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妖怪のお話。
 
  雪女、その一。
    雪女はいわゆる"雪の精"で新潟・山形では「雪女郎」、諏訪地方の上諏訪町では「雪ふり婆」、諏訪郡宮川村、永明村では「シッケンケン」、四国の宇和郡吉田町では「雪ンバ」、「雪オンバ」などと呼ばれています。
  雪女にはその性格がいろんな部分が合わさっていて、これが元です、とは言えない形になっています。まず、雪の精として、雪の多い地方で凍死者などが発見されると、「雪女にやられたなぁ。」という事になります。また産女と同じ特徴を持っていて、道行く人に赤ん坊を抱かせ、抱ききれなかった者は殺し、耐えた者には怪力を授ける、また子供を連れて現れたり、子供には危害を加えない特徴を持っていたり、反対に子供をさらう、さらって雪女の子供に喰わせるなどという話もあります。
  雪女は吹雪とともに山から降りてくる"山姥"、山の神の性格を持ち、また、もう一つ歳神様の性格も持っています。岩手県遠野地方、青森県西津軽地方等では、雪女は小正月の夜、または満月の夜、山から降りてきて最初の卯の日に帰るとされています。雪女のいる間は一日に三十三石の稲の花がしぼむといわれ、そのため卯の日が遅い年は稲の出来が悪いと言われています。
  正月にやって来る雪女はナマハゲなどの訪問神とほぼ同じで、実際昔話の中には、吹雪の夜に訪れた白い着物の娘が翌朝黄金に変わっていた、という、「大歳の客」タイプの話もあります。
  また鳥取県東伯郡では、雪女は白い御幣をふり淡雪に乗って現れるとされ、一本足だと信じている地方も多いようです。
  このように雪女は歳神の性格、山に棲む神の性格、また神官などの末裔の性格を合わせ持っていると思われます。
  昔話の上では、「大歳の客」タイプの話から、福をもたらす部分が消え、異類結婚譚に、怪奇色の加わったようなお話が見えます。
  「シガマの嫁っ子。」 
 
  独り者の平太は、布団の中から顔を出して目をパチパチさせました。
「おお、寒い。」
囲炉裏の火が小さくなっていました。平太はのそのそ起き上がると、火をおこし、湯を沸かしはじめました。そしてそのまま外へ出ると、つもった雪で顔をごしごし洗いました。井戸の中にカラカラと桶を落としました。
「ふひぃー・・・。」
平太は桶をあげながら思いました。
「これで嫁さんがいたら、家の中はあったかいじゃろうなぁ。」
茅葺き屋根の軒下に氷柱(つららーシガマと呼ばれています)が下がっていました。その氷柱は朝の日をとおして、キラキラ輝いていました。
「きれいなシガマじゃ。おめみてぇな綺麗な嫁さんをもらいたいもんじゃ。」
平太はそう言うと家の中に入りました。

  その日の夕方の事です。平太は一日中雪かきをし、疲れ切って家に帰ると、家の前に、十七、八の娘が一人立っていました。
「おめぇ様、誰だぁ?」
「おら、お前様の嫁っ子になりに来た。」
娘はそう答えました。
平太はびっくりしました。娘は眉は筆で描いたように細く、目も黒く輝いていました。鼻筋もとおり、口も涼しげなきれいな娘でした。
どうして、こげな娘がわしの嫁になりに来たのじゃろう?
「ここは寒い、中にぃ入れぇ。」
「それでば、ごめんくだされ。」
平太が招くと娘は家の中に入り、台所の真ん中にちょこんと座りました。
「なして、おらのとこに嫁っ子に来ようと思っただば?誰かに聞いたか? 誰かに言われたのか?」
「今朝方、あなた様がシガマ見て、こんな嫁っ子が欲しいと話していたのを聞いたんです。どうか、私を嫁っ子にしてくだせ。」
「われは、父親も母親もいねぇ一人暮らしの手間取りだぁ。それでもええなら、来てくれねぇか?」
平太がそう言うと、娘はにっこり笑ってうなづきました。

