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十月ー亥の子突きと動物のお話。


 十月ー亥の子突きと動物のお話。 おくんち。 亥の子祭り。 亥の子突き。 
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 しっぺい太郎の猿神退治。 日本の猿神伝説。 中国の猿神伝説。

 
  日本の猿神伝説。
    六月十一日発行第二十六号に「しっぺい太郎の猿神退治。」をお送りしたのですが、皆さん覚えておられるでしょうか?
  後になっていくつか出てきましたので、追加分をお送りします。
  「しっぺい太郎。」の物語は人身御供説話の中の猿神退治説話に分類出来ます。この説話は、人身御供を求める神を旅人(僧、武士、猟師など。)が退治する物語を、特定の神社に結びつけて語ったもの、とされています。 
  「今昔物語集」巻二十六第七、(美作国神依漁師謀止生贄語第七)では、美作国、現在の岡山県津山市中山神社の説話として、また「今昔物語集」巻二十六第八、(飛騨国猿神止生贄語第八)では、飛騨高山の山中にある異界の神社の説話として、また早太郎伝説では、遠江国府中、現磐田市見付地区の天満神社に怪物が住みつき、長野県駒ヶ根市赤穂の光前寺の縁の下で生まれた山犬の子、早太郎が倒す、という結びつけがされています。

  「飛騨の猿神。」
 

  北陸へ向かって旅をしている男がいました。
  都で立ち行かなくなり、越後にいる縁者を頼って行く途中でした。どこをどう間違ったのか、家仁はいつの間にか山に入り込み、人家を探して歩けば歩くほど、山深く迷い込んで行きました。困った家仁は山の中で一夜を明かし、日が昇ると川沿いに下っていきました。木の葉の積もった山の斜面を滑るように歩いていくと、目の前に大きな滝が行く手に現れました。引き返そうにも道はなく、家仁は濡れた岩に手をかけ滝つぼに落ちないよう、ゆっくりと向こう側へと進みました。
  すると不思議な事に家仁のいる場所から下の方を荷を背負った男が歩いて行き、ごうごうと流れ落ちる滝の中へと消えていきました。家仁は不思議に思いながら、男の通った道に滑り降りると、男の消えた滝の辺りを探りました。
  そこには洞窟があり、その中を進むと、山の斜面に出ました。坂の下には人家が建ち並び、その向こうには田や畑がゆたかに広がっていました。家仁はどこかで食べ物をわけてもらおうと降りて行くと、さっきの荷をかついだ男に追いついたのです。
その男は家仁を見るとあっと驚いたような顔をしましたが、
「山道をさぞ難儀された事でしょう。 どうか私共の家でおくつろぎくだされ。」
と家仁の手を取り、引っ張っていきました。
家仁はなにがなんだかわからないまま村の中に入りました。
すると大勢の人が出てきて、二人にまとわりつき、
「その方はどうされたのか?」と口々に訪ねました。
荷をかついだ男は、
「わしの家のお客人じゃ。これから我が家に逗留していただくのじゃ。」と、
嬉しそうに言い、自分の家に連れていきました。

  男の家では、家仁の来る事を知っていたのか、大勢の使用人が門の所で、出迎えました。男は家仁を家の中に招き入れると、自分の娘を男の側に座らせました。
  娘は佳志野と言う十八になる娘で、顔も姿も美しく、着飾った姿は公家の娘にひけを取りませんでした。娘は家仁を自分の夫のようにせっしました。
「ただ道であった私に、なぜこんなにしていただけるのでしょう?」
娘は少しうつむき、それから
「ここでは外からきた方が珍しいのです。」と答えました。
男は家仁の前にご馳走を並べ、まるで婚礼のようにもてなし、娘はご馳走が終わっても、家仁の側を離れず世話をしたのです。
夜になって娘が家仁の側を離れたすきに、主人がやってきて、
「娘はどうでしょう?」と聞きました。
「気の利くよい娘さんです。」と家仁が答えると、主人は顔をほころばせて、
「あの子もそろそろ年頃です。出来ればよい婿を迎えたいと思っていたのですが、どうでしょうか?」と家仁にたずねました。
家仁は京の町にいる時、閉ざされた山里や島では、近親結婚を避けるために外から来た男を迎える風習を聞いた事がありました。そういう事だったのか。家仁はやっと納得がいきました。
  
