お話歳時記

大歳の客ー死体化生

  大みそかに神霊が来訪し福徳をもたらす。

  「大歳の客」と呼ばれるタイプの話は、大みそかに旅人が一夜の宿を乞い、こころよく迎え入れると、翌朝、旅人は金、小判等に変わっていたというお話です。

「大歳の夜。」

  大みそかの夜、仁兵衛じいさんとオタエばあさんは、囲炉裏のそばに座り、火に当たっていました。

  田畑が少ししかなく、仁兵衛さんは若い頃から手間仕事をして細々と暮らしてきました。 子供も無く、二人で仲良く暮らしていましたが、だんだん歳をとって、七十の声を聞く頃になると、ろくに働けなくなっていました。

  大みそかの夜の事です。

  二人で大根汁を食べ、家では年越しそばも食べねぇ、正月もできねぇけんど、今年もいろんな事があったなぁと話していました。

  囲炉裏の火がパチパチと燃えていました。

  遠くの方から「わっしょい、わっしょい。」と声を掛け合いながら、誰かがやって来るのが聞こえてきました。 仁兵衛じいさんとオタエばあさんは、何だろう?と家の前に出ると、蓑をつけた五人の男が、桶を神輿のようにかつぎ、奇妙に手を振り、足を蹴り上げながら、踊り歩いていました。

  そして、家の前まで来ると、その桶を降ろしたのです。

  仁兵衛さんとオタエさんが目をぱちくりしていると、「何見ておられる?」と五人の男達が二人に聞きました。

二人は、「明日は正月だけども、私たちは貧乏で正月ができねぇ。 それで、二人で火にあたっていたら、声が聞こえてきたので外に出て見たんだぁ。」と、話しました。

  五人の男はそれを聞くと、
 「ほんとに正月しないのか?」
 「ほんとにしないのだな?」
と、口々に問います。

  二人が「ああ、しねぇ。」と答えると、
  「じゃあ、これを頼まれてくれねぇか?」と、桶を降ろしました。

  良く見るとその桶は棺桶のようでした。

  世間様は正月で、はぁ、このホトケさんは、行き場がないのかのう、と、二人は思いました。 「へぇ、預からせてもらいます。何かの縁でこのホトケさんは、うちに宿借りる事になったんでしょう。土間でよければ、置いて行ってくだされ。」

  仁兵衛じいさんがそう答えると、五人の男はその棺桶を家に運び込み、担いでいた棒を抜くと「頼みましたよ。」と言って、また奇妙に手を振り足を蹴り上げながら、夜の闇に溶けて行きました。

  家には一本の線香もありませんでした。

  「あんたぁ、線香買うお金はあるかねぇ?」

  「ああ、線香買うくれぇならある。」

  仁兵衛さんは遠くまで走っていって線香を買い棺桶に供えて拝みました。

  次の日、歳が明けて、新年元旦となりました。

  昨日の五人は棺桶をとりに来ませんでした。

  正月だから、取りに来ないのかねぇと、二人は線香を立ててまた拝みました。

  しかし、次の日になっても、男達は現れませんでした。

  三日の日になりました。

  「いくら何でも、このままには出来ないねぇ。 あんたぁ、どうする?」

  「うん、ちょっくら開けて見るかの。 なんかわかるかもしれねぇ。」

  仁兵衛さんとオタエさんは恐る恐る桶の蓋を開けました。 するとその中には、死んだ人ではなく、大判小判がぎっしりと詰まっていました。

  二人は驚いて、庄屋さんやらお奉行様やらに話しましたが、結局その五人の男達はどこの誰ともわからず、また、盗まれたものもいないとお調べがつきました。 誰のものでも無いとなれば、大判小判は二人のものだと決まったのです。

  それから仁兵衛さんとオタエさんは、不自由なく暮らしました。

        「大歳の夜。」

  「大歳の客」で訪れる客は、この五人の男達の他に、座頭であったり、行き倒れの男であったり、乞食であったり、旅芸人であったりします。

  その者が囲炉裏端で火にあたっていると、翌朝、黄金になっていた。

  便所に落ちたので、洗い、火にあたっていると、黄金になっていた。

  井戸に落ちた座頭を、お爺さんとおばあさんが、「上がるかや?」と問い、座頭が「身上、身上。」と答え、掛け合いをすると、翌年大金持ちになった、という話が伝わっています。

  この「客」は神霊とされ、一般的には穀霊と考えられています。

  世界的に穀物は、神様等の死後、その死体からさまざまな食べ物が生まれたと考えられています。 この考え方を「死体化生」その伝説を「死体化生譚(説話)」としています。

  日本神話中の死体化生説話は、大気都比売神(おおげつひめのかみ)がその鼻や口、尻から食物を出したため、須佐之男命に殺された後、その死体から五穀が生じた、という説話と、保食神(うけもちのかみ)が、国に顔を向けると御飯が、海に顔を向けると大小の魚が、山に顔を向けると狩猟の獲物が、口から吐き出し、それを月夜見尊に饗応したため殺され、その死体から五穀が生じたという説話があります。(月夜見尊にいかり、天照大神が顔を見ないようにと昼と夜が生まれた、という説話でもあります。)

  神霊が訪れ、富を得る、穀霊が訪れ、死後、富となる。

  死体は一般的には不吉・不浄なものですが、「大歳の客」の死体は変化するための過程、という事なんだと思います。

  また、このお話には火から黄金が生まれる、という考えも含まれているのですが、そのお話はまたいつか。

◆ 補記 ◆

◇火の死体化生説話。

◇迦具土神(かぐつちのかみ)、別名火産霊(ほむすび)。

伊邪那美尊が最後に生んだ神。

迦具土神の火に焼かれ伊邪那美尊が死んだ為、伊邪那岐尊に首をはねられ、その死体からさまざまな神を生んでいます。

また伊邪那美尊もその死体から八体の雷神を生んでいます。

十二月のお話。

クリスマスのお話。