  娘の名は「ふゆ」と言いました。ふゆはそのまま平太の嫁っ子となり、小さな藁葺屋根で暮らしはじめました。朝には早くから起きて、水を汲みに行きました。そして息をはずませ、帰ってくると囲炉裏で湯をわかしました。
  ふゆは火と蒸気が怖いらしく、湧いた鉄瓶を長い棒でつまみました。そんなしぐさがかわいらしく、平太は笑って手伝いました。
  家の中にぽっとあかりが灯ったようでした。平太は一日、手間仕事をすると家に飛んで帰りました。火を怖がるふゆがヤケドしないか心配でした。
  平太が家に帰ると、ふゆは家の中を暖め、どこからとって来たのか、山の幸を鍋に沢山煮て待っていました。ふゆは平太に暖かいものを出し、自分は冷めたものを食べました。ふゆは熱いものは冷めるまで食べませんでした。平太は湯でもかぶったのか、よほど熱い思いをしたのか、とかわいそうに思いました。
  ふゆの怖がりは治りませんでしたが、それでも二人は仲良く暮らしました。

  春の気配がしてきました。雪が次第にとけはじめ、日差しが軒の氷柱(つらら)を細くしました。
その氷柱を見てふゆが言いました。
「平太さん、私の事忘れねぇでくだされ。」
「何を言うておる。」
平太は笑い飛ばしました。ふゆが何を言っているのか、わからなかったのです。平太には今日手間賃をもらったら買いたいものがありました。小間物屋の先に置いてある桜の花の絵の櫛でした。冬の綺麗な髪にさしたら喜ぶと思ったのです。平太は櫛を買うと家に飛んで帰りました。
「平太さん、こげに早くどうしたん?」
「ふゆにこれを買うてきた。 髪にさしてみ。」
平太はふゆに櫛を渡しました。ふゆは少しびっくりしたようでしたが、平太の言う通り髪にさしてみました。平太の思った通り、春が来たようでした。
「ふゆには、なにもしてやれなかったけど、ようよう櫛が一つ買えた。春になったら、その櫛をさして、どこかに遊びにいこう。」
平太はそう言うと、ふゆのかわりに夕飯のしたくをはじめました。
「飯のしたくは俺がやるからお前は休んでいろ、お前は隣に行って湯を借りてくるがええ。」
平太はそう言うとふゆの前で大根を切りはじめました。ふゆは平太のそんな姿をしばらく見ていましたが、湯桶をもって戸口に立ちました。
「平太さん、そなら甘えて湯ぅもろうて来ます。」
「ああ、ゆっくりつかってこい。」
平太は嬉しそうに答えました。
「櫛、ありがとうな。 平太さん。」
そういうとふゆは笑って出て行きました。
平太は恥ずかしそうに鼻をこすると、大根を煮ました。そしてふゆのために器にとって雪に埋めてさましました。

  外が暗くなりました。いつまでたってもふゆは帰ってきませんでした。平太は隣の家に行って聞きました。
「あれぇ?ふゆさん、まだ湯からかえらねぇか?」
平太は風呂をのぞきました。誰もいませんでした。そして、ふたを開けたままの湯の中に、平太の贈った櫛だけが浮かんでいました。
「ふゆ・・・。」
平太は何があったのか、やっとわかりました。 

  朝になりました。
ふゆはやはり帰ってきませんでした。
氷柱からぽとり涙が落ちました。
「忘れられるわけ、ねぇべ。」
平太もぽとりと涙を落としました。

             「シガマの嫁っ子。」

   
 
  これは「つらら女房。」とも呼ばれている昔話です。
  このお話の "嫁に来て消える" と言う部分に、子供を殺さない、という産女の性格、雪女本来の凍死、「誰にも話してはいけませんよ。」という雪女との約束の前段と、その約束を破って、別れが訪れる後段が加わると、ラフカディオ・ハーンの書いた物語とほぼ同様のものとなります。
  実際ハーンの書いたものと同様な昔話があり、生き残った若者の年齢が、若干違う、つまり子供であるとされる部分だけが作劇上の違いとなっています。
 
 
◆ 本の紹介 ◆
 

  「怪談・奇談」はラフカディオ・ハーンの怪談をほぼ網羅してある田代 三千稔さん翻訳の文庫本です。翻訳が古い?ため堅い文章だと言われていますが、反対にこの本でハーンに触れた方も多いはず。自分もこの本でした。
  現在、絵本は三冊入手出来ます。お勧めするならやはり松谷みよ子さんのものかな。