いばら姫。

「眠れる森の美女」はグリム版とペロー版の二つがあります。

グリム版は王子のキスで王女が眠りから覚めて結ばれるまで。

ペロー版の方はグリム版の物語に加え、それ以後、王子と王女が食人鬼の継母から、二人の子供を守り、継母を退治するまでが書かれています。

「いばら姫(眠れる森の美女)前編」

むかし、一つの王国がありました。

その王国には神通力を持った七人の仙女が住み、人々を祝福し、病気を治し、いろんな予言をして暮らしている魔法の王国だったのです。


そのうちいちばん年老いた仙女が、ふっつり姿を消してしまい、そして一人の年若い仙女が現れました。

王国には今までと同じ、七人の仙女が暮らし、今までと同じように人々と暮らしたのです。


この国は王と王妃が国を良く治めましたが、子が一人もいませんでした。

二人は「子供がいればどんなによいだろうか。」と、いつも話し合い、王妃は体に良い事とか、子供が出来る事とか、いろんな事をためしました。

ある時、王妃が泉で体を清めていると、泉の中から年若い仙女が現れました。

「おきさき様の努力は報われます。一年以内に御子が授かるでしょう。」

そうと言うと、若い仙女は霧となって消えて行きました。


しばらくすると、仙女の預言通りお妃様は身ごもり、美しい女の子を生みました。

王の喜びもお妃の喜びも大変なもので、その御子のために、七人の仙女を招き、盛大な洗礼式を執り行う事となりました。

仙女の祝福は王女の美徳となり幸せが約束されるのでした。


洗礼式が終り、一行は宮殿の大広間に向かいました。

そこには、七人の仙女のために、それぞれの席がもうけられ、宝石で飾られたナイフやフォーク、スプーンがおかれ、黄金の器やお皿にご馳走が盛られていました。


ところが仙女達が席に着いたその時、一陣の風とともに一人の老婆が現れたのです。

それは、いなくなったはずの年老いた仙女でした。

王も王妃も真っ青になりました。

その年老いた仙女は、一番強い力を持ち、そして何より激しい気性の持ち主だったのです。

年老いた仙女は自分の席がない事を知ると、怒りに顔を真っ赤にしました。

七人の仙女達は、その場を取りつくろおうと席を立ち、一番若い仙女はカーテンの陰にそっと隠れ、年老いた仙女の席をつくりました。

そして残りの仙女達は一人一人、王女に祝福を贈りはじめました。


  最初の仙女は、王女が世界中で一番美しい女性になれる祝福を、

  次の仙女は、王女が天使の心を持てる祝福を、

  三人目の仙女は、何をするにも、驚くほど優雅にふるまえる祝福を、

  四番目の仙女は、誰よりもうまく踊れる祝福を、

  五番目の仙女は、どんな鳥よりも美しい声で歌える祝福を、

  六番目の仙女は、どのような楽器も見事に演奏出来る祝福を王女に贈りました。


年老いた仙女の番になりました。

一同は静まりかえり、その中を年老いた仙女が杖の音を響かせながら、王女の前に進みました。

そして大きな木の根っこのような指で王女の額を撫でると、

「おまえは、十五の年に、紡錘(つむ)に指を刺され、命を落とす事になるだろう。」と、恐ろしい呪いを口にしたのです。

そこにいたものは皆おどろき、王妃は悲鳴を上げ倒れてしまいました。

王は王妃を助け起こし、他の仙女は王女のそばに集まりました。

老婆はそれをみると意地悪そうに笑い、突風を巻き起こして消えたのです。


風がおさまると、カーテンの陰に隠れていた一番若い仙女が現れました。

「みなさん、祝福はまだ残っています!」

若い仙女は、王女の前に立つと、

「私には年上の仙女の言った事を取り消すだけの力はありません。

でも、変える事は出来ます。

王女様は紡錘に指を刺されますが、命を落とす事なく、眠りにつくのです。

そして百年後、一人の王子によって目覚めるのです。」と言いました。

若い仙女の祝福は、王女の未来を約束するものでした。

しかし、安心出来るものでもありませんでした。

王は王女のために国中から紡錘を焼き払い、紡錘で糸をつむぐ事を禁じ、持ったものを処罰するとの御触れを出したのです。


王国から紡錘は消え、そして十五年がたちました。


王女は仙女達の祝福どおり、世界中で一番美しい、天使の心を持つ少女に成長しました。

立ち居振る舞いはたとえようも無く優雅で、美しい声で、誰の心にも響くように話しました。

王女のいる場所はたとえ嵐の夜でも春の日の暖かさに包まれました。

年老いた仙女の呪いの事も、紡錘の事も何も知りませんでした。

ただ世界は、祝福に満ちあふれた世界だったのです。


その日は王も王妃も、別荘に出かけ、王女だけがお城に残っていました。

王女はいつものように御前中は家庭教師と勉強し、午後になると自由に過ごしました。

王女が庭に出ると、どこからかカタコト音が聞こえてきました。

なんの音かしら?

