夢見小僧。

お正月二日に見る夢を初夢と言います。

よい初夢と言うのは、一富士、二鷹、三茄子と言う順番が決まっているのですが、言い夢を見るには、枕の下に宝船の絵を敷いておくといいと、いつの頃からか、いわれはじめました。

宝船の絵は江戸中期頃から売られはじめ、大正時代まで売られていました。その絵には、回文歌と言って、始めから読んでも、終わりから読んでも、同じになる歌が書かれていたそうです。


なかきよの とおのねふりの みなめさめ

なみのりふねの おとのよきかな


昔の方は心地よい波の音に誘われて、初夢を待ったのでしょうか。

「夢見小僧。」

ある所に長吉と言う男の子がありました。

特にこれと言って何か出来るわけではなかったのですが、都に行って見たいと家を飛び出してしまいました。


長吉は都にのぼると大きな醤油屋の戸を叩きました。

番頭さんが出てくると長吉は興奮したように、「おらを使ってくれねぇか?」と言いました。

「小僧、何が出来る?」

「なんでもする!」

長吉があまりに元気に返事するので番頭さんは気に入り、風呂焚きに使う事にしました。


長吉は朝から薪を割り、風呂焚きにせいを出しました。

この醤油屋さんには、長吉のような小僧さんは十二人もいて、仕事の合間に、朝一時間、お昼に一時間、読み、書き、そろばんを教わっていました。長吉もみんなと同じようにおそわりました。


長吉の都での一年があっと言う間に終りました。

番頭さんは年の瀬に小僧さんを集め、「二日に初夢を披露し合うから、初夢をしっかり覚えておくように。」と、言いました。

年が明け、二日の朝、長吉は夢を見ました。

長吉はパッと目を開け、起き上がりました。

とんでもない夢を見てしまいました。

旦那さん、奥さん、番頭さん、手代さんから女中さん、小僧さんが一同に会しました。

ひとりひとりが自分の見た初夢を話していきました。

そして最後に、長吉の番になりました。

長吉は、「見た事は見たんだけど、おいらは言えねぇ。」と、答えました。

番頭さんは「一人だけ言わんというのはすまん。 長吉、話なさい。」と、言いましたが、長吉は首を振りました。

他のものは驚き、仲間の小僧さんも「しゃべらねぇか?」番頭さんや女中さんも「しゃべれ。」「しゃべらねぇか、長吉。」と、言いましたが、長吉は何も話しません。

奥さんも「長吉や、なにもそんなに意地を張る事もなかろう。みんなに話して、よい正月して、一年のはじめにしよう。」と、やさしく言いましたが、長吉は答えません。

旦那さんが「長吉、どうしても話せないのか?」と聞くと、長吉はうなづき、ただ「はなせねぇ。」と答えるだけでした。


醤油屋の小僧が見た初夢を話さない、その話は都中に広まりました。いろんな大店の旦那さんがやってきて、「長吉、お前の見た夢を買おう、私に売らんか?」と、長吉の前に小判を積みました。

三両、五両、十両、いくらお金を積んでも長吉は見た夢を話しません。

みんなは面白がって、もっとお金を出したらどうか?とか、誰が長吉の初夢を買えるか?とか、騒ぎました。

そして、ついにお大名のお使いがやってきて、長吉の前に百両、小判を積み上げました。

「長吉、お話しろ。」旦那さんはおろおろして長吉に言いました。しかし長吉はやはり口を開きませんでした。


長吉はついにお役人に引き立てられました。

そして、町を騒がせたという罪で、淀川に浮かべた船に、三日分の握り飯と閉じこめられました。


長吉の閉じこめられた船は「うつぼ舟」という、お椀を二つ合わせた卵のような船でした。

長吉はその中に寝ころび、いつの間にか眠ってしまいました。

そして、うつぼ舟はいつのまにか岸を離れ海へと流れて行き、暗い海をどこまでも流れて行ったのです。




ドンドンドン!


