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六月-海と水辺の物語。
 
  川に棲む神様、中国。
    一年に井戸や水場を掃除して、水神様をお祭りする、このあたりではもう見られなくなりましたが、湧水が豊富なところ、共同管理されている所等ではまだそんなお祭りをされてるところがあるのではないでしょうか?
  水神様の申し子と言うと、昔話の世界ではタニシ、なんです。いつからかと言うと晋の時代の書物に記載がありますから、三国志の後、西暦265〜420の頃にはタニシは水の神様、または申し子として扱われていた事になります。
  中国での田螺のお話、唐代「原化記」の「呉堪(ごかん)」から。
  「呉堪(ごかん)。」 
    常州に呉堪という小役人がいました。
両親に早く死に別れ、兄弟も無く一人暮らしをしていました。家が川のほとりにあり、呉堪はこの渓流の流れが好きだったため、川が汚れないよう、柵をつくり、そこにたまる木ぎれやごみを取り除いていました。

  ある日、呉堪は川で白い田螺を見つけました。家に持ち帰ると、きれいな壺の底に砂を敷き石を置いて水を入れ、その中で飼いました。
  翌日、呉堪が仕事から帰ってくると、料理が作ってありました。朝、自分が作ったまま、わすれたものだろうか? しかし料理は温かく、作ったばかりのようでした。
  次の日も料理が作ってありました。部屋が掃除してあり、片づけてありました。次の日もその次の日も料理が作ってありました。家がすこしづつ整って行きました。布団に入ると枕元に花が生けてありました。

  誰がこんな事をしてくれるんだろう?呉堪はある事を思いつきました。
  いつものように仕事に出かけると、そっと引き返し、裏口から家の中を見張りました。しばらくすると瓶の中から田螺が出て来ました。そして殻をぬぐと、色白の若い美人があらわれ、台所に入りました。
  呉堪が台所を見ると、さっきの娘が釜を洗い、お米をといでいました。娘は振り返り、呉堪を見つけると頭を下げました。
「私は天界から、あなたのお嫁になるよう遣わされたものです。あなたが川を大切にしている事も、お仕事を誠実になされている事も、天の神様はご存知です。どうか、私をあなたのお嫁にしてください。」
呉堪は自分が貧しい事を知っていました。この先出世の見込みもない事もわかっていました。
「それでも、かまわないのですか?」
呉堪がそう言うと、娘は笑ってうなづきました。

  こうして、川のほとりで二人の小さな暮らしが始まりました。呉堪と娘のうわさはあっという間に町中に広まりました。娘の美しさは比べるものが無く、おそらくこの県に娘に勝るものはいませんでした。
  呉堪の勤める県庁の知事は嫉妬深い男でした。部下が美しい妻をもらったと聞くとおもしろくありませんでした。すこし意地悪をしようと、呉堪のあらを探しましたが、呉堪の仕事は丁寧でなんの落ち度も見つけられませんでした。
  こうなると知事は呉堪が憎くなってきました。どうしたら呉堪を懲らしめられるだろうか?知事は呉堪を呼びました。
「蝦蟆(がま)の毛と鬼の腕を天子様に献上する事となった。明日までに用意しなさい。」
  呉堪は知事の命令を断る事も出来ず、困り果ててしまいました。
  
  同僚が呉堪にそっと耳打ちしました。
「そんなものが手に入るわけない。知事はお前に無理難題を言って、罪に落とし入れ、お前の妻をよ横取りする気だぞ。」
  呉堪はやっと知事のたくらみに気づき、家に飛んで帰って、娘にわけを話しました。
「知事は恐ろしい人だ。せっかく天界から私のところに嫁いできてくれたのに、ここにいると何をされるかわからない。白い田螺となって、天界に戻ってくれないだろうか?」
娘は、呉堪の顔を見ていましたが、
「安心して下さいませ。」と言って勝手口から出て行くと、しばらくして、蝦蟆の毛と鬼の手を持って帰ってきました。呉堪はそれを知事の所へ持って行きました。知事は呉堪が手に入るはずのないものを持って来たので驚き、顔をゆがめ睨みつけました。そして、知事は呉堪にもう一度難題を持ち出しました。
「呉堪、もう一つ献上するものが出来た。明日までに蝸斗を捕まえて来てくれ。」
呉堪は知事の言葉に押し黙り、そのまま家に帰りました。
「このまま田螺となってお前と一緒に暮らせたらなぁ。」
呉堪は家に帰ると座り込みそうつぶやきました。娘は呉堪に知事にどんな事を言われたのか聞きました。そして前と同じように勝手口から出て行くと、しばらくして犬のような生き物をつれて帰りました。
「これはなんだね?」
呉堪の問いに娘は答えました。
「これは蝸斗という珍しい動物です。火を食べ、しばらくすると燃える糞をします。あなた、これを知事の所へ持って行ってください。そうしたらすぐに帰って来てくださいね。必ず帰って来て下さいね。」

  呉堪は娘に言われた通り、蝸斗を知事のところにつれて行きました。知事は呉堪の連れてきた犬のような生き物が蝸斗かどうか調べようと炭をおこして蝸斗に与えました。すると蝸斗は火をばくばく食べてしまいました。
  知事は仕方なく呉堪を下がらせました。呉堪は娘に言われた通りすぐ帰って行きました。
  知事は、蝸斗の顔を見ながら、今度はどうやって呉堪を困らせようか、考えていました。すると、蝸斗が燃える糞をし始めました。 驚いた知事が蝸斗を外に出そうとすると、蝸斗は燃える糞をまき散らしながら走り回り、あたりはあっという間に火に包まれました。そして、知事は炎に巻き込まれ死んでしまいました。

  その後呉堪と娘の姿はぷっつり見えなくなり、渓流の側に家だけが残っていましたが、それも今では無くなってしまったそうです。

        「呉堪(ごかん)。」 「原化記」より。
   
    このお話の原型は、晋の時代の「捜神後記」中の「白水の素女」と考えられています。
  天の川の天女が身よりの無い貧しい若者の所に嫁いでくる、というお話で、

1 
主人公が川から田螺(他蛙などの小動物)を持ち帰る。
2 主人公の留守に田螺は娘となり食事の用意をする。
3 不審に思った主人公が外出したふりをして、娘と出会い、田螺の殻をかくして夫婦となる。
4 子供が出来て、その子の歌から、自分が田螺であった事を思い出し、夫となった主人公から隠してあった殻を帰してもらうと、消えてしまう。

  というあらすじの天人女房型でした。
  後代になってそれが発展して、天人と夫婦となった主人公が難題をふっかけられる絵姿女房型に変化したようです。
  中国の田螺は天の川の天女なんですね。