王女はその音を探して、お城の中を探しました。

納屋の中からではありませんでした。

王妃の部屋からでもありませんでした。

厨房の中からでもありませんでした。

その音はお城の上の高い塔の上から聞こえて来ていたのです。


王女は長い長い階段をのぼって行き、屋根裏部屋の戸を開けました。

そこには老婆がカタコトと紡錘をあやつり糸をつむいでいました。

王女には老婆の操る紡錘が不思議なもののように思えました。

くるくる回すだけで糸が次々に繰り出すさまは王女の好奇心を十分刺激しました。


  「お婆さん、何をしているの?」

  「糸を紡いでいるんだよ、お嬢さん。」

  「私にも出来るかしら?」

  「ええ、私よりうまく出来ますよ。」

王女は老婆の差し出した紡錘に手を出し、そして指に、紡錘を刺してしまったのです。


その瞬間、王女は気を失い、倒れてしまいました。


魔物が飛び去って行きました。

風が笑い声のように、国中に響き渡りました。


王女が見つからない事に胸騒ぎを覚えたお城の者たちは、あちこちを探しました。

王女が消えた事は、すぐに王と王妃に知らされ、二人は急いでお城へ帰りました。

その夜遅く、塔の屋根裏部屋で、王女は紡錘を手に持ったまま倒れて発見されたのです。

王女が眠りについた事を知ったのか、仙女達が集まってきました。

王は娘を用意してあった眠りの部屋に運び、金の刺繍の入ったベッドに寝かせました。


そして仙女達は手分けをして、王女の侍女、近衛兵や役人、料理長や給仕人、御者や馬番、馬から鶏まで、ありとあらゆるものを、王女と同じように眠らせました。

そして王と王妃がお城から出ると、若い仙女はいばらを門の前に植えました。

  「いばらよ、王女を守っておくれ。」

若い仙女がそう言うと、いばらは瞬く間にお城を覆い尽くし、永い眠りの間、誰にも邪魔されず誰の目にも触れられ無くしてしまいました。

二人がいばらに覆われたお城を後にすると、お城のまわりは深い森となり、もう誰にもお城に近づくことさえ出来なくなりました。



百年の時がたちました。


仙女はいつのまにか姿を消し、替るように人を喰う鬼が現れるようになりました。

王の代も、別の家系が継ぎ、いばらの城も忘れられた存在になっていました。

今の王には王子が一人有りましたが、父王は王子の母の死後、別の妻を迎えていました。

それは妻の財産を目当てにした結婚でした。

王子は義母とのあいだがうまくいまず、毎日お城を抜け出しては国中を馬で走り回っていました。

人を喰う鬼の噂を方々で聞き、いつかその鬼を退治しようと探していたのでした。


ある時、王子はある深い森を見つけました。

その中に高い塔がそびえていました。

  「あれはなんだろうか?」

王子の問いに、土地のものはめいめい違う事を話しました。

あの城の中には沢山の死体があって、幽霊がうろついている。

国中の魔女が集まって、そこで夜宴を開いている。

そこは人喰い鬼のすみかで、子供をさらってきては食べている。

あの森は、誰の近づけないが、人喰い鬼だけが通る事が出来る。

めいめいがそれぞれ恐ろしい事を口にしました。


王子は誰の言う事が本当なのだろうかと迷っていると、仲の良いお城の料理長が、昔、聞いたという話を教えてくれました。

  「王子様、あの城には世界で一番美しい王女様が眠っておられるのです。

   魔女に死の呪いをかけられたために、仙女が死のかわりに百年の眠りにしたのです。

   その仙女が決めた王子様なら、あの深い森の中で眠っている王女様を目覚めさせる事が出来るのです。」


人喰い鬼か?美しい姫か?

