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妖怪のお話。
 
  雪女、その二。
    雪女のお話の中に特徴的なものがもう一つ、お城での怪異譚があります。雪の精の性格も産女の性格も持っているもので、物語として怪物退治の要素も持っています。
  「雪姫騒動。」 
 
  陸奥の国、白河様という殿さまの頃のお話です。
  ある雪の降りしきる夜、夜番の若い侍達が夜とぎにあちこちで聞いてきた話を披露し合っていました。家老の息子光太郎と幼なじみの六平太も、その中に加わっていました。そのうち年長の侍が若い侍をからかうようにいいました。
「お前達、今夜のように雪の降る日には、お城に雪女がでるそうだが、そんな噂を聞いた事はあるか?」
他のものはみな首を振りました。
「そうか、やはり作り話のようだな。」
そう言うと年長の侍は黙ってしまいました。

  夜遅くになって六平太が小便に立ちました。外にでて、厠に行くのも面倒で、近くですませた後、ふと頭を上げると、雪の中に赤ん坊を抱いた女が一人、立っていました。
こんな夜中に誰だろう?と不審に思って見ていると、女はスゥーッと寄って来て、
「お侍さん、雪の中に大事なものを落としてしまいました。探しているんですが、この子が重くて、しばらく抱いていてもらえませんか?」
と頼んできました。
六平太はかわいそうに思って赤ん坊を抱きましたが、その子は氷のような冷たさでした。女は雪の中をしばらく何か探していましたが、そのうち消えていなくなってしまいました。
  六平太は慌ててあたりを探しましたが見当たりません。そして抱いていた赤ん坊はだんだん重くなり、抱えきれなくなりました。六平太は赤い顔をしてこらえていましたが、ついにこらえ切れなくなり、雪の中にドウッと倒れ、気を失ってしまいました。

  光太郎達は六平太がなかなか戻って来ないので、城の中を探しました。すると六平太は、大きな氷柱(つらら)を抱いて雪の中に埋もれていたのです。

  光太郎は目が覚めた六平太から、子供を抱いた女の話を聞きました。それは雪女ではないか?おまえは不思議なものに出会ったのではないか?と光太郎が言うと、六平太は悔しいと言いました。
「うん、そうだ。」
光太郎も、化け物にやられたまま、なにも出来ないのが悔しかったのです。

  そのうち次の事件が起こりました。 やはり雪の舞う夜の事でした。夜回りのじじ様が、「火の用心、火の用心。」と拍子木を鳴らしながら、城内をまわっていた所、松の根元に一人の女が座っているのを見つけました。じじ様が提灯をかざすと、女は長い髪をスーッ、スーッと櫛で梳かしていたのです。
「お前、誰じゃ!?」
じじ様が問うと、女は、「私の事ですか?」と振り向きました。その顔は、髪と同じく腰あたりまである大きな長い顔で、目鼻がなく、口だけが赤く開いていました。
じじ様は驚いて腰を抜かすと、その女は笑うように消えて行ったのでした。

  場内では雪女の噂は本当であると言う事になり、大騒ぎになりました。光太郎も六平太も、飛び出して行きました。二人は夜番の時、雪女の噂を聞いた事が無いか?と聞いた、年長の侍の所に行き、何か知っている事があるのか、たずねました。先輩は腕組みをすると、光太郎達に話しはじめました。
「しばらく前に夜、雪道を歩いていたら、女に一人出会った。こんな夜更けに何をしておるのか?とたずねたら、灯を無くして困っていると、消えた提灯を見せた。ならばと、持っていた提灯の火を移そうとしたら、女は火を移すかわりに蝋燭を吹き消してしまったのだ。」
年長の侍は、頭をかきながら、
「ぶざまな事にその後、木の上からどさりと落ちてきた雪に、埋まってしまい、ひどい目にあってしまった。最初は狐かたぬきの仕業かと思っていたのだが、どうも雪女の仕業ではないかと疑っていたのだ。」

  光太郎と六平太は自ら夜回りの買って出ました。しかし、雪女は現れる事なく、十日の日がたちました。その日は月明かりが闇を照らす、雲一つない晴れ上がった夜でした。こんな夜にはいかに雪女と言えど、出てくるものはあるまいと、光太郎達は笑いながら夜回りをはじめました。
  いつもの道を通り帰ろうとした時の事です。
 光太郎達の目の前を赤ん坊のような小さな子供がとことこと走って行きました。女ではありませんでしたが、この夜中に子供の独り歩きは尋常ではありませんでした。光太郎と六平太は子供を捕まえようとしました。しかし子供は光太郎達に合わせるように右によれば、左に、左によれば右に、子供はころころ転がるように逃げ回りました。
「やはり化け物か?」と光太郎は子供の肩をつかみ押さえ込もうとしました。しかし子供はむくむくと体が大きくなっていきました。六平太も子供を押さえつけようとしましたが、子供は次第に大きくなり、光太郎の体より大きくなって行きました。
このままでは二人とも反対に押さえ込まれてしまう。光太郎は脇差を抜くと怪物にドスッと突き刺しました。
「ギャー!」怪物は女のような金切り声をあげると、光太郎の倍も上の方にのび上がり、パァッと雪となって散りました。
  光太郎も六平太も、肩でフゥッと息をしました。

  雪はそれから降り続けお城を翌朝一面真っ白におおうと降りやみました。以来、不思議な事はパタリとやみ、雪の日に女の化け物に出会う事はなくなったのでした。
             「雪姫騒動。」
   
 
  これは、姫路城の伝説と何らかのつながりがある、と指摘されている雪女の昔話です。
  姫路城の城主は刑部姫とされ、このお城のある山はかつて日女道丘(ひめじがおか)と、また姫山とも、はるには桜が咲き誇るため桜木山とも呼ばれていました。
  刑部姫はこの山にすむ国神で、姫路城が築城された後も、棲んでいて、城主が変わると天守におもむいて挨拶するとされていました。姫路城の伝説は、雪女の昔話と同じく、宿直のものが刑部姫の話を持ち出し、だれか天守閣にのぼる者がいないかと言う話になり、一番最年少の森田図書という若者が丑の刻に天守にのぼる事となります。図書は最上階まで登り、刑部姫に出会い、証に何か引きちぎったようなものを、渡されます。後にそれは宝物蔵にある代々の宝の兜のしころとわかります。

  刑部姫は神様ですから退治の部分はありませんが、天守に登る途中、帰る途中にさまざまな怪物と出会う所などは、ほぼ同様のものとなっています。
  刑部姫は山神であり、山姫であり、若者の勇気を試し、またその勇気を称える、雪女の性格付けと同じ要素を持っているようです。
  ◆補記
  ◇のちに刑部姫の伝説は泉鏡花により「天守物語」として、書かれています。
 
            ◆ 本の紹介 ◆
 
           
  鏡花幻想譚〈5 天守物語の巻
鏡花の本はいろいろでていますが、メインのものはこの「鏡花幻想譚」か「岩波文庫」で読めると思います。 幻想的なものが好きな方はこっちを勧めます。本棚にキラッと光る鏡花の文字が素敵な感じ(笑)。
  夜叉ヶ池・天守物語 岩波文庫
この本は鏡花入門書(笑)。 たぶん一番最初に読んだと言う方が多いはず。 とりあえず読んでみたい方にはこっち。 他に何冊も出ていますから、文庫で読むのも良いかも。