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七月-羽衣伝説と異類結婚譚。
 
  海と山の幸比べ。
    海幸と山幸のお話は古事記・日本書紀に見える神話で、神話時代と実際の歴史、神代と人皇代をつなぐ重要なお話とされています。

  記紀神話を簡単にいうと、天照大神(あまてらすおおかみ)の孫、瓊々杵尊(ににぎの命)は、葦原中国(あしはらのなかつくに)を治めるため高天ケ原より降臨。
  その瓊々杵尊の子、三子のうち長兄を火照命(ほでりの命)、末弟を火遠理命(ほおりの命、穂穂手見命ほほでみの命、とも言う)、海の猟を得意とした長兄、火照命を海幸(海佐知毘古)、
  山の猟を得意とした末弟、火遠理命を山幸(山佐知毘古)と呼びました。

  お話の中で末弟の山幸は豊玉姫と結ばれ、子供を産みますが、その子の子、つまり山幸の孫が実在の天皇とされる神武天皇で、天照大神ー瓊々杵尊ー山幸(火遠理命)ー神武天皇という流れになっているのです。

  海幸と山幸の神話は、兄弟争いの伝説を軸としています。
  インドネシアのケイ諸島に伝わる、ピアンとパルバラの話は、
1 天上に兄弟があり、兄をピアン、弟をパルバラといった。
2 弟のパルバラは兄の釣り針を借り釣りをし、釣り針をなくしてしまう。
3 弟は謝るが、兄のピアンは釣り針を返せと弟を許さなかった。
4 弟は釣り針を探している最中出会った魚の協力で釣り針を見つけ兄に返す。
5 弟は兄に油をこぼさせて、その油を返せと言う。
と、ほぼそっくりのものが伝えられています。

  また、兄弟争いはありませんが、似たような話もあります。

  まず、パラウに伝わるお話。
1 釣り針を魚にとられた族長の息子アトモロコトは、父に叱責されアダツクという海中の地に向かう。
2 そこで釣り針を呑み込み苦しんでいる女リリテウダウと出会う。
3 釣り針を吐き出したリリテウダウは、アトモロコトが自分の孫と知る。
4 アダツクの支配者であったリリテウダウは、アトモロコトに何でも欲しいものを持って帰るよう言う。

  次に鹿児島奄美諸島に伝わるお話。
1 主人公は友人に借りた釣り縄をなくす。
2 その釣り縄を探すために海中の国に行く。
3 主人公は縄を見つけ友人に返す。
4 しかし友人は不幸になる。

  海幸山幸のお話は南洋系の伝説にその祖を求める事もできますが、アジア起源説、また日本独自のものとの節もあります。
  そして、海宮訪問と言う事で、浦島伝説との関係を指摘するものと、海幸山幸では海の神との約束を破る話が後日談となっている所から、浦島伝説とは異なるものとする意見もあります。

  しかし海幸山幸の本質は、やはり「記紀神話」と言う点にあるようです。
  「海幸山幸。」 
    天照大神の孫、瓊々杵尊には三人の子がありました。
  そのうち長男は火照命(ほでりの命)、末の弟は火遠理命(ほおりの命)と言う名前でした。
火照命は海での猟が得意で、鯛やヒラメ、鰹やブリをいつもたくさん取るので、海幸彦と呼ばれ、
火遠理命は山の猟が得意で、鹿や熊、鳥やウサギを、いつもたくさん取ってくるので、山幸彦と呼ばれていました。

  ある時、弟の山幸はいつも山で猟をしているのに飽きて、兄に、おのおのの得意を交換して使ってみないか?と持ちかけました。兄は最初断っていましたが、自分も一度山で猟をしてみるのも悪くないと、弟にサオと釣り針を渡しました。
  山幸は喜んで兄に自分の弓を渡し、海へ釣りに出かけました。山幸は初めてする釣りにわくわくしていましたが、うまくいきませんでした。何度かエサを取られ、付け替え、 やっと釣れたかと思ってサオを上げると海藻でした。そのうち、じっとサオを見ているのに飽きてきました。
  日も暮れてきたので帰ろうと、山幸はサオを上げると、アッと声を上げました。
  釣り針が無くなっていたのです。
  山幸は兄にどう話そうかとおろおろしていると、山から兄がプンプン怒りながら帰ってきました。兄も初めての山の猟がうまくいかず、何一つ取れないまま、ただ重い弓を持って歩きつづけ、疲れただけでした。
「俺の運は海の運、お前の運は山の運、もう取り換えなどやめて、もとに戻ろう。」
兄は弓と矢を差し出して言いました。山幸はすまなそうに兄に答えました。
「兄さん、釣り針を魚にとられて無くしてしまったんだ。」
兄は怒って山幸に釣り針を取り返してこいと言いました。

