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三月ー花と少女の物語。
 
  風の神と花神
    中国の風を司るものは、風師、灌の右側と風を合わせた漢字に師でふうし、風伯の三つの呼び名があります。
  これはいわゆる役職名で、風の神そのものの名は、飛廉(ひれん)、箕星(きせい)・別名を巻舌(けんぜつ)と呼び、これが動くと大風が起こるとされていました。巽二(そんじ)、封姨(ぼうい)、十八姨(じゅうはちい)、孟婆(もうば)と言う風の神の名も見えます。また鐘山(しょうざん)に燭龍(しょくりゅう)という神があり、この神の息が風である、ともされています。
  神的な怪物としては、獄ほう山という山に山揮(さんき、揮は犬辺)という獣が、棲んでいて、風のように歩き、この獣が現れると風が吹き出すと信じられていました。また、屈県(くっけん)にある風山(ふうざん)の山の上に輪のような一つの穴が開いており、これが風の起こる門だと言われています。

  十八姨。
 
  ある所に崔玄微(さいげんび)という道士がいました。
  玄微は霊草を服用し、広い庭をつくり、草花や薬草を育てていました。ある時、呑んでいた霊草が無くなったため、霊草を求めて崇山(すうざん)奥深くに分け入って行き、そして一年の後、わが家に帰ってきたのです。

  一年ぶりのわが家は春の花で満開でした。玄微は花園の見える縁台に座り、一人酒を飲み、ながめていました。柘榴の木を中心に草花が寄り添い、咲き誇っていました。風が清くながれ、月が和やかに花園を照らしていました。
  玄微がうとうととしていると、どこからか青い衣の乙女が現れ、玄微の前に立ち一礼しました。
「連れと一緒に十八姨(じゅうはちい)のところに訪ねて行くところですが、しばらくの間ここで休ませていただけませんか?」
玄微は、こんな若い娘を夜更けの道に置いておく事も出来ずこころよく承知しました。  すると十数人の乙女が玄微の庭に入ってきました。橙の衣を着た少女たちは玄微に礼をし、緑の裳(もすそ)を来た乙女は楊氏(ようし)と名乗り、緋色の裳をきた淑女は阿措(あそ)と名乗りました。あたりには花の香りが芬々と漂いました。
すると門の外で十八姨が来たと声がしました。
「まぁ、大変。 玄微様、あつかましいお願いですがこのまま座を御貸しいただけませんか?」
阿措は困ったように玄微に頼みました。
「ここでよければ、お使いください。」玄微がそう答えると乙女達は頭を下げると、いそいで宴の準備をし、十八姨を迎えました。
十八姨は灰色の服を着た老女でした。
玄微はこの老女と阿措達はどんな関係なんだろうか?と見ていました。十八姨は座につくと乙女達が舞い、阿措と楊氏は十八姨をもてなしました。しかし老女は無表情に自ら酒を杯につぎ飲みはじめました。尊大な態度でした。
老女はわざと酒を杯からこぼしました。それは阿措の緋の衣を汚しました。
阿措の顔がこわばりました。
「皆さんはおばあさんを怖がって、ご機嫌を取りますけれど、わたくしは皆と同じではありません。少しお気をつけなさい。」阿措はそう言うと席を立ちました。
楊氏や他の少女たちはざわめき立ちましたが、十八姨が南の方へと立ち去ると、玄微に一礼するとそろって花園の方へ消えていきました。

  翌日、月が昇ると、あたりには昨日と同じように、花の香りが芬々と漂い乙女達が現れ、玄微に一礼をしました。
「昨日は大変お世話になりました。今日はもう一つお願いに参りました。」
阿措はそう玄微に言いました。
「私に出来る事ならお手伝いしましょう。」
玄微は昨日の阿措の毅然とした態度に好感を持っていました。
阿措は玄微の言葉に微笑み、続けました。
「私たちはあなたのお屋敷の庭に住むものです。毎年、この頃になると大風に悩まされ困っておりました。いつもなら十八姨様にお願いするのですが、今年はそれもかないません。」
「私に風を操る事は出来ません。」
玄微は少し困りました。
「いいえ、お頼み申し上げる事は、誰にでも出来る事なのです。」
阿措は玄微を困らせないよう続けました。
「毎年、日月五星を描いた赤い旗をこしらえ、お屋敷の庭の東に立てていただければ、それで風の害を免れる事が出来るのです。」
「そんなことでよいのなら、お安い御用です。」
玄微がそう答えると、阿措達は深くお辞儀をして花園の方へ立ち去り、昨日と同じように消えました。玄微はその夜のうちに旗をこしらえ、花園の東に立てました。

