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四月ー旅立ちの時。
 
  犬と猫と鼠と大冒険。
    今日のお話は「犬と猫と鼠」。世界的には「犬と猫と指輪」というタイトルで知られているお話です。
  主人公がいじめられている犬と猫を助けます。
  そして犬と猫の助けを借りて蛇を助けます。
  この蛇は主人公に何でも望みがかなう宝物の指輪をあたえ、この指輪で主人公は城を築いて王女を妻にします。
  しかしこの指輪は奪われ、王女もさらわれてしまいます。
  犬と猫は指輪を取り返しに旅に出るのですが・・・。

  では、犬と猫と鼠と大冒険に出かけましょう。
  「犬と猫と鼠と大冒険。前編。」 
    進吉の八年の年季が明けました。
  十の時から親元を離れ、江戸の回船問屋蓬莱屋で主人の藤兵衛について、お世話をして来ました。進吉の夢は故郷に帰ってお店を持つ事でした。藤兵衛のように日本中の品物をお店で売ろうと考えていました。
  進吉は藤兵衛のやる事を見て、一つでも身に付けてやろうと一所懸命でした。進吉は藤兵衛のする事はどんな事もマネしてみました。出来るようになるまで何度も試しました。算術も、読み書きもそうやって覚えていきました。
藤兵衛が転ぶと、進吉も転びました。
「そんな事まで習わんでもよい。」と言うと、進吉は「どれぐらい痛いか、転ばないとわかりませんから。」と答えました。
  そんな進吉の真面目さには、藤兵衛も店の者もみんな、頭を掻くしかありませんでした。
  進吉が故郷に帰る日、藤兵衛は進吉に砂金を一袋渡しました。これまでの奉公の礼と、進吉のお店の資金にと、藤兵衛が用意していたものでした。
「進吉、店を開いたらうちの問屋の商品をひいきにな。」
藤兵衛はそう言って笑いました。
進吉は「はい!」と答えると故郷へ向かって駆けていきました。

  進吉の故郷は伊豆の近くにありました。十の時は、とても遠いと思いましたが、今はすぐ近くのような気がしていました。
  進吉が川沿いの土手を歩いていると、河原に大勢の子供があつまってわいわいやっています。よく見ると、一匹の犬をコモにくるんで川に投げ込もうとしているのでした。進吉は驚いて河原に駆け降りました。
「待て待て、そんなことをして犬を川に投げ込んだら、死んじまうぞ。」
「でもこの犬は、ぼくのとこの鶏を食べちまったんだ。」 
棒を握った子供が言いました。
進吉は犬の顔を見ました。犬は申し訳なさそうにうなだれました。
「そうか、この悪い事をしたんだな。でもこの犬を殺しても鶏は帰ってこねえだろ?あんちゃんが鶏を買える分の銭を出すから、この犬をあんちゃんに売ってくれ。」
そう言って進吉は四分銀を一つ出しました。子供たちはそれならええと、犬を進吉にわたし、どこかへ走っていきました。
進吉は犬をコモから出して、
「お前、今日からぼくの子分だぞ。」と言いました。
犬は「ワン!」と返事をしました。
犬は肩から前足が黒かったので、進吉はクロアシと名づけました。一人が二人になりました。    

  二人がある村にさしかかった所、猫の「フギャー、フギャー!」という叫び声が聞こえました。進吉とクロアシが叫び声のする方へ走っていくと、子供がたくさん猫を囲み、こいつが魚を取った、殺して皮をはごう、と言い合っていました。
進吉はまた四分銀で子供から猫を買って助けました。
「お前も今日からぼくの子分だぞ。」と言うと、クロアシも「ワンワンワン!」と教えるように吠えました。
猫は「にゃん。」と正座してわかりましたと答えました。
猫は三毛猫でした。そこで進吉はタマと名づけました。二人が三人になりました。

  進吉、クロアシ、タマの三人は一列に歩いて行きました。
すると峠の茶屋の側で今度は「チュー!チュー!」とネズミの泣き声がしました。見ると茶屋の小僧さんがネズミを捕まえて、石にぶつけようとしていました。進吉がわけを聞くと、このネズミが大切な砂糖を食い散らかしたと言うのです。進吉はまた小僧さんに四分銀を渡し、ネズミを買い取って助けました。
「お前も今日からぼくの子分だぞ。」進吉がそう言うと、クロアシが「ワンワンワン!」と吠え、タマが「にゃあにゃあにゃあ」と教えるようになきました。ネズミはかしこまって「チュー。」と言いました。
ネズミは小さかったので、進吉は小丸と名づけました。三人が四人になりました。進吉は小さな小丸を肩に乗せ、みんなで伊豆へ向かいました。

