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九月ー重陽の節句とお月見。
 
  風の神と子供。
    「風の神と子供」を最初に知ったのはアニメ「おんぶおばけ」の中だと思います。
  「おんぶおばけ」はご存知無いですね? 「おんぶおばけ」はアニメ「日本昔ばなし」より以前に放送された、昔話をテーマにしたアニメ作品なんです。原作が「ふくちゃん」などで有名な四コマの故横山隆一さんということで、昔ばなしをベースに
敷いたリライトの見本みたいな良質な作品でした。
  「風の神と子供」では村の子供が風の神さまに連れられ、どこかわからない秋の山に出かける、一種の神隠しのようなお話です。登場する風の神様は南風と北風で、日本ではすこしめずらしい?神様です。いないんですよね、日本に南風と北風の神様は(笑)。
  日本での風の神様にあたる方は、天部衆の風天と風神雷神の風神様です。
  風天はもともとヴェーダ三神(火・水・風)の一つで、仏教の中に取り込まれ密教の入り、金剛界・胎蔵界に描かれるようになりました。風神は風袋を背負う鬼の形で表現され、雷神とともに千手観音二十八部衆の中にみられます。
  風神の絵画で有名なものは、建仁寺の風神雷神図屏風は十七世紀俵屋宗達のもの。仏像としては、浅草浅草寺雷門に安置されているものがよく目にされるているものだと思います。
  「風の神と子供。」
 
  村のお堂の前で、四人の子供が遊んでいました。
  新太と広助、美夏は同じ六つで、生まれた頃から何をするにも一緒でした。新太の弟じろ坊は、まだ小さな子でしたが、三人の後をちょこちょこ一生懸命ついてまわっていました。
  朝晩涼しくなりましたが、村はまだ夏のようで、走ると汗がうっすら浮かびました。お堂のそばにある湧水はつめたくて、持ってきたトマトが冷やしてありました。案山子が終わると、新太達は思い出したようにトマトを手にしました。

  南からゴウッと風が吹いてきて、木立を揺らしました。  
すると木の上から、
「君たち、その唐ナスビ(トマト)を、この夏ミカンと換えてくれないか?」と声がしました。
見ると木の上に、長い着物を着た若い男がいました。
男は木の上からふわりと飛び降りると四人の前に大きな夏ミカンを差し出しました。じろ坊が男にすっと唐ナスビを差し出すと、新太達も唐ナスビを差し出しました。男はそれを夏ミカンと交換すると、冷えた唐ナスビをぱくっと食べました。
「ああ、うまい。よく冷えた唐ナスビだ。」
男はそういいながら唐ナスビを四つとも食べてしまいました。男が交換してくれた夏ミカンはこのあたりでは見なれないものでした。新太達は一つだけ皮をむいて四人で分けて食べました。
「残りの三つは食べないのかい?」 
「うん、母ちゃん達に持って帰るんだ。」じろ坊が答えました。
「そうか、良い子だな。」
男はあたりを見まわしました。あたりには果樹などなく、栗や柿もまだなっていませんでした。
「どうだ?栗や柿や梨がどっさりなっている所があるぞ、取りに行くか?」
新太達は顔を見合わせたあと、そしてみんなで大きくうなずきました。
男は自分の着物の袖を子供たちに持たせました。
「しっかり、つかまってるんだぞ。」
男がそう言うとゴッと風が巻き、男と子供たちは空に舞い上がっていました。お堂や村が小さく見えました。
「さぁ、行くぞ。」
男は四人を連れて、風に乗って飛んで行きました。山をいくつも越え、雲を追い抜いて、いつのまにか山の色は赤や黄色の秋の色になっていました。その中に男と四人はふわりと降りました。
あたりには栗や柿や梨の木が一面になっていました。
地面をみるといろんなキノコが生えていました。
「さぁ、好きなだけもいでいいぞ。」
新太達は柿をもぎ、梨を採りました。栗は手の届かない所にありました。じろ坊がどこからか棒を持って来て、いがぐりを落とそうとしましたが、棒は届きませんでした。男が笑って袖を振ると、風がゴォッと起こり、木が揺れていがぐりがボトボトッと落ちてきました。じろ坊はイガを踏んで栗を取りました。
  柿や梨、栗を取り終えると四人はキノコを取りはじめました。シメジやナラタケ、エノキタケ、マイタケやナメコ、森の中はキノコでいっぱいでした。
「しまった、用事を忘れていた。」不思議な男が声を上げました。
新太達はキノコを取るのをやめて男を見ました。
「俺はこれから一仕事してくるから、君たちであの向こうの山の家に行ってくれ。 いいかい?風に乗って連れてこられたと言うんだぞ。」
「え?」
新太達は驚きました。しかし、男はゴウッという音とともに空の向こうへ飛んで行ってしまいました。

  あたりはいつの間にか夕暮れになっていました。男の指さした方向にはポツンとあかりが一つ灯っていました。じろ坊が急に「うわ〜ん。」と泣き出しました。美夏がじろ坊に駆け寄りましたが、新太も広助もやはり泣きたくなりました。
「どうする?」広助は新太に聞きました。
新太は向こうの山の灯を見ました。道はわかりませんでした。 ここがどこかもわかりませんでした。
「あの山の家までいこう。」  
他に方法が無かったのです。
新太は柿を、広助は梨を、美夏はキノコを、じろ坊は栗を持ちました。そして薄暗い山道を歩きはじめました。
日がどんどん落ちて行きました。木々が黒く頭の上を覆っていました。足下の枯れ葉がカサカサ音を立てました。山道は寒く、冷えていきました。
  しばらくすると日が沈んで真っ暗になりました。じろ坊がしくしく泣き出しました。見えていたはずの家のあかりが、いつの間にか見えなくなっていました。新太達三人はどうしていいかわからなくなりました。
  遠くの方で何かが動きました。新太達が目を凝らして見ると、何かの光がゆらゆら、ゆらゆら動いています。
「あれ、なんだろう?」広助がおびえたように聞きました。
その瞬間、ゴウッっと突風がふいて、あたりの落ち葉を巻き上げました。四人は「うわっ!」っと目をつむりました。しかし風は一瞬で、巻き上げた落ち葉がパラパラ落ちてきました。四人が目を開けると、光が二つ、目の前にありました。新太達は驚いて身を寄せ合いました。
「あれまぁ、里の子が迷い込んでおる。」
「ほんに、里の子じゃな。」
目の前に提灯を持ったおじいさんとおばあさんがのぞき込んでいました。

