシシひと刺しに。
  イノシシかついだ弟は、兄に石で殴られて、
  橋の下に埋められて、姫のもとへと行きました。

  子供の羊飼いはびっくりして、その骨をお城に持っていきました。歌を聴いた王様とエリゼ姫は、すぐに兄を捕らえました。うそつきを誰も恐れる事はありませんでした。
  エリゼ姫は橋の下を掘り返しました。
穴の中には、槍をもって骨となったヨハンがいました。エリゼ姫はその骨を棺に納め、小さな骨をもとに戻しました。すると、槍が光り、骨になったヨハンが蘇ったのです。
  ヨハンはエリゼ姫や大勢の人がまわりにいて、びっくりしましたが、ああ、これが小人の言っていた良い事だな、と思いました。    

  槍をもったヨハンは王宮に迎えられました。
その後、森から、怪物のようなイノシシが現れる事は無くヨハンはエリゼと共に豊かに国を治めて行きました。
                    「歌う骸骨。」
   
    グリムの「歌う骸骨」は、主人公を骨の主としている点が、特徴的です。報恩の部分が無く、主人公が殺されるいきさつと復讐譚の部分で構成されています。

  日本のものは、
「日本霊異記」上巻 第十二
  人・畜ニ履まれし髑髏の、救う収めらえて霊しき表を示して、現に報いし縁
   (けものにふまれしひとかしらの)(あやしきしるしを)
「日本霊異記」下巻 第二十七  
  髑髏の目の穴の笋を掲キ脱チテ、以て祈ひて霊しき表を示しし縁
     (タカンナをぬきはなちて)ータカンナ=たけのこ
の二つ、そして、死んでもドクロの舌が腐らず経を読んだという骸骨誦経のお話
「日本霊異記」下巻 第一
  法花経を憶持せし者の舌、曝りたる髑髏の中に著きて朽ちずありし縁
     (おくじ)  (さりたるひとかしらのなかにつきて)
があり、上巻第十二は、「扶桑略記」孝徳天皇の条収説話「巳上異記」「今昔物語」第十九第三十一話のもとになっているとされています。
  日本のものはドクロが霊となって現れる日を必ず十二月の晦日としているのも特徴となっています。

  年の終りに奇跡が起こる、年の終りに福徳を得る、という考えは、ここにも息づいているようです。
  ◆補記
  出典その他。
  日本昔話「春の野路から。」「骸骨の歌。」 グリム童話集「唄をうたう骨」KHM28
  今回のお話は、グリム童話をもとにリライトしています。
  原本では残念ながら主人公は生き返りません。

その他の枯骨報恩譚。
  「今昔物語」巻十第十四話
  「三国伝記」巻十二第十五話
  「幻夢物語」
  「奇異雑談集」巻一第六話
  「拾遺記」
  「述異記」
  「捜神記」
  「後漢書」