  山幸は仕方なく海に入って釣り針を探しましたが見つかりません。山幸は持っていた長剣を細かく砕いて釣り針を五百本作って、兄の所に持って行きました。
しかし兄は「五百の釣り針などいらぬ、もとの釣り針を持ってこい。」と山幸を追い返しました。
山幸は何とか兄に許してもらおうと、もう千本釣り針を作って、兄の元へ持って行きました。
  しかし兄はその釣り針を見るやいなや、なぜ俺の釣り針を持ってこないのか?と大声を出し、再び山幸を追い返したのです。
  兄はどうしても自分を許してくれない。山幸は困り果て、海の側に座ると、泣き始めました。  すると塩土翁(しおつちのおじ)という精霊が現れ山幸にたずねました。
「命よ、何を泣いておられるのか?」
「私は兄に借りた釣り針を失くしてしまい、兄を怒らせてしまいました。兄に何度もあやまり、替わりの釣り針をたくさん作ったのですが、どうしても許してもらえません。」
山幸はまた涙をぽろぽろこぼして泣きはじめました。
  
  塩土翁はしばらく山幸を見ていましたが、頭に差してあった櫛を取ると砂浜に投げました。すると砂の上に大きな竹林が現れました。
翁はその竹林から竹を切りだし、「間無し勝間の小船」という竹で編んだ目のつんだ、ザルを二つ合わせたような船をつくると、命にわたしました。
「みことよ、この船に乗り、海の底にまっすぐ行きなさい。 そのうち波が二つ別れて、綺麗な浜辺につきます。そこで船を降り、続く道をどこまでも歩いて行きなさい。すると、金銀瑠璃瑪瑙で出来た建物がうろこのように連なる大きな宮殿があります。
その宮殿の門の脇には、井戸があり、側には大きな香木(かつら)の木がありますから、その木に登って待っておいでなさい。海神(わだつみ)の娘が出てきて取り次いでくれるでしょう。」塩土翁はそう言い終わると、命を船に乗せて海へ押しだしました。

  船は水中を進むと塩土翁の言う通り、波が割れて綺麗な浜辺に着きました。山幸は船を降りると翁の言う通り進み、大きな宮殿につくと、香木の木に登り、海神の娘を待ちました。
  しばらくすると宮殿から従婢(まがだち)が玉器(たまもい)に井戸の水を汲みに出てきました。山幸は首飾りの珠をひとつ、口に含むとそれをふっと玉器の中に吹き入れました。  するとその珠は玉器のなかにぴったりくっついて離れなくなりました。
  驚いた従婢は玉器をそのまま豊玉毘売(とよたまひめ)に見せました。豊玉毘売はそれを不思議に思いました。何かの奇瑞かもしれない、豊玉毘売は外に出てあたりを探しました。
  毘売は井戸のそばであたりを見回しましたが、何も見つかりません。毘売はそっと井戸をのぞいて見ました。すると井戸の水面に男ののぞき込む顔が映っていたのです。毘売はハッとして頭上の木を見上げました。そこには山幸がいたのでした。
毘売は立ち返り父の海神にお伝えしました。
すると父君は、
「此の方は、天津日高(あまつひこ)の御子、虚空津日高(そらつひこ)であらせられる。」
と仰せられ、命を宮殿に招き入れました。
そして、アシカの皮で作った畳を八枚重ね、その上に絹のしとねを八枚重ねた真床覆衾(まどこおおうのふすま)をしつらえ、命をその中におすえになりました。
そして、いろいろなご馳走をたくさん並べ、命をおもてなしになり、豊玉毘売をお嫁様に差し上げました。