  四人はお爺さん達に連れられて、山の小屋に行きました。新太はあの男の言ったとおり、「風の乗って連れてこられた。」と言いました。
するとおじいさんとおばあさんは、
「あんにゃの仕業じゃったのか。」
「子供と遊んで、仕事を忘れていたのに気がついたのじゃろう。しかたのないあんにゃじゃ。」
おじいさんとおばあさんは四人を囲炉裏のそばに招き、おいしいご馳走をしてくれました。山の中のはずなのに、活きのいい海の魚のお鍋と、きのこや牛蒡やレンコンや、いろんなものの入った五目ごはんでした。四人はお腹いっぱい食べました。
「おとにゃ、おとにゃ。」
おじいさんが屋根の向こうへ誰かを呼びました。ゴウッと音がしました。
「とうさん、なんだい?」
そう言って若い男の人が入ってきました。自分たちを連れてきた男と同じように長い着物を着ていました。
「すまんがこの子達を里まで連れ帰ってくれ。」
「ああ、いいよ。」
若い男はそう言うと外にでました。
子供たちは若い男のそばに駆け寄ると、着物の袖をしっかり握りました。
「さぁ、帰ろう。」
若い男がそう言うとゴッと風が舞い、四人は空に舞い上がっていました。そしてビューンと雲を吹き飛ばして飛んでいきました。

  しばらくすると四人は村の中にいました。
「新太!じろ坊!」
「広助!」
「美夏!」
四人のお母さんと、お父さんがいました。四人は「母ちゃん!」と駆け寄りました。
「あんた達は今までどこに行ってたんだい?」新太はお母さんに叱られました。
「柿や梨や栗やキノコを取りに行ってたんだ。」
そういって四人は自分の取った柿や梨を見せました。あんなにたくさん取ったのに、ほんの少ししか持って帰れませんでした。
「すこしになっちゃったね。」
「ん。」
新太も広介も見夏もじろ坊もしょんぼりしました。
「ボクたち、忘れ物だ。」
どこからか声がすると風がビュオンと巻いて、また夜空に飛んでいきました。目の前には、四人が取った柿や梨・栗やキノコがどっさり、そしてカゴいっぱいの海の魚がありました。
「僕たちの取った柿だ!」
「梨だ!」
「栗だぁ!」
「キノコよ!」
お父さん達もお母さん達も驚きました。
四人は夜空に向かって手を振りました。
風が北へと帰って行きました。
                「風の神と子供。」
   
    このお話は分類すれば異境訪問譚となるのですが、訪れた場所に不思議な果物がなっているわけでもない、子供たちの住む場所と陸続きのような、まだ秋の訪れない場所から秋深くなった場所に行ったような、遠足にでも行ったような感じのお話です。
  その点がこのお話の味なんだと思います。
  ◆補記
  おんぶおばけ 原作 横山隆一 YTV 1972/10/05〜48/03/29放送。
まんが日本昔ばなし(一期) MBS 1975/01/07〜1975/03/25
 まんが日本昔ばなし(二期) MBS 1976/01/03〜1994/08/28 全39シリーズ 952回 全1467話
 まんが日本昔ばなし(最新) MBS 2005/10/19〜
 初期作品を中心にデジタル・リマスター版で放送予定。
 http://www.tbs.co.jp/program/mukashibanashi.html
まんが日本昔ばなし資料室
 http://mujina.agz.jp/mks-1.html
 http://mujina.agz.jp/mukashi.html
 
 
国宝風神雷神図屏風
  建仁寺より京都国立博物館に寄贈。
  東京国立博物館のものは尾形光琳による模写。
  俵屋宗達
  http://www.salvastyle.com/menu_japanese/sotatsu_god.html
  東京、尾形光琳
  http://www.linkclub.or.jp/~qingxia/cpaint/nihon22.html
  建仁寺(複製展示)
  http://www.kenninji.jp/
仏像ー風神雷神像
  京都蓮華王院(三十三間堂)風神雷神像(13世紀檜彩色・国宝)。両端に安置されてます。
  http://web.kyoto-inet.or.jp/org/orion/jap/hstj/higasi/rengeouin.html
  また滋賀常樂寺二十八部衆のうち風神雷神像(鎌倉時代・重文)も有名です。
  浅草浅草寺雷門、風神雷神像
  http://www.kaminari.gr.jp/oct/sensohji.html 
 
  トマトのいろいろ。
  日本にトマトが伝わったのは17世紀なかば徳川四代将軍・家綱の頃です。
  狩野探幽はトマトを「唐なすび」と呼び1668年の写生が残っています。
  文献でもっとも古いものは、江戸前期の儒学者・貝原益軒の『大和本草』(1709年)で、
  「唐ガキ」と紹介されています。
  観賞用として珍重され、食用になったのは明治以降だそうです。
  昔ばなしで食用にトマトを使うと完全に誤りです(でも、そのままにしておく)。
  http://www.kagome.co.jp/style/tomato-univ/literature/