誰かが船を叩く音で、長吉はパチッと目を覚ましました。


誰かがうつぼ舟のフタを外から外しました。

そして、大きな顔が、ヌッとのぞき込んできたのです。

長吉はびっくりしました。

その顔には角があったのです。


「おお、うまそうな小僧が入っとる。」

「こりゃあ、めっけもんだぁ。」

「親方! こっちに来てくだされ!」

鬼達は口々に叫び、親方を呼びました。のそのそと大きな鬼がやって来ました。

そして長吉を引っ張り出すと、「お前、なんでこんな船に乗せられた?」と、たずねました。

長吉は、「俺は良い初夢を見たんだけど、お大名に売らねぇといったら、お奉行所のお役人に閉じこめられたんだぁ。」

それを聞いて鬼達は顔を見合わせました。

お大名にも売らない夢とはどんな夢なんだろう?親方は、長吉の前に金と銀の針と、紅い棒を差し出しました。


「小僧、この金の針は生き針。ひと刺しで死んだものを生き返らす針じゃ。

 この銀の針は死に針。ひと刺しで生きているものを殺してしまう針じゃ。

 この紅い棒は千里棒。千里行けと言うたら、千里向こうへ行ける棒じゃ。

 お前の初夢と、この宝物を交換しねぇか?」

長吉は、宝物を手に取ると廻りを見まわし、「でも、ここじゃ話せないよ。」と言いました。

親方は、「そうじゃの。 小僧、ついてこい。」と言うと、自分の屋敷に長吉は連れていきました。

そして、長吉を自分の部屋に入れると、誰もついてきてないか、あたりをきょろきょろうかがった後、ふすまをぴしゃりと閉めました。

その時、長吉は持っていた銀の針をプスリと親方に刺しました。

親方は、凍ったように固まり、立ったまま死んでいました。

長吉は紅い棒を持つと「千里行け!」と言いました。

すると、まわりの景色がビュオーンと流れ、長吉は、いつの間にか小高い山の上の観音様のお堂の前に立っていました。

あたりにはもう鬼の姿は見えませんでした。

「今日はここで休ましてもらおう。」

長吉は手をあわせて、お堂の中に入ると、観音様の台の下にもぐり込んで眠りました。




東の方からドヤドヤと大勢のものがお堂へ上がってきました。

その音で、長吉はパチッと目を覚ましました。長吉が観音様の台からのぞくと、それは村の人たちでした。

「ほんに、かわいそうな事じゃ。」

「朝日長者の姫様もまだ十七というに。」

「お金があっても命は買えんからのう。」

村の人は葬式の帰りのようでした。

みんな喪服を着て観音様を拝み帰って行きました。


長吉は金の生き針を出しました。

この宝物で姫様を生き返らせないかな?


その夜、長吉はお堂の下にある墓地に行きました。

そこには真新しい卒塔婆が立っていました。

長吉は卒塔婆を抜くと、土を掘り、棺桶のフタを開けました。

そこには十二単を着て綺麗にお化粧した娘さんがいました。

長吉は娘さんをお堂に運び、寝かせると、金の生き針を、娘さんの耳にプスリと刺しました。

「うん・・・。」

娘さんは声を上げると目を開きました。

そして起き上がるとあたりを見まわしました。

そして長吉を見つけると、

「ここはどこでしょうか?」と聞きました。

「娘さん、ここは観音様のお堂だよ。娘さんは一回死んで、今、生き返ったんだよ。」

長吉はそう教えました。

「夜が明けたら、家に帰ったらえぇ。今帰ると、幽霊と間違われる。」

娘もその通りだと思ったらしく、朝までお堂にいて、明け方、家に帰って行きました。


朝日長者の家では、昨日葬式を出した娘が生きて帰ってきたので驚き、喜びました。

そして娘の話から、娘を生き返らせた若者の事を聞き、何が何でも婿に迎えようと、朝日長者は家の者と、お堂に走りました。

そして長吉を見つけると、娘の婿になってくれと腕をつかんで引っ張りました。

「俺は、まだ人を生き帰さなくちゃならねえんだ!」

長吉はそういうと、千里棒を取り出し、「千里行けぇ!」と叫びました。

すると、朝日長者の目の前から長吉は消えてしまいました。

朝日長者達は驚いて、「こりゃあ、とんでもねぇ婿さんだ。」といって、しかたなく家に帰りました。


夜になってお堂の前にビュゥンと長吉が帰ってきました。

そしてお堂に入ると、観音様の台の下にもぐり込み、眠りました。


カ〜ンと誰かが観音様の鐘を鳴らしました。

長吉はパチッと目を覚ましました。

「どうか観音様、朝日長者の姫さんを生き返らせた若者にあわせて下され。

どうか私の娘も生き返らせて下され。」

長吉がのぞいてみると、立派な着物を着た男の人でした。

その人はひとしきり観音様を拝むと帰って行きました。

長吉はその人に見つからないように後をつけて行きました。

男の人は西の方に歩いて行き、そして大きなお屋敷に入って行きました。

夕日長者と呼ばれる庄屋様でした。

長吉は、お屋敷に入って行き、「娘さんを生き返らせに来ました。娘さんはどこですか?」と、聞きました。

夕日長者は喜び、長吉を娘の前に連れて生きました。

娘はさっきなくなったばかりで、まだ頬にあかみが残っていました。

長吉は金の生き針を出すと、娘の耳にプスリと刺しました。

娘はゆっくり目を覚ますと、ほうっと息を吐き出しました。

夕日長者は涙を流して喜び、長吉の手を取ると、娘の婿になってくれと言いました。

そこへ朝日長者と娘が駆けつけ長吉の手を取ると、この若者はうちの婿殿だと叫びました。

長吉は、朝日長者と夕日長者にあっちにこっちに引っ張られ、その日一日、放してもらえませんでした。

  

それから長吉は、月の前半は朝日長者の娘婿となり、東のお屋敷で暮らし、月の後半は夕日長者の娘婿となり、西のお屋敷で暮らす事になりました。

お屋敷とお屋敷のちょうど真ん中にある観音堂で、朝日長者の娘が見送り、そして夕日長者の娘が出迎えました。

そして半月たつと、また夕日長者の娘が見送り、朝日長者の娘が出迎えました。


長吉の見た夢は、今話した通りの夢だったのです。長吉は二人の娘の婿となる夢でした。

「観音さん、まだ夢の続きがあるけぇど、観音様にも教えられん。すまん事です。」

長吉は観音様に手を合わせると、誰にも聞こえないよう、そっと拝みました。


            「夢見小僧。」

初夢を見て、それがよい夢であれ、悪い夢であれ、見る方は決める事は出来ません。

悪い夢であれば、


みし夢を バクの餌食と なすからに 心も晴れし 暁の空<


という歌を三回声に出して唱えるそうです。


そしてよい夢を見たら?

決して誰にも話してはいけません。

なぜなら、よい夢を人に話すとその人に奪われてしまうから、です。

大切なものは、そっと大事に隠しておきましょう(笑)。

 
 
Google
Web pleasuremind.jp