  しばらく歩くと荒れ地に出ました。大勢の人が集まって荒れ地を焼いていました。ぱちぱちと下草が燃えて音を出していました。しかしチーチーと火の中で何かの泣き声がします。 
  進吉がまだくすぶっている荒れ地の中に入っていくと小さな蛇が火にまかれていました。進吉には火を消すものがありませんでした。とっさに主人の藤兵衛さんにもらった砂金を出すと、小さな蛇の回りに撒いて火を消しました。
  「ワンワンワン!」クロアシが吠えました。進吉の回りに火が回っていたのです。あたりには煙が立ちこめ、どこに行けばいいのかわかりませんでした。
  タマがちりんちりんと鈴を鳴らしました。進吉は小さな蛇をかかえてタマのそばに行きました。
  するとその横で小丸が「チュー。」と鳴きました。クロアシは猛然とそこを掘り返すとぽっかりと穴があきました。進吉たちはその穴に飛び込みました。
  穴の中を這って進むと、池の前に出ました。鏡のような池でした。進吉は小さな蛇を放しました。蛇はしばらく進吉を見ていましたが、池の方へ消えていきました。

  進吉は困っていました。もう進吉にはお金がありませんでした。親方からもらった砂金も蛇を助ける為に撒いてしまいました。
  帰ったらお母さんに少し楽な生活をしてもらおうと思っていましたが、それも出来なくなってしまいました。そばには犬と猫とネズミが一匹づついるだけでした。
  その場に座る進吉に、犬も猫もネズミもどうする事もできず、ただそばにいるだけでした。
    
「進吉さん。」 
進吉はその声に振り返りました。そこには十三、四の綺麗な着物をきた女の子が立っていました。進吉が驚いていると女の子は続けました。
「進吉さん、私はこの池に住む水神の子、ちい姫と申します。さっきは危ない所をありがとうございました。私のために大切な砂金を使わせてしまいました。私の父と母がお礼をしたいと申しております。おこしいただけますか?」
進吉がぽかんと口をあけていると、クロアシとタマと小丸が「ワン!」「にゃあ!」「チュー!」と答えました。
「はい、では参りましょう。」
ちい姫がそう言って笑うと、目の前の池の水面が盛り上がり、進吉達はもう水の中にいました。
その水の中では息も苦しくありませんでしたが、ふ〜と息を吹くと泡がブクブク上の方へ昇って行きました。クロアシもタマも子丸もプクプク昇る泡を不思議そうに見ていました。
「進吉さん、私の両親があなたに何かお礼をしたいと言いますから、その時はためらわず ”指輪が欲しい。”と言って下さい。」
ちい姫は振り返って、そう進吉に教えました。

  水の中の御殿は、地上の建物とは違う、綺麗な建物でした。玉のように光る石の柱に、磨かれた床石、それが天上へ幾重にも重なり、まるで宝石の中に入ったような御殿でした。
  御殿の中からちい姫の両親が大勢の女官と一緒に出てきました。そして進吉に礼を言うと、広間に招き、大変なご馳走をしたのです。
  進吉達は初めて見る食べ物ばかりなので、どう食べていいものかわかりませんでした。するとちい姫がこう食べるのですよと教え、進吉達は戸惑いながら楽しい一時を過ごしたのです。

  やがてちい姫の父親が進吉に聞きました。
「進吉さん、進吉さんには大事な一人娘を助けていただきました。聞けば、その時大事な砂金を使ってしまったとの事、何か変わりのものを差し上げたいと思っているのですが、何なりと申しつけてください。」
進吉はちい姫をみました。ちい姫は進吉にどうぞとうなずいて見せました。
「では、指輪をいただけますか?」
「もちろんです。」
ちい姫の父ははめていた指輪を外すとちい姫に渡しました。
ちい姫は進吉の手を取ると、
「進吉さん、この指輪はどんな事も叶える指輪です。指輪に願い事をすると十二人のしもべが現れ、どんなものでも揃え、不思議を起こすでしょう。」
といって指輪をはめました。
「でも指輪の力は誰にも見せてはいけません。誰かに知られたら指輪の力は大きな災いとなってしまいます。」

  宴が終わると、ちい姫は鏡池のほとりに進吉達を送ってくれました。
  ちい姫は「進吉さん、これから家に帰る間にあなたの妻となる方と出会います。それが誰であっても、必ずお嫁に迎えて下さい。」と言うと、クロアシとタマ、小丸の頭をなで、ふっと消えてしまいました。
  進吉は自分のお嫁さんと出会うと言われ、それは誰なんだろうと思いました。進吉達は伊豆の家に向かいましたが、不思議な事に誰にも会いませんでした。進吉達は故郷の丘の上にたどり着きました。家が見えました。
  するとその家の前を通り進吉達の方へ向かう行列がありました。どこかの大名の行列でした。進吉達は道の端に座って頭を下げました。
  すると行列が進吉の前で止まり、「その動物達はあなたの家来ですか?」と、籠の中から声がしました。
  進吉は突然お声がかかったので慌てて「はい。」と答えてしまいました。すると駕籠の扉が開きました。伊豆のお殿様の三番目のお姫様、比奈姫でした。
  比奈姫はアシクロ達に「何が出来ますか?」と聞きました。アシクロはタマと小丸を見ると、ワンと吠えて宙返りしました。その後にタマが続いて宙返りをして、アシクロの頭に乗りました。すると小丸はタッとアシクロとタマの頭の上に駆け上がり、その上で宙返りをして見せました。
「まぁすごい。」
比奈姫は驚きました。回りの腰元や家来の人々も驚き、拍手をしました。
「あなたはたのしい家来をお持ちですのね。」
比奈姫はそう言うと駕籠をしめ、お城の方へ帰っていきました。
進吉はぼ〜としていました。ちい姫が言っていた自分のお嫁さんは比奈姫なんだろうか?進吉にはどうも合点が行きませんでした。まだ別の人に合うかも知れない。自分に合った人がいるかも知れない。すると目の前に進吉のお母さんが立っていました。
「進吉。」
「母さん・・・ただいま。」
進吉のお母さんは行列の通った後にいたのでした。
アシクロが「ワン!」と吠えてお母さんに挨拶しました。
タマが「にゃあ。」となきお母さんに挨拶しました。
小丸が「チュー。」としっぽを振って挨拶しました。
  進吉はみんなと一緒にお母さんの家に帰りました。お正月に帰ったきり、半年ぶりでした。
進吉はお母さんに帰り道での出来事を話しました。鏡池の水神様とちい姫の事は話せませんでしたが、大名行列と比奈姫にクロアシ達が宙返りした事も話しました。