  命はそのまま豊玉毘売と海の宮殿にお住まいになり暮らしました。そして三年の月日がたちました。海の暮らしはめずらしいものばかりで海幸は楽しく暮らしていましたが、ある時、ふと兄の海幸彦の事を思いだしました。
「兄さんはまだ怒っているだろうなぁ。」
故郷を恋しく思っても、釣り針が見つからないまま帰るわけにもいきません。山幸は深いため息をつくと物思いに沈むようになりました。
  豊玉毘売は。そんな山幸を見ると心配でなりませんでした。 毘売は父の海神に相談すると、海神は、
「みことはしばらくお国に帰られておらぬ。地上を思いだして恋しくなられたのか、それとも他に何かわけがあるのかも知れぬ。」と、おっしゃると、そのまま命にお会いになり、わけをお聞きになられました。そして、命が釣り針を探しに海の中へ来た事をお知りになったのです。
  海神は海の生き物すべてを集め、命の釣り針を取り去った者はないか、お尋ねになりました。すると集まった魚達が口々に、「最近、雌鯛が咽に何か引っ掛かって何も食べられないと申しております。」と、答えました。
  海神は雌鯛を呼ぶと口の中をさぐり、引っ掛かっている釣り針を、おとりになり、洗い清めて命にお見せになりました。それは、山幸が探していた兄の釣り針でした。命はやっと笑顔を取り戻し、いつもの山幸となりました。
  命は地上に帰る事になりました。豊玉毘売とはしばらく離れて暮らす事になりますが、陸と海と行き来しようと約束を交わしました。
海神は命に、
「兄上に釣り針をお返しになる時、『此の鉤は、淤煩鉤、須須鉤、貧鉤、宇流鉤。(煩わしい釣り針、心配な釣り針、貧しい釣り針、うるさい釣り針)』と言いながら、後ろ向きにお渡しなさい。そして田を作る時には、お兄さんが高い所に作れば低い所へ、低い所に作れば高い所へ作りなさい。私は水を自在に操る事が出来ます。必ずあなたの田には水を入れ、兄上の田には水を止めましょう。三年もしないうちに、兄上は必ず貧しくおなりでしょう。」
と、おっしゃりました。
そして、二つの珠を取りだし、命に渡されました。
「この珠は満潮の珠と干潮の珠。お兄さまの荒き心は怒りとなって命を襲うかも知れません。もし、お兄さまが攻めてこられたら、この満潮の珠をお使いなさい。大水が沸き上がり、お兄さまを溺れさせるでしょう。そして、お兄さまがお困りになって、おわびをされたら、この干潮の珠をお使いなさい。大水はたちどころに消えるでしょう。」
山幸は満潮の珠と干潮の珠を大切にしまいました。

  いつの間にか、海神の家来のワニがたくさん集まっていました。
「あなたを陸へお送りするのだと集まっていますのよ。」
豊玉毘売は山幸にささやきました。
山幸は一番大きな一尋のワニに乗りました。
「一尋のワニよ、命を地上に必ず送り届けるのですよ。」
「姫様、承知いたしました。」
一尋のワニは地上へ泳ぎ出しました。
こうして命は三年の年月を過ごした海の宮殿を後に、地上へと帰って行きました。

  山幸は浜辺に着くと腰に差していた刀を一尋のワニに結び、海の宮殿の毘売や父上に無事に帰ったと伝えてくれるよう頼みました。一尋のワニはわかりましたとうなづくと大きな波を起こし、帰って行きました。
  山幸は永い眠りから覚めたように体中に力が溢れていました。山幸はそのまま釣り針を持って兄の所に向かいました。兄は山幸を見て驚いた様子でした。もう死んでしまったのだと思っていたようでした。
山幸は海の父上に教えられた通り、
「此の鉤は、淤煩鉤、須須鉤、貧鉤、宇流鉤。」と言いながら、後ろ向きになって、兄に釣り針を返しました。
兄は何の事かわからず、釣り針をじろじろと眺め回した後、「たしかに俺の釣り針だ。」といって奥に入ってしまいました。

