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六月-海と水辺の物語。
 
  川に棲む神様、日本。
    中国の田螺は天の川の天女だったんですが、では日本ではどうなったのでしょうか?
よく知られている「田螺長者.」のお話です。
  田螺長者。 
    あるところに、なかなか子供の出来ないとと様とかか様がありました。子供の欲しい二人は田に出ては水神様にお願いし、帰ってはまたお願いしました。「水神様、蛙でも田螺でもかまいません、どうか子供をお授けくだせ。」

  かか様はいつものように田んぼで水神様にお願いしていると、急におなかが痛くなりました。とと様はかか様を家に連れ帰り介抱しましたが、いっこうになおりません。 どうしたものかと隣近所、寄り集まって相談していると、近所のばば様が突然、真顔で言いました。「こりゃ子供が産まるぅきざしさ。」 

  しばらくしてかか様は小さな田螺を産み落としました。田螺の子供が産まれた事に、みんなどうしたものか困り果ててしまいました。「この田螺は水神様にお願いして授かった我が子、大事に育てっしょ。」そう言ってかか様は水を入れたお椀に田螺を入れ、神棚におきました。

  田螺の子供は一言もしゃべりませんでしたが、神棚に供えたご飯はぺろりと食べてしまいました。 夫婦がのぞくと、ぷくぷく泡を出しました。いつかこの田螺が大きくなり、手や足がでて、外を駆け回る子になるかと、とと様もかか様もご飯をこさえ、大切にしました。田螺はぺろりとご飯を食べ、ぷくぷく泡を出しました。しかしいつまでたってもぷくぷくぷくぷく泡を出すだけでした。 そうして、そのまま二十年の月日がたって行ったのです。

  とと様もかか様も老いてきました。とと様は馬に年貢の米俵を積みながら、つい、こぼしてしまいました。「水神様に授かった子だけぇど、なんの役にもたたね。このままわしが働けんなったら、どうしたもんだぁ。」

  ぷくぷくぷく。「とと、とと、今日はわらしが米もって行く。」 とと様はびっくりしました。家の中から声がする。とと様は神棚のお椀を取りじっと見つめました。「わらし、いましゃべったか?」ぷくぷくぷく。「とと、わらしがしゃべった。」田螺のわらしがしゃべった。 とと様は驚いてかか様を呼んだ。そして二人で聞いた。「わらし、お前どうしたいのかぁ?」 ぷくぷくぷく。「わらしはいままでいっぱいご飯を食わしてもろた。そろそろ世の中に出て行く頃だから、今日はわらしが庄屋様に米届けに行く。」
  
  とと様とかか様は、小さなわらしが心配でならなかったが。水神様から授かった子の言う事で、その通りにした。とと様は馬の背に積んだ米俵の間に田螺のわらしを乗せた。わらしは「はぁい、はぁい。」と声を上げた。すると馬っ子はぱかぱか前へ進みはじめた。

  馬っ子が通りにでると、わらしは馬子唄をきれいな声で歌いはじめました。畑にいた村の人は誰の声か?と馬を見ると誰もいません。馬が一匹、米俵を積んで歌を歌いながら歩いて行きます。そしてその後を、田螺のとと様とかか様が隠れるようについて行きます。

  これはどうした事か? 村の人は田螺のとと様とかか様に聞きました。田螺のわらしが初めて声を出して、庄屋様に年貢を納めに行く、そうか、それは心配な事だと、村の人もとと様たちと同じように物陰に隠れ隠れついて行きました。

  こうして村人は田螺のわらしの歌を聴きながら、馬の後をぞろぞろ、ぞろぞろついて行きました。田螺のわらしが馬子唄を歌いながら米を届けに来る。庄屋様の家にはいち早く知らせが届いていました。庄屋様の所では、庄屋様と奥様、二人の娘、下男、下女、馬や犬、鶏まで、門のところでわらしの来るのを待っていました。

  すると馬が馬子唄を歌いながら、大勢の村人を従えてやって来ます。馬は門の所まで来ると止まると、「庄屋様、年貢をもって参りました。 どうぞ納めてくだせ。」と、声がします。 庄屋様が、声のするあたりをまじまじと見ると、なるほど米俵の間に、田螺がちょこんと乗っています。庄屋様は水神様の申し子に失礼があってはいかんと、田螺のわらしを家に招き入れ、もてなしました。