  進吉は試してみたい事がありました。帰りに伊豆の町でお母さんに着物を買って帰ろうと思っていましたが、その時間もお金もありませんでした。
  この指輪に願い事をしたら叶う、ちい姫の言う事を試してみたかったのです。進吉はお母さんにちょっと出てくるといって、子供の頃遊んだ原っぱに行きました。

  もう夜になって、月明かりが昔通りの光景を照らしていました。クロアシとタマと小丸もついてきていました。進吉は指輪を月のほうへ向けました。
「母さんの着物を出して下さい。」
進吉が言うのと同時に指輪から光が出て当たりを包みました。するとゴウッ!と言う音とともに進吉の回りに十二人の男が現れひざまづいたのです。
「母上の着物、うけたまわりました。」
十二人の男達は声をそろえて言うと、再びゴウッと言う音とともに進吉の回りを風となって渦のように巻くと、消えてしまいました。そして不思議な事に進吉の前に、お母さんの着物があったのです。それはちょうどあつらえたような、進吉が思っていた通りの着物でした。進吉は指輪を見ました。
「それが誰であっても、必ずお嫁に迎えて下さい。」
ちい姫の言葉が頭に浮かびました。
進吉はクロアシ達とお城の方を見ました。
伊豆のお城が月に照らされていました。


  翌朝、進吉は伊豆のご城下に行ってみました。町の辻に高札が立っていて、そこには武術大会が開かれると書いてありました。誰でも参加していいとも書いてありました。クロアシとタマと小丸が「ワン!」「にゃん。」「チュ〜。」と進吉に合図しました。
  進吉はお城に行って武術大会に申し込みました。「武器は刀か?槍か?」と問われたので、進吉は「犬と猫と鼠」と答えました。進吉は木の棒ひとつ持っていなかったのです。お役人は変な顔をしましたが、武芸者は変な武器を持っているらしく、そのまま「犬と猫と鼠」と書類に書いてしまいました。

  進吉を武術大会に出る事になりました。
  お城の中には武術大会に申し込んだ人でごった返していました。槍や刀、木刀を持った人や、船の櫂、竹竿を持った人もいました。まず一回戦って半分に、そしてもう一回戦って、御前試合に出る人を選ぶとの事でした。
  進吉の最初の相手は大きな髭をした男でしたが、アシクロが「ワン!」と吠えるとへなへなと倒れ込んでしまいました。犬が大の苦手だと言う事でした。
  その次の相手は、大きな男でした。犬など怖くないぞと、大きな鉄の棒を振り上げて言いました。しかしアシクロを追いかる途中で木に鉄の棒をぶつけたあげく、自分の頭に鉄棒をぶつけ、のびてしまいました。タマも小丸も出番がありませんでした。
  こうして進吉は難なく御前試合に出る八人の中に選ばれたのでした。

  犬と猫と鼠が二人の男を倒したとお城では大勢の人が面白がって、御前試合の庭に見にきていました。御殿の中にお殿様と比奈姫が座っていました。
  進吉は八人の中で一番後にいました。そしてその後にはクロアシとタマと小丸が続いていました。進吉がお殿様と比奈姫に頭をさげるとクロアシもタマも小丸も頭を下げました。どっと笑いが起りました。
「姫よ、よく仕込んであるの。」お殿様は比奈姫に笑って言いました。
「ええ、よい家来が三人もおります。」
比奈姫はそう答えました。

  試合が始まりました。
  二人づつ試合が行われました。槍が男をはね飛ばし、剣が胴を打ちました。鎖鎌が足をからめとり、頭を割りました。あっという間に三つの勝負が終わりました。進吉には始めて見る武器でした。
  進吉の試合となりました。 
  進吉の相手は木刀をもったどこかの道場の門弟らしい男でした。先の二人が犬一匹に負けたとあって、今度の男は慎重でした。アシクロの動きをじっと見つめ、むやみに動こうとはしませんでした。タマが反対側に歩いて行きました。男はタマの様子も見て、やはり動こうとはしませんでした。
  しばらくすると男の動きが奇妙になってきました。そして木刀を投げ捨てて、服をぬぎはじめました。小丸が男の服の中に入り込んでいたのでした。男がやっと服を脱いで小丸を追いだした時、進吉は男の捨てた木刀で頭をポカンとやりました。男は裸になったまま、そこに倒れてしまいました。
  お殿様は大笑いしました。比奈姫は袖で顔を隠していました。進吉はすこしまずかったかな?と思いました。

