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三月ー花と少女の物語。
 
  お月お星。
    昔話にはパターンがあり、継子物もその一つです。一般に継母とその子というのは意地悪で、主人公をいじめたりするのですが、ちょい違うお話もあるのです。
  「お月お星。」 
    ある所にお月と言う娘がありました。
母を亡くし、しばらくして新しい母がやってきました。そしてお星と言う妹が産まれたのです。
  お月とお星は、母こそ違いましたが、お月は妹思い、お星は姉思い、 気立ての優しい娘たちで、いつでも二人は仲良く遊び、仲良く働きました。

  ある時、父は仕事で上方にしばらく留まる事になりました。お月とお星は、お母さんと一緒に旅立つ父を見送りました。しかしお母さんは、お月がいなくなればいいと思っていました。自分の娘のお星だけがかわいくて仕方なかったのです。今のうちにお月を殺してしまえば、主人が帰って来たら三人で暮らせるのです。

  お母さんは饅頭をつくりました。お月の饅頭には河原うつぎの実を粉にした毒を入れ、お星の饅頭には甘い餡を入れ、渡しました。
「お星、お星。」お母さんはお星を呼びました。
「お母さん、なあに?」
「お月の饅頭には毒が入ってるから、取りかえっこして食べてはいけないよ。」
お星はびっくりしました。 お母さんの言う事が信じられませんでした。
お星は姉と饅頭をもって裏の竹薮に遊びに行き、姉のお月に持っていた饅頭を捨てさせました。
「姉さん。 姉さんの饅頭には毒が入ってるから、食べてはいかん。」
お月はお星の言う事が信じられませんでした。その時、雀がパァッと飛んできて饅頭をつつきました。そしてキキッと声を上げて死んでしまいました。お月もお星も、それをみると恐ろしくてたまりませんでした。
    
  夕方になるとお母さんは、お月はもうどこかで死んでおると思っていたのですが、お月もお星も元気に帰ってきました。お母さんはわけがわかりませんでしたが、今度はお月の上に石臼を落として潰してやろうと、お星を呼びました。
「お星、今夜、梁の上から石臼落として、お月を殺すから、お月の側に行くんじゃねえぞ。」
お星は、お母さんが姉を殺そうとしているのが信じられませんでした。
  やめてと言おうと思いました。 でも、言う事を聞いてくれないかも知れません。 それに、お母さんの言う事を聞くフリをすれば、姉を助ける事が出来ました。
「うん、わかった。」お星はそう言いました。
お星は姉の所に走ると、
「姉さん。 お母さんが今夜お姉さんに何かしようとしてるの。 だから今晩は私の布団で休んでね。」
お月は、妹の言う通りに、お星の布団で眠りました。お星はお月の布団に、紅殻をいれた瓢箪を入れて、お月が眠っているように見せかけました。
夜になってお母さんは、梁にくくりつけていた臼の綱を切りました。 臼はドスンとお月の布団の上に落ち、瓢箪を押しつぶし、 紅殻をまき散らしました。お母さんは紅殻をお月の血と勘違いして、死んだと思い込みました。
「ああ、これで邪魔な娘がいなくなった。」 お母さんは安心してぐっすり眠りました。

次の日、お母さんは朝の支度をして、お星を呼びました。
「朝ご飯だよ。 起きておいで〜。」
「は〜い。」
「は〜い。」
声が二つ帰ってきて、お母さんはびっくりしました。

御飯を食べるお月を見ながらお母さんは考えました。これはよくよく考えて、お月を殺さねばならぬ。お母さんは石切にお金を沢山わたして、石の唐櫃をつくらせました。そしてお星を呼ぶと、
「お星、お姉ちゃんはこの家にいらない子だから石櫃に入れて、奥山に捨ててこようと思う。 お父さんが帰ってきても、何も話しちゃいけないよ。」
「はい、お父さんには何も話しません。」
お星はそう答えると石切の所へ走りました。お星は石切に、石櫃に小さな穴を開けて、物を隠す所を作ってくれと頼みました。石切は気持ち良く「ああ、いいよ。」と答えました。

