お話歳時記

地獄からの使者、鬼卒。

  地獄を行き来するものは、生きながら地獄の冥官をする特殊な例を除けば、死んだ者を連れに来る地獄からの使い、という事になります。 中国ではこの使いを「鬼卒」と呼んでいるようです。

「布客」

  長清で反物を売る商売をしている男がいました。

  泰安で商いをしている時、良く当たる星占いの易者がいるというので占ってもらう事にしました。 しかしその易者は男の顔を見るなり、「なぜ南に旅をしてきたのか? すぐに家に帰りなさい!」と怒鳴りました。 慌てた呉服商は易者の言う通り北の方の我が家に向かいました。

  その途中呉服商は小使いのような短い着物を着た男に出会いました。 呉服商はその短い着物の人と、あれこれ話ながら旅をしました。 そして道々食べ物を買い分けあいながら食べ、また食事を共にしました。 その男はそれをひどくありがたがったのです。 呉服商が「あんたはいったい何をしているのかい?」と尋ねると、その男は「捕まえる者がおるんで、長清に行く所でさぁ。」と答えました。 呉服商は笑って聞き返しました。「いったい誰を捕まえにいくんだい?」男は何人かの名前が書いてある書きつけを呉服商に見せました。 その書きつけには何人かの名前が書いてあり、一番最初に呉服商の名前が書いてありました。

  「俺は生きている者じゃねぇ、
   高里山、山東四司の手先でさぁ。
   あんたの寿命はもう尽きたってことですよ。」

  呉服商は驚いて、地面に頭をこすりつけてその男に命乞いをしました。

  「それは出来ない事でさぁ。
   ただ、書き付けにはたくさんの名前が書いてあるで、
   みんなひっつかまえるには、まだ何日もかかりますぜ。
   あんたは早く自分の家に帰って、後の始末をつけなせぇ。
   それが今までのつき合いに報いられる事だと思ってくだせぇ。」

  男はそう言って呉服商を起こし、また歩きはじめました。

  二人が黄河のはたまで来ると橋が流され、行き来が出来ず多くの人が困っていました。

  すると男は呉服商に、
  「あんたはもうすぐ死んで、
   その時にはお金は一文も持っていけねぇ。
   すぐに橋を建てて、旅の人の役に立ってやりなせぇ。
   お金はずいぶんかかるだろうが、
   あんたのためになるかもしれねぇ。」と、言いました。

  呉服商はその通りだと思い、家に帰ると妻子に話して、死に仕度をすると、日を限って大勢の人夫を雇い、橋をつくらせました。 橋はしばらく後に完成し、呉服商は覚悟を決めて死ぬのを待ちました。

  しかしあの男はついに現れなかったのでした。

  呉服商はおかしな事があるものだと思っていた所、あの男がひょっこり現れました。

  「俺はあんたが架けた橋の事をうぶすな様にお知らせした。
   たぶん、うぶすな様から冥司に連絡が行って
   あんたの寿命が延びたんだろう。
   あの書き付けからあんたの名前が消えちまった。」

  呉服商はその男といつものように食事を共にし、酒を飲みました。 翌朝男は消え、以来二度と出会う事はありませんでした。

                    聊斎志異より 「布客」

  鬼卒は人の中を動き回るためか、一般的な鬼のイメージ、角や牙は無いようです。 地獄で亡者を罰している鬼を"獄卒(八万獄卒)"羅刹(阿蒡羅刹)"と呼ぶのですが、鬼卒と同じものかどうかもわかりません。

  ただこの鬼卒、人手が足りないのか、人間が代役を勤める事もあったようです。  生きながら冥府の手先を勤める者を、走無常(そうむじょう)、活無常(かつむじょう)、勾司(こうし)、勾死人(こうしにん)とさまざまな呼んでいます。 李中之のように突然死んだかと思うと冥府の仕事をした後、また生き返るそうです。

  何回も死んだり生き返ったりされたら、まわりのものが困ると思うんですが、みなさんはどう思われますか?

◆ 補記 ◆

「布客」

  "客"は旅をする、という意味。 布を扱い旅をしている者、という意と思われます。