  残りは四人となりました。
  槍の男と剣の男の試合が行われました。槍の男がやっと気合いを飛ばすと、もう一人の男が倒れました。進吉には何が起ったのかわかりませんでした。

  進吉の番でした。相手は鎖鎌の男でした。鎖鎌の先には重たい分銅がありました。
  お殿様が側のものに何かを言いました。側のものが走り比奈姫に何かを渡しました。比奈姫はそのまま立って進吉の所に進みました。赤い木刀を持っていました。
「無理はなさらないで下さいね。」
比奈姫はそう言って進吉に赤い木刀を渡しました。

  試合が始まりました。今度の男は今までのようには行かないと思いました。分銅が当たれば小さなタマや小丸は潰されてしまいます。
「行くぞ!」
進吉はそう叫ぶとクロアシとタマと小丸といっせいに男に向かって走り出しました。みんなが一緒に走ってきたので鎖鎌の男は誰に的を絞っていいのかわかりませんでした。
クロアシが男に体当たりしました。
タマが手をひっかきました。
小丸が鼻をがりっとかじりました。
進吉は目をつむったまま赤い木刀を振り下ろしました。
ボカンと音がして、なにかを殴った気がしました。進吉が目を開けると、鎖鎌の男はのびていました。
比奈姫は思わず立ち上がり手をたたきました。
進吉はやっと目を開けると自分が勝った事に気がつきました。

  最後の試合になりました。
  相手は槍の男でした。さっき気合いだけで相手を倒した男でした。進吉もクロアシもタマも小丸も、何がどうなったのかわかりませんでした。比奈姫が見ていました。やってみるだけでした。

  試合が始まりました。
槍の男は「大橋伊佐之助、参る!」と名乗りました。
進吉はつい頭を下げ、
「元蓬莱屋丁稚、進吉。 毎度ありがとうございます。」と、言ってしまいました。
伊佐之助はすこしふっと笑うと槍をかまえました。
進吉も赤い木刀をかまえました。クロアシもタマも小丸も身がまえました。
  伊佐之助は身がまえたまま、少しも動きませんでした。進吉はさっきのように突っ込む事も出来ずにいました。
  しばらくすると伊佐之助は槍をくるっと回転させると、「はっ!」と気を飛ばしました。するとクロアシとタマと小丸が、何かに押されたように、しりもちをつきました。
  伊佐之助はもう一度槍を回転させると「はっ!」と気を飛ばしました。すると今度は進吉がドンとしりもちをつきました。進吉は慌てて立ち上がり木刀をかまえました。
  伊佐之助は進吉が立ち上がるのを見ると、槍をぐるぐる回転させはじめました。それから間合いを取るように、少しずつ進吉に近づいてきました。進吉もクロアシもタマも小丸も少しずつさがっていきました。比奈姫はぎゅっと着物のすそを握りました。
「はっ!」
突然伊佐之助が気を飛ばしました。進吉達はあっという間に押し倒されてしまいました。
そこに伊佐之助は突っ込んできました。
進吉は転んだまま立ち上がる事も出来ませんでした。
クロアシもタマも小丸も地面に倒れ込んだままでした。
「進吉さん!」
比奈姫は叫びました。
グォン!
その瞬間、伊佐之助は進吉にめがけて槍を振り降ろしたのでした。

             犬と猫と鼠と大冒険。 中編へ。
  「犬と猫と鼠と大冒険。中編。」
 
  進吉は、とっさに地面を蹴り、伊佐之助の方へ飛びました。
伊佐之助の槍は地面をバシンと叩き、跳ね上がりました。進吉は伊佐之助の前に転がり、そのまま伊佐之助けにぶつかりました。そして二人はもつれたまま倒れました。
  その時、進吉の持っていた木刀は空を切って、ちょうど伊佐之助の頭の上の地面を叩いていました。
「一本!」
審判をしていたお城の師範代が叫びました。
何が何だかわかりませんでした。
伊佐之助は驚いたように進吉の顔を見ていました。
進吉が勝ったのでした。

  比奈姫はほっとわれに返ると拍手をしました。
  クロアシも、タマも、小丸も、やっと立ち上がり進吉に駆け寄りました。進吉は何が起ったのかわかりませんでしたが、自分が勝った事だけはわかりました。