あの森のお城には、何かいる。

王子は、家来を連れて、森へと向かいました。


王子が森に分け入ると不思議な事に森の木々がすぅ〜っと道を開けました。

一歩進むと絡んだ木々がほどけ、一歩進むと荊や生い茂った下草が、脇によけました。

王子はそんな不思議な光景にも構わず前へと進みました。


家来が驚いて後を追おうとすると、再び木々が絡み、荊がすき間を埋め、誰も通さないようにしてしまいました。


王子は森の中に一人になりました。

しかし、木々は王子の行き先を示すように道を開きました。

木々には何の異変も見られず、恐ろしい感じもしませんでした。

反対に何かあたたかい感じがしたのです。

王子は木々の開けた道を進みました。

もし、人喰い鬼の隠れ家なら、一人でも戦うつもりでした。

ほどなく広い庭に出ました。

王子はぎょっとしました。

そこには多くの人や動物が倒れていたのです。

王子は倒れている人の側に行き、様子をうかがいました。

しかしその人はスースーと息をしており、ただ眠っているだけのようでした。

それは他の人も動物も同じでした。

王子はこのお城が料理長の言ったように眠りの城だと思いました。

そしてお城の中へと入って行ったのです。

お城の中では衛兵が大勢眠り、また料理長や給仕も眠っていました。

不思議な事に、お鍋の中やフライパンの上には、さっきまで料理していたままの料理がありました。

時が止まったように、火が揺れもせずあったのです。

王子は城の中を進みました。

いくつもの部屋を通り抜け、上へ上へと登りました。

そして、ひときわ大きな部屋に入ると、そこには天蓋のついた大きなベッドが有り、幕の向こうのベッドの上に、十五、六歳の輝くように美しい王女が、眠っていました。


王子が王女のベッドの天幕を開けると、あたりがゆらっと揺れました。

祝福の時が、再び動き出しました。


王女は目を覚まし、起き上がりました。

王女は永い眠りの中で夢を見ていたのです。

そしてその中で、なぜ自分が眠ってしまったのか、誰が自分の目を覚ますのか、知っていたのです。


「あなたでしたのね。」


王女はそう言うと、とても優しい瞳で、王子を見つめました。

王子の目の前にいるのは人喰い鬼ではなく、世界で一番美しい姫君だったのです。


そして、止まっていた時計が動き出すように、眠っていたお城の人たちが目を覚まし、動物達も声を上げはじめました。

お城を覆っていたイバラはあっという間に消え、お城を守るようにあった深い森も、広い庭へと変わっていったのです。

そして甦ったお城の中で、王女と王子の結婚式が執り行われたのでした。

「いばら姫(眠れる森の美女)後編」

王子は森の中のお城で何日かを過ごし、自分のお城に帰ると、父王と食事をすませて慌ただしく、王女の待つ城に帰りました。

そんな生活が何年か続き、王女との間に二人の子が出来ました。

最初の子供は姫君でオーロール・暁姫と名づけられ、つぎの子は男の子でジュール・日の皇子と名づけられました。

人の良い父王は息子の言う事を信じましたが、義理の母妃は、王子が誰かと結婚しているのではないか?と疑いました。

王子は、父に王女と子供たちの事を隠しておくのは気が引けましたが、母妃に話す気になれませんでした。

しかし、そんな二重生活も終りとなりました。

父王が亡くなり、王子は王とならなければならなくなったのです。

王子は主君となり、王妃となった妻と二人の子供を城へ迎え入れました。

そして、母妃は王太后となったのです。

その年の夏、国の西の村に人喰い鬼が出たという知らせが王のもとへ届きました。

王は兵士達を連れ、西の村へと向かいました。


お城に残された王太后は、王妃と二人の子供を別荘へと誘いました。

別荘は森の中の奥深くにあり、そこには王太后のお付きの侍女と、料理長の数人が御供として連れてこられただけでした。

王太后は昼の間、子供たちと遊び、夜は物語を聞かせたり、玩具で遊んだり、それは大変かわいがりました。

妃もそんな様子を微笑んで見ていました。


そして数日たったある夜の事、王太后は料理長を呼びました。

そこには王太后の侍女も並んでいました。料理長は何か異様な所に踏み込んだきがしました。

王太后は長イスに座り、料理長を見ると、「今夜はオーロールが食べたいものじゃ。」と言い、紅い、目を光らせました。

料理長は、芯から凍りついたようになりました。