お月を山に捨てる日が来ました。
「姉さん、姉さん。 ここに菜種を入れておくから、この穴から道々落として。 菜種の花が咲いたら必ず迎えに行きますからね。」
そう言うと、お星は箱の中に焼き米と水を隠しました。
誰かの足音が聞こえてきました。 お星は物陰に隠れました。 お母さんと大人たちが来て、お姉さんを石櫃に入れると、山の向こうに運んで行ってしまいました。

  春になりました。
お星は山に山菜を取りに行くと言って大きな握り飯を沢山作ってもらいました。そして、外に走り出ると、かくしていた木割(きわり)を取り出すと、山に向かって走って行きました。 山のふもとから奥山に向かって、菜種の花が続いていました。お星は走って走って、山を越えて、谷を越えて行きました。そして菜種の花があたり一面に咲いている所がありました。その向こうへはどこにも菜の花は咲いていませんでした。
「姉さん、姉さん、どこにいるの?」
お星は菜の花の下を掘りました。しばらくすると木割が何か堅いものにぶつかりました。石櫃でした。 お星は石櫃の蓋を開けるとお月を引っ張り出しました。お月は痩せて、目が見えなくなっていました。
「姉さん、姉さん。ごめんね、早く来れなくてごめんね。」
お星は姉に抱きつくと、お月もお星にしがみつき、「お星、お星。」とやっと聞こえるほどの声をあげました。
  お星の目からは涙が溢れ出しました。
  お星の右の目の涙は、お月の右の目へ、
  お星の左の目の涙は、お月の右の目へ、こぼれ落ちました。
  するとお月の目はスッと開き、すこしづつ見えるようになったのです。

  お星は姉に持ってきた水を飲ませ、握り飯を食べさせました。 もう、家には帰れない。 これからどうしたら良いんだろう? お月もお星も抱き合って泣きました。
そこへお殿様の一行が通りかかりました。
「これ、娘達。 何をそう泣いておるのか?」
お殿様は二人に泣いているわけを話しました。
お殿様は倒れた菜の花の中の石櫃を見ると、何も言わず、お月とお星を自分の屋敷に連れ帰りました。


  お月の体は癒え、そしてしまいそろって静かに日々を送りました。 それからしばらくして二人でお屋敷から街道を見ていた時の事です。一人の汚い格好をしためしいたお爺さんが鉦(かね)を鳴らしながら歩いてきました。

  天にも地にもかえがたい
  お月お星なんとした
  お月お星あるならば
  なにしてこの鉦(かね)たたくべや
 
「お星、あの声はお父さんではないか?」
「うん、格好は汚いけど、あの声はお父さんだ。」
お月とお星はそのお爺さんに駆け寄りました。 お父さんでした。 お父さんは上方から帰ってくると、お月もお星もいないので、二人を探しに僧となって諸国を廻っていたのです。
「その声は、お月か?お星か? どこにいっとったのか、父さんは探したぞ。」
お父さんは見えない目で二人を見ようとしました。お父さんの目は、長い旅の疲れと、泣き暮らしたためか、 見えなくなっていたのです。
「お父さん!」
「お父さん!」
お月の目からこぼれた涙がお父さんの左の目に、お星の目からこぼれた涙がお父さんの右の目に入りました。するとお父さんの目は不思議に見えるようになり、三人は抱き合って喜びました。

  お殿様はこの事を聞くと、二人のためにお父さんを屋敷に連れ帰り、そしていつまでも仲良く暮らさせました。

          「お月お星。」
   
    お月お星の姉妹の物語は、継子物に珍しく姉妹の絆を中心に描かれています。実際には、継子だからっていっても必ず対立するわけでも無く、このような仲の良い姉妹兄弟もあったのかも知れません。
  ◆補記
  原話は『箱根縁起絵巻』『神道集』とされています。