  進吉とクロアシ、タマと小丸はお殿様の前に呼ばれました。
「進吉と犬と猫と鼠、よくやった。近頃稀に見るものであった。 褒美を取らすゆえ何なりと申すがよい。」そうお殿様は言いました。
クロアシは「ワン!」と、タマは「にゃん。」と、小丸は「チュ〜。」と三匹そろって進吉に言いました。
進吉は困って比奈姫の顔を見ました。
比奈姫はうなずきました。
「比奈姫を頂戴しとうございます。」
進吉はお殿様に答えました。
「うん?」
お殿様はそう言うと比奈姫の顔を見ました。
「お約束でございます。」
比奈姫はそうお殿様に答えました。
「う〜ん。」
お殿様はそううなると黙りこんでしまいました。しばらくしてお殿様は重い口を開きました。
「わかった、申した通り、姫を進吉にやろう。ただし、ただしじゃ。進吉、姫が住むにふさわしい御殿と、七つの蔵を建てよ。そして七艘の船いっぱいに米を積んで下田の港に浮かべてみよ。さすればいつでも姫を迎えに城に来るがよい。」
「お父様、それは・・・。」
比奈姫は父の難題に驚きました。
「無茶と申すか?だがの、お前をくれと言うのは、それほどの無茶じゃ。」
お殿様は困ったように答えました。
「姫の御殿と七つの蔵、そして七艘の船いっぱいの米でございますね?」
進吉はお殿様に聞き返しました。
お殿様はびっくりしました。進吉があきらめるかと無理な注文をつけたつもりでした。
「では必ずお迎えに参ります。」
進吉はそう言うと比奈姫に頭を下げ、クロアシとタマと小丸を連れて、下がって行ったのです。
比奈姫はフッと笑って、お殿様に言いました。
「私はこのままお迎えを待ちます。」
お殿様はあきれたように「好きにせよ。」と言うと奥に入ってしまいました。


  進吉は翌朝早くお母さんに四つのお弁当をつくってもらって、家を出ました。そして原っぱに出ると指輪に願いました。
「日本中の珍しい品物を荷駄に十二! 出してくれ!」
するとゴウッと言う音とともに十二人の男と、荷物をたくさん載せた十二の荷駄が現れました。
「これを下田のご城下に運んでくれないか?」
十二人の男は荷駄に前に立つとご城下に運びはじめました。そして、橋のたもとまで運ぶとフッと消えました。
進吉は荷物をほどくと、品物を売りはじめました。品物はどれも珍しく、なかなか手に入らないものばかりでした。クロアシもタマも小丸も、進吉の側で宙返りをして、お客さんを笑わせました。十二の荷駄いっぱいの品物は瞬く間に売れてしまいました。

  進吉は次の町へと向かいました。町外れの誰もいない所で指輪から商品を出し、町に入ると売りました。それを繰り返し繰り返し、江戸に向かったのです。

  一週間が立ちました。
  伊豆の下田の港に米をいっぱい積んだ七艘の船と、御殿を建てる材木を積んだ七艘の船が入ってきました。船には進吉と蓬莱屋藤兵衛が乗っていました。もちろんクロアシもタマも小丸も乗っていました。
  下田の港に進吉の船が入った事はすぐにお城にも届きました。藤兵衛と進吉はお城に向かいお殿様に報告しました。
  お殿様の前には金が三千両積まれていました。七艘の船いっぱいの米、お屋敷と蔵の材木を買って、まだ三千両が残っていたのです。
  お殿様にはもう何も言えませんでした。

  三ヶ月後、姫のお屋敷と七つの蔵が建ち、お城から比奈姫が嫁いできました。
  進吉とお母さん、クロアシとタマと小丸はかしこまって姫を迎えました。
  進吉は藤兵衛から蓬莱屋ののれんをわけてもらいました。下田蓬莱屋が生まれ、そして藩ご用達をうけたまわる廻船問屋となったのです。
  お屋敷からは下田の港が見えました。港には進吉の船が七艘浮かんでいました。進吉は比奈姫に言いました。
「日本中の品物を、日本中の人に買ってもらうんだ。」
「はい。」
比奈姫は進吉を見て、うれしそうに答えました。
進吉は姫に指輪の事を話しました。不思議な力がある事も、それがどんな事でも叶える力である事も話しました。姫は、姫は本当に困った時だけこの指輪にお願いしましょうと言いました。出来る事は自分たちの力でやりましょうと言いました。進吉は姫の言う事が正しいと思いました。姫と二人で出来る限りの事をやって行こうと思いました。

  それからは毎日が目の回るような忙しさでした。
  進吉は姫に話した通り、日本中の品物を下田に集め、そこから諸国へ売って行ったのです。クロアシもタマも小丸も、進吉の手伝いをしました。一日に何回も宙返りをするので目がまわってしまいました。
  比奈姫も最初は戸惑っていたのですが、大名の奥方様や姫君には、比奈姫でなければ応じる事も出来ませんでした。こうして比奈姫も、進吉の仕事になれて行きました。
  進吉の夢が形になりつつありました。毎日船が入り、また出て行きました。進吉の蓬莱屋は人で溢れ、いつしか大勢の使用人がいました。中には進吉の知らない者もいたのでした。


  ある夏の日、船の荷を改めた後、進吉は木陰でついうとうとと眠ってしまいました。
  アシクロもタマも小丸も、一緒に眠りました。比奈姫は「疲れているんだからそっとしてあげなさい。」と、店の者に言うと自分も進吉のそばに座りました。
  いつのまにか姫も眠っていました。
  風がゴウゥと音をたて舞いました。
 
  進吉は目を覚ましました。クロアシもタマも小丸も目を覚ましました。
  何かが変わっていました。いやな予感がしました。進吉はすぐに比奈姫を探しました。店の中も外も、船もすべて探しました。クロアシもタマも小丸も探しました。