  明け方の事です。
にわかに雲が起こると、風が吹きはじめました。砂を巻き上げ、風が玄微の家の戸を叩きました。玄微は庭が心配で外に出て庭に行きました。空にははげしく雲が動き、巻き上げられた木の葉や、折れた木が飛んでいきました。しかし、玄微の庭の花々は風にはぴくりとも動きませんでした。
赤い旗がぱたぱたとはためいているだけでした。
「この旗が効いたのだな。」
玄微は、赤い旗が倒れないよう、風が止むまで番をしました。雲は灰色の渦を巻き風を起こし続けました。しかし、玄微の庭にはその風は届かなかったのです。

  一日中荒れ狂った風は、夜更けにはやみ、昨日と同じように夜空に月が浮かんでいました。そして花の香りが芬々と漂うと、いつものように乙女達が現れました。乙女達はそれぞれに盆いっぱいの桃やスモモの花を載せ、玄微にさし出しました。
「どうぞ、これをお飲みください、そうすればいつまでも健やかにお年を召されませんから。」
玄微は乙女達から花を受け取りました。
乙女達は深々と頭を下げるといつものように花園に消えていきました。
玄微は阿措が柘榴の花神、そして他の者たちも花々の精なのだと思いました。

  玄微は乙女達の言う通り、花を飲みました。不思議な事に玄微は年を取る事はありませんでした。
  そしていつまでも若々しく過ごしたと言う事です。

                「十八姨(西陽雑俎)」
   
    聊斎志異に花と風の神のお話「花神」があります。
  「花神」は夢の中で聊斎志異の作者、聊斎が花の神・絳妃(こうひ)に招かれ、封十八姨という風の神と最後の決戦をするので檄文を書いて欲しいと頼まれ、檄文を書いた、というお話です。
  この中での風の神は封十八姨(ほうじゅうはちい)と呼ばれ、花神・絳妃に婢(はしため)とさげすまれています。
  さて、最後の決戦はどうなったのでしょうか?
  残念ながらその物語には、その後の事は何も書かれていません。花と風の争いは、いまだに決着がついていないのかも知れません。
  ◆補記
  ◇西陽雑俎1〜4
  著/今村与志雄 訳注/平凡社/1980-81発行/\7,500
  東洋文庫382・389・397・401
  現在入手困難な本になっていますから、古書店などで見つけたらゲット!
◇出典。

  飛廉(ひれん)ー呂氏春秋(りょししゅんじゅう)
  飛廉(ひれん)箕星(きせい)ー楚辞・風俗通義
  巻舌(けんぜつ)ー荊州星占(けいしゅうせいせん)
  巽二(そんじ)ー幽怪録
  封姨(ぼうい)・十八姨(じゅうはちい)ー西陽雑俎(ゆうようざっそ)
  孟婆(もうば)ー潜確類書(せんかくるいしょ)山海経(さんかいきょう)
     天界の女が江に遊ぶ時、出入りに必ず風を伴っていた、故に天界の女を孟婆と言う。
     ー山海経による説明。
  燭龍(しょくりゅう)ー括地図(かっちず)
  山揮(さんき、揮は犬辺)ー山海経(さんかいきょう)
  屈県(くっけん)、風山(ふうざん)ー水経注(すいけいちゅう)
  ※他に折丹とも、また単に「少女」とも呼ばれているそうです。
 
   
◇ギリシャ神話の風の神。
  ギリシャ神話では、
  東風の神をエウロス、
  西風の神をゼピュロス、ファウオニウス、
  南風の神をノトス、アウステル、
  北風の神をボレアス、アクィロとします。
  風は、霊、または宇宙の息吹を象徴し、
  生命を維持し分裂させずに保つ、霊の力を意味しています。
  また神々の使者ともされています。
  基本的に善きもの、と考えられているようですね。
 
◇ザクロ・石榴・柘榴。
  「十八姨」のお話は春、となっているのですが、日本の柘榴は秋に実をつけます。 大風も春の嵐を指しているのか、秋の台風なのか、判別しにくいようです。 春か?秋か?ちょっとクエスチョンがつくお話です。
 

 

 
 
聊斎志異は怪談と言うよりロマンティックな話が多く、日本の怪談のようなジメジメした恐ろしさはありません。 女性向け。 
 
   
 

全話完訳本。
買うならこれ、お勧め
。(自分はこれの初版、印刷の質が悪かったんだけど、今のはどうかな?)

岩波文庫版は、全491編から92編を選んで上下巻にまとめたもの。 五百近く話があるため、完成度の高いものが選ばれてると思います。 値段的に二冊買うなら・・・う〜ん、です。