業平と高子。

在原業平は歌人で、平城天皇の孫に当たる人物です。

皇室の一員であるのですが、叔父に当たる高岳親王が薬子の乱に関連して廃王子となり、兄にあたる行平中納言が文徳天皇の皇嗣問題に関連して失脚、業平は、政権から遠ざけられ、和歌一つを頼りに生きざるをえませんでした。

業平に対しての鬼は藤原冬嗣一門、と言うことになります。

藤原冬嗣の娘、順子は仁明天皇の后に、また息子良房の娘、明子は文徳天皇の后に、そして息子長良の娘、高子(たかいこ)、通称二条后(にじょうのきさき)は、未来の皇后候補として業平と出会います。


業平は高子のもとに通う事になります。

当時五条の東に、高子の伯母にあたる皇太后明子が住んでおり、高子はしばらくそこにいた事がありました。

業平は警備の厳しい皇太后の住まいに、「密(ひそ)かなる所なれば門よりもえ入らで、童(わらは)べの踏みあけたる築地のくづれより通ひけり」というように、高子のもとへ通いつづけ、密会を重ねます。

そしてそれはついに人の知るところとなるのです。


高子には国経、基経という兄弟があり、業平とは同世代でありました。

天皇の直系でありながら、政権から遠ざけられている業平と、代々天皇の后を輩出し、政権の中枢にありながら「身はいやしながら」と血統を問われる藤原家、国経、基経の間には、やはり越えられないものがあったのではないでしょうか。

国経、基経にとっては、高子が皇后になるかどうかは、自分自身が朝廷で生きていくための生命線に等しいものでした。

業平と高子の関係を知った時、国経、基経は一種の「鬼」と呼ばれるものとなったのです。


在原業平
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/narihira.html

藤原高子
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/sennin/takaiko.html


足ずりをしてなけどもかなし。

その通ひ路に、 夜ごとに人を据ゑて守らせければ、行けどもえあはで帰りけり。


国経、基経は皇太后の住まいの警備を強化し、築地のくずれにも人を立たせ警戒しました。

当然、業平は高子と逢う事が出来なくなります。


業平は事の成りゆきを和歌に託して伝えます。

「人知れぬわが通ひ路の関守はよひよひごとにうちも寝ななむ」


それは高子の心を痛めさせました。

「あるじゆるしてけり」「明子皇太后は許しているのですよ。」

しかし国経、基経は、大きな壁として立ちはだかっていたのです。


思ひあらば葎(むぐら)の宿に寝もしなん ひじきものには袖をしつゝもそう、思いのたけをぶつけ、あばらなる板敷に月のかたぶくまでふせり、

ついに逢えなくなった時、行平はついに高子を盗み出すのです。


むかし、おとこありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経てよばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。


芥川といふ河を率ていきければ、草の上にをきたりける露を、「かれは何ぞ」となんおとこに問ひける。

ゆくさき多く夜もふけにければ、鬼ある所とも知らで、神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、あばらなる蔵に、女をば奥にをし入れて、おとこ、弓胡□(ゆみやなぐひ)を負ひて戸口に居り、はや夜も明けなんと思つゝゐたりけるに、鬼はや一口に食ひてけり。


「あなや」といひけれど、神鳴るさはぎにえ聞かざりけり。 やうやう夜も明けゆくに、見れば、率て来し女もなし 足ずりをして泣けどもかひなし。


白玉かなにぞと人の問ひし時露とこたへて消えなましものを


    (※ 原文に上記のような段落分けはありません。)


やっと高子を連れ出し、どことも行く先のわからぬまま夜道をかけ、雷鳴がとどろき、雨も叩くようにふるなか、高子を朽ちた倉にかくまって、弓をもって守ろうとする業平。

しかし雷鳴の中「あなや」という声さえ届かず、高子は再び連れ戻されるのです。

草の上の露を「あれはなに?」と聞く、そんな普通の会話すら、業平の前から永遠に消えてしまいます。

高子はのち、清和天皇の妃になり、陽成天皇の生母となり、業平も紀有常の娘と結ばれます。

その後、業平は右近衛中将として、春宮の母となった高子の、春日参詣に供奉(ぐぶ)します。

業平、五十余歳、その時の歌が残っています。


大原や小塩の山もけふこそは 神世の事も思ひいずらめ

心にもかなしとや思ひけん。 いかが思ひけん。 知らずかし。


業平は自らの心を、こう説明しています。


伊勢物語は業平をモデルとしたものと解釈され、研究されています。

業平と高子の物語は伊勢物語の三・四・五・六段、そして六十五段がいきさつとなっています。


◆補記

以下のURLで原本、本文、現代語訳、注釈などが読めます。

 伊勢物語ー原本
    http://herakles.lib.kyushu-u.ac.jp/ise/ise.htm
  伊勢物語
    http://homepage2.nifty.com/toka3aki/ise/isemono.html
  現代語訳
    http://www.isemonogatari.com
  音声(朗読
    http://route16.dyndns.org/vjcla/



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