  どこにもいませんでした。

  進吉はハッとして自分の手を見ました。指輪がありませんでした。
  誰かが指輪を盗み、比奈姫をさらっていったのでした。

             「犬と猫と鼠の大冒険。中編。」
  「犬と猫と鼠と大冒険。後編。」
    一週間が過ぎました。
  比奈姫の行方はわかりませんでした。お城のお殿様も、お役人達も探しましたが、どの宿場にも関所にもまったく手がかりがありませんでした。
  藤兵衛さんも、日本中の港に比奈姫を探すよう伝えてくれましたが、やはりどこにも見つかりませんでした。
  誰かが指輪の力を使ってる。進吉は悔やみました。指輪の力を誰かに見られたんだ。だから災いとなって比奈姫にふりかかったんだ。
  
  進吉は自分一人でも、比奈姫を探そうとお店を藤兵衛に頼み旅に出る事にしました。アシクロが後に続きました。タマと小丸も後に続きました。歩いて行くと分かれ道に出ました。アシクロがあたりをかぎ回り、そしてこっちだと、「ワン!」と吠えました。
  宿場町に入りました。タマが「ニャオ〜ン。」となきました。すると町のあちこちから、「ニャオ〜ン。」「ニャオ〜ン。」と声が帰ってきました。タマはこっちだと、「ニャン」となきました。
  田んぼがどこまでも続いていました。小丸が「ちゅ〜。」となきました。するとあちこちから小ネズミが現れて、チュチュチュ、チュチュチュとなきました。小丸がこっちだと、「チュ〜。」となきました。
  こうして四人は比奈姫を追って旅を続けました。山を越え、川を越え、どこまでも歩き続けました。そしてある小さな港町に着いたのです。

  港町に入るとクロアシが何かの匂いを嗅ぎ分けました。
「クロアシ、比奈姫がここにいるのか?」
「ワン!」
進吉にそう答えると、クロアシは港中を嗅ぎ回り、確かめました。確かに懐かしい匂いがするのです。でもクロアシにはどこからその匂いがするのかわかりませんでした。クロアシは進吉にすまなそうな顔をしました。
タマが突然、「ニャオ〜ン!」となきました。すると町中の猫が「にゃお〜ん。」「にゃお〜ん。」と、ひっきりなしにないて答え返してきました。
  タマは港に走って行きました。 船が何艘も浮かんでいました。タマはそこで進吉にすまなそうな顔をしました。
「いいんだよ、このあたりでみかけたんだな?」
「にゃん!」
タマは答えました。

  突然、クロアシが進吉の着物のすそをかんで引っ張りました。そして、建物の陰に引っ張り込みました。
「どうした?」
クロアシは進吉に答えるように、「ウウッ。」と唸って、船に乗り込もうとしている男を見ました。その男の指には、あの指輪が光っていました。
「!」進吉は慌てて身を隠しました。どこかで見覚えのある男でした。思いだせませんでした。でも、あの男が指輪を持っているなら、この近くに比奈姫がいるはずでした。
「みんな、あの男に見つからないように 比奈姫を探してくれ。」
クロアシもタマも小丸もうなずきました。
クロアシは進吉とは反対側の方へ走って船をじっと見つめました。そしてタマと小丸は船へ、踏み板をかけ登り中に消えました。

  夕暮れ近く、タマが「ニャウ〜。」と呼びました。
  進吉とクロアシは船に乗り込むと、タマについて行きました。船の中をタマについてそっと進みました。会談を降り、そして一番後の部屋につきました。部屋の中にはあの男がいました。そして机の上にかめのような瓶が置いてありました。
  その中に、小さくされて閉じこめられた比奈姫がいました。
  
  小丸が梁の上から「チュッ!」っと短く合図をしました。
  部屋の中から男が出て来ました。進吉たちはとっさに階段の下に隠れました。男が甲板の方へ上がると進吉は部屋の中に入りました。
「比奈姫!」
「進吉さん!」
比奈姫は瓶の中で進吉を呼びました。
「比奈姫、こんな窮屈な所にずっといたのか。すぐ此処を出よう。」
「進吉さん、待って。指輪をどうするのですか?」
「指輪なんかいい、此処を出て逃げよう。」
比奈姫は首を振りました。
「指輪がある限り逃げても仕方ありません。あの男がそのつもりなら、どうにでも出来てしまいます。」
「でも、姫をここには置いておけない。」
進吉は姫を連れて行こうとしました。
「進吉さん、今あの男はゆうげを取りに行きました。しばらくすると戻ってきて、半時ほどで眠るでしょう。その時、小丸に指輪を取り戻させるのです。指輪を取り戻したら、その力で、一緒に逃げましょう。」
進吉は姫の言葉に従う事にしました。
「小丸、頼むぞ。」
小丸は「チュウ。」と答えました。
進吉は小丸を姫の瓶の側に下ろしました。
「姫、外にいるからね。」
進吉はそう言うと外に出て階段の下に隠れました。クロアシもタマもじっと身を伏せ、男の帰りを待ちました。進吉はあの男が誰なのか、思いだせませんでした。
  どこかであった事がある。
  どこであったんだろう?
  なぜ、こんな事をするんだろう?
進吉には思い当たる事もありませんでした。
  