  家仁は村の中を歩き見て回りました。
佳志野は家仁について田んぼや畑、川や山を案内しました。山の中ではありましたが、田んぼも畑も充分にあり、魚も捕れ、狩りも出来ました。暮らし向きに不自由する事も無く、自分にもやっていけそうな場所でした。
越後の縁者を頼って暮らすより、ここでこの娘と生きた方がよいのではないか?
家仁は屋敷に帰ると男に頭を下げ、入り婿になりました。

  家仁は家の仕事を手伝い、使用人と一緒になって田んぼや畑へ出ました。
慣れない事もありましたが、佳志野は家仁につきっきりで、知らない事や出来ない事を、教え手伝いました。何もかもが楽しい出来事でした。家仁は月日を重ねるうち、佳志野の自分への愛情の深さを知りました。お互い何も知らないまま夫婦となりましたが、今では深い愛情を持つもの同士となっていました。そしていつしか八ヶ月が過ぎ、妻の様子が沈んできました。
明るく振る舞っているのですが、なぜか悲しげに見えるのです。そのうち里のものがバタバタと何か準備をはじめるようになると、佳志野は涙ぐむようになったのでした。家仁は佳志野に何か心配事があるのか?とたずねました。それでも妻はただ泣くばかりでした。
「楽しい事も嬉しい事も、つらい事も苦しい事も、どんな事があっても、二人で分かち合えると思っていたのに、なぜ、一人だけで悩み話してくれないのですか?」
家仁の言葉に佳志野は、
「どうして、隠し事などしたいと思いましょう。あなたを深く愛さなければ、あなたをただ他所の国の方と思えれば、こんなに悲しい思いをする事もなかったのに。」
と言うと、泣き伏してしまいました。
「この国には恐ろしい神がお在りになるのです。毎年、一つの家に白羽の矢がたち、その家から生け贄を出すのです。今年は私の家に白羽の矢が立ちました。もし、あなたが来られなければ、私がその生け贄になるはずだったのです。」
家仁には何がなんだかわかりませんでした。
「父は私の代わりに誰か身代わりになってくれるものを探しに、滝の向こうへ行ったのです。もうじき、生け贄を出す時期が来ます。でもその時には、あなたではなく私が生け贄になろうと思っています。ただあなたと別れなければならない事がつらいのです。」
家仁は目の前で泣く妻を前にしばらく考え込んでいたようでしたが、妻の肩を抱いて起こしました。
「生け贄はどんなふうに行われているのです?」
佳志野は問われるままに答えました。
「生け贄となるものを裸にして櫃にいれ、山の上にある祠の前に置くのです。運び込んだ人が帰ってしまうと、神様が現れ食べてしまわれるのです。もし、生け贄が痩せていたりすると、田畑があれ、病人が出て、里のものに災いがふりかかるのです。」
「その神様を見た人はいるのですか?」
「噂では猿のような姿で現れると聞いております。」
家仁は少し考えた後、
「私によく切れる刀を持ってきてくれませんか?」
と言いました。
佳志野はすぐ刀を持ってきました。家仁は刀を念入りに研ぎ、その日のために隠し持っていました。

  生け贄を山の祠に差し出す日となりました。
家仁は佳志野の手伝いで身を清め、髪を整え、身だしなみを整えると、舅と一緒に山へ出かけて行きました。佳志野は門のところで二人を見送ると、家に入って夫の無事を祈りました。
  家仁は祠の前に着くと、自ら服を脱いで櫃の中に入りました。村のものは櫃の四隅に榊を立て、まわりにしめ縄をはると、急いで山から駆け降りて行きました。
  櫃の中には刀がしのばせてありました。家仁は刀を握ると、神がやって来るのを待ちました。

  櫃の中は真っ暗で何も見えませんでした。カラスの声が聞こえ、次第に空気が冷えて来ました。
日が沈んで行くのがわかりました。
櫃の向こうで草むらがガサゴソと音を立てました。
その音は四方からゆっくりと自分の入っている櫃の方へ近づいてきました。
家仁は飛び出すチャンスをうかがっていました。
周りの音がぴたっとやみました。
そしてひとつ、何かが櫃に近づいてきたのです。

