お話歳時記

塩吹き臼と海の由来。

  「塩吹き臼」は「魔法の石臼」として世界中に分布しているお話です。
   日本には大陸経由で入ったとされ、太平洋側に分布しているようです。

  基本型は、
1 貧乏な弟が正月準備の費用を兄に借りに行くが断られる。
2 その帰り道で白髪の老人に会い、思いのものが出てくる臼を授かる。
3 臼から正月のご馳走を出し、近所にも分け与える。
4 強欲な兄はその臼を盗みだし船で逃げる。
5 兄は海の上で臼から塩を出すが止め方がわからず塩で溢れた船は沈む。
  という形で、海はなぜ塩辛いか?という由来譚になっています。
  今回は小人が出てくるタイプのものです。

「塩吹き臼。」

  ある所に太郎と三郎という兄弟がありました。

  兄の太郎は物惜しみのはげしい人で、弟に食べさせる事すら惜しく、なんとかして早く弟をどこかへ婿養子に出したいと考えていました。

  弟の三郎はそんな兄に困っていました。 三郎には心に決めたやえという娘がおり、いつか一人立ちをして、一緒になりたいと考えていました。 しかし兄が勝手に婿入りを進めるので、三郎は仕方なくやえをお嫁に迎え、近所の人の家の傍らの小屋を借り、ままごとのような暮らしをはじめました。

  小屋には何もありませんでした。土地ももたない三郎達には手間仕事しか出来ませんでしたが、それでも二人は毎朝仕事に行き汗を流して働きました。 道具を一つ、また一つとそろえて行きました。 自分たちの暮らしができ上がっていくのが二人の喜びでした。

  しかし秋の収穫が終り、冬に入ると手間仕事も減って行きました。 やえは身ごもっていました。 三郎はうれしくてしかたありませんでした。 朝から冷たい川に入り、シジミを取って売りました。 わずかのお金にしかなりませんでした。 朝から晩まで川底をさらい、シジミを取り続けました。 お金が無くなるとそろえた道具を売りました。

  年越しの日がやって来ました。

  もう何も残っていませんでした。

  三郎は兄の家の戸を叩きました。そして年越しの米を一升借りたいと頭を下げました。

  「年越しに食う米もないとは、どういう事だ?よくそんなことでよく女房をもらったな。 半人前がわしの言う事を聞かないからこうなるんだ!」 兄はにべなく断り、戸をぴしゃんと閉めました。

  三郎には一言もありませんでした。 寒い風が吹き抜けて行きました。 三郎は当ても無く、とぼとぼとやえの待つ家へと引き返しました。

  三郎が峠にさしかかると老人が石に腰掛けていました。

  「お爺さん、どうされたんです?」
   三郎が聞くとお爺さんは答えました。
  「うむ、柴を集めに来たのじゃがの、
   なかなか集まらんのじゃ。」
   三郎は笑って柴を集め、老人の住むという小屋まで柴を持って行きました。

  「助かったぞ、三郎殿。
   ところで、お前さんはこんな大みそかに
   何をしておったのじゃ?」
   三郎は力なく答えました。
  「今夜は年とりの夜だけですが、
   身重の妻に食べさせる物も、
   御歳神さまをお祭りするお米もありません。
   兄に借りに行きましたが断られ、
   どうしようかと歩いていました。」

   老人は微笑むと、
  「そうか、それはお困りじゃな。
   それではお前にこれを差し上げよう。」
   そう言って、お爺さんは小さな麦まんじゅうを
   三郎の手に握らせました。
  「あの森の中腹に神様のお堂があって、
   その裏手に穴がある。
   そこにその麦まんじゅうを持って行くと、
   小人が出てきて、
   なんとしてもそのまんじゅうをくれろと言うから、
   金でも物でも無く、
   ただの石の臼となら取り換えると言いなさい。
   小人たちは必ず交換してくれよう。」

   三郎は半信半疑でしたが、老人に礼を言うと森のお堂へ向かいました。

  三郎はお堂を見つけるとその裏にまわってみました。 なるほど、そこには老人の言うように穴がありました。 三郎が穴の中に入ると、小さな声がわいわいがやがやと聞こえてきました。 よく見ると小人が大勢、茅に取りついて運んでいます。

  「どこに運ぶんだい?」
   三郎が聞くと小人達はいっせいに、
  「あっち!」
  「あっち!」
  「あっち!」
   と、小人の村を指さして答えました。

  三郎は茅をつまむと村の前まで運びました。

   小人達は三郎のまわりに集まると、
  「おまえは大っきいの。」
  「力持ちだの。」と、口々に言いました。
   そのうち、一人の小人が言いました。
  「良い匂いがする。」
   すると他の小人も、
  「うん、良い匂いがする。」
  「良い匂いだの。」
  「良い匂いだ。」と、言いたてました。

  「これかい?」
   三郎は老人にもらった麦まんじゅうを小人達に見せました。

   小人達はその麦まんじゅうをみると口からよだれを出しました。

  「・・・その麦まんじゅうを俺達にくれろ。」
  小人達はそう言うとどこからか小判を持ってきて、三郎の前に何枚も何枚も並べ、よだれを流して三郎を見ました。

   三郎は老人の言う通り、
  「いやいや、お金はいらない。
   石の臼となら取り替えても良い。」と言いました。

   小人達は顔をお互いの見合わせていましたが、話が決まったのか、三郎に答えました。

  「うん、そうしよう。
   石の臼は大事な宝物だけぇど、
   その麦まんじゅうも宝物だ。
   石の臼とその麦まんじゅうを取り替えよう。」

   小人達は小さな石臼を持ってくると三郎に渡し、麦まんじゅうと取り換えました。

  三郎は小さな石臼を持って穴の外へ出て行きました。
   穴から出ると、あの老人が待っていました。
   老人は三郎が石臼を持っているのを見ると、
  「よくやったの。
   その石臼はの、右に回せば願いのものが出て、
   左に回せば出てくるのがやむ。さぁ、遅くなった。
   奥さんが心配してまっているぞ。
   早く家に帰ってやりなさい。」と、言いました。