  男が帰ってきました。弁当を持っていました。
  男は指輪の力で弁当を小さくすると、比奈姫の瓶の中に置きました。進吉はその様子をじっと見つめていました。今すぐにでも飛び出して行きたい。そんな気持ちをぐっとガマンして待ちました。
  波の音がザ〜ン、ザ〜ンと聞こえていました。
  どのくらい待ったでしょうか、男は明かりを消すと、布団の中に潜り込みました。
  進吉は男が眠りにつくのを待ちました。
  比奈姫が呼んだような気がしました。進吉が戸のすき間から見ると、隠れていた小丸がそっと男に近づいて行っていました。
  比奈姫も瓶の中で小丸を見ていました。小丸は静かに男の方に近づいて行きました。そして男の指の側につくと、指輪を取ろうとしました。指輪はするするとまわりました。小丸はゆっくり、ゆっくり取ろうとしました。突然、男は「う〜ん。」と言うと、手のひらを握りました。小丸は指輪を取れなくなってしまいました。
  
  小丸はどうしようかと進吉を見ました。比奈姫が瓶の中から合図をしました。自分が指輪を取ると言っているようでした。進吉は比奈姫を瓶から出すよう、タマに言いました。するとタマはそっと瓶に近づくと、比奈姫の入った瓶をゆっくり倒しました。
  比奈姫は瓶から出るとタマと小丸の所に行きました。そして握ったこぶしをタマのしっぽでサワサワくすぐりました。小丸もチョリチョリくすぐりました。男はすこしづつこぶしを開いて行きました。
「小丸。」
比奈姫は小さく口を開けて、小丸に指輪を取るよう合図しました。小丸は指輪をくるくる回し、男の指から外しました。
「やった!」
  進吉がそう思った時、船がぐらりとかたむきました。小丸は指輪を持ったまま転がり、比奈姫もタマと一緒に横に滑ってしまいました。姫はおどろいてタマにしがみつきました。
  タマは布団にしっかりと爪をたて踏ん張り、転がるのを防ぎました。しかし船はギギギギギっと大きくきしみ、その音で、男は目を覚ましてしまいました。
  進吉も比奈姫も息を呑みました。タマは固まったように動きませんでした。
  波の音がザ〜ン、ザ〜ンと響きました。
  男は、首を少し動かしあたりの様子を見ると、何事もなかったように横になりました。
  その時、船がまた揺れて、比奈姫の入れられていた瓶が、ゴトーンと床に落ちてしまいました。男は跳ね起き、その瞬間、タマが布団の上にいる事に気がつきました。
  進吉は思わず戸を開けると、「比奈姫!」と叫んでしまいました。
  男は進吉を見つけると、何が起きたのか、悟ったようでした。
  タマは比奈姫を背中に乗せたまま、じっとしていました。
「比奈姫を取り返しに来たのか?」
男は進吉に聞きました。
「そうだ!」
進吉が叫ぶと、今までおとなしくしていたクロアシが、男に飛びかかりました。
「ウオォン!」
「うぉっ?」
男はクロアシに押し倒され、もがきました。
「姫!」
「進吉さん!」
タマは比奈姫を乗せて進吉の所に走りました。進吉は比奈姫を抱き上げると、タマと甲板へ走りました。進吉は甲板に飛び出すとあっと驚きました。

  そこは海の真ん中だったのです。船はいつの間にか出航していたのでした。

比奈姫は進吉の手の中で言いました。
「・・・進吉さん、指輪を探しましょう。」
「指輪は今どこに?」
「小丸が持っています。さっき船が揺れた時に、指輪を持ったまま転がって。」
「そうか、まだ指輪は持っていないんだな?」
進吉が驚いて振り返ると、客室の入り口にあの男が立っていました。そして、側にあった長い棒を持つとビュン!と振りました。進吉はハッとしました。その男は御前試合の時の槍の男、大橋伊佐之助だったのです。
「おまえは・・・!」
「そうだ、お前に負けた大橋伊佐之助だ。」
「あなたは、試合で進吉さんに負けたんですよ。」
比奈姫が言いました。伊佐之助はキッとにらみ返しました。
「・・・だが、合点がいかん。お前の剣は、どこの門下のものとも言えん。ただ子供が木刀を振り回しているようなもの。」
「・・・ああ、確かに誰にも習わなかった。」
進吉は答えました。
「だからよ、合点がいかぬ。」
伊佐之助は進吉を見つめながらいいました。
「あの後、俺はお前を追った。そこであの指輪の力を見た。」
進吉はアッと思いました。
「それで、負けたわけがわかった。」
「俺は、指輪の力で勝ったわけじゃない。指輪に願い事をするヒマもなかった!」
伊佐之助は笑いました。
「すぐわかるさ。」
そう言うと伊佐之助は側にあった棒を進吉の前に投げました。進吉は、伊佐之助を見つめました。そして比奈姫を側の桶の上に置きました。
「進吉さん!」
「・・・剣も武術も習った事はないけど、でも、やらなきゃ。」
進吉はそう言うと棒を持って伊佐之助に向き直りました。
「ふん!」
伊佐之助は鼻で笑うと、長い棒をびゅんびゅん回し始めました。進吉は桶の上の比奈姫からすこしづつ離れて行きました。
 