  家仁は櫃を飛び出すと、鞘に収めたままの剣を、目の前のものにぶつけました。
それは「ぎゃ!」と声を上げてその場に気絶しました。
猿でした。
確かに普通のものより大きく年をえていましたが、猿だったのです。
「・・・やはりそうか。」
家仁はまわりにいる猿を睨みつけました。突然、何匹かの猿が飛びかかってきました。しかし家仁は一匹をたたき伏せ、もう一匹の足に一撃を加えました。二匹の猿が地面をのたうち回りました。猿達はどよめき、遠巻きに家仁を囲みました。
「次は切るぞ。」
家仁はそう言うと剣を抜き、しめ縄を切り落としました。
そしてその縄で、倒れている大猿の手と首をしばると、頭を思いっきりけとばしました。
大猿はぎゃっと声を上げて起き上がりました。
家仁はかまわず大猿を蹴り上げました。
大猿は蹴られるたびに逃げ回りましたが、縛られたまま逃げる事も出来ませんでした。
猿の群れは自分たちの大将が痛めつけられる度におびえてじりじりと離れて行きました。
そのうち大猿は頭を抱えて座り込んでしまいました。
「ついてこい。」
家仁は猿を引いて村へ降りて行きました。
猿の群れは遠巻きに大猿と家仁の後をついていきました。

 村では家仁が大きな猿をつれて山から降りてきたので大騒ぎとなりました。
佳志野は裸のままの家仁に駆け寄り、服を着せました。
村の人が二人を遠巻きに囲んでいました。
猿神を恐れていたのです。
「村の方々! この猿は神ではありません。 年をえて大きくなっていますが、神などではありません。牛や馬と同じく、人の自由になるものです!」
そう言うと家仁は大猿を叩きました。
大猿は再び「ぎゃっ!」といって頭を抱えました。
「村のものにわびをいれよ。」
大猿は恐れて何もしませんでした。
「わびをいれぬか!」
家仁は大猿を殴りつけました。
「わびをいれよ。」
 大猿は頭を地面にこすりつけ、泣きました。
村の人は猿神が頭を下げるのをみて、どよめきました。
「もう猿神などと恐れる事はありません。人に害を与えるのなら、退治すればよいのです。」
そう言うと家仁はまた大猿を殴りつけました。人を何人も喰い、長年にわたって村を困らせた猿でした。
「もし再び村や人によからぬ事をするようなら、きっと叩き切ってやるからそう思え。」
家仁はそう言うと大猿を話してやりました。大猿は遠くで見ていた仲間の元にヨタヨタと転がりながら逃げ込むと、そのまま消えて行きました。

  次の日、家仁は村の人たちと祠を焼き払いました。猿達は二度と姿を見せる事は有りませんでした。心の中で猿におびえる村の人のために、家仁は滝の向こう人をへやり、犬の子を求めて里で飼いました。
  猿は犬を恐れると知った村の人は、家仁と佳志野から犬の子をもらい、里でどんどん増えて行きました。やっと里では平安な暮らしが訪れました。
  家仁は里の人と田んぼや畑の仕事をし、大勢の使用人を使い働きました。

  里から滝の穴を通り、時々こちらに必要なものを求めて、やって来るものがあるそうです。
その者たちが言うには、そののち、家里と佳志野は仲むつまじく暮らしたということです。

                        「飛騨の猿神。」

   
    日本の猿神退治の物語は明治時代になって、宮本武蔵のヒヒ退治譚、岩見重太郎の狒々退治退治譚となっていきます。岩見重太郎の狒々退治は立川文庫中に見る事が出来ますが、伝説とされている場合もあるようです。
  猿神退治の主人公は、今昔物語では猟師と犬、回国の僧が主人公であったものが、犬を主人公にすえたもの、有名な武士を主人公にすえたものに変化していったようです。
  ただ、どちらも人身御供を求める大猿が退治される点は変わらないようです。

  ◆補記
   ◇出典その他。
  「今昔物語集」巻二十六第七、(美作国神依漁師謀止生贄語第七)は、「宇治拾遺物語」第百十九(吾妻人、生贄をとどむる事)と同じ説話。今回のお話は、「今昔物語集」巻二十六第八、(飛騨国猿神止生贄語第八)をもとにリライトしています。
◇岩見重太郎の狒々退治退治譚。
 立川文庫。岩見重太郎国常明神社にて狒々退治。
 信州松本在吉田村で甲羅を得た狒々をひとりで退治したお話。
◇確認出来なかったもの。
 ○宮本武蔵の狒々退治。
 ○十返舎一九?怪物興論?犬猫奇談?しっぺい太郎の創作が有り。
  哲学堂文庫内に有るはず。
◇哲学堂文庫
  東洋大学の創立者、井上円了が哲学堂公園に設置した図書館。
  江戸時代の国漢書・仏書の図書21,193冊を指す。