   三郎はハッとして老人に頭を下げると走って帰りました。

   やえが戸口の所に立って待っていました。
   三郎はやえと家に入ると、不思議な老人と小人の話をしました。
  「やえ、何か欲しいものはないか?」
   三郎がやえにたずねると、やえは、
  「赤ん坊の産着が欲しい。」と答えました。
   三郎はやえの言う通り、
  「産着出てこい。」といって石臼を回しました。
   石臼はゴォォォォンと音をたて、
   白い産着と綺麗な模様の産着を出しました。
   やえはその産着を手に取ると、三郎に見せました。
   老人の言った事は本当だったのです。

  それから三郎は売ってしまった道具を石臼から出しました。 お米を出し、味噌を出し、お酒を出し、餅や塩鮭、ミカンや柿、いろんなものを出して、御歳神様をお祭りし、暖かな布団の中で眠りました。 二人は新年を幸せな気持ちで迎えました。

  三郎とやえは一日中話しあって、まず土地を買うお金を出しました。そして庄屋様の所へ行って土地を譲ってもらいました。 それから家を出し、井戸を出し、蔵を出し、厩を出し、馬を出し、長屋を二つ出しました。 そして今まで二人に良くしてくれた人に、お米とお餅とお酒を出しました。

  三郎とやえから急に届け物があったので、みんな驚きました。

  誰から言う事も無く、二人の祝言をあげることになりました。 新しい家で、親類縁者、近所の者があつまって、三郎とやえの祝言をしました。

  そこには兄の太郎も呼ばれていました。

  太郎は弟の三郎がいつの間にこんな大金持ちになったのか、なんとも腹立たしく、不思議でなりませんでした。 太郎は弟のする事をじっと見ていました。祝言が終わって弟はお土産にお菓子を渡しました。 そしてお菓子が無くなると部屋には行って臼を引きました。 あの臼に欲しいものを言って廻せば何でも出てくる、太郎はやっと弟が大金持ちになったのかわかりました。

  村の人を送り出し、夜も更けて行きました。

  太郎は弟夫婦が眠るのを待っていました。 そして二人が眠ると、そっと弟夫婦の部屋に忍び込むと石臼をつかみ、ついでに菓子の袋を持って外へ走り出しました。笑いが止まりませんでした。

  これで自分は弟よりもっとたいそうな大金持ちになれる。

  太郎は海辺につくと、つないであった船に乗り 沖へ漕ぎだしました。 誰も知らない所にいって、生涯楽しく暮らそうと思いました。菓子を喰らい、甘い餅を食べ、アハアハと笑いました。

  甘いものばかり食べたせいかふと塩気のあるものが欲しくなりました。 臼から出してみよう、太郎はそう思いました。「塩よ、でろ。」そう言って太郎は臼をまわしました。

  ゴォォォォン、臼は音をたてて塩を出しました。 太郎はそれをなめてみました。確かに塩でした。 また笑いがこみ上げてきました。 ゴォォォォォン、ゴォォォォォン、臼は塩を出し続けました。

  太郎は「もうよいわ。」と言いました。 しかし臼は塩を出し続けました。 ゴォォォォォン、ゴォォォォォン。 臼から出る塩は山となり、太郎の方に崩れてきました。 太郎は慌てました。 止める方法がわかりませんでした。 塩は船にあふれ、それでも臼は塩を出し続けました。

  「ヒィ・・・!」

   太郎が引きつった声を出したかと思うと、船はあっという間に海の中に引き込まれました。 そして何も見えなくなってしまいました。

  波の音に中に、ゴォォォォォォン、ゴォォォォォォンと石臼のまわる音が小さく聞こえていましたが、それもいつしか聞こえなくなってしまいました。

  三郎夫婦は、朝になって石臼が消えている事に気がつきました。

  二人は御歳神様に手を合わせました。もう、これ以上なにもいりませんでした。

  今もあの臼は海の底で塩を出し続けていて、海が塩辛いのはそのせいだと言う事です。

                「塩吹き臼」

 「塩吹き臼」は、宝物が臼ではなく、瓢箪、金の槌、糸車等の例もあるそうです。

  老人に教えられて小人から宝物を得るものと、老人から得るものの二通り、老人から釣り針をもらい、鯛をつって、それを塩焼きにして、小人と交換、と言うものもあります。

  老人から得る場合は八幡様などの神様のために馬を差し出して臼をもらう、仕事に疲れて眠っていると夢に老人が現れ、臼を得る、というものもあります。

  昔話は隣の爺型より兄弟型の方が古い型とされています。 台湾のものは、母と息子、意地の悪い叔父、という形のものも見受けられます。

  お国柄なのでしょうか?

  「塩吹き臼」「魔法の臼」は主人公や老人の位置づけ、臼を得る方法などに違いが見受けられますが、臼から塩が出て、意地の悪い兄や隣のお爺さん、叔父さんと海に沈む点は、なぜか共通項として残っています。 そのため、船の上でなぜ臼から塩を出そうとするのか?それぞれの話で工夫があります。

  古来塩はお金と同じように貴重であった、その名残がこのお話のメインテーマなのかも知れません。