「王太后様、お戯れを。」そういうのが精いっぱいでした。

「王女が食べたいのじゃ。」王太后がそう言うと侍女達の目も赤く光りました。

料理長は別荘にいる王太后の一行はすべて人喰い鬼だと悟りました。


料理長は頭を下げ料理場に行くと包丁を持って王女の部屋へと向かいました。

何も知らないオーロールは、料理長の姿を見ると、まるで父親にするように、飛びつき、チョコレートボンボンをねだりました。

料理長にオーロールを殺す事など出来ませんでした。

料理長は「静かについておいで。」とオーロールに言うと、そのまま外へ連れ出し自分の部屋へかくまいました。

そして小羊の咽を裂いて殺し、生肉においしいソースをかけ、王太后にさし出したのです。

王太后達はその生肉をうまそうに食べると、満足したように眠りました。


翌朝、妃はオーロールがいない事に気がつきました。

王太后も侍女達も、妃を慰めそして自分たちが食べたはずのオーロールを、どこかに迷い込んでいないか、川の底に沈んでいないかと手分けして探すふりをしました。

妃は幼い王子を抱きしめ、一睡もせずにオーロールを探し求めました。

そして妃は三日探し回った後、ついに倒れてしまいました。


王子は一人、眠る事になってしまったのです。


王太后は料理長を呼び、前と同じように、「今夜はジュールが食べたいのう。」と言いました。

料理長は頭を下げるとジュールの部屋に行きました。

ジュールは一人で剣を振り回していました。

料理長を見ると、フライパンを持たせて相手をしてくれとせがみました。


料理長はジュールにそっとジュールを自分の部屋に連れて行くと、オーロールにジュールをあずけました。

そしてジュールのかわりに子山羊をさばいて王太后達にさし出しました。

王太后達はその肉をうまいうまいとたいらげ、また眠りました。


妃は目を覚ましジュールまでいなくなった事を知ると、半狂乱のようになり、そのまま臥してしまいました。

王太后はその様子を見て声を殺して笑いました。

そして夜になると再び料理長を呼びました。

「今夜は王妃を料理しなさい。」王太后は嬉しそうに言いました。

料理長は頭を下げると王妃の部屋へと向かいました。


料理長が部屋に入ると、王妃はオーロールとジュールの行方を料理長に尋ねました。

料理長は王妃に事の次第をつげ、王太后は今夜、あなたを食べるつもりだと告げました。

王妃はオーロールとジュールが生きている事を知ると泣き出し、もし二人がこのまま生き延びられるなら、自分は殺されてもかまわないと言いました。

  「いいえ、王妃様はこのまま私の部屋にいって、王女様と王子様と隠れていてください。

   人喰い鬼が立ち去れば、王様のもとに行く事が出来ます。」

料理長は王妃を自分の部屋に連れて行き、二人の子供に会わせました。

王妃は二人の子供を抱きしめ、泣き合いました。


料理長は決して声を立てないようにと王妃と子供たちに言うと、家畜小屋に行き、雌鹿をさばいて、王太后達のもとへ運びました。

王太后達は嬉々としてその生肉にむしゃぶりつきました。

それは人の格好をした鬼の姿でした。


翌朝、王太后はお城へ帰る支度を始めました。

王太后達が帰ってくれれば、王妃も子供たちも、王様のもとに行く事が出来ました。

料理番は、このまま何事も無く王太后が帰ってくれるよう祈りました。

王太后侍女達とともに、普通の人間の姿となり、馬車に乗り込もうとした時です。

王太后は不意に鼻をくんくん鳴らしはじめました。

「生肉の匂いがする。」

王太后はそう言うと別荘の方へ歩いて行きました。

「王太后様、それは今朝さばいた子牛の匂いです。」

料理長はそう言って王太后を止めました。

しかし王太后は、

「いいや、これは人の匂いじゃ。」

と言うと、侍女達にも探させました。

そして、料理長の部屋のクローゼットの中に隠れていた王妃と王女と王子を見つけたのです。

王太后は料理長に騙された事に激怒し、四人を縛り上げました。

侍女達に大きな樽を用意させ、その中にマムシや毒蛇を底が見えなくなりほど入れ、ヘビが暴れるように、ムカデを投げ込みました。

そして、四人を一人一人その中につき落とそうと、引きずって行ったのです。

  「誰から樽の中におとしてやろうかの?

   小さなジュールかい? それともかわいいオーロールがいいかい?

   憎い王妃が先かい?