  次の日から山幸は山の下の方に田を作りはじめました。それを見て兄も山の上の方に田を作りはじめました。山幸の田は田植えの時も暑い夏の時も丁度良い具合に水が流れ込み、秋には金色のお米が重たそうにこうべを垂れました。しかし、兄の田には、田植えの時も、暑い夏も水が足りず、秋になっても稲には一粒も実がつきませんでした。
  次の年に、兄は山幸に田を交換しようと言いました。「またお互いの幸を交換するのですね。山幸はそう言って田を交換し、今度は山の上の田に稲を作りました。山幸の田には去年と同じく、水が丁度よいように流れ込み、兄の畑にはいつも水が足りませんでした。秋になると、山幸の田には去年と同じようにたくさんの実がつき、兄の田には一粒の実もつきませんでした。
  兄は山幸の田を見ると腹が立ってしかたありませんでした。
そして山幸にもとに田を戻そうと言いました。「お互いの幸をもとに戻すのですね」。山幸はそう言うと田を元に戻し、次の年は下の田で稲を作りはじめました。山幸の田には田植えの時には水が満々と流れ込み、稲の苗が風に揺られていました。
しかし兄の田には水が少ししかありませんでした。
「おかしい。」
兄は山幸の田を調べました。
しかしいくら調べても水が何処から流れ込んでくるのか、わかりませんでした。兄は川から水を汲んでは田に流し込みましたが、稲の苗にはじゅうぶん行き渡りませんでした。その年の梅雨はカラ梅雨で雨がほとんど降りませんでした。蝉が鳴きはじめる夏には兄の田の稲はすべて枯れてしまいました。そして山幸の田には成長した稲が涼しげに風に揺れていした。

  兄の家にはもう食べ物がありませんでした。海に釣りに出ても魚は一匹も釣れませんでした。兄は釣り竿を磯の岩に叩きつけると、田で働く山幸のもとへ走りました。
そして剣を抜いて襲いかかったのです。
「兄さん!」
山幸はよけながら叫びました。しかし兄はもう一度剣を振り上げたのです。
山幸は満潮の珠を出して、
「水よ、出よ!」と叫びました。
すると地面から水がどっと湧き出し、兄をつつんだのです。
「うわぁ?」
兄の海幸は突然沸き上がった水の中でもがきました。
水は渦を巻いて海幸の体をほんろうしました。
「そうか、これで田に水が引けたんだな。」 
海幸はもがいて逃げようとしましたが、水はまるで生き物のように海幸を包み込んだまま、ぐるぐる渦を巻き続けたのです。海幸は息が切れて苦しそうに咽をかきむしりました。
「山幸、俺が悪かった。 助けてくれ。」
山幸はうなずきました。
「水よ、引け!」
山幸が潮干の珠をもってそう言うと、水は何処へともなく消えてしまいました。こうして兄弟の争いは終わったのです。

           「海幸山幸」
   
 
  「海幸山幸」のお話は、山幸が海の国を訪れる、一種の死を経験する物語でもあります。
  作中に登場する、「間無し勝間の小船」は、容器の中に神が籠って誕生を待つ、という意味を前提にしていると、考えられています。
  またもう一つ作中に登場する、真床覆衾(まどこおおうのふすま)は、天皇が新君主となる前、つまり即位する前に大嘗宮でくるまる衾が、真床覆衾なのです。
  つまり海幸山幸は記紀神話として天皇の即位のイニシエーションを物語っているお話でもあるのです。
  またこのお話は記紀神話として、地方の豪族支配を象徴的に物語っています。
  当時北に蝦夷、南に隼人族という蛮族があり、九州南部の隼人族は、蝦夷より早くに宮廷に服属しました。そのため隼人族は大嘗祭に隼人舞いを奏したり、蛮族の発声には悪霊を払う力があると信じられていたため、大嘗祭や天皇の遠行の際には犬声を発して奉仕しました。
  お話の中で海幸が水の中で溺れる場面は、隼人族の服属儀礼としての隼人舞いの起源とされ、また、海幸は隼人族の祖であるとされています。
  そしてこの話は後日談があり、その話にもまた二重三重の意味が重なっています。
  ◆補記
  塩土翁(しおつちのおじ)
  塩椎神 「神武紀」に東方に国がある事を教える神として現れる。
  「塩土老翁」「塩筒老翁」とも表記されている。
  "つち"は精霊の意味で、潮流を知っている神の意味とされている。
海神(わたつみ)=大綿津見神(おおわたつみのかみ)とも言う。
海のお宮=ワタツミノカミノ宮