  伊佐之助は槍を止めると、「ハァ!」と気を飛ばしました。進吉は何かに押されたように、ドンとうしろに飛ばされてしまいました。
「進吉さん!」比奈姫は叫びました。比奈姫は、進吉が心配でしかたありませんでした。
進吉は起き上がり、また棒をかまえました。
  伊佐之助は待っていたように、「ハァ!」「ハァ!」と気を飛ばしてきました。進吉はまた、ドン、ドン!と突き飛ばされました。
  伊佐之助はそこに棒を振り下ろしました。進吉は横に飛び、棒をよけましたが、伊佐之助の棒は船のへりを、砕いていました。
  進吉は立ち上がりましたが、伊佐之助は棒で打ち続けました。あっちへ飛び、こっちへ転がり、進吉はかわしていましたが、次第に追いつめられて行きました。
 
  後がありませんでした。
  その時、何かがドンと伊佐之助に体当たりしました。伊佐之助は、ぱっと後に飛び退き、身構えました。クロアシでした。小丸が比奈姫の側に走り。指輪を出して「ちゅ〜。」と鳴きました。
比奈姫は指輪を持つと、進吉を助けようと指輪に願いを言おうとしました。
「だめだ、比奈姫!指輪の力は使うな!」
「進吉さん・・・。」
比奈姫は驚いて進吉を見ました。
「これは指輪の力で勝ったら、いけないんだ。」
進吉はよろけながら立ち上がりました。
伊佐之助はビュオンと棒を回し、進吉を待ちました。
「進吉さん!」
比奈姫は指輪を握り、進吉を見ました。クロアシもタマも小丸も同じでした。進吉は立ち上がると、棒を握りなおし、構えました。
  伊佐之助はダッと突っ込んできました。
  伊佐之助の棒が進吉に振り下ろされました。進吉はそれをかわすと、伊佐之助に突っ込みました。伊佐之助は横に飛び退き、進吉に再び、棒を振り下ろしました。進吉は転がりこれをかわしましたが、船のへりにぶつかりました。そこに伊佐之助の棒が空を裂き、進吉の頭にせまりました。 
  ビュルュン!  
  鈍い音とともに突然、伊佐之助の動きが止まりました。棒が、縄に絡み取られたのです。進吉は棒を伊佐之助に叩きつけました。
  胴に入りました。勝負がついたのです。

進吉は棒を捨てると比奈姫の元に行きました。
「進吉さん。」
進吉はあちこちケガをしていました。
「・・・うん。」
クロアシとタマと小丸も進吉の足下に集まりました。
  
「なぜだ?」
伊佐之助は、そのまま身じろぎもせずに聞きました。なぜ自分か負けたのかわからないのでした。
進吉は静かに答えました。
「・・・よくわからないけど、一所懸命だったからかもしれない。」
そして、指輪から風がゴッ!と巻き上がると、伊佐之助だけを残し、進吉たちは消えたのでした。


  進吉たちは鏡池の前にいました。比奈姫はもう、元の姿に戻っていました。
「ちい姫〜、指輪を返すよ。」
進吉はそう言うと指輪を池に投げ込みました。指輪はパチャンと音をたてるとそのまま沈んで行きました。
「はい、進吉さん。皆さんとお幸せに。」
池の底からちい姫の声が聞こえてきました。

  指輪の力はなくても、進吉のまわりには三人の仲間と比奈姫がいました。
「帰ろう、姫。」
「はい。」
比奈姫が答えました。
「帰ろう、みんな。」
クロアシが「ワン!」と、タマが「にゃん!」と、小丸が「ちゅ〜。」と、答えました。

  それから、進吉と比奈姫は三人と一緒に伊豆へ帰り、また力を合わせて暮らしました。

                 「犬と猫と鼠と大冒険。後編。」
   
    「犬と猫と鼠。」の、もっとも古いものとされているものは、ギリシャの歴史家、ヘロドトスの著作「歴史」第三巻四十二の「ポリュキュラテスの指輪」で千夜一夜物語にも同型の話があるそうです。
  世界的に分布している所から、アールネの歴史地理的方法の実験作業の対象となった事でも有名だそうです。つまりどう伝わりっていったか?ですね。
  日本でもこの話に対して荒木博之氏によって同様の事が行われてそうです。
  このお話には指輪(呪宝)をもたらすものが、蛇と猿の場合、また竜宮からの三つがあります。
  ます蛇タイプが発生し、そのあと猿タイプが蛇タイプを駆逐、沖縄から九州、新潟まで波及し、その後竜宮タイプが東南アジアから伝わったのではないかと推論されています。
  お話としては、主人公をお爺さんとお婆さんにするものは、主人公にあたるお爺さんがほとんど何もせず、犬と猫のお話になっています。
  また若者と母(おばあさん)の場合は、主人公の若者が、宝物を真に自分のものにする物語と考えられるのですが、あまりに広い地域に、たくさんの類話が伝わっているため、原型がどんなものであったのか、わからなくなっています。
  今回はつい冒険物語に仕立てすぎて原型とかけ離れてしまいましたが、元のお話はものすご〜く有名なお話なんですよ、とだけは言えると思います。