  わらしは出されたお膳にぴょんと乗り、ご飯をぺろり、魚をぺろり、お汁をぺろりと平らげて行きました。それを見ていた庄屋様と奥様は、かねて聞いていた水神様の申し子は、このような不思議なものであったのか。馬をあやつり、歌を歌い、言葉をはなす。
奥様は庄屋様の脇をつつきました。
「うむ、田螺のわらし殿。」
「はい。」
「突然だが、家の娘のどちらかをもろうてくれまいか?」
わらしは庄屋様の隣に座っている二人の娘を見ました。
姉様の方は驚いて庄屋様を見ていました。
妹様の方はわらし殿を見て、にっこり笑いました。
わらしはぽぅっと赤くなりました。

  その夜、わらしのとと様とかか様が、庄屋様の家に招かれ、婚礼が行われました。

  三日の後、庄屋様の家から七頭の馬に花嫁道具、箪笥長持七棹づつ。年貢の代わりに妹娘の花嫁を乗せて、田螺のわらしは馬子唄を歌いながら、帰って行きました。
  花より美しい嫁様は、とと様とかか様に実の両親より優しく使えました。働き者で、水くみも、おさんどんも、野良仕事もこなしました。帯の結び目に田螺のわらしをちょこんと乗せて、歌を歌いながら薪を拾いました。一年がたつ頃には、わらしの家の暮らし向きはずっとよくなりました。

  春になりました。 四月八日はお釈迦様のお祭りです。嫁様はお祭りに行った事の無いわらしをつれて出かける事にしました。
  嫁様は綺麗に化粧をして持ってきた着物を着ました。そして、いつものように帯の結び目にわらしを乗せて出かけました。わらしは歌を、嫁様もそれに合わせて歌を歌いながら田んぼのあぜを歩いて行きました。

  ちょうど、田んぼのそばの川にかかっている橋を渡っている時です。鳥がバサバサと嫁様に向かって飛んできました。その拍子に、嫁様の帯の結び目にちょこんと乗っていたわらしは川にぽちゃんと落ちてしまいました。「わらし殿!」嫁様は川に入ってわらし殿を探しました。しかし川の中には田螺がたくさんいて、どれがわらし殿かわかりませんでした。
  下のほうへ流されて行ったのでしょうか?
  それともどこかに飛んでしまったのでしょうか?
嫁様は着物がどろどろになるのもかまわず、たにし殿を探しました。

  日が暮れて来ました。それでもたにし殿は見つかりません。嫁様はこのままたにし殿が見つからなかったら、そう思うと涙がポトリ、こぼれてきました。
その時後から声がしました。
「嫁様、何を泣いてる?」
嫁様が振り向くと、そこには腰に笛を差した青年が立っていました。
「嫁様、わしじゃ、わしが田螺のわらしじゃ、わからぬか?」
嫁様が、いぶかっていると、青年は笛をとり出し、馬子唄を吹き、そして歌いました。それはいつもわらしと歌っていた馬子唄でした。
「嫁様、今までわしは田螺の姿でいたが、嫁様の真心でこうして人になれた。田螺のわしをよく大事に思うてくれた。」

  二人は家に帰り、とと様とかか様に、田螺のわらしが人になった事を話しました。 庄屋夫婦も喜び、二人に商いをさせる事にしました。若者が田螺であった事が評判を呼び、商いも繁盛して蔵がいくつも建つ大金持ちとなりました。

  そしていつしか田螺長者と呼ばれ、末長く仲良く暮らしたということです。

        「田螺長者。」

   
    「田螺長者」のお話は日本で採取されている地域は少ないそうです。
  嫁取りの部分に違うものがあって、田螺の息子が、妹娘にほれて、自分から庄屋の家に行き、夜中に娘の口にご飯を付け、嫁取りに成功する、というものもあります。
  昔話としての田螺長者は、水神の申し子という性格づけ、娘の力によって田螺の殻を脱ぎ若者になる、というモチーフがあるようです。
  娘の口にご飯、というのは、求婚者の携えてきた食べ物を口にする、という行為が、男の意志を受け入れるという概念ではないか、との指摘があり、お話としては、嫁取りのモチーフのある方が原型に近いようです。

  日本と中国の田螺のお話、男性と女性の違いはありますが、どちらの物語りにも田螺には水神、または水神の使い、という意味付けがされていて、女性の力が大きな鍵になっているようです。

  水の神性はやっぱり女性。田の力・男性性は水によって引き出される・生み出される、という事なんだと思います。

 
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