   それとも私をだました料理番にしようかい?」

王太后は楽しそうに笑いました。

侍女がジュールを掴みました。

オーロールはその侍女に掴みかかりましたが、他の侍女に押さえつけられました。

  「王太后様、子供たちはご勘弁下さい。

   私ならどこに落とされようとも、どんな仕打ちも受けましょう。

   ですが子供たちだけはお救いください。」

王妃は叫ぶように頼みました。しかし王太后は頭を振ると、

  「それではつまらないだろう?」とつぶやきました。

侍女はジュールを頭の上に掲げました。

王太后も侍女も狂ったように笑いました。

口の中に鋭い牙が光りました。

一本の矢が侍女を貫きました。

ジュールはその手からこぼれ落ち、馬に乗った王の手の中へと抱きとめられたのです。

馬に乗った兵士達がなだれ込んできました。

兵士の弓は次々と侍女を貫き、王は剣を抜くと王妃達の前に立ちました。


西の村へ人喰い鬼を退治に出かけた王は、そこで人喰い鬼の中に王太后の一族がいる事に気がついたのです。

王は人喰い鬼を捕まえ、その口から王太后が人喰い鬼だと聞いたのでした。


王太后は王達に飛びかかり、ひるんだ王のスキをついて王妃の手をつかみ、一緒に樽の中に飛び込み込もうとしたのです。

王は王妃の手をつかみ、樽の上で王妃と王太后が宙づりになりました。


王太后の老いた指が王妃の腕に食い込みました。

その指は、かつて自分に紡錘を渡した、あの指でした。

「一緒に地獄に落ちよう。」

人食い鬼は、牙の生えた口でつぶやきました。

そこへ兵士達が来て王と王妃を引き上げました。


そして王は、人食い鬼となった王太后の手を切り払いました。

王太后は「ギャーッ!」と叫び声をあげて、蛇のいる樽の中に落ちました。

樽の中の蛇やムカデは人食い鬼に襲いかかり喰いつきました。

そしてあっという間に姿が見えなくなりました。


王国に隠れ棲んでいた人喰い鬼は退治されました。

百年の時をへだてて、二つになっていた王国は一つとなり、王と王妃は、王女と王子をすこやかに育てたのでした。

      「いばら姫。ペロー童話集より。」

一般に「いばら姫(眠れる森の美女)」は、グリム版の王子と結ばれるまでを、一つのストーリーとしており、結果「いばら姫」は心理学的に男性を受け入れられない女性の物語と受け止められています。

ただ、ペロー版の”食人鬼の義母””子供を守る料理長”のキャラクター、”王子と義母との対決”というイベントを加えると、グリム版の心理学的分析は、単純過ぎる事となります。

ペロー版は、

”年老いた仙女(魔女)”=”封じられたものの復活”=”食人鬼の義母”=”子供を食べる母親”=”いばら姫の内的問題”、

”子供を守る料理長”=”子供を守る未成熟な父性”と読むと、

いばら姫の未成熟な部分を王子は料理長として養っている、いばら姫と王子の、”母親に食べられる子供の状態”からの脱出、

いばら姫の成熟と王子の成熟がリンクして書かれてる、と解く事が出来ます。

しかし”食人鬼”の問題はペロー童話集独特の問題とも言えますし、ペロー版いばら姫は、二つの物語を合わせたもの、と見ることも出来ます。

だだ、しかし、の二重否定ですね(笑)。

グリム版とペロー版での違いが簡単に割りきれない以上、「いばら姫」に対する心理学的なアプローチはそもそも無理があり、純粋に物語として読むのが妥当じゃないかな?と思います。


◆補記

◇仙女

超自然的なものの象徴、悪く働くと”呪い””魔女”ということになり、魔女の贈り物は「王女の内面の発動」の意味を持ちます。

ちなみに、グリム版は十二人の仙女と十三番目の「人通力を持った女」、ペロー版は七人の仙女と亡くなったか魔法によって消えたもの、となっています。

◇紡錘(つむ)=人通力を持つ女の象徴。

糸を繰る=運命の象徴、または運命を予言する事の象徴。

◇食人鬼

ペロー童話集には食人鬼やそれに似た登場人物が多く出てきます。

「おやゆびこぞう」では食人鬼、「赤ずきんちゃん」にも狼(一種の食人鬼)、「青ひげ」には連続殺人鬼?が登場します。

童話の半分は今で言うスプラッターだというところがペロー童話集の特徴です。

◇グリム版「いばら姫」KHM50

タイトルは「野ばら姫」「野いばら姫」など。

 
Google
Web pleasuremind.jp