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三月ー花と少女の物語。
 
  花を育てる人。
    春の苑、くれなゐにほふ桃の花 した照る道に出で立つ乙女
     (「万葉集」巻十九 大伴家持、乙女は旧字を改めました。)

  この歌を読むとなぜか中国の物語を思い出します。
   唐代の「集異記」にあるものをまず一つ。
  「白百合。」 
    えん州徂徠山に光化寺と言う寺があり、ひとりの書生が、そこの一室を借り、読書にいそしんでいました。
  ある夏の日、読書に疲れ外に出ると、白衣をまとった美しい女性が、回廊の壁画の前に立ち現れました。年の頃は十六、七。 風に揺れる涼やかな髪、こぼれる光のような瞳、書生はこれほどまでに美しい人をこれまで見た事がありませんでした。
「どちらから、おいでになったのですか。」
「この山のふもとに、家があります。」
二人は押し黙ったまま見つめ合い、部屋へと入っていきました。それから長い時間二人は出てきませんでした。夏の風が、夕べの風へとかわり、娘は見づくろいをしながら言いました。
「今日はもう帰らなければいけませんが、田舎の娘と思わず、どうかまた会って下さい。」
書生は娘を引き止めようとしますが、娘はどうしても帰ろうとします。
仕方なく、書生は大事にしていた白玉の指輪を娘に渡し、
「この指輪を見たら、私を思い出して、会いに来ておくれ。」と言って
娘を家に送ろうとしましたが、娘は、
「家のものが迎えに来ているかもしれませんから、ここでお帰りください。」と書生を帰そうとします。
書生は仕方なく娘を見送りますが、少しの間でも娘を見ようと、山門の上へと駆け上がり、帰っていく娘を探しました。書生は遠くに娘を見つけますが、娘はしばらく歩くとかき消えるようにいなくなりました。 道の向こうに出るかと待ちましたが、娘は出てきません。

  書生は山門を出て、娘のいなくなったあたりを探しました。
娘のいなくなったあたりは、草や小さな木があるだけの原っぱで、娘が入り込むようなところはありません。落ち込むような割れ目も穴もありません。
  夕日が空を染め燃える雲の中に、書生は一本の白百合を見つけました。白百合は涼しげに風の中に揺れて、書生を見つめていました。書生が百合を掘り起こすと、その球根は両手で持たなければならないほど大きなものでした。そして、その球根の中に何かあるのです。

  書生は球根の皮を一枚一枚はがしていきました。やはり中に何かある、書生はどんどん皮をはがしていきます。そして、すべての皮をはがすと、書生は大きく息を呑み込みました。
「!」 
中からさっき娘に渡した白玉の指輪が、出てきたのです。
書生はすっかり暗くなったあたりを見回しました。百合の皮が、夜の闇の中を風に舞って散って行きました。
書生は病気となり、それから十日ほどして亡くなったと言うことです。

              「集異記より。」
  「百花村物語」あらすじ。
    花の好きな人は花に好かれるようです。
  詩人の佐藤春夫が編纂した「中国童話集」にも「百花村物語」と言う花好きのお爺さんを主人公にした童話が載っています。


  長楽村という村に秋先という花好きの老人が暮らしていました。
  花が好きで、朝から晩まで花を世話し、珍しい花を見つけると、どんなに高い値をつけられても買い求め、自分の庭に植えました。
  一年に一度しか咲かない花をたやすく折る事を嫌い、散った花びらを供養しました。 しかし人が花を痛める事を恐れ、自分の庭に容易に人を入れませんでした。

  ある時張委という男が仲間とやってきて、秋先の庭で酒宴を張り、花を折り、めちゃくちゃにしてしまいます。嘆き悲しむ秋先の前に花を司る仙女が現れ、庭を元通りにします。
  秋先は喜びますが、こんな事になったのは、自分の庭に人を入れずにいた我が心の狭さであったか、と反省し自分の庭を開放します。
  あれだけ荒らした庭が一晩で元通りとなり、大勢の村人が秋先の庭を喜んでいる、張委は秋先を妖術使いと役人に訴え、捕まえさせてしまいます。
  再び現れた仙女は秋先を救い、天罰によって張委は命を落とします。
  秋先の庭はその後も多くの人を楽しませ、心を和ませ、村は百科村と呼ばれるようになりました。そして秋先は後に仙人となったと言うことです。

     「百花村物語あらすじ。」
 
    中国では太陰暦(旧暦)二月十五日を花朝の日とさだめ、百花の誕生日としているそうです。
  桃は二十世紀になって中国黄河上流の高原に原生地が発見され、ここからトルキスタン、ペルシャへと伝わり、世界に広まったと考えられています。日本へは明治八年(1875)年、中国から複数の品種が輸入され、品種改良が進められ、現在に至っている、と言う事です。
  
  桃は梅や桜と同じ頃に咲きますが、なぜかもう少し淡い、ふくよかな香りがします。大伴家持の歌を読むと、その香りと共に、恋のはじまり、その予感を呼びおこすのでしょうか。

  桃の花は三月中旬から咲き始め、四月下旬頃まで咲くそうです。桃の産地、岡山、山梨、福島、神奈川などでは桃の花が果樹園いっぱいに咲きます。 一度桃のお花見を体験してみてはいかがでしょうか?

  もしかしたら不思議な出会いがあるかもしれません。
  ◆補記
  大伴家持の世界
 http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/
高岡市万葉歴史博物館
 http://www.manreki.com/index.htm
因幡万葉歴史館
 http://www.infosakyu.ne.jp/sakyu/organiza/mannyou/yakamochi.html
桃の花
 http://www.hana300.com/momo00.html
古河総合公園の花桃(こんな感じのお花見です。)
 http://fine.tok2.com/home/nabechan/season/koga-momo/
   
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