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妖怪のお話。
 
  山の妖怪さとり。
    山にすむものには山姥、山父、山わろ、などがいます。 このうち"さとり"という妖怪も山にすむものとされています。
  「狩人とサトリ。」 
 
  冬の山を、源吉は鹿や野うさぎを追っていました。
ウサギを三匹しとめた所で、雲行きが変わり、雪が舞いはじめました。
「こりゃぁ、吹ぶくな。」
源吉は山陰にある仮小屋に向かいました。

  その小屋は囲炉裏と二、三人がやっと横になれるだけの小さなものでした。源吉は、火を起こすと、ウサギをさばき、鍋でぐつぐつ煮込みました。ウサギ汁は冷えた体を暖めました。源吉は鍋を降ろすと、鉄瓶に雪をかき込み、それで湯を沸かしました。外は吹雪に変わり、夜になると、吹雪はゴウゴウと音を立て、小さな小屋を揺らしました。源吉は戸にかんぬきをかけ、横になりました。囲炉裏の火がちょろちょろ燃えていました。

  しばらくすると、小屋の戸をドンドン叩くものがありました。こんな吹雪の夜に俺の他に山に入ったものがおったのか?と、源吉が身を起こすと、不思議な事にかけてあるかんぬきがカタンとはずれ、毛むくじゃらの大きなものが入ってきました。

  これが話に聞く山わろじゃろうか?と源吉が凍ったように見つめていると、その毛むくじゃらのものは囲炉裏の側にすわると火に手をかざしながら、「お前、俺を山わろだろうと思うておるだろ?」と言いました。見るとその顔には目が一つしかなく、その目玉はぎょろりと源吉を見ていました。
  山わろは人間の心の中を手に取るようにわかると誰か話していたと、源吉は思い出しました。今も自分の心が読まれているのかと思うと恐ろしくなりました。
「お前、俺がお前の心を読んでると思って怖がっておるだろ?」
山わろはポツリと言いました。

  源吉はしまった、と思いました。これでは何も考えられぬ、早くどこかに行ってくれればいいのに、とつい考えてしまいました。
  「お前、わしがどこかに行ってくれればいいと考えておるな。」山わろは一つしかない目をつむって言いました。源吉は恐ろしくて恐ろしくてたまりませんでした。逃げるに逃げられず、源吉は囲炉裏の火を見つめて、ぴくりとも動きませんでした。
  山わろも背をまるめて手を火にかざしていました。 聞こえてくるのはビュービューと言う小屋の外の吹雪の音と、パチパチと言う薪の燃える音、そして鉄瓶の湯がたてるシューシューという音だけでした。

  そのうち囲炉裏の火が小さくなりました。源吉はそばにあった薪を取ると、ひざに当て、パキンと二つに折りました。すると木の破片がとんで、山わろの大きな一つ目に飛び込みました。山わろは驚き、目を押さえました。
「ああ、いてぇ。 人間てヤツはなんてぇ事をするんだ。」
山わろはそう叫ぶと小屋外に逃げて行きました。

  外はビュービューと吹雪が舞い、バタンバタンと戸を叩きました。
  囲炉裏の火がパチパチ音をたて、燃えていました。
  源吉は戸を閉めると、かんぬきをかけ、フゥッとため息をつきました。

          「狩人とサトリ。」

   
    "さとり"の出てくる昔話は、東北地方かと思っていましたが、見つけたもは、熊本県天草地方と阿波、徳島となっていました。阿波のものはどうも里の町屋に入ってきているようです。
  意外に暖かい所にすんでいて、山奥にだけ出没ってわけではないようです。山父、山わろ、等は実際に山で生活していた者をそう呼んだり、はっきりしない山中生活を、恐れをこめて考えるうち、いろんな話に仕立て上がった、とも言えるのですが、柳田国男氏の「日本の昔話」中の阿波のものでは、"さとり"を一本足の一つ目とし、阿用の人喰い鬼と同じようなものと考えていたようです。
  山姥が山の神、山に棲む巫女の変化したものなら、未来を見通すさとりは神様の末裔、神官だった、と考えるのが妥当かも知れません。
  ◆補記
 

さとり、は「覚」とも書くようです。
阿用の人喰い鬼

 出雲国風土記 大原郡阿用郡の条。
 神官は世界的に片目を潰す、足を一本折る、等の行為(神官になる一種の儀式)があり、
 阿用の人喰い鬼も当時の神